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▼美術評

スタイケンとキャパ、二つの写真展
「戦場のサミュエル・フラー」と「ゲーリー・クーパー勝負」

北村 陽子/早稲田大学文学学術院准教授(文化構想学部)

 世田谷美術館「エドワード・スタイケン モダン・エイジの光と影 1923—1937」展(1月26~4月7日)と、横浜美術館「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真家」展(1月26日~3月24日)を見に行った。スタイケンは1879年生、1973年没。キャパは1913年生、1954年没。30以上の年齢差があるものの、活動時期が重なってもいるこの2人のアメリカ人写真家の仕事を見比べることができ、とても面白かった。

 まずスタイケン展。女優ジョーン・ベネットの貴重なポートレートが、3点も展示されていたのに感激した。ジョーン・ベネットといえば、フリッツ・ラングの映画でエドワード・G・ロビンソンを手玉に取る蓮っ葉な女、といった役しか知らなかったけれど、スタイケンの撮った彼女は、ブロンドのいかにも清純そうな娘だった。映画監督ジョゼフ・フォン・スタンバーグの、鬼気迫るポートレートにも圧倒された。

 会場の壁には、「いつの時代でも、いちばんいいものはすべて商業美術だった。」「ルーヴルで見るから芸術なんだよ。『ヴォーグ』をルーヴルにしよう。」という、スタイケン自身の言葉が書かれていた。「芸術は儲かる」と言う彼は正しい。

 対して、キャパの展覧会。スタイケンより話題性もだいぶ高かった彼の写真展に行くにあたり、私の頭にあったのは、キャパが映画監督サミュエル・フラー(1912−1997)のポートレートを撮っている、ということだった。フラーは、ギャング映画「東京暗黒街・竹の家」(55)や、戦争映画「最前線物語」(80)で知られる。生誕100年にあたる昨年、日本でも、初期の作品の貴重なDVDがいくつか出た。映画を撮り始める以前、ジャーナリストだったフラーは、第二次大戦に歩兵として志願し、ノルマンディー上陸作戦に参加、強制収容所の解放にも関わった。そのフラーの戦場でのポートレートを、キャパは撮っている。二人はほぼ同い年だ。

 キャパ展の会場で、戦場の写真以外に、「これを見られてよかった!」と思ったのは、俳優ゲーリー・クーパーの写真だった。クーパーは、ヘミングウェイに招かれて、監督ハワード・ホークスらと共に休日を過ごしたという。野山を背景に、細い川に渡された丸木橋を、釣り竿を片手に器用にバランスをとりながら、まさに渡りつつある俳優。顔だけでなく、その姿のよさ、身体能力の高さが一目でわかる。

 スタイケン展にも、クーパーはいた。スーツに身を包んで観客に目を向ける、ハンサムでエレガントな俳優。ネット上の画像として並ぶ二人のクーパーを見ると、スタイケンの写真の貫禄の方に惹かれる人は多いかもしれない。だが、展覧会場で実際にプリントを見た者としては、迷わずキャパに軍配を上げる。

ロバート・キャパ《サミュエル・フラー シチリア島トロイナにて》(『ライフ』掲載)

ロバート・キャパ《ゲーリー・クーパー、サン・ヴァレー、アイダホ州》1941年10月

エドワード・スタイケン《俳優ゲーリー・クーパー》1930年

北村 陽子(きたむら・ようこ)/早稲田大学文学学術院准教授(文化構想学部)

早稲田大学第一文学部美術史専修・フランス文学専修卒業、同大学院文学研究科をへて現職。
専門はフランス近代絵画・批評史、文化史。
訳書に、サミュエル・フラー『映画は戦場だ!』(筑摩書房、共訳)、『ドーミエ版画集成 Ⅰ 政治家さまざま』(みすず書房)など。