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橋田 朋子/早稲田大学理工学術院表現工学科専任講師  略歴はこちらから

「身体や動作の音によって拡張される体験」

橋田 朋子/早稲田大学理工学術院表現工学科専任講師

 映画やドラマの中で、コツコツと響く足音や速くなる心臓の鼓動といった身体動作の音が挿入されると、思わず視聴している私達も切迫感や緊張感を感じませんか?足音はまだしも、心臓の音などは日常生活ではなかなか聞く機会はないはずなのに、この感覚はどこから生まれてくるのでしょう?私達は普段意識していないだけで、身体や動作の音に、実は生まれながらにしてとても敏感な生きものなのでしょうか?これらの疑問にもしかしたら答えてくれるかもしれないし、逆により深い疑問を投げかけてくるかもしれない作品やシステムが、この夏は都内で幾つか展示されています。このような自分自身の身体や動作の音について思わず考えてしまう体験できる展示の中から、今回は二つほどご紹介したいと思います。

 まず一つ目は、5月下旬からスタートしたICCのオープンスペース2013で展示中の「心音移入(1)」です。聴診器とヘッドフォンがおかれ、奥にはディスプレイが配置された机の前に座ると、聴診器を自分の胸に当てて下さいとの指示が。自分の心音が上手に拾えると映像がスタートし、かけっこに挑む小学生をはじめ、様々な緊張状態にある人々の映像が再生されるのですが、次第に自分の鼓動があたかも映像の中の人達の鼓動に聞こえてきて、心音を通して思わず感情を移入してしまうという仕掛けです。著者はまず、自分の心音がしっかりと聞こえる場所を探すのに少し手間取ったのですが、逆にそれが自分の心音やそれを生み出す心臓は本当にしっかり働いているのかしら?といったちょっとしたドキドキを生み、それらの存在について考えさせられました。そしてそのさらに先には、自分の心音を映像の中の人と共有することで、思わず他人の緊張感や心の動きを想像するという、これまでに全く体験したことのないでもとても興味深い世界が広がっていました。

心音移入(写真提供 渡邊淳司氏)

 二つ目は、7月3日からスタートした日本科学未来館の常設展示メディアラボの第12期展示「現実拡張工房」の「EchoSheet(2)」です。これは、お絵描き用の紙がおかれたイーゼルと筆記用具を使って、自由に文字や絵を描くと、筆記音が増幅されてスピーカからリアルタイムに出力されるという仕組みです。比較的単純な仕組みにも関わらず、例えば漢字のなぞり書きのような課題に用いると、通常の筆記道具を使った場合よりも多くなぞり書きができるという研究結果が得られており、このシステムは色々な文字や絵を思わず沢山描きたくなるという習性を有しているようです。今回の展示では、筆記用具としてペン、色鉛筆、クレヨンなど、いくつかの種類が用意してあり、どの筆記用具を使うかによっても書き音が変わるためか、展示会では様々な種類を試しながら楽しんでいる人を多くみかけました。

 今回ご紹介した一つ目の作品はメディアアート、二つ目のシステムはAugmented Human・拡張現実感などの工学システムの一種と考えられます。このように作品や研究といった様々なアプローチがあることも、“身体や動作の音”というテーマが奥深く面白いものであることを象徴しているのかもしれません。

EchoSheet(写真提供 日本科学未来館・東京大学苗村研究室)

関連情報

ICCオープンスペース2013  http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2013/Openspace2013/index_j.html
日本科学未来館常設展示メディアラボ 第12期展示「現実拡張工房」  http://miraikan.jp/medialab/12.html

(1) 安藤英由樹+渡邊淳司+佐藤雅彦
(2) 金ジョンヒョン+伊藤香織+橋田朋子+大谷智子+苗村健

橋田 朋子(はしだ・ともこ)/早稲田大学理工学術院表現工学科専任講師

東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学、博士(学際情報学)。東京大学特任研究員を経て現職。実世界の体験を拡張するメディア・コンテンツ技術の研究に従事。主な受賞歴は経済産業省 Innovative Technologies(2012年9月)、日本バーチャルリアリティ学会学術奨励賞(2012年3月)、電子情報通信学会HC賞・MVE賞など(2011年12月・2011年10月)。
http://tomokohashida.tumblr.com