虫歯が腎臓を傷める? 口腔と腎臓の意外な関係性
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近年、口腔(こうくう)の健康状態がさまざまな全身疾患に影響することが明らかになり、口腔ケアの重要性が広くいわれるようになりました。腎臓内科医の三﨑太郎先生は、慢性腎臓病もその一つだと話します。三﨑先生は、多くの患者さんと向き合う中で、虫歯と腎臓の意外な関係性に気付き、研究を続けてきました。いったい虫歯がどう腎臓に作用するのか、三﨑先生に詳しく伺いました。
もはや国民病といえる慢性腎臓病
現在、日本では約2000万人が慢性腎臓病の状態にあるといわれています。もはや国民病といえ、決して人ごとではありません。慢性腎臓病は、タンパク尿などの腎障害、または腎機能の働きを示す「eGFR値が60未満」である状態、これが「3か月以上続いた場合」に診断されます。
腎臓疾患の主な原因は、糖尿病や高血圧といった生活習慣病ですが、それらに起因しない慢性糸球体(しきゅうたい)腎炎も原因として挙げられます。これは腎臓の中で血液をろ過し、老廃物などを尿として排出する役割を担う糸球体に炎症が続く病気です。その慢性糸球体腎炎の一つに「IgA腎症」があります。私は特にこの指定難病であるIgA腎症を専門分野としています。
慢性腎臓病の一つ、「IgA腎症」とは
IgA(※1)というのは、主に鼻やのど、消化管といった粘膜に存在する免疫に働く抗体です。本来は、細菌やウイルスなどの外敵から体を守ってくれるものですが、IgA腎症では、なんらかの原因で変質したIgAが糸球体に沈着して炎症を引き起こし、タンパク尿や血尿を来たします。尿検査をきっかけに見つかることが多く、20代~40代と若い世代の患者さんが多いことも特徴です。
蛍光染色に反応して緑色に光っている部分が、糸球体に沈着したIgA。正常の糸球体では暗いままです。
日本では一般的にIgA産生に関与する扁桃(へんとう)を摘出する「扁桃腺摘出術」と、高用量のステロイドを投与する「ステロイドパルス療法」の組み合わせで治療が行われます。この治療により約8割の患者さんは改善します。
虫歯と腎臓病の関係に気付いたきっかけ
しかし、こうした治療を行ってもタンパク尿が改善しない患者さんもいます。IgA腎症の治療において最も重要なのは、タンパク尿を減らすことなので、常に「ほかに何かできることはないだろうか」と考えていました。
そんな時、なかなか改善が見られなかった患者さんの尿中タンパク値が劇的に減少したことがありました。驚いて、「前回の診察からこの3か月間、何かあった?」といろいろ聞いてみましたら、「歯医者で虫歯の治療をしっかりやりました」と……。長年、さまざまな患者さんと向き合ってきて、もともと「もしかすると、口の中の細菌が影響しているのではないか」という疑念を抱いていたこともあり、この患者さんとのできごとは大きな手掛かりとなりました。
また、ちょうどその頃、ある新聞記事が目に留まりました。大阪大学歯学部附属病院の仲野和彦先生が「虫歯菌と潰瘍性大腸炎との関連性」を報告されていたのです。潰瘍性大腸炎はときどきIgA腎症と合併することがあるので、きっとIgA腎症とも関連するのではないかと思いました。今から14年前のことで、当時はまだ腎臓学会でも口腔細菌と腎臓病の関連性について指摘されてはいなかったのですが、確信めいたものを感じ、仲野先生と共同研究を進めることになりました。
虫歯菌が腎臓に作用するメカニズム
虫歯の原因となる虫歯菌が、どのように腎臓に影響を及ぼすのか、その詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていません。しかし、私たちの研究や実験からは、すでにいくつかの重要な知見が得られています。
具体的には、IgA腎症患者さんと健康な人の唾液を採取して比較したところ、IgA腎症患者さんでは「悪玉の虫歯菌」(※2)の陽性率が有意に高いことが分かりました。更に、IgA腎症患者さんと、健康な人の「経験した虫歯の本数」を比較したところ、IgA腎症患者さんの方が平均して3.5本程度多いことも判明しました(※3)。
この悪玉菌が扁桃に定着してIgA腎症を増悪させる可能性が示唆されており、動物実験でもこの菌を投与するとIgA腎症に似た病態が誘発されることが確認されています。
では、虫歯がどのように腎臓に影響を及ぼすのでしょうか。悪玉の虫歯菌は、扁桃などの組織にくっつきやすい性質を持っています。こうした悪玉菌が体に長く刺激を与え続けると、本来は体を守る役割を持つIgAが、変質したIgAとして必要以上につくられてしまいます。変質したIgAが塊となって血流に乗って腎臓へ運ばれます。その塊が、血液をろ過する糸球体にたまると炎症が起こり、IgA腎症の発症や悪化につながる――私たちは、そのようなメカニズムを考えています(※4)。
朝晩の歯磨きは最低2分 慢性腎臓病予防に口腔ケア
慢性腎臓病患者さんの腎機能の働きを示すeGFR値は60未満です。健康な若い方のeGFR値はおおむね100前後ですから、この開きの大きさをご理解いただけるでしょう。一度低下した腎機能の回復は難しく、悪化して腎不全に至れば、人工透析や腎移植が必要になります。そのため、定期検診でタンパク尿や血尿を早期に発見しその時点で治療を開始することが重要です。
慢性腎臓病の予防には、早期発見・早期治療と並んで、日常生活での健康管理が欠かせません。減塩食、血圧・血糖管理、適度な運動、十分な睡眠といった基本的な生活習慣に加え、ぜひ口腔ケアにも注目していただきたいと思います。私自身は、朝晩各2分の歯磨きに加えて、洗口液や歯間ブラシも活用し、歯ブラシだけでは落としきれない汚れを除去するようにしています。また、定期的に歯科医院でメンテナンスを受けることも大切です。
「歯医者は怖い」と感じる方は少なくありません。ですが、それは痛くなってから受診するからで、痛くならないうちに定期的に通院すれば、そうした不安はありません。内科も同じです。検診で異常を指摘されたら、放置せず早めに医師の診察を受けてください。
今は予防と早期発見、適切な治療により、多くの病気の進行を防ぐことが可能な時代です。皆さんには、普段から口腔ケアを含めた健康管理を心掛けていただきたいと思います。
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