病気やQOL低下の原因に・・・侮れないお口の乾燥
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最近耳にするようになった「シェーグレン病」は、自分の体を守る免疫反応が過剰に起こり、正常な組織を破壊する自己免疫疾患、膠原病の一つです。典型症状として目や口の乾燥があり、倦怠感や関節痛、内臓疾患を来すこともあるといいます。膠原病専門医の東直人先生は、「乾燥症状自体、患者のQOL(生活の質)を著しく下げていることに目を向けるべき」と話します。乾燥症状が引き起こす困りごとや、改善方法について伺いました。
診断のつきにくいシェーグレン病
シェーグレン病という病名を聞いたことはありますか? あまり知られていませんが、実は膠原病の中では関節リウマチに次いで2番目に患者数が多い病気です。発症原因が特定できず根本的な治療法も確立されていないため、2015年に指定難病に加わり、診断基準と重症度分類を満たす場合は医療費助成の対象となりました。
厚生労働省研究班による全国疫学調査(2011年)では、国内の患者数は約6.8万人、有病率は人口の約0.05%と推計されています。17対1の割合で女性が圧倒的に多く、40~60代での発症が多く見られますが、20代の若年層、また小児の患者さんもおられます。
涙腺や唾液腺など全身の外分泌腺に炎症を起こし、目・口腔の乾燥が典型症状として現れます。ただ、これらの症状は、目が乾くのは「ドライアイ」、口の乾きは「加齢のせい」で済まされがちです。潜在的な患者数は相当多いと考えられ、欧米のデータを基に10~30万人はいるとの可能性も指摘されています。医療従事者としては、直接関係し合わない目と口の乾燥症状が同時にある場合は、シェーグレン病を疑う目線を持っていただきたいと思っています。
対症療法が中心 長く付き合う病気
根本的な治療法がないため、治療は乾燥症状を緩和する対症療法が中心になります。口の乾燥に対しては、唾液腺を刺激する唾液分泌促進薬を飲んでいただく。唾液腺のダメージが強く、分泌機能が大きく低下している場合は、人工唾液で口内を潤し、その上で、口内粘膜の水分の蒸発を防ぐ効果が期待できる口腔保湿剤を使う形になります。乾燥症状を和らげることで、「乾きによる痛みで夜中に目が覚めることがなくなった」「舌がもつれることが少なくなり、人前で臆せず話せるようになった」と喜ばれる患者さんもいらっしゃいます。
潤すだけじゃない 唾液の効能
唾液は口内を潤すだけでなく、消化を助けたり、食事で酸性に傾いた口の中を中性に戻したりなど様々な役割を担っています。EGF(上皮成長因子)という粘膜の傷の修復を促す成分も含まれており、ネズミを使って行った実験では、EGFが作られる唾液腺を取ったネズミと取っていないネズミとでは、前者は傷の治りが遅く、EGFを補うと改善するという結果が出ました。「傷には唾付けておけば治る」なんて言いますが、衛生面では良くないとはいえ、実は理にかなっているんですよね。
唾液が少ない状態を放置しておくと、口臭や虫歯の原因となったり、カンジダ菌の増殖を招いて口角が割れたりすることがあります。舌の表面が割れる、舌の表面が赤く平らに見える、唇に塗った口紅が前歯に付着する「歯紅(はべに)」の状態があれば、自覚がなくても乾燥を疑ってください。
口の乾燥はQOLにも悪影響 保湿を意識した生活を
私が診断した中でも、同僚に口臭のことで陰口を言われ、精神的に参って精神科にもかかるようになった30代後半の患者さんがいました。口腔内を潤すところからスタートしたところ、乾燥状態が改善し、「これだけですごく気分が楽になりました」と喜ばれました。その後、倦怠感や関節痛を考慮した治療を続けたところ、「時短ながら仕事を再開でき、精神科の通院も卒業しました」と、初診とは打って変わって非常に明るい表情で報告してくださいました。たとえただちに命の危機に直結しなくても、乾燥症状の先にある不自由なこと、つらいことまで医療従事者は酌むべきだと、強く思わされた経験です。
口の乾燥を防ぐためには、日常生活の中でも加湿(うるおいを与える)と保湿(うるおいを保つ)を意識することが大切です。こまめに水を飲んだりうがいをしたりして、口内を湿らせるように心がけてください。ノンシュガーのガムをかんだり唾液腺のマッサージをすることで唾液の分泌を促す方法もあります。外出中や仕事中などでこまめな加湿が難しい場合は、口腔保湿剤を使うという手もあります。症状や好みに応じて、ジェルタイプや液体タイプなどから選ぶことができます。口腔保湿剤によって使用感や、効果も少しずつ異なります。ご自身ではお口周りの変化に気づきにくいものですので、定期的に歯科を受診し、口腔保湿剤の種類についても、歯科医師や歯科衛生士に相談してみてください。
周囲の病気への理解も大切
私が研修医だった時、別の膠原病で入院されていた方が退院されることになり、「良かったですね」と声をおかけしたところ、ひどく泣かれてしまったことがあります。「体のしんどい状態はこれからも続くのに、退院したら『良くなったのだろう』と思われる。帰る方が怖い」と。今から30年ほど前の話ですが、シェーグレン病患者さんが置かれている立場は、当時とあまり変わっていないように感じます。
医師向けの研修会に加え、厚労省の研究班の1人として市民向け講演会で話させてもらうこともありますが、回数はまだそれほど多くありません。発信の機会を増やして認知度を高めていくことで、周囲の方々の理解が得られやすい社会になるよう努力していければと思っています。
患者さんにとっては治療にセルフケアと、手間暇をかけなければならず大変かと思います。でも諦めず、前向きにケアを続けてください。かけた手間暇は、必ず返ってきますから。
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