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薬と薬草のお話vol.96 荊芥(荊芥穂〈けいがいすい〉)とケイガイ

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.96 荊芥(荊芥穂〈けいがいすい〉)とケイガイ

薬用基原植物
Schizonepeta tenuifolia Briquet
(Labiatae)

 私の通勤路は一木一草が目に留まり、立ち止まりそうになります。特に桜が満開の後は梅の枝葉やその陰にある実、その次は近くの生け垣に黄色の小花をつけた連翹(れんぎょう)。今回の薬草は、その連翹と組み合わせで一緒に覚えた「荊芥」です。

 荊芥は中国北部原産で、主に中国や朝鮮半鳥に分布栽培されるシソ科の一年草。日本にも古くに伝えられた薬草の一つです。初夏には淡紫色の小花をつけ、その花穂を晩夏に刈り取り、陽乾したものを薬用に用います。中国では花穂のついた地上部全草を用いるそうですが、日本薬局方では花穂のみが規定されています。全草にはメントン、プレゴン、リモネンなどの精油を含み、薬用としては香味の強いものが良品です。

 「荊芥」は昔の教科書にはまだ記載がなかった生薬の一つで、処方薬としての出会いが最初だった「連翹」と違い、あまり身近に感じることができませんでした。現在エキス化して市販されている漢方薬で、荊芥が配剤されているものは荊芥連翹湯(とう)や十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)、銀翹散(ぎんぎょうさん)、清上防風湯、防風通聖散など13処方にものぼります。

 そのなかで荊芥連翹湯は荊芥、連翹をはじめ17種類の生薬で構成される処方で、慢性鼻炎や慢性扁桃(へんとう)炎、副鼻腔(びくう)炎、にきびなどに用います。また銀翹散は風邪の喉の痛みに効き目を期待して使われることがあります。

 さて、なんとか職場に到着し、調剤室にある煎じ用の荊芥のきざみ生薬を手にしました。すると、数ミリの軽くて細かい花穂から強すぎない、すっとする清涼感のある香気が漂います。遺伝子組み換え技術によるインスリン製剤などバイオ医薬品が次々と並び加えられる薬品棚ですが、天然物を利用しての先人の経験に裏付けされた生薬棚も大切に引き継ぎたいものです。


2025年5月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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