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薬と薬草のお話vol.97 キカラスウリと栝楼根(かろこん)

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.97 キカラスウリと栝楼根(かろこん)

薬用基原植物
Trichosanthes kirilowii Maximowicz
Trichosanthes kirilowii
Maximowicz var.japonica Kitamura
Trichosanthes bracteata Voigt(Cucurbitaceae)

 強い日差しと蝉(せみ)しぐれが聞こえる朝です。子供時代の夏休みを思い出しました。亡父に連れられて乗り込んだはじめての鉄道旅行、まず行き先は東へ。宿で、寝る前に汗疹(あせも)がでてきた顔にポンポンと白い天花粉をつけてもらい、翌朝よそ行きの洋服を着て次の目的地へと出発の支度をしていると、心がはずみました。今回の生薬は天花粉(今ではベビーパウダーの方がよく使われます)の原料、キカラスウリの根、「栝楼根」です。

 キカラスウリは日本に自生するつる性の多年草で、雌雄異株(いしゅ)、夏の夕方から翌日にかけて白い花を咲かせます。薬草としてのキカラスウリは、秋から初冬にかけて根の方を採取、皮層をできるだけ除いたものを生薬名「栝楼根」と称します。

 栝楼根は古典書「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」や「古方薬品考(こほうやくひんこう)」にも記載されている生薬なのですが、現在日本で汎用(はんよう)される漢方処方としては、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、柴胡清肝湯(せいかんとう)の2処方です。例えば柴胡桂枝乾姜湯は七つの生薬で構成されていて、体力中程度以下の方の不眠、動悸(どうき)、寝汗、頭部の発汗、風邪の慢性化した後期症状など応用範囲の広い処方です。

 旅の2日目の目的地は、涼しい空気が漂う有名な滝でした。到着すると、白い粉を顔につけた私の汗疹は一度に消えてしまったそうです。

 調剤室で煎じ用の数センチ角に刻んだ栝楼根には香りはなく、少し苦みを感じます。しかしあの夏、旅先で親につけてもらった天花粉の白く気持ちの良い香りは、今でもはっきり思い出せます。汗疹も、知らない所に来た不安も、一緒に治してもらったそのことが、良い香りの記憶なのかもしれません。


2025年7月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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