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【動画あり】2020年11月「英知受け継ぎ未来開く リチウムイオン電池への道」東京都・東京国際フォーラム

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 「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム~次世代へのメッセージ」が11月28日、東京都千代田区の「東京国際フォーラム」で開かれ、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹・筑波大学名誉教授と昨年同賞を受賞した吉野彰・旭化成名誉フェローが講演と討論を行った。また、1973年に物理学賞を受賞した江崎玲於奈・横浜薬科大学学長がビデオで特別メッセージを寄せた。「知の継承~リチウムイオン電池への道」をテーマに、リチウムイオン電池の開発につながった日本の科学の伝統や強み、若い世代への期待を語った。中高生400人を含む500人が熱心に聞き入った。

(コーディネーター 杉森純・調査研究本部主任研究員)

特別講演

江崎玲於奈・横浜薬科大学学長「才能発揮できる人生に」

 自然科学分野における日本のノーベル賞受賞者は、1949年の湯川秀樹博士から、2000年の白川英樹博士までの約半世紀、わずか6人だった。しかし、それ以降、19年までの約20年間に18人も輩出した。

 分野別で見ると、物理学賞が11人と最も多く、化学賞8人、生理学・医学賞5人と続く。これは、湯川博士が、応用を視野に入れず、自然界の基本に関わる新知識の獲得を目指す「中間子存在の予言」という研究で受賞されたことが影響していると思う。

 欧米の言語には、既に話題に上っていることを示す定冠詞「The」、初めて話題にした時に使う不定冠詞「A」という二つの冠詞がある。日本語には存在しない。欧米人は会話の中でも何が新しいのか、日本人より意識している。科学は「A」を追求してやまない学問ではないだろうか。

 若い聴衆の皆さんには、世の流れに従った慣例的な「The life」でなく、あなた自身の持って生まれた才能が発揮できる「A life」を送ってもらいたい。人間の一生は自分が主役を演ずるドラマだ。シナリオは、あなた自身が書き下ろさねばならない。ぜひ自分の才能を最大限に発揮して、幸運のチャンスをつかんでほしい。

江崎 玲於奈氏 (えさき・れおな)1925年大阪府生まれ。東京大学理学部卒。理学博士。神戸工業、東京通信工業(現ソニー)、米IBMワトソン中央研究所、筑波大と芝浦工大の学長を経て2006年から現職。1973年、「半導体のトンネル効果の実験による発見」でノーベル物理学賞を受賞。98年から茨城県科学技術振興財団理事長。

基調講演

白川英樹・筑波大学名誉教授「先人の足跡にヒント」

 金属は電気を通すが、金属以外のプラスチックなどは電気を通さない。私の研究は、この常識を変えた。でも、電気を通すプラスチックは誰も思いつかなかったのだろうか。

 1940年代頃から、化学者や物理学者は電気を通す物質を考えていた。研究は、低分子と高分子の化合物という二つの分野があった。低分子化合物は精密な性質の分析が可能で、主に理学部で研究が発展した。

 これに対しプラスチックなどの高分子化合物の研究は、素材としての応用面が重視され、工学部で盛んだった。研究対象が異なり、理学と工学の間で交流はあまりなかった。

 私は東京工業大学で助手になり、触媒によるアセチレンの重合機構を研究していた。最初から電気を通すプラスチックを研究していたわけではない。

 研究を始めてすぐに、薄い膜状のポリアセチレンができた。実験の失敗で偶然できたものだったが、様々な分析が可能になった。

 薄膜を知った米ペンシルベニア大のマクダイアミッド先生が大変興味を示し、私は先生のもとに留学した。先生は物理学科のヒーガー先生と共同研究を行っており、薄膜に何かを加えると、電気の流れ方がどう変わるのか調べた。

 微量の臭素を薄膜に加えると、電気が100万倍も流れやすくなることがわかった。ドーピング(他の物質で性質を変えるやり方)効果の発見だ。

 物理学的に電気の流れる仕組みが解明され、応用研究が盛んになった。電気が流れるのは、電気を蓄えることと意味は同じで、応用の一つが繰り返し充電するリチウムイオン電池のような二次電池になる。

 私がノーベル賞を受賞したのは、色々な研究の積み重ねがあったからだ。ニュートンは1676年にフックに手紙を送り、「私が遠くを見渡せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に乗っていたからだ」と書いた。どんなに独創的で画期的な研究であっても、科学は先人の成果の積み重ねの上に、新たな成果を加えることで進歩する。自分だけが優れているのではない。

 巨人の肩の上に乗ったら遠くを見渡せる。先人の足跡を知ることが出来て、ヒントも得られる。肩が高ければ高いほどその効果は大きい。ではどうやって肩の上に乗るのか。これを皆さんへの宿題にしたい。

白川 英樹氏 (しらかわ・ひでき)1936年東京都生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。工学博士。同大助手、ペンシルベニア大博士研究員などを経て、筑波大教授。内閣府総合科学技術会議議員も務めた。「導電性高分子の発見と開発」で2000年にノーベル化学賞を受賞。

吉野彰・旭化成名誉フェロー「成功前に3回の失敗」

 私は自然に囲まれた静かな町で少年時代を過ごした。小学生の時、担任の先生に薦められて英国の化学者マイケル・ファラデーの「ロウソクの科学」を読んだことが、理系の道に進むきっかけとなった。 就職して研究所に配属された。「基礎探索研究」といって、自分でテーマを決めて次世代の技術に成長する芽を生み出すことが職務だった。リチウムイオン電池につながる研究を始めたのは入社9年の1981年で、4番目の研究テーマになる。それまでに挑戦した三つの探索研究には失敗したということだ。

 リチウムイオン電池の開発でノーベル賞を共同受賞したのは3人だが、役割は少しずつ異なっている。私は電池の負極として最も適した炭素材料を見いだし、リチウムを含む金属酸化物を正極にした。現在もリチウムイオン電池の基本的な組み合わせとなっている。

 私たちの2019年の受賞は、過去に日本人が受賞した二つのノーベル化学賞の成果に支えられている。一つは1981年受賞の福井謙一博士の「フロンティア軌道理論」であり、もう一つは、2000年受賞の白川英樹博士が発見された導電性プラスチックのポリアセチレンだ。福井博士の理論が白川博士の素材を導き、私はその素材の研究から始めて、リチウムイオン電池へとつなげた。

 関連した三つの化学賞の間隔は、偶然だが19年だ。次の受賞は38年かもしれない。地球環境に関連するテーマになるのではないか。きょう会場にいる誰かが、四つ目のノーベル化学賞につながる研究に挑んでいただけるとうれしい。

 リチウムイオン電池が受賞した理由は二つある。一つはモバイルIT社会の実現に貢献したこと。もう一つは持続可能な社会の到来に役立つと期待されたことだ。期待に応えるためには、地球温暖化問題を解決する必要がある。ガソリン車を電気自動車(EV)に変えるだけでなく、太陽光発電などを増やして火力発電所の二酸化炭素排出量を大幅に減らさないといけない。

 人工知能とリチウムイオン電池を搭載し、インターネットにつながった完全自動運転のEVが普及すれば、社会に張り巡らされた大規模な蓄電システムの役割も果たす。持続可能な社会に向けた変革は25年頃に動き始め、50年頃にほぼ実現すると予想している。

吉野 彰氏 (よしの・あきら)1948年大阪府生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。旭化成入社、2017年から現職。20年から産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センター長も兼務。「リチウムイオン電池の開発」で19年にノーベル化学賞を受賞。

パネル討論

日本の科学の伝統などについて語る吉野氏(中)と白川氏(右)
日本の科学の伝統などについて語る吉野氏(中)と白川氏(右)

 ――日本の科学の伝統や強みとは何か。

 白川 日本の科学は明治以降に盛んになったが、その前の江戸中期、日本語に翻訳されたオランダなど海外の医学書・科学書を基礎として発展した。

 一方、アジア諸国では英語の教科書などを使って科学を学んでいる。ただ、日常会話は母国語なので、科学の神髄を理解しようとする時には母国語で考えるのではないか。それでは新しい考え方が生まれにくい。母国語で学び、母国語で考えることができる日本は恵まれた環境にあると思う。

 吉野氏 日本人は、様々な物を組み合わせて最適化する「すり合わせの技術」にたけている。勤勉な国民性と関係がありそうだ。ただ、この技術はアナログ的なものだ。世界で進むデジタル化の中で、どのように転換していくかが日本の課題だと思う。

 ――日本では2001年以降、約20年間で18人のノーベル賞受賞者が生まれた。アジアで突出して多いのはなぜだと思うか。

 吉野氏 ノーベル賞級の発見・発明は、研究のルーツをたどっていくと過去の蓄積につながる。私の場合もそうだ。日本の場合、研究の蓄積がずっと受け継がれ、その結果、ノーベル賞受賞者が多く輩出されているのだと思う。

 ――日本の科学技術力の低下を心配する声がある。

 白川氏 二つの要望がある。一つは、大学の博士課程修了者を増やしてほしい。博士は高い専門性ゆえに敬遠され、企業への就職が限られている。国際競争力を高めるために企業は博士をもっと採用すべきだ。

 もう一つは、研究費の問題。GDP(国内総生産)に占める研究費の割合を見ると、日本は欧米、中国と比べて非常に小さい。研究費の増額を望む。

 ――若い人たちへのメッセージを。

 吉野氏 私はノーベル化学賞を受賞した福井謙一先生に学んだが、基礎を大事にしないと怒られた。その後、リチウムイオン電池の研究を進めている時、何度も壁にぶち当たった。その時、基礎に立ち返って解決への糸口を探った。まさに福井先生の教えが生きた。

 白川氏 皆さんの多くが大学進学を考えていると思うが、入学を目的にするのではなく、大学で何を勉強したいか、それをもとにして社会で何をしたいか、今から考えてほしい。そうすれば、自分がやりたいことが形作られていくと思う。

質疑応答

吉野氏と白川氏に質問する参加者
吉野氏と白川氏に質問する参加者

 市川理恵さん(豊島岡女子学園高1年)社会で役立つ本物の知識とは何か。

 白川氏 試験のために一夜漬けで覚えた内容は残らない。相手が納得する説明ができるのが本物の知識だ。

 吉野氏 人生では35歳が重要な節目になる。35歳の自分が必要としている知識は何かを想像して身につけてほしい。

 根岸杏実さん(お茶の水女子大付属高3年)若い頃から貫いている信念は。

 白川氏 面白いと思ったら徹底的にこだわる。人が反対しようが、どんな困難が待っていようが、やり遂げる。

 吉野氏 年をとっても好奇心を失いたくない。地球環境問題への関心から、地球誕生の歴史に好奇心を抱き、いまも勉強している。

 佐々木智章さん(駒場東邦中3年)100年後、1000年後の地球はどうなっているか。

 白川氏 人々が規律を守り、倫理をわきまえていれば、ひどい世界にはならないのではないか。

 吉野氏 1000年以上前に紫式部が書いた源氏物語は、いまだに人々に大きな影響を与えている。1000年後も文化は大きく変わっていないのではないか。ただし、人類が道を誤らなければ、という条件がつく。

 後藤ゆうさん(渋谷幕張高1年)地球に優しいはずの技術が、逆に環境の悪化につながっていないか。

 吉野氏 人類は無毒のフロンガスがオゾン層を破壊することに気づき、代替品を開発した。その結果、オゾンホールは小さくなった。人類はばかではなく、修正能力を備えている。

 白川氏 プラスチックの海洋汚染が懸念されている。科学者にも責任はあるが、使いすぎた消費者の問題でもある。消費者にもっと賢くなってもらうため、理系、文系の枠を超えた教育が必要だ。

 滝川永さん(開成高2年)現在の社会問題には科学で解決できない問題が増えているのではないか。

 白川氏 科学には自然科学だけでなく、社会科学や人文科学も含まれている。科学全体でとらえていけば、解決できると思う。

会場の声

メモを取りながら熱心に聞く参加者
メモを取りながら熱心に聞く参加者

 地球温暖化解決したい

 桜蔭高2年 広羽瑛未さん「身のまわりの現象を簡単な式で表せる化学が好きで、将来、地球温暖化を解決するアイデアを生み出したいと思っている。吉野さんの『人間は間違いを犯しても、気付いて修正することができる』という言葉に勇気をもらった」

 社会問題に目を向けたい

 聖光学院高2年、山下裕也さん「常識にとらわれていては大きな発見ができないと指摘された白川先生の言葉に感銘を受けた。まだ自分の将来像は固まっていないが、学校の勉強だけでなく、日頃から社会の問題に目を向けて学んでいきたいと思う」

 「ロウソク」の話が印象的

 市川学園市川中3年、待山真一さん「吉野さんが『ロウソクの炎は宇宙では青くて丸い。常識にとらわれるな』と話されたのが印象に残った。エネルギー問題で水素に関心があったが、リチウムイオン電池も持続可能な社会の実現に役立つと知り、有益だった」

  • 主催 読売新聞社
  • 後援 外務省、文部科学省、NHK
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1707941 0 ノーベル賞フォーラム 2020/12/17 18:28:00 2021/02/10 10:53:39 2021/02/10 10:53:39 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201217-OYT8I50083-T.jpg?type=thumbnail

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