読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

復興と科学の貢献

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「次世代へのメッセージ」が2月23日、福島県郡山市のビッグパレットふくしまで開かれた。「復興と科学の貢献」をテーマに、鈴木章・北海道大学名誉教授(2010年化学賞)と江崎玲於奈・横浜薬科大学学長(1973年物理学賞)が基調講演を行った。パネルディスカッションでは、入戸野修・福島大学学長も加わり、東日本大震災からの復興のために、新しい知識や技術を生み出す科学が果たすべき役割や、次世代を担う若者への期待などについて意見交換した。

(コーディネーター 芝田裕一・社調査研究本部主任研究員)

基調講演

江崎玲於奈・横浜薬科大学学長「『創造』こそ復興の力」

 「学ぶ」ことで、自分の「オプション(選択の自由、選択肢)」を増やすことができる。それが学ぶことの意味だ。東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故は、今までのオプションを喪失する出来事だった。

 震災後の時代を、私たちはどう生きていくべきか。これまで持っていたオプションを取り戻して、元通りの生活ができるように努めるのか。新しい生活スタイルを求めて、新たなオプションの獲得に挑戦するのか。若い人たちは、後者を選ぶべきだと思う。

 戦争も市民の選択の自由を奪う。私は戦争の中で育ち、敗戦直後に東京帝国大学を卒業した。変動の中で生きてきた世代だ。死や破壊が身近だった10代の私は、人間の可能性を限りなく拡大してきた科学にこそ価値があると考えた。

 大震災で多くの人が亡くなった。痛ましいことだ。私が経験した夜間の大空襲でも、100万人が被災し、10万人が亡くなった。東京・本郷にあった私の住まいは焼夷(しょうい)弾で焼かれた。

 しかし、空襲の翌日の朝、大学の物理学実験の教室では、何事もなかったように講義が行われた。学ぶということに最大の価値をおく大学の教えを実感した。

 私が学んだ量子力学は、それまでの古典力学を超える知識であり、そのことに新鮮な刺激と強烈な感動を覚えた。この知識を企業の中で生かし、誰もやらなかったことをやろうと決心した。

 我が人生で何をなすべきか。自分はどんな才能を持ち、何が得意か。何が自分の使命か。教育を受ける目的は、そうした個人の天性を喚起して育てること。そして、自分の才能を最大限に発揮できるシナリオを創作する能力を得ることだ。

 だが、今の日本には受け身型の教育が多い。「疑う」「考える」といった、自主的に探究させる教育は十分ではない。大災害のときなど、自分はどう行動すべきかを考えることが必要な場面では、自分で考える教育を受けている人がうんと強い。

 能力には、知識を得て物事を理解する「分別力」と、新しいアイデアを生みだす「創造力」がある。「創造力」こそ、災害から復興する原動力となる。

 20世紀最大の発明は「トランジスター」だ。重要なのは、それまでの真空管をいくら研究しても、トランジスターは生まれないということだ。安定した社会にいると、将来は現在の延長線にあると思いがちだが、将来は創られるもの。そこで決定的な役割を演ずるのは、個人の「創造力」であるということを改めて強調したい。

江崎玲於奈氏 (えさき・れおな)1925年、大阪市生まれ。東京大学理学部卒。神戸工業、東京通信工業(現ソニー)、米IBMワトソン研究所を経て、筑波大学、芝浦工業大学の学長を歴任。2006年から現職。「半導体におけるトンネル効果の実験的発見」で1973年に物理学賞を受賞。

鈴木章・北海道大学名誉教授「新発見で世界に貢献」

 科学を学ぶことの重要性について話したい。私の専門は有機化学。物質は、無機物と有機物に大別できる。有機物は大部分が炭素でできており、その合成方法を研究してきた。有機合成は、炭素と炭素の結合を作ることであり、これが難しい。

 私は1963年に渡米し、シカゴの南にあるパデュー大学のハーバート・ブラウン博士のもとで有機合成を勉強した。ブラウン博士は、有機ホウ素化合物を作る「ハイドロボレーション(ホウ水素化)」という化学反応の研究で、後にノーベル賞を受賞した。私は65年に北大に戻り、このホウ素化合物を使って有機合成の研究をしようと考えた。当時、この研究に取り組んでいたのは、ブラウン博士を含め世界に3人くらい。日本には他にいなかった。

 ホウ素は、あまりなじみがないが、ホウ酸として目薬に使われている。東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きた際、原子炉への「ホウ酸注入」が報道された。ホウ酸は、連鎖的な核分裂反応を抑えるのに使われる。最悪の事態を回避しようとしているのだとわかった。

 有機ホウ素化合物は安定な物質だが、それゆえに他の物質と反応しにくい面がある。だから、有機合成には使えないのではないかという意見が多かった。しかし、私は、安定は長所と考えた。共同研究者や学生のがんばりもあって、78年に、有機ホウ素化合物を使ったクロスカップリング反応(鈴木カップリング)に成功した。同様の反応をする物質の中には、水に触れると分解したり、毒性があったりするものがあるが、有機ホウ素化合物は、このような問題がない。だから、様々な物質の合成に使える。

 例えば、私も飲んでいるのだが、高血圧の薬。抗がん剤、抗生物質、エイズ薬、農薬、液晶、有機発光ダイオード材料などの合成に使われている。発見から何十年もたって、世界中で生活に役に立つ物に使われているのをうれしく感じる。

 日本は、石炭や石油、鉱物などの天然資源が非常に少ない。資源の乏しい国が将来も伸びていく道は一つしかない。付加価値の高い、他の国ではまねのできない水準の高い技術を使ってものをつくり、世界中の人に使ってもらうことだ。そのためには科学の知識が必要だ。

 原発事故で汚染されたものの処理などにも、科学の知識は不可欠。風評被害の問題もあり、自治体や科学者が正しく判断し、責任を持って決定するために、正しい知識が大事だ。

 参加者の中から、世界に貢献するような人が出てくることを期待している。

鈴木 章氏 (すずき・あきら)1930年、北海道生まれ。北海道大学卒。同大工学部助教授、米パデュー大学博士研究員、北海道大工学部教授を歴任し、94年から現職。78年に「鈴木カップリング」に成功。その合成法を発展させた業績で、2010年に化学賞を受賞。

現状報告

入戸野修・福島大学学長「震災対応 地域と連携」

 地震、津波、原発事故、風評被害という複合災害が福島県を襲い、私たちの暮らしに大きな変化を及ぼした。この変化の時代に生きるための要素として、現実を直視し本質を理解する「分析力」、それを人に伝えるための「説明する力」、共感したり判断したりするための「感性」を挙げたい。

 複合災害で引き起こされた問題を解決するには、これまでのように文系、理系が別々にではなく、文理融合で対応していかなければならない。福島大学では、人文社会系の中に理工系をつくり、研究は地域密着型だ。大震災直後の2011年4月には、「うつくしまふくしま未来支援センター」を設立した。地域と連携し、50人の教職員で避難所の開設、心のケア、放射線計測などに取り組んできた。

 経済協力開発機構(OECD)が進める震災後の教育支援事業「東北スクール」を通じ、学生のルーマニア派遣や米国の学生の受け入れも行っている。

 今後の課題は、教育再生と経済再生。科学リテラシーの向上と人材育成が鍵だ。君たちの成長を、ゆっくりとでもいいから支援していきたい。

入戸野 修氏 (にっとの・おさむ)1970年、東京工業大学大学院修了。同大工学部教授、福島大学教育学部教授を経て、2010年から現職。

パネル討論に臨む(右から)入戸野氏、江崎氏、鈴木氏(福島県郡山市ビッグパレットふくしま=伊藤紘二撮影)
パネル討論に臨む(右から)入戸野氏、江崎氏、鈴木氏(福島県郡山市ビッグパレットふくしま=伊藤紘二撮影)

パネル討論

新しい福島 科学の力で

――戦災から復興できたのは、科学技術力のおかげだった。科学は震災後の復興にどう貢献できるか。

 江崎氏 東日本大震災で、人々は、今まで通りに生きることを奪われた。だが、新しいことをなすチャンスが与えられたととらえることもできる。復興のための運動に参加するのもよいが、できれば自分で考え、自分で行動することを通じて、自己形成の機会ともしたい。私は戦争でいろいろな経験をして、自分が強くなったと思う。新しいものを開拓するのが科学の一番の面白さで、復興もそれにつながる。新しい福島を作りたい。

復興には科学が非常に重要

 鈴木氏 資源のない日本は、製薬工業、精密機械工業など、高い科学的知識と技術が要求される産業を盛り上げていかねばならない。震災で被害を受けた地域の復興では、放射性物質を除去するには科学の知識が欠かせない。農産物の風評被害については、私を含めた科学者や自治体の人の責任が重大だ。これ以上では売ってはいけないという放射能の基準をはっきり言える科学的知識が必要だ。復興には科学が非常に重要だということを理解してほしい。研究者にも責任はあるのだろうが、一般の方たちに科学をもっと信用してもらう必要がある。

プラス思考で独創性に発展

 入戸野氏 人間には強い回復力があると思う。震災と原発事故の体験は、それをプラス思考に転換すれば、独創性にまで発展させる武器になるだろう。学問を志す福島の学生が学習や研究に専念できるよう、積極的に経済的な支援をしている。保護者の皆さんには、子供を大学院の修士課程に進学させ、個性をさらに育てることへの支援を、ぜひお願いしたい。

失敗も「成果」

――失敗や挫折を乗り越えるにはどうすればよいか。

 江崎氏 人生には当然、失敗はある。だが、失敗も大切な「成果」だ。意気消沈する必要はない。逆に、成功すると、うぬぼれや誘惑が多くなる。ノーベル賞をもらうと、とくにそうだ。成功の扱い方は失敗のそれより難しい。

 鈴木氏 研究は失敗することがほとんど。学生には「99%は失敗する。恐れることなく頑張れ」と言っている。

 入戸野氏 私は、ゼロからのスタートが好きだ。ゼロから始めると、0.01になっても進歩になる。成功より失敗から学ぶことの方が多い。

――人生の岐路で、どうやって道を選択したのか。

 江崎氏 私は、科学以外にできることがなかった。自分は何が得意で何が好きかを知ることが大事。米国では、人々がふさわしい場所で活躍しているケースが多いと思う。競争社会では、自分の得意な部分を生かさないと生きていけないからだ。日本も次第にそうなると思う。

 鈴木氏 自分の進むべき道は自分で決めないといけない。中学、高校時代は、先輩や先生、両親に多くのことを聞いて、いろんな本を読むべきだ。

蓄音機に驚き

――科学の魅力とは。

ノーベル賞受賞者らの話を熱心に聞く人たち
ノーベル賞受賞者らの話を熱心に聞く人たち

 鈴木氏 有機化学の分野で扱う有機物は、非常に種類が多い。だが、そのすべてを人間が作ることはできない。木や草は、太陽光エネルギーを利用して、二酸化炭素と水を材料にブドウ糖などを作る。でも人間は、室温と大気圧という、ごくふつうの環境のもとではこれを合成できない。化学の世界は、まだまだわからないことが多い。だから面白い。

 江崎氏 子供のころ、音楽を奏でる蓄音機が家に来た。中に人が入っているのではないかと驚いた。これを発明したのがエジソンという人だと父から聞いて、こういうものを発明できる人になりたいと思った。

 入戸野氏 鉄腕アトムに登場する「お茶の水博士」になりたかった。科学は、試してみなければ結果がわからない。その期待感が魅力で、のめりこんだ。

――若い人は海外に行ったほうがよいか。

 江崎氏 海外は日本といろいろな点で違いがある。それを見ることは、自分を豊かにする。

 鈴木氏 外国人は日本人と考え方が違う。日本人同士では以心伝心でわかっても、外国人はそうはいかない。彼らを理解するためには、真剣に議論しなければならない。海外での経験は、とても大切だ。私は英語は嫌いだったが、若い人は、きっちりと勉強しておくべきだと思う。

都会も田舎も

――日本人のノーベル賞受賞者には、大都市を抱える都道府県の出身者が多い。都会は科学に触れる機会が多いからか。

 江崎氏 科学の才能を持っている人は、全国にいるに違いない。だが、才能を見いだし育てるチャンスは、大都市の方が恵まれているのではないか。

 鈴木氏 韓国からノーベル賞受賞者は出ていないが、韓国人の能力が低いということは絶対にない。近い将来に必ず受賞者が出るだろう。大学で自分の研究を一生懸命やれば、田舎であろうが都会だろうが関係ない。

会場の声

「選択する自由」印象的

 福島県郡山市立永盛小学校5年、森大樹くん「江崎先生が話した『選択する自由』という言葉が強く印象に残った。将来何になりたいかはまだわからないけれど、自分の前にはいろいろな道があるのだなと思う。科学にも興味がある。これから道を探していきたいと思います」

将来は自分で考え

 福島県立安積高校2年、君塚佳奈さん「学校で学んでいることがどう役立つか実感がなかったが、今日の講演を聞いて、今後の選択肢を広げるものであると理解できた。将来は、医師を目指している。自分で考えて道を決めていくことが大切だと感じた」

講演に励まされた

 福島県立安積高校2年、市場沙解(さと)さん「江崎さんが、村上春樹さんの著作にも触れ、心の問題にまで踏み込んで『オプション』の話をしてくれたのが印象深かった。鈴木さんの話では、化学の専門的な知識に触れることができた。講演に励まされ、勉強に打ち込もうという気持ちになれた」

原動力は技術力

 福島東稜高校理科教諭、岡崎友亮さん(27)「資源が乏しい日本は、付加価値の高いものを生み出して世界と対抗していかなくてはならず、その原動力は日本の技術力であると実感した。私の生徒たちにも、科学を学ぶ意味がそこにあるということを伝えていきたい」

(2013年3月12日朝刊)

  • 主催 読売新聞社、福島民友新聞社
  • 後援 外務省、文部科学省、NHK
  • 協賛 トヨタ自動車、清水建設、ノバルティス ファーマ
無断転載・複製を禁じます
1764116 0 ノーベル賞フォーラム 2021/01/12 14:15:00 2021/01/12 14:15:00 2021/01/12 14:15:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210112-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

新着クーポン

NEW
参考画像
お買い上げ金額から10%OFF
NEW
参考画像
1ドリンクサービス(お一人様1杯)
NEW
参考画像
1,000円以上お買上げの方に「とうきび茶」プレゼント
NEW
参考画像
「ふぞろいの牛タン・切り落とし」一品プレゼント!
NEW
参考画像
ファーストドリンク一杯無料

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)