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2017年9月「オートファジーが開く新しい生命科学」東京都・日本教育会館一ツ橋ホール

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 「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム 次世代へのメッセージ」が9月16日、東京都千代田区の日本教育会館一ツ橋ホールで開かれ、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学栄誉教授と共同研究者の吉森保・大阪大学栄誉教授を招いて、講演や質疑を行った。

 「オートファジーが開く新しい生命科学」をテーマに、細胞の自食作用(オートファジー)の研究プロセスや、医学分野での進展の可能性を話し合った。大隅さんは、若い世代への期待や思いも熱く語り、中高生など約600人が真剣に聞き入っていた。

(コーディネーター 佐藤良明・調査研究本部主任研究員)

基調講演

大隅良典・東京工業大学栄誉教授「誰もやらない事やろう」

 ノーベル賞受賞に対し、全国からたくさんのメッセージをいただいた。基礎科学の成果がこれほど祝福されたことをうれしく思う。

 「困難をどう乗り越えたらいいのか」とよく尋ねられる。人から答えをもらっても人生は楽しくないので、自分で見つけてほしい。私も含めて先人は君たちにとって乗り越えていく対象だ。

 郷里では豊かな自然の中で育った。昆虫採集に明け暮れ、星空観察を楽しんだ。12歳上の兄から、「生きものの歴史」(八杉竜一)や「ロウソクの科学」(ファラデー)など優れた科学の本をプレゼントされ、科学に対する興味が深まった。

 高校時代は化学部に属し、将来は化学者になろうと考えていたが、大学の化学の授業には心をひかれなかった。勃興(ぼっこう)してきた分子生物学に圧倒的な魅力を感じた。

 大学院では大腸菌などが研究対象で、米国留学中に酵母の研究を始めた。これが幸運だった。酵母は内部を観察しやすく、人体の細胞のモデルにもなる。帰国して東大の助手になってからは酵母の液胞を研究した。

 液胞は細胞のゴミためだと思われていて、手をつける人がいなかった。誰もやらない事をやる方が自分の性に合った。1988年に助教授になって独立し、オートファジーの研究を始めた時も、酵母の液胞を研究材料にした。

 私たちは、飢餓状態の酵母の中に突如として膜が現れてたんぱく質など細胞の一部を取り囲み、液胞と融合してたんぱく質を中に運び、液胞内で分解が進むことを発見した。そして、このオートファジーに関わる十数個の遺伝子と、それぞれの役割を次々と明らかにしていった。

 遺伝子がわかると、その遺伝子を改変することでオートファジーがどんな機能を持つのかもわかる。私がオートファジーの研究を始めた頃は、年に数十本の論文しか出ていなかったが、研究も進み、今は6000本が出る分野に成長した。

 何に役立つかもわからない研究が大きな領域に発展するところが、基礎科学の面白さだ。性急に結果を求めず科学を楽しめるような社会の実現のために奮闘したいと思っている。

大隅 良典氏 (おおすみ・よしのり)1945年福岡県生まれ。東京大学教養学部卒。理学博士。米ロックフェラー大研究員、東大教養学部助教授などを経て、96年岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所教授。2014年から現職。「オートファジーの仕組みの解明」により16年のノーベル生理学・医学賞を受賞。

吉森保・大阪大学栄誉教授「オートファジー 細胞の再利用」

 生命の基本単位である「細胞」は、人間の場合、30兆個ほど存在する。細胞の中には一つの「宇宙」、あるいは、私たちが暮らすような「社会」があると言える。働く人、物を作る工場、病院、働く人を運ぶ交通網といった役割を持つ仕組みが備わっている。

 オートファジーもその仕組みの一つだ。細胞の中の清掃車とリサイクル工場を組み合わせたような役割を担っている。

 私は、オートファジーが人間など哺乳類でどのように働いているかを研究している。オートファジーの重要な役割は三つある。まず「栄養を得る」ことだ。細胞は飢えると、自分の一部を壊して栄養を作り、餓死するのを防ぐ。これがオートファジーの基本的な役割だと考えられる。

 二つ目は「細胞の新陳代謝」だ。飢餓状態でなくても、毎日、オートファジーは起こり、細胞の一部を壊して新たに作り直すリサイクルを行っている。オートファジーが止まり、代謝がうまくいかないと、病気になることが分かってきた。

 三番目は「細胞の中を掃除する」ことで、細胞に入ってきた病原体はオートファジーが食べて排除する。肝臓にできた脂肪の塊も排除してくれるが、高脂肪食を食べると、あるたんぱく質が増えてオートファジーが低下する。その結果、脂肪がたまり脂肪肝になることを、私たちは突き止めた。

 そのほか、がんやアルツハイマー病など様々な病気を防ぎ、寿命を延ばすことも分かってきた。オートファジーにはまだ不明なことが多く、今もワクワクしながら研究している。

吉森 保氏 (よしもり・たもつ)1958年大阪府生まれ。大阪大学理学部卒。同大学大学院医学研究科。医学博士。関西医大助手、基礎生物学研究所助教授などを経て2006年に大阪大学教授。14年に特別教授。今年7月から栄誉教授。

質問に答える大隅氏(中央)と吉森氏(右)
質問に答える大隅氏(中央)と吉森氏(右)

大隅栄誉教授からのメッセージ
  • 〈1〉長い人類の歴史の中で自分の生きている時代を考えよう
  • 〈2〉権威や常識に囚(とら)われず、自分の興味を抱いた疑問を大切にしよう
  • 〈3〉論文やあふれる情報からではなく、自然、現象から出発しよう
  • 〈4〉人と違うことを恐れずに、自分の道を見極めよう
  • 〈5〉はやりを追うことはやめよう、競争だけが科学の原動力ではない
  • 〈6〉自分の眼で見て確かめ、小さな発見を大事にしよう
  • 〈7〉役に立つとは何かを考えよう
  • 〈8〉最初の疑問に繰り返し立ち返ろう
  • 〈9〉目の前の研究の先に何があるかを考えよう

質疑応答

■基礎研究

――若者へのメッセージとして9項目を挙げた。

 大隅氏 自分を信じて自分で歩いてほしい。「人と違ってもいい」「自分はこれをやりたい」と言えることが若者の特権だ。そういうことを考えてほしいと思って、九つの言葉を用意した。

ゆとりがないと 科学育たない

熱心に話を聞く高校生ら
熱心に話を聞く高校生ら

――「日本の基礎科学が危うい」と指摘している。

 大隅氏 今の日本はゆとりを失っている。ゆとりがない心から、おもしろい科学は生まれない。社会が役に立つことばかり求めていては、科学は育たない。ある研究が花開くのは10年後なのか、100年後なのかは誰にもわからない。本当に知りたいことを蓄積していく先に人類の将来はある。

 吉森氏 私たちがオートファジーの研究を始めたとき、それが役に立つとは思わなかった。不思議だから研究したいという一心だった。

――これからの基礎研究に対する意見は?

 大隅氏 オートファジーが大事だからと多額の資金をつぎ込めば、少しは研究が進むかもしれない。だが、そこで止まってしまう可能性もある。基礎研究は色々な人が色々な方向から攻めることが大事であり、研究者の絶対的な人数が必要だ。

――「大隅基礎科学創成財団」を最近設立した。どんな思いを込めている?

 大隅氏 日の当たらない基礎研究をしている人たちを社会全体で支援したい。大企業もいいが一般からの志(寄付)が集まることを願っている。大勢の支援が集まれば、日本の社会の雰囲気が変わるのではないか。

――若い世代への期待を改めてお聞きしたい。

 吉森氏 自分の好奇心をぜひ大事にしてほしい。これは、研究者でもほかの職業でも同じだ。

 大隅氏 孤立を恐れず、人がやっていないことに取り組んで発見することが科学の一番大きな喜びだ。そのためにも、自分をしっかり持つことを心してほしい。

会場の声

大隅さん、吉森さんに質問する高校生(東京都千代田区で)
大隅さん、吉森さんに質問する高校生(東京都千代田区で)

科学者になりたい

 共立女子高等学校1年、廣野(あおい)さん「小さな細胞が自分の中身を食べたり、新しい物を作ったりと、複雑な働きをしていることが分かり、とてもかわいいなと思った。講演を聴いて私も興味がわき、将来は細胞を研究する生命科学者になりたい」

勇気づけられた

 渋谷教育学園幕張高校3年、(りょう)清揚(せいよう)君「自分は今まで周りに合わせる傾向があったが、大隅さんの話を聞いて、人と違っていいんだと勇気づけられた。将来はAI(人工知能)を研究し、オートファジーのような生物の知恵をAIに生かしたい」

友人にも伝えたい

 浦和第一女子高1年、橋本沙也加さん「大隅さんは気難しくてこわそうな印象があったが、物腰が柔らかですてきな方だった。好奇心に従い、自分の道を自信を持って進むことが大切だと教えられた。今日参加できなかった友人にも伝えたい」

(2017年9月27日朝刊)

  • 主催 読売新聞社
  • 後援 外務省、文部科学省、NHK
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1781121 0 ノーベル賞フォーラム 2020/10/12 15:00:00 2021/02/09 19:31:35 2021/02/09 19:31:35 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210119-OYT8I50052-T.jpg?type=thumbnail

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