2021年11月「材料で未来を拓く」札幌市・北海道大学鈴木章ホール

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【動画】2021年11月「材料で未来を拓く」江崎玲於奈氏×天野浩氏×前田理氏

 「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム~次世代へのメッセージ」が11月27日、札幌市の北海道大学鈴木章ホールで「材料で未来を (ひら) く」をテーマに開かれた。2014年にノーベル物理学賞を受賞した天野浩・名古屋大学教授と、前田理・北大化学反応創成研究拠点長が講演、猪熊泰英・同拠点准教授を交えて討論を行った。また、1973年に物理学賞を受賞した江崎玲於奈・横浜薬科大学長がビデオで特別メッセージを寄せた。フォーラムでは、地球温暖化などの課題解決に材料科学が果たす役割や、若い世代への期待が語られた。全国の高校などにオンライン配信され、会場に招待された高校生を含めて約600人が聴講した。

(コーディネーター 杉森純・調査研究本部主任研究員) 

特別講演

江崎玲於奈・横浜薬科大学長「リスク冒し 未踏を開拓」

 「我が人生、何をなすべきか」。人生はあなたが主役を演じるドラマで、そのシナリオが問われる。試行錯誤を繰り返し、人生ドラマの主人公を的確に演じ、社会に貢献する。訪れてくることを期待して、ラッキーチャンスを待とう。「チャンスの女神は準備を整えた人を好む」は、ルイ・パスツールの有名な言葉だ。

 私は人生戦略として「リスクを冒して人が誰もやらなかった未踏の分野を開拓しよう」と決意した。安定した社会では、将来は現在の延長線上と思いがちだ。変革の時代には革新的なものが誕生し、将来は創られる。決定的な役割を演ずるのは個人の創造力だ。

 近代文明の活力の源泉であるサイエンスの進歩の中で、特に画期的な進歩にノーベル賞が与えられる。ノーベル賞を取るためには、行きがかりや、しがらみにとらわれてはいけない。既成概念を超えるところに発見のチャンスがある。

江崎玲於奈氏(えさき・れおな)  1925年大阪府生まれ。東京大学理学部卒。東京通信工業(現ソニー)、米IBMなどを経て、筑波大学と芝浦工業大学の学長を歴任。2006年から現職。1973年に、「半導体のトンネル効果の発見」でノーベル物理学賞を受賞。

基調講演

天野浩・名古屋大学教授「脱炭素 人材育成カギ」

 青色発光ダイオード(LED)の開発で2014年のノーベル物理学賞を受賞した、私の恩師である赤崎勇先生が今年4月、肺炎で亡くなった。私も同時受賞したが、青色LEDは、赤崎先生という一人の研究者の好奇心から生まれた。

 赤色と緑色のLEDは開発できたが、特許は欧米企業が握っていた。赤崎先生は日本オリジナルなものを作りたいと、残る青色のLED開発に取り組んだ。

 「我ひとり 荒野(あれの) を行く」。赤崎先生は未踏の領域に踏み込んで研究する自らをそう形容した。民間企業から名古屋大学に移り、そこで私も研究に参加した。研究費は少なく、装置は手づくり。苦心の結果、青色LED開発に成功した。照明がLEDに置き換わったことで昨年時点で国内の発電量を7%減らし、1兆円を節約することができた。

 インベンション(発明)とイノベーション(技術革新)は異なる概念だ。インベンションは一人で頑張ればできるが、イノベーションは一人ではできない。社会が変わらないといけないので、多くの人たちを巻き込む必要がある。

 イノベーションが求められる領域の代表が、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」で、私たちも今、取り組んでいる。太陽光や水力、風力、地熱などの再生可能エネルギーを十分に活用しないといけない。

 それを実現するためには人材育成が重要だ。理学・工学の学生は研究が大好きだが、ビジネスについて学んでいない。私たちは社会的価値の創出を担うビジネス起業者、課題解決を担うプロダクト(製品)開発者、課題の理解・研究を担うシーズ(種)創成者の3タイプの人材を育てる大学院プログラムを始めた。

 具体的には、産業界や国の研究機関などの学外者にメンター(指導者)として教育に参加してもらう。大学院生はメンターと毎日のように議論し、ビジネスについて学ぶ。その上で研究課題の解決策を提示する。履修者らは学外のビジネスプランコンテストで優秀な成績を残している。

 日本のイノベーションは従来、研究主体のボトムアップ的なものが多かったが、これからは、社会が何を求めているかという視点から始まるべきだと思う。そのような発想ができる研究者を育て、また、研究環境を整え、再生可能エネルギー中心の社会の実現に貢献したいと思う。

天野浩氏(あまの・ひろし)  1960年静岡県生まれ。名古屋大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学。工学博士。名古屋大学助手、名城大学助教授、同教授などを経て、2010年から名古屋大学教授。14年に「青色LEDの発明」により、ノーベル物理学賞を受賞。

前田理・北海道大学化学反応創成研究拠点長「計算で『化学反応』を革新」

 私が拠点長を務める北海道大学化学反応創成研究拠点(ICReDD)は、コンピューターと化学を組み合わせて、新しい化学反応や材料の新しい機能を見つける研究をしている。

 化学反応は、豊富な資源、石油などに含まれる分子を有用な分子に変換する。産業利用は大きく、世界経済に年間60兆円ぐらい貢献している。新しい化学反応の開発は人間社会にとても重要だ。しかし、開発には時間やコストがかかる。100万回以上実験して、やっと一つの革新的な化学反応が見つかる。

 コンピューターの計算速度が非常に速くなり、人工知能も発達した。私たちは計算と情報を、実験と組み合わせて、効率化に取り組んでいる。

 スローガンは「化学反応の設計と発見を革新する」。ICReDDに所属して、今年のノーベル化学賞を受賞したベンジャミン・リスト先生が考えてくれた。

 日本人初のノーベル化学賞は、化学反応を計算で予想する計算化学で1981年に京都大学の福井謙一先生が受賞した。計算化学は、シミュレーションのようなもので、化学反応の様子を可視化する。目で見て理解できるのが強みだ。

 しかし、しらみつぶしに計算すると無限に時間がかかってしまい、今まではあらかじめ予想して決め打ち的に計算していた。人知の及ばない予測はできなかった。私たちはコンピューターで分子をブロックのようにくっつけたり、引っ張ったりしながら、自動的に様々な組み合わせを計算して、化学反応を予測する。

 ICReDDはこうした計算をもとに、計算をする研究者、実験をする研究者、情報科学の研究者が連携して、化学反応の設計と発見の革新を目指している。

 すでに新しい合成法も発見した。目標とする分子を入力して、様々な化学反応の組み合わせをコンピューターで計算した。予測された反応をカタログ化して、良さそうな組み合わせを実験で試して、合成法を見つけることができた。

 筋肉のように鍛えれば鍛えるほど強くなる材料も、計算でより効率的に強化できるようになった。

前田理氏(まえだ・さとし)  1979年長野県生まれ。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。北海道大学准教授を経て同教授。2018年から現職。19年世界理論・計算化学者協会Diracメダルを日本人初受賞。

パネル討論

研究 一人では限界

猪熊泰英・北海道大学准教授
猪熊泰英・北海道大学准教授

――猪熊泰英先生、最初にご自身の研究の説明を。

  猪熊氏  分子の大きさは人の身長の10億分の1。逆に身長の10億倍が太陽。太陽が人間をコントロールするように、目に見えない分子を自在に扱うのが材料開発だ。ひも状の分子の形を変えて新しい材料を作っている。例えば、ひもを長い状態からS字に折り曲げると、紫外線で光る材料ができる。

――地球温暖化の解決に材料科学の貢献は?

  天野氏  安いから、使いやすいから、材料を選ぶのではなく、地球、社会、人間に優しいものは何かという物づくりの根本から考え直す必要がある。

  前田氏  二酸化炭素を回収したり、他の物質に変換したりできる化学反応を見つけることが重要。(温暖化対策は)経済など様々な問題が絡むが、研究者としては有効な反応を一つ一つ見つけていきたい。

  猪熊氏  厚みが半分で強度が同じプラスチックなら、二酸化炭素の排出量は半分になる。手元にある色々な技術の活用が貢献につながる。

――異分野連携に積極的だが、その狙いや成果は?

  天野氏  大学院では、学生が海外の起業家プログラムに参加して議論を重ねることもしている。研究で社会にどう貢献できるのか考える学生が育っている。分野が違うと、視点も考え方も全然違う。そのことを、学生自身が経験することが大切だ。

  前田氏  私は一つのことに取り組むタイプで、大学院生時代は一日中プログラムを書いていた。でも一人では限界があり、研究を社会に役立てる段階では、連携や融合が必要。融合研究を通して、思ってもいなかった発展がありワクワクする。

――どんな学生時代で、何に興味を持っていたか?

  天野氏  高校では数学が得意で、数学ばかりやっていた。大学で、人と人とをつなぐのが工学部だと教わった。「人の役に立つ学問」ということで考えが変わり、勉強が大好きになった。

  前田氏  覚えることが嫌いで実は化学が一番苦手だった。中学、高校と剣道に打ち込んだ。弱いなりに努力し、忍耐力は養われた。

――最後に高校生の皆さんにメッセージを。

  前田氏  若い時に打ち込んだことが将来につながることがある。ぜひ、何かおもしろいことを見つけて、それに突き進んでほしい。

  天野氏  私は高校生の時にやりたいことが見つからなかった。やりたいことが見つからなくても焦る必要がないことも伝えたい。

高校生のアイデア発表

夢を形に 社会変える

 「作ってみたい夢の材料」をテーマに高校生たちがアイデアを発表した。

  金石(きんせき)()() さん(立命館慶祥高校2年) 私はマンションの一室にあるピアノ教室に通っているが、下階の住民から苦情が寄せられた。そこで、壁や床の材料を液体状にするなど工夫を凝らし、音を通さない物質を開発したい。

  天野氏  日本の家屋は狭いので音の問題は切実だ。非常に優れた観察力だ。

  有我俊太郎 さん(北海道紋別高校1年・ビデオ出演) 屈折率1の物質を作れないか。コロナ禍でアクリル板が広がったが、向こう側が見づらかった。屈折率1の物質が開発できたら、光が屈折しないので見やすくなる。

  天野氏  私たちは、眼鏡のレンズまたはコンタクトレンズに、今見ている情報に加えて、インターネットの情報も映し出す未来型のディスプレーの開発に取り組んでいる。それを実現するためには屈折率1に近い材料が必須だ。非常に素晴らしい視点だと思う。

  小林彩 さん(東京都立戸山高校1年・ビデオ出演) 私が考えた夢の物質は、どんな気候変化にも対応できる生地だ。この生地を使って服を作れば、季節に応じて買い替える必要がない。生活環境の悪化で命を落とす人も少なくなると思う。

  猪熊氏  分子レベルで格子状のものが環境に応じて穴が広がったり、縮まったりするものは存在する。このような発想が高校生から出てくることに驚いた。

参加者の声

最先端研究に興味

  鹿野美優 さん(札幌北高校2年)「化学反応をシミュレーションで解明する研究など、北海道大学で行われている最先端の研究を学べて、興味を持った。これからの時代は、分野を問わず幅広く教養を深めて、色々な視点から考える力が求められると感じた」

好奇心もって挑戦

 オンラインで視聴した 伊藤愛 さん(愛知県立旭丘高校1年)「環境や自然保護など社会問題に関心があったが、問題解決に科学が重要だと気がついた。科学の視点を大切にしたい。新しいことにも、天野浩先生たちのように好奇心に基づいて挑戦していきたい」

住みよい社会作る

 オンラインで視聴した 安田 (るい) さん(鹿児島県立鶴丸高校2年)「材料科学を通じて脱炭素社会の実現に取り組む天野先生の話を聞いて、住みやすい社会作りに役立つ研究者になりたいと思った。研究をして終わりではなく、目標を定めて、自分で色々考え、挑戦していきたい」

  • 主催 読売新聞社、北海道大学
  • 後援 外務省、文部科学省、NHK
  • 協賛 日本電子株式会社

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使い方
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2633749 0 ノーベル賞フォーラム 2021/12/27 14:49:00 2022/01/05 10:29:35 2022/01/05 10:29:35 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/12/20211227-OYT8I50014-T.jpg?type=thumbnail

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