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科学の未来とゴールド・メダル賞

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「ノーベル賞を受賞できる研究者を」

 ゴールド・メダル賞は、日本の科学技術を発展させるために設立された「読売テクノ・フォーラム」の中核事業として1995年に創設された。将来、ノーベル賞を受賞するような有望な若手研究者を応援したいとの願いが込められ、科学分野の「ミニ・ノーベル賞」とも言える。

主任研究員 坂上博 

 賞が創設された前後の80~90年代、日本の科学界は、それほど元気ではなかった。ノーベル賞の自然科学分野3賞(物理学、化学、生理学・医学賞)を80年代に受賞した日本人は、81年の福井謙一氏(化学賞)、87年の利根川進氏(生理学・医学賞)だけで、90年代は一人もいなかった。

 国土が小さく資源も少ない島国・日本にとって、「科学技術立国」こそが、生き残る道であるはずなのに、厳しい現実を突きつけられた。そのような危機感が、ゴールド・メダル賞を創設させた。

 賞の歴史が始まるとともに、日本は活気づいた。2000年から18年までの19年間に、18人が、ノーベル賞の自然科学分野3賞を手にしている。毎年1人は受賞している勘定だ。

山中伸弥氏
山中伸弥氏

 様々な細胞に分化・増殖できるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製に成功したとして、12年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所長・教授(現在)も、ゴールド・メダル賞受賞者の一人だ。04年にこの賞を受賞し、その8年後にノーベル賞受賞の栄誉に輝いた。

 ゴールド・メダル賞は、25回目を迎えた今回までに73人と2チームに与えられた。受賞者の研究分野は、医学、宇宙物理学、有機化学、電気工学など幅広い。

睡眠、がん…第一級の研究者も受賞

 山中教授に限らず、その後、ノーベル賞の候補に挙げられている受賞者も多い。

 2000年にゴールド・メダル賞を得た柳沢正史・筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長・教授(現在)は、「眠り」の仕組みを解明した世界的な研究者だ。

柳沢正史氏
柳沢正史氏

 柳沢教授らは、突然、強い眠気に襲われる睡眠障害「ナルコレプシー」の原因が、脳内の神経伝達物質「オレキシン」の欠乏であることを1998年に突き止めた。オレキシンが脳内に十分あると覚醒し、足りないと眠くなる。オレキシンの働きを弱めることで眠りを導く睡眠薬も開発され、不眠症の治療に使われている。柳沢教授はノーベル生理学・医学賞の候補として注目されている。

 間野博行・国立がん研究センター理事・研究所長は、肺がんの原因遺伝子「ALK融合遺伝子」を発見した。肺がんの約85%を占める「非小細胞肺がん」の3~5%に見られる遺伝子で、この遺伝子があると、がんの増殖能力が高く治療が非常に難しいとされる。間野所長は、問題の遺伝子の働きを阻害する薬「ALK阻害薬」の研究開発を続けた。その功績で09年のゴールド・メダル賞を受賞。ALK阻害薬は12年に国内で承認され、肺がん患者に希望を与えている。間野所長は今、国のがん研究のトップとして、がん撲滅のために活躍している。

間野博行氏
間野博行氏

 藤田誠・東京大学卓越教授も、毎年ノーベル賞が決まる時期が近づくと、化学賞の候補者としてマスコミの取材が殺到する研究者だ。藤田教授は、分子が自然に集まって特定の物質を作る「自己組織化」の研究を先導し、有機分子と金属イオンを混ぜると、この自己組織化によって今までにない構造の分子の集合体を作れることを1990年に発表した。その知見に基づき、画期的なエックス線構造分析法が開発されるなど、化学界に大きな影響を与えた。

 藤田教授は2001年にゴールド・メダル賞、18年にウルフ賞(化学部門)を受賞した。ウルフ賞は、イスラエルのウルフ財団が毎年、化学・農業・数学・医学・物理・芸術の分野で優れた業績をあげた人を表彰しているもので、受賞者の約4分の1が後にノーベル賞を受賞している。藤田教授の受賞も近いのではないか、との期待が集まっている。

 ゴールド・メダル賞の受賞者から、ノーベル賞の受賞者をはじめ、世界で評価される研究者が生まれたことは大いに喜ばしい。賞は、その役割をある程度果たしたとして、今回で終了することになった。

藤田誠氏
藤田誠氏

科学技術立国ニッポンの危機

 ただ私たちは、1995年にゴールド・メダル賞を創設する「出発点」となった科学技術の現状に対する危機感を忘れてはならないだろう。

 確かに近年、ノーベル賞を受賞する日本人研究者が相次いでいる。しかし、その研究成果は今から20~30年前のものばかりだ。現在の日本の科学技術力は右肩下がりの傾向にあり、「科学技術立国ニッポン」は危機的な状況だと指摘する研究者は多い。文部科学省が毎年発行する「科学技術白書」は近年、日本の苦境ぶりを赤裸々に描いている。

 一国の科学技術力を示す指標として重要なのが、研究論文の数だ。2004~06年の国別の論文数を比べると、1位の米国に次いで日本は2位で、まだまだ影響力は大きかった。しかし、10年後の14~16年には、日本は中国、ドイツに抜かれて4位に転落してしまった。

 若手研究者を巡る状況も、非常に厳しい。大学院の博士課程への入学者数は18年度、若干増えたが、ここ数年、減少傾向にある。専門的な知識を持つ若手研究者が減るようでは、日本の将来は暗い。

 読売新聞社は今年4月8日、本庶佑・京都大学高等研究院特別教授(18年ノーベル生理学・医学賞受賞)とiPS細胞の山中教授の2氏を招いてフォーラムを開催した。両氏からも日本の現状を憂慮する発言が相次いだ。 本庶特別教授は、「国は、産業と結びつきやすいところにばかり、お金を使うようになった。その結果、基礎研究への研究費が減り、若い学生が大学院へ進学しなくなったり、研究職へ就職しなくなったりしている」と指摘した。

 山中教授も「私が所長を務めるiPS細胞研究所の教職員の多くは非正規雇用。しかも、研究所の財源のほとんどが期限付きで、研究者らは腰を据えて研究に取り組めない」と訴えた。両氏は、若手研究者の育成などを目的に、それぞれ独自の基金を設立している。

 国民全体で危機意識を共有し、国は、若手研究者への研究費配分を増やすなど様々な対策を実施しないと、米国や中国などとの差は広がるばかりだ。目先の利益ばかりにとらわれない国家百年の科学政策を樹立することが求められている。

山中氏「受賞が大きな励みに」

 ゴールド・メダル賞の終幕に際して山中教授からメッセージをいただいたので紹介する。

 2004年に「初期胚の分化や腫瘍形成を調節する因子の発見と再生医療への応用」に関して、ゴールド・メダル賞を受賞しました。当時、私は奈良先端科学技術大学院大学教授で、「様々な細胞に分化・増殖できる幹細胞の開発」という壮大な目標に向かって研究を重ねており、大変大きな励みとなりました。その2年後に、iPS細胞の開発成功を報告できたのも、ひとえにこの賞の後押しがあったからこそと思っています。

 基礎研究の重要性が説かれますが、ゴールド・メダル賞はまさに基礎研究の発展を支えた貴重な賞です。2019年で終了するのは寂しいですが、この25年間で多くの若手研究者らが背中を押されてきたと思います。受賞時の感謝の気持ちを忘れず、iPS細胞研究の成果を一日でも早く患者さんに届けられるよう、今後も精進してまいります。

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1594789 0 テクノフォーラム 2020/11/01 18:48:00 2020/11/01 18:48:00 2020/11/01 18:48:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/11/20201101-OYT8I50007-T.jpg?type=thumbnail

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