読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

消費と不安の経済学

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

POINT
■一律10万円の特別定額給付金が支給された4~6月期に家計の所得は増えていたのに消費支出は減っていた

■12兆円もの予算をつぎ込んだのに、それが貯蓄に回ってしまったのでは、景気対策としての効果は乏しい。くむべき教訓は多い

■緊急事態宣言の解除後も消費回復は鈍い。ウィズコロナの時代、ケインズ経済学だけでは解明できない原因の究明が必要だ

 家計の所得が増えても消費支出が増えるとは限らない。内閣府の統計からそんな実情が浮かび上がった。国内総生産(GDP)の半分以上を占める個人消費の回復は、日本経済再生のカギとなる。コロナ禍の特性に着目した対策を急ぎたい。

主任研究員 林田晃雄

増えたのは貯蓄だけ

 家計の所得が増えれば、個人消費は当然増える。そう思い込んでいた私は、小峰隆夫大正大学教授が週刊東洋経済11月21日号に寄稿した「経済を見る眼」を読み、少なからず驚いた。小峰氏は、内閣府の統計を紹介し、コロナ・ショックに見舞われた今年4~6月期は、家計が消費などに使える「可処分所得」が大幅に増えたにもかかわらず、消費支出は大幅に減り、その結果、家計の貯蓄が急増したことを明らかにしている。

	内閣府の統計をもとに作成
内閣府の統計をもとに作成

 「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報」の数字を確認したところ、可処分所得は年率換算で前期より31兆円近く増えていた。小峰氏は最大の要因は、コロナ対策として1人あたり10万円の特別定額給付金を支給したためだと分析している。一方で、家計消費支出は約25兆円減り、貯蓄は55兆円以上増えた。小峰氏は「少なくともマクロ的には10万円給付は家計の貯蓄を増やしただけに終わったことになる」と結論づけている。

乏しかった即効性

	特別定額給付金の問い合わせに追われる東京都練馬区の職員たち(2020年5月22日)
特別定額給付金の問い合わせに追われる東京都練馬区の職員たち(2020年5月22日)

 特別定額給付金を始めとした政府のコロナ対策は、収入が減って困窮する家計などを支援するとともに、消費を刺激して景気の落ち込みを防ぐ狙いもあった。国民に対する一律給付は、緊急事態宣言などで休業を余儀なくされ、日々の生活に窮した人には「干天の慈雨」になっただろう。危機対応策としての一定の効果を発揮したことは間違いない。ただ、支給したお金の多くが消費に回らず貯蓄として家計にとどまったという統計を見る限り、景気を下支えするマクロ経済対策としての即効性は乏しかったと言わざるを得ない。

	緊急事態宣言で多くの店が休業を余儀なくされた(2020年4月7日、東京・新橋で)
緊急事態宣言で多くの店が休業を余儀なくされた(2020年4月7日、東京・新橋で)

 4~6月期は、4月7日から5月25日まで緊急事態宣言が発出されていた。多くの地域で娯楽施設や劇場、ナイトクラブ、商業施設などが休業を要請され、飲食店も営業時間の短縮を迫られた。国民も不要不急の外出の自粛要請によって「巣ごもり生活」を強いられ、「消費したくてもできない」状況にあった。給付金を受けたのに消費が減ったとしても仕方がない面はある。

教訓は生かせるのか

 10万円の一律給付は当初、減収世帯を対象に1世帯あたり30万円を支給する「生活支援臨時給付金」として緊急経済対策に盛り込まれた。ところが、公明党を中心に「支給対象が狭い」「制度がわかりにくい」などの不満が出て、仕組みが簡便で迅速に給付できる一律方式に切り替えられた経緯がある。突然の危機に直面して急を要する状況の中、手続きのスピード感を高める狙いは適切だったと言えるだろう。

 だが、12兆円を超える予算をつぎこんだ施策が、景気対策として十分な効果を上げなかったのである。くむべき教訓は小さくないはずだ。新型コロナの感染拡大は「第3波」が押し寄せ、長期化のリスクが一段と高まっている。低所得世帯や減収世帯を的確に把握するために万全の準備をして、本当に支援を必要とする人に絞って給付する態勢を整えておけば、少ない予算でより効果的な危機対応策が打ち出せるのではないか。

鈍い消費の回復

	観光地に客足は戻りつつあるが、今後の感染拡大で予断は許さない(2020年11月18日、東京・浅草で)
観光地に客足は戻りつつあるが、今後の感染拡大で予断は許さない(2020年11月18日、東京・浅草で)

 緊急事態宣言が解除された後も、個人消費の回復が鈍いのも気がかりだ。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の実質消費支出は、前月比では8月、9月と2か月連続で増加したが、前年同月比ではマイナスが続いている。7~9月期の国内総生産(GDP)速報値で、個人消費の実質成長率は前期比プラス4.7%、年率換算では20.1%と大きく伸びたが、金額では4~6月期に落ち込んだ分を半分程度戻したに過ぎない。政府の観光支援策「Go To トラベル」事業などの効果で、観光、宿泊などのサービス業にも復調の兆しが出てきたが、全体として力不足の感は否めない。

 何が積極的な消費をためらわせているのか。コロナ禍が続く中、勤労者の給与は減少が続いている。所得の低下が消費低迷の一因であることは間違いないだろう。ただ、定額給付金という「臨時収入」で貯蓄が増えた人もお金を使わないのはなぜなのか。その原因を探ることが、経済再生へ向けた次の一手を考えるポイントとなる。

急ぎたい不安の軽減

 東京財団政策研究所研究主幹の小林慶一郎氏は、共著「コロナ危機の経済学」(日本経済新聞出版)で、「経済的に重要なことは、個々の消費者や労働者が感じる『感染リスクの不安』が軽減されることである」と主張する。コロナ感染の大規模な検査・追跡と待機によって感染防止を徹底することが、医療崩壊を防ぐだけでなく、経済対策としても有効だというわけだ。

 「自分がコロナにかかるかもしれない」「感染拡大の長期化で勤め先の業績が一段と悪くなるかもしれない」。こうした様々な不安が、手持ちのお金を使うことをためらわせている面があるのだろう。

 「所得が増えれば消費は増える」。ケインズ経済学はそう教えるが、ウィズコロナの時代には「不安が減るほど消費が増える」。そんな法則にも着目して経済政策の戦略を練る必要があるのではないか。菅内閣はコロナ対策のための2020年度第3次補正予算で、ポストコロナをにらんだ経済再生に軸足を置くという。だが、感染拡大に歯止めがかからない現状を踏まえれば、まずは検査態勢の強化による感染の封じ込めや、患者が適切な治療を受けられる医療体制の確保、ワクチンや治療薬の開発支援など、不安を和らげる手立てが先決だろう。国民の不安を和らげなければ、経済活動の本格的な再始動は望めない。菅政権は、その事実を明確に認識すべきだ。

無断転載・複製を禁じます
1652387 0 経済・雇用 2020/11/25 16:55:00 2020/11/25 16:55:00 2020/11/25 16:55:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/11/20201125-OYT8I50046-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)