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【連載】温暖化対策の奥の手「CCUS/カーボンリサイクル」とは〈1〉

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POINT
■CCUSは、大気中から二酸化炭素(CO2)を回収して他の用途に利用したり、地下に貯留したりする技術の総称。そのうちのひとつで回収したCO2を別の物質に転換して再利用する技術をカーボンリサイクルという。

■CCUSやカーボンリサイクルは、再生可能エネルギーをはじめとする非化石エネルギーや省エネルギーでは削減しきれないCO2の排出を削減する「奥の手」となる。

■CCUSやカーボンリサイクル技術でどれだけCO2の排出を削減できるかは、許容できるコストの水準によって大きく異なるが、世界全体で年間約70億~130億トンのCO2排出を削減できる可能性がある。


日本エネルギー経済研究所 研究主幹 小林良和

CCUS/カーボンリサイクルとは何か

 気候変動の原因となる温室効果ガスの排出量が年々増加する中、多くの国々が排出削減に取り組んでいる。国内でも菅首相が2020年10月に、「2050年までに温室効果ガスの排出を『実質ゼロにする』」という目標を表明している(注1)。EU(欧州連合)や中国、韓国などでも同様の目標が設定されており、まもなく発足するアメリカのバイデン新政権も、日本と同様、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げるとみられている。

(注1)温室効果ガス排出の実質ゼロとは、一定期間内において、大気中に対する人類由来による温室効果ガスの排出量を、人為的な除去によって相殺する(ゼロにする)ことを意味する。日本単体での実質ゼロを目指す対策としては、再生可能エネルギーや省エネなどによる排出削減と併せて、人為的な除去策としての国内の森林によるCO2の吸収や、大気からCO2の直接空気回収などといったネガティブエミッション技術の利用と、排出削減策としての海外での排出削減に基づくオフセットクレジットの利用などの対策も含まれる。

政府の地球温暖化対策推進本部で温室効果ガス削減に向けた取り組みを指示する菅首相(中央、2020年10月30日)
政府の地球温暖化対策推進本部で温室効果ガス削減に向けた取り組みを指示する菅首相(中央、2020年10月30日)

 「排出ゼロ」は、決して容易に達成できる目標ではなく、実現のためには、あらゆる温室効果ガスの排出削減技術を最大限活用する必要がある。その中で近年、高い関心を集めているのがCCUSやカーボンリサイクルと呼ばれる技術だ。

 CCUSは、Carbon Capture,Utilization and Storage(炭素回収・利用・貯留技術)の頭文字をとった略称で、その言葉の示す通り、大気中から二酸化炭素(CO2)を回収して、他の用途に利用するか、または地下にそのまま貯留する技術の総称だ。CO2の利用と貯留は、両方ともCO2の回収を前提としているが、回収した後のCO2の取り扱い方は大きく異なるため、両者を「CCS(炭素回収・貯留技術)」「CCU(炭素回収・利用技術)」と分けて呼ぶことが多い。

 CCUSの技術は、CO2の「回収」「利用」「貯留」の3つの段階に大別される。CO2の回収には、化学品を用いた吸収液や吸着剤、高機能膜などが用いられる。回収は、ガス田や化石燃料を大量に消費する発電所や工場などの産業集積地で行われることが多い。これらの場所から排出されるガスには、より多くのCO2が含まれており、効率的にCO2を回収できるからだ。近年は、通常の大気から直接CO2を回収する直接空気回収(DAC=Direct Air Capture)と呼ばれる技術の開発も進んでいるが、まだコストがかかることから、ガス田から随伴して生産されるCO2や発電所や産業集積地からの排出ガスからCO2を回収するのが一般的だ。

 回収されたCO2は、別の用途に利用するか、そのまま地中に圧入して貯留する。CO2の用途は、大きく分けて〈1〉そのまま溶接用のガスや炭酸飲料やドライアイスの原料などに用いる「直接利用」〈2〉生産中の油田に圧入することで原油の生産量を増やす「増進回収」〈3〉全く別の物質に転換した「再利用」――の三つがある。このうち〈3〉の再利用技術を「カーボンリサイクル」と呼ぶ。

 この記事のタイトルもそうだが、カーボンリサイクルはCCUSと併記されることが多い。ただ、厳密にいえばカーボンリサイクルはCCUSの中のひとつの要素技術で、CCUSはカーボンリサイクルを包含する概念だ。

 CO2の貯留は、枯渇した油田やガス田、帯水層などに圧入するのが一般的だ。こうした地下構造の場所には、より多くのCO2を吸収できる「隙間が多い地層」があり、しかもそのすぐ上に、貯留したCO2が再び地上に漏れ出すのを防ぐため、ふたの役割を果たす「隙間の少ない地層」があるからだ。また、油田やガス田には、そうした地層にCO2を送り込む際に使える配管などがすでに設置されているところが多い。現在生産中の油田の生産性を向上するためにCO2を圧入する増進回収も広義の貯留技術として区分される。

 こうした油田やガス田の多くは、原油や天然ガスの埋蔵量が多い中東やアメリカなどの資源国に多い。国内に油田やガス田が少ない日本では、CO2を回収することはできても、それを貯留する場所は限られる。このため日本では、CCUSの技術の中でも、特にカーボンリサイクルを中心とするCO2の利用技術(CCU)の果たす役割に大きな期待が寄せられている。

なぜCCUS/カーボンリサイクルが必要なのか

 近年になって、カーボンリサイクルをはじめとするCCUS技術に関心が集まっているのは、再生可能エネルギーなどの非化石エネルギーだけで削減ができるCO2の排出量には限界があることがはっきりしてきたためだ。特に、温室効果ガスの排出を実質的にゼロにするという目標は、CCUSを利用しないと達成は極めて難しい。

 大気中に放出されるCO2の多くは、石炭や石油、天然ガスなどの化石エネルギーの利用によるものだ。2018年の実績では、世界全体で利用されたエネルギーの実に81%が化石エネルギーだった。こうした化石エネルギーへの依存は今後、少しずつ低下していくことが予想されるものの、大幅に低下させることは難しい。日本エネルギー経済研究所が20年10月に発表した長期のエネルギー需給見通しは、50年時点でも、依然として世界の1次エネルギー供給の67~79%が化石エネルギーとなると予想している。

 化石燃料への依存が今後も続くとする予測は、海外の主要研究機関共通の見方だ。例えば、国際エネルギー機関(IEA)は、2040年時点で、世界の1次エネルギー供給に占める化石燃料の割合を56~73%としており(注2)、米政府機関の米国エネルギー情報局も、2050年時点での世界の化石エネルギーへの依存度を68%と予測としている(注3)。

(注2)International Energy Agency、『World Energy Outlook 2020 』(2020年10月)P.342およびP.343を参照。

(注3)U.S. Energy Information Administration、『International Energy Outlook 2019』(2019年9月)Table A1を参照。

 温室効果をもたらす大気中のCO2の量を減らすには、CO2を発生しない風力や太陽光、水力、原子力といった非化石エネルギーを利用すればよい。「全てのエネルギーを非化石エネルギーに転換すれば、温室効果ガスの排出はゼロになるではないか」という議論がなされることがあるが、これは「エネルギー需要全体のゼロカーボン化」と「電源構成でのゼロカーボン化」を混同した議論だ。

 例えば、再生可能エネルギーによって供給されるエネルギーは、途上国で利用されているまきや炭などの伝統的バイオマスエネルギーを除けば、基本的に電力として供給される。だが、私たちが日常利用するエネルギーのうち、電力という形態で供給されるエネルギーは、比較的電化が進んだ日本でも、全体の3割弱にしか過ぎない(注4)。現在供給されている電力を全て再生可能エネルギーに転換できたとしても、残りのエネルギーは化石エネルギーに頼らざるを得ない。

(注4)2018年時点での日本国内の最終エネルギー消費に占める電力の比率は28.7%である。ちなみに世界全体では19.3%である。International Energy Agency, 『Energy Balances of the World』(2020年7月)を参照。

 今は化石燃料が利用されている部門でも、今後は非化石エネルギーによる電化が進んでいくことは間違いない。例えば、今はガソリンや軽油を使用している自動車も、今後は電気自動車へと変わっていくだろう。しかし、今後、さらに電化が進んでも、どうしても電力への転換が難しい部門が存在する。先に示した2040年や50年時点でのエネルギー供給見通しも、そうした非化石エネルギーによる電化が進むことを織り込んだ数値なのだ。

送電線と風力発電(写真は記事とは関係ありません)
送電線と風力発電(写真は記事とは関係ありません)

 電力への転換が難しい部門の例は、製造工程上、大量の熱を必要とする製鉄所や化学プラントなどだ。仮にこれらの部門で必要とする熱の需要を、全て再生可能エネルギーによる電力で代替しようとすると、相当な規模の風力発電や太陽光発電の能力を確保しなければならず、用地取得費用を含めたコストは極めて高くなる。セメント産業のように、利用するエネルギーの種類にかかわらず、生産プロセスで必ずCO2が発生してしまう産業もある。

 CCUSが重要なのは、非化石エネルギーの導入や省エネだけではどうしても削減が難しいCO2を回収して、別の用途に利用したり貯留したりすることで、排出削減に寄与できるからだ。この意味で、CCUSは、CO2排出の実質ゼロを実現する最後の「奥の手」という性格を有している。

 CCUSは、見方を変えれば、石油や天然ガスといった化石エネルギーを「脱炭素化」して利用する手段ともいえる。従来型の化石エネルギーのもつ最大のメリットはその経済性だ。今後、2050年の排出ゼロ目標の達成に向けて、日本国内でも再生可能エネルギーが大量に導入されていくことが予想されるが、日本のような再生可能エネルギー資源に乏しい国では、供給コストの上昇によって最終的な消費者の負担が増えていく可能性が高い。

 CCUSをうまく活用し、安価な化石エネルギーや既存の供給インフラを利用しながら排出量を削減できれば、エネルギー料金の負担増を和らげることができる。一般に、化石エネルギーの利用と気候変動対策とは相反するものとして考えられがちだが、CCUSの技術進歩が進めば、両者を両立させる機会も生まれてくる。

CCUSでどれくらいのCO2が減らせるのか

 では、このCCUSの導入によってどの程度、CO2排出を減らせるのだろうか。CCUSの削減量は、今後の削減技術の進展度合いや、排出削減にあたってどの程度までコスト増を許容するか、といった前提によって大きく異なる。IEAは2020年10月に発表した長期エネルギー需給見通しのなかで、パリ協定にうたわれている「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力の追求」のために、2050年時点で年間50億トンのCO2が貯留ないしは再利用される、とのシナリオを描いている(注5)。だが、今後、世界全体で温室効果ガスの排出を実質ゼロとするには、この削減量をさらに上回る必要がある。削減の「奥の手」であるCCUSが脚光を浴びているのは、このためだ。

(注5)International Energy Agency、『World Energy Outlook 2020』(2020年10月)、P.122を参照。

 日本エネルギー経済研究所の試算では、今後のCCUS関連の技術開発の進展や、排出実質ゼロ達成のためのコスト次第ではあるものの、CCUS技術による排出削減のポテンシャル(潜在能力)は、70億~130億トン程度にも達する。これは、2018年時点での世界のエネルギー由来のCO2排出量の2~4割にも相当する量だ(注6)。CCUS技術は削減ポテンシャルが非常に大きく、このポテンシャルを可能な限り大きく実現させるべく、政府・企業ともに様々な取り組みを進めていく価値がある技術だ。

 CO2排出削減目標を達成するために、どんな技術があるのか。CCUSの技術についてはこの連載で、詳しく解説していく。

(注6)なお、この数字はCCUSのコストいかんによる。技術開発等によりCCUSのコストがさらに低下する場合は、この割合は更に大きくなる可能性がある。

(つづく)

プロフィル
小林 良和( こばやし・よしかず
 1973年北海道生まれ。東燃株式会社(現ENEOS株式会社)を経て2004年より日本エネルギー経済研究所勤務。

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1770233 0 経済・雇用 2021/01/14 15:11:00 2021/01/14 15:21:16 2021/01/14 15:21:16 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210113-OYT8I50033-T.jpg?type=thumbnail

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