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温暖化対策の奥の手「CCUS/カーボンリサイクル」とは〈3〉化石燃料を脱炭素化して活用できる「ブルー水素」

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POINT
■クリーンエネルギーとしての水素には、再生可能エネルギーを利用して製造する「グリーン水素」と化石燃料とCCUSを利用して製造する「ブルー水素」がある。

■ブルー水素には、コスト面、供給ポテンシャル面で優位性があり、当面の間は主なクリーン水素の供給形態となる可能性が高い。

■水素の利用形態として燃料アンモニアの利用に向けた検討が進められており、日本国内では、2030年時点で年間300万トン程度の燃料アンモニアを利用することが目標とされている。

日本エネルギー経済研究所 研究主幹 小林良和  

 連載3回目は、「ブルー水素」について解説する。ブルー水素とは、天然ガスなどの化石燃料を原料として作られる水素で、生産時に排出される二酸化炭素(以下CO2)をCCUSによって回収することができる。新たなエネルギー源としてだけでなく、今後、温室効果ガスの排出実質ゼロを目指す上で非常に重要な役割を果たすことが期待されており、CCUSが活用されるエネルギー供給技術の中でも特に重要とされている。

エネルギーとしての水素のメリット

 水素は現在、主に工業用のガスとして利用されており、エネルギーとしての利用は、燃料電池車用の燃料などでごく少量が利用されるだけだ。エネルギーとしての水素には、既存のエネルギーに比べて製造コストが高いこと、体積あたりのエネルギー密度が低く、大量輸送にもコストがかかること、空気中に漏洩(ろうえい)した場合、ごくわずかであっても着火する危険があること、などの問題がある。

 しかし、水素には「燃焼させても水ができるだけでCO2を排出しない」という非常に大きなメリットがある。また、水素は石炭や石油、天然ガスといった化石燃料だけではなく、水を電気分解することでも発生し、多様な原料から製造できる。発電用の燃料としてだけではなく、産業用の燃料や輸送用の燃料など、様々な用途に用いることができるという利点もある。

 輸送用の燃料としては、すでにトヨタ自動車や本田技研工業が水素を燃料とする燃料電池車を販売している。燃料電池車は今後、長距離を移動するため電気自動車(EV)には置き換えにくいとされるトラックやバスなどにも導入が期待されている。

 燃料以外の用途としては、鉄鋼を生産する際の還元材としての用途もある。現在、高炉を用いた製鉄プロセスでは、鉄鉱石を還元する際に石炭を原料とするコークスが利用されているが、このコークスを水素に置き換えることで、CO2の発生を抑制できる。鉄鋼業はCO2の排出量が多い産業であり、この技術が実用化されれば、産業部門全体のCO2削減に大きく寄与する。1回目の連載で、「今後実質的な排出ゼロを目指す上では、電力以外のエネルギー需要についてもゼロカーボン化していくことが必要となる」と指摘したが、水素は非電力部門での脱炭素化にも大きな役割を果たすことができる。

 水素には、エネルギーを一時的に貯蔵しておく「電池」のような機能もある。今後、太陽光発電や風力発電などの再生可能電源が増えてくると、日照時間や風の状況によって発電量が大きく変動し、発電量と実際の電力需要とのミスマッチが生じる機会も増えることが予想される。だが、再生可能電源からの発電が余剰となった場合に、その余剰電力で水を電気分解して水素を製造すれば、余剰電力を無駄にせずにすむ。製造された水素はエネルギーや脱炭素化などに用いることができ、結果的に再生可能電源の導入拡大や、その有効活用にも寄与することになるわけだ。

 ただし、水素を貯蔵するには、低温で液化するか高圧で圧縮する必要があり、その分コストがかかることは考慮する必要があろう。

グレー、ブルー、グリーン水素

 水素は無色透明で色がついているわけではないが、その製造方法によって、「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の三つの種類に区分される(図1)。

 グレー水素は、化石燃料である天然ガスや石炭、石油を化学的に分解することで製造する水素をいう。製造時に発生するCO2をそのまま大気に放出してしまうため、灰色(グレー)な水素と呼ばれている。これに対し、ブルー水素とは、グレー水素の製造方法にCCUSを組み合わせたものだ。化石燃料を原料として水素を製造するところまではグレー水素と同じだが、その際に排出されるCO2をCCUS技術によって回収し、貯留したり再利用したりする。化石燃料を原料とする点はグレー水素と同じだが、CO2を排出しないクリーンな水素とされ、グレー水素と区別して青色(ブルー)な水素と呼ばれている。

 三つのグリーン水素は、再生可能エネルギーによって発電された電気で水を電気分解して生産する水素だ。この水素も製造過程でCO2を排出しないクリーンな水素で、しかも再生可能エネルギーから製造されるため、ブルー水素と区別して緑色(グリーン)な水素と呼ばれている。

 なお、これらの三つの水素の他、原子力発電で発電された電力を用いて水を電気分解して製造する水素があり、パープル(紫色)水素またはピンク水素と呼ばれている。

 グレー、ブルー、グリーンの3種類の水素のうち、今後の脱炭素化社会の実現に向けたエネルギー源として利用できるのは、製造時に発生するCO2がそのまま大気に放出されてしまうグレー水素を除く、ブルー水素とグリーン水素となる。

 クリーンな水素という意味では本質的な違いはないため、両者はともに活用できるが、当面の間は、コスト競争力のあるブルー水素の方が大きな役割を果たすと考えられる。国際エネルギー機関(IEA)による水素の製造コストの比較(図2)を見ても、少なくとも現時点での製造技術では、ブルー水素に軍配が上がることがわかる。化石燃料を原料とするブルー水素の製造では、これまでの工業用ガスとしての水素の製造で蓄積された技術を活用できる分、製造コストが抑えられる。原料となる化石燃料についても、天然ガスはシェール革命の進展によって、今後も安価で十分な供給量が期待できる。

石炭由来の水素はブラウン(茶色)水素と呼ばれることもある。(出所)International Energy Agency、「The Future of Hydrogen」(2019年6月)https://www.iea.org/reports/the-future-of-hydrogen#abstract(2020年12月25日アクセス)
石炭由来の水素はブラウン(茶色)水素と呼ばれることもある。(出所)International Energy Agency、「The Future of Hydrogen」(2019年6月)https://www.iea.org/reports/the-future-of-hydrogen#abstract(2020年12月25日アクセス)

 最近は再生可能エネルギーによる発電コストが急速に低下してきており、今はコストが高いグリーン水素の製造コストも、今後は下がっていく可能性が高い。しかしながら、2020年6月時点で計画されている新規の水素製造プラントの能力では、グリーン水素を大きく上回るブルー水素の製造計画が進められており(図3)、グリーン水素の製造コストが十分に下がるまでは、ブルー水素の供給がより多くのクリーン水素の供給源になると考えられる。

運転開始年が明示されているもののみを集計。(出所)International Energy Agency、「Hydrogen Projects Database」(2020年6月)https://iea.blob.core.windows.net/assets/3e715e9a-65db-4c2a-b636-5e24592fa92a/IEAHydrogenProjectDatabase.xlsx (2020年12月25日アクセス)をもとに筆者集計
運転開始年が明示されているもののみを集計。(出所)International Energy Agency、「Hydrogen Projects Database」(2020年6月)https://iea.blob.core.windows.net/assets/3e715e9a-65db-4c2a-b636-5e24592fa92a/IEAHydrogenProjectDatabase.xlsx (2020年12月25日アクセス)をもとに筆者集計

ブルー水素の供給源

 ブルー水素の製造には、<1>原料となる炭化水素、<2>CCUSを行うことができる場所、<3>水素を生産するための製造プラント――が必要となる。このため、ブルー水素の供給源として望ましい国や地域は、<1>炭化水素の埋蔵量が豊富で、<2>貯留に適した地下構造を多く持ち、<3>石油化学産業などの産業基盤を持つところ――ということになる。具体的にこうした条件を満たす国(地域)としては、中東産油国や北米、ロシアなどがあり、これらの国々が今後のブルー水素供給源の有力候補となる。

 その他には、東南アジアのブルネイが、実証試験のベースで天然ガスを原料とする水素の輸出をすでに行っており、最近では、国内に石炭資源を豊富に有する豪州もブルー水素の製造・輸出に強い関心を示している。これらの資源国がブルー水素を製造・輸出するようになれば、供給国間での競争によって、さらに供給コストが低下する効果も期待できる(図4)。

カッコ内はブルー水素の供給源となりうる資源
カッコ内はブルー水素の供給源となりうる資源

資源国生き残りのカギも水素

 CCUSを活用したブルー水素の生産は、今後世界が脱炭素化社会に向かう中で、資源国が生き残るための方策にもなる。

 石油や天然ガスを生産して輸出する資源国の多くは、主な外貨収入を資源の輸出に依存している。今後世界が脱炭素化を進め、化石燃料の消費を抑えるようになれば、資源国はこれまでのような化石燃料の輸出に大きく依存した自国の経済のあり方を変えなければならなくなる。化石燃料をクリーンエネルギーのブルー水素に置き換えて輸出できるようになれば、資源国は脱炭素化社会が進んでも、自国の資源を活用しながら外貨収入を維持できる。

 ブルー水素は資源国だけでなく、日本国内でも生産できる。しかし、輸入した化石燃料から水素を生産し、その際に発生するCO2を回収できたとしても、国内にはそれを大量に貯留できる場所が少ない。国内でブルー水素を生産する場合には、貯留に適した地質構造を多く有する資源国に、回収したCO2を移して貯留する、というのが現実的なオプションとなるだろう。

燃料アンモニアの将来性

 エネルギーとしての水素を本格的に導入していく大きな課題のひとつが水素の輸送だ。水素の供給源と需要地が地理的に近ければパイプラインで輸送できるが、離れている場合は、水素を冷却して液化したり、他の物質と化合させて輸送しやすい状態にしたりしてから、船で輸送することになる。現在、こうした水素の輸送手段についてもさまざまな技術開発が進められているが、他の物質と化合させて輸送する方法のうち、近年は水素を窒素と化合させてアンモニアに転換して輸送する方法が、有力な輸送手段として注目されている。

アンモニア輸送船 出典:日本エネルギー経済研究所
アンモニア輸送船 出典:日本エネルギー経済研究所

 水素をアンモニアに転換して輸送するメリットとしてまずあげられるのが、既存のインフラを活用できることだ。アンモニアは、これまでも化学肥料の原料として広く利用されており、製造プラントや輸送タンカー、荷役施設、貯蔵タンクなど、サプライチェーンを支えるインフラがすでにある。今後も需要が拡大すれば追加のインフラを整備する必要があるが、初期の導入段階では、既存インフラの稼働率を引き上げることで対応でき、導入に要する初期費用を抑えることができる。

 アンモニアはその性質上、輸送しやすいというメリットもある。水素を液化して輸送するにはマイナス253度にまで冷却する必要があるが、アンモニアはマイナス34度で液化するため、はるかに容易に輸送できる。一度水素の状態からアンモニアに転換すれば、その後は水素に転換し直さなくても、アンモニアのまま、発電所で燃料として利用できるのも大きな利点だ。アンモニアには炭素が含まれないため、燃焼してもCO2は発生せず、水素同様、クリーンなエネルギー源として利用できる。

 ブルー水素の製造から輸送、発電までのコストを輸送手段別に示したのが図5になるが、少なくとも現時点では、アンモニアで輸送し、そのまま発電用燃料として直接燃焼する方法が最もコストが低い。

サウジアラビアで生産して日本まで輸送する場合を想定。「NH3」はアンモニアから水素を分離して燃焼するケース、「NH3直接燃焼」はアンモニアをそのまま燃焼するケース、「MCH」はメチルシクロヘキサンをキャリアとして利用するケース 出所:日本エネルギー経済研究所「Study of master plan for creating a low carbon energy system in Saudi Arabia」(2018年3月)、p.65(コストの試算は、エネルギー総合工学研究所による)
サウジアラビアで生産して日本まで輸送する場合を想定。「NH3」はアンモニアから水素を分離して燃焼するケース、「NH3直接燃焼」はアンモニアをそのまま燃焼するケース、「MCH」はメチルシクロヘキサンをキャリアとして利用するケース 出所:日本エネルギー経済研究所「Study of master plan for creating a low carbon energy system in Saudi Arabia」(2018年3月)、p.65(コストの試算は、エネルギー総合工学研究所による)

 ただ、アンモニアは毒性を有するため、取り扱いに習熟した人材を育成する必要がある。燃焼時にCO2は発生しないが、公害物質である窒素酸化物を排出するため、十分な脱硝装置を併設しなければならないという問題もある。アンモニアはすでに肥料用原料として国際市場で取引されており、燃料としての需要を増やす際には、肥料市場に悪影響が及ばないような配慮も必要になろう。

アンモニア製造プラント(サウジアラビア・ジュベール)出典:日本エネルギー経済研究所
アンモニア製造プラント(サウジアラビア・ジュベール)出典:日本エネルギー経済研究所

 ブルー水素を原料として生産したアンモニア利用の実証試験は、すでに始まっている。日本エネルギー経済研究所は2020年8月から11月にかけて、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコとその傘下のサウジ基礎産業公社と連携し、油田で発生したCO2をCCUS技術で回収して生産されたブルー水素を使って、さらにアンモニアを生産(ブルーアンモニアという)する実証試験を行った。20年10月には、資源エネルギー庁が事務局となって、今後の日本国内における燃料アンモニアの利用拡大に向けた官民協議会が設立され、「2030年時点で300万トン程度の燃料アンモニアを利用する」ことが目標として掲げられている。

水素社会に向けたインフラ整備を

 資源エネルギー庁は、2020年12月に発表した「2050年における各電源の整理(案)」のなかで、議論のための参考値として、50年の発電電力量の約1割を水素またはアンモニアで賄う方針を示している。あくまで参考値ではあるが、エネルギーとしての水素の導入に対し、明確な数値目標が設定された意義は非常に大きい。

 しかし、これまで日本国内では、水素はエネルギーとしてはほとんど利用されてこなかったため、本格的な水素の導入を進めていくためには、需要、供給双方のサイドから大規模なインフラの整備が必要になる。菅政権は、実質排出ゼロを目指すために2兆円規模の基金を設ける方針を明らかにしているが、そうした政府の財政的な支援を最大限活用しながら、官民の双方が今後の水素社会の実現を急ぐ必要がある。

「CCUS/カーボンリサイクル」とは <4>CO2を資源とみなすカーボンリサイクル へつづく 

「CCUS/カーボンリサイクル」とは <2>炭素の回収・貯留方法 を読む 


プロフィル
小林 良和氏( こばやし・よしかず
 1973年北海道生まれ。東燃株式会社(現ENEOS株式会社)を経て2004年より日本エネルギー経済研究所勤務

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1911531 0 経済・雇用 2021/03/15 15:24:00 2021/05/11 10:46:42 2021/05/11 10:46:42 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210312-OYT8I50065-T.jpg?type=thumbnail

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