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温暖化対策の奥の手「CCUS/カーボンリサイクル」とは〈4・最終回〉CO2を資源とみなすカーボンリサイクル

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POINT
■二酸化炭素(CO2)を回収して別の目的に再利用するカーボンリサイクル技術は、CO2を有害なものではなく、有益な資源とみなすという逆転の発想に基づいている。

■カーボンリサイクル技術には、回収したCO2を燃料として再利用する技術と、燃料以外の製品として再利用する技術の2種類がある。

■今後のカーボンリサイクル技術の拡大には<1>コストのさらなる削減<2>実質的なCO2排出削減につながる仕組みの設計<3>カーボンリサイクルによる環境価値の「見える化」――の3点が必要だ。

日本エネルギー経済研究所 研究主幹 小林良和  

カーボンリサイクルとは

 これまでの連載でみてきた通り、カーボンリサイクルとは、広義の炭素回収・利用技術(CCU)の一部であり、気候変動の原因とされる二酸化炭素(以下CO2)を回収し、別の物質に転換して再利用する技術の総称をいう。つまり、CO2を人類に有害なものとして扱うのではなく、有益な資源とみなすことで積極的に活用するという、いわば逆転の発想があるわけだ。

 日本のように、大規模なCO2の回収・貯留技術(CCS)を行うための地層条件が限られている国にとっては、温室効果ガス排出の実質ゼロ化を実現するためにカーボンリサイクル技術が果たすべき役割は大きい。

連載第1回の図の再掲。増進回収は、油田に圧入されたCO2が部分的に地中の油田の貯留層内にとどまるため、広義のCO2貯留技術として整理されることがある。
連載第1回の図の再掲。増進回収は、油田に圧入されたCO2が部分的に地中の油田の貯留層内にとどまるため、広義のCO2貯留技術として整理されることがある。

燃料としての再利用

 カーボンリサイクルの分野は多岐にわたるが、大きく分けて、石油や天然ガスなど化石燃料の代替燃料を製造するものと、それ以外の製品を製造するものとに分けられる。

 燃料を製造するカーボンリサイクル技術には、大きく分けて<1>天然ガスを代替する合成メタンを製造する技術(メタネーション)<2>石油製品を代替する液体燃料を製造する技術――の二つがある。

新潟県長岡市のメタネーション試験設備(INPEX提供)
新潟県長岡市のメタネーション試験設備(INPEX提供)

 メタネーションでは、触媒を介してCO2と水素を反応させることでメタンを製造する。製造されるメタンは、そのまま天然ガスの一部として利用できるので、既存のガス火力発電や都市ガスのインフラを活用しながら、ガス供給の脱炭素化を進めることができる。国内では、国際石油開発帝石(INPEX)が2019年から、新潟県内のガス田で天然ガスにあわせて生産されるCO2を回収し、水を電気分解して得られる水素を使ってメタンを製造し、パイプラインで周辺の都市ガス需要家に供給する計画を進めている(注1)。ただ、メタネーションにはCO2だけでなく水素も必要となるため、その水素を安定的かつ低コストで確保することが、今後の本格的な導入に向けた課題となる。

 一方、CO2を原料に液体燃料を製造するには、いくつかの方法がある。そのひとつがフィッシャー・トロプシュ法と呼ばれる方法で、まずCO2を水と反応させて合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)を製造し、さらに触媒を介して合成ガスを液体燃料に変える。製造される液体燃料は不純物をほとんど含まず、着火性にも優れ、高品質の石油製品として航空機の燃料や自動車用の軽油として利用できる。

 フィッシャー・トロプシュ法は、もともと1920年代に国内の石油資源が乏しいドイツが、軍事用の液体燃料確保のために開発した古い技術だ。固体の石炭や気体の天然ガスから液体燃料を製造する技術として、南アフリカや中東のカタールでは、すでに商用化されている。だが、CO2を原料とするカーボンリサイクルとして商用化された事例はまだない。原料にCO2を使うと、石炭や天然ガスを原料とする場合と比べ、CO2の回収や合成ガスの製造に追加的なコストがかかるためだ。

 バイオ燃料もCO2を活用した液体燃料のひとつといえる。連載2回目で述べたように、植物や動物由来の原料を用いた燃料は、その原料が生成される際に大気からCO2を吸収しているため、その原料を用いた燃料を利用して大気中にCO2を排出しても、原料が吸収した量と相殺されて、実質的には大気中のCO2を増やしていない(カーボンニュートラル)と見なされる。

 バイオ燃料には、サトウキビやトウモロコシなどの食料にもなる原料から製造されるものと、スイッチグラスのような非食料植物から製造されるもの、獣脂など動物由来の原料から製造されるものなど、さまざまな種類がある。このうち、近年注目されているのが、微細藻類から製造されるバイオ燃料だ。回収したCO2を使って、高濃度のCO2下で油分を多く含む藻類を培養し、そこから油分を抽出するもので、製造された液体燃料は軽油や航空機燃料に利用できる。

 ただ、これらのバイオ燃料についても、安価な原料の安定的な確保といった製造コストが最大の課題となる。藻類系燃料であれば、原料となる藻類の培養効率をもっと引き上げ、油分の抽出費用をさらに引き下げることが必要だ。

 米ランザテック(LanzaTech)社は、CO2を発酵させて液体燃料を生産する技術の開発に取り組んでいる。微生物でCO2を発酵させてエタノールを製造し、これを自動車や航空機の燃料に使用する(注2)。まだ実証試験の段階だが、日本企業も注目しており、全日本空輸(ANA)は2019年6月、ランザテック社の技術で生産された航空機燃料を使う実験をしている(注3)。

燃料以外の再利用は

CO2-SUICOMを使った舗装ブロック(ランデス株式会社提供)
CO2-SUICOMを使った舗装ブロック(ランデス株式会社提供)

 CO2は燃料以外の用途にも再利用できる。代表例がCO2をコンクリートに吸収させる技術で、国内外の多くの企業が技術開発を進めている。日本企業では、鹿島建設、中国電力、電気化学工業(デンカ)、ランデスの4社が共同で「CO2-SUICOM」と呼ばれる製品を既に商用化している。コンクリートの原料に特殊な混和剤を混ぜ込み、コンクリートにCO2を吸収させて硬く緻密(ちみつ)にする。

 この技術を使ったコンクリートは、内部の鉄骨を腐食させてしまうため、鉄筋コンクリートビルなどの建材には利用できない。しかし、燃料を製造するのとは異なり、CO2を吸収させる時に追加的な熱などのエネルギーを必要とせず、製造コストが安くすむ。いったんコンクリート内部に取り込まれたCO2は化学的に非常に安定した状態となるため、再び外部にCO2として漏れ出す恐れがないという長所もある。

 コンクリート内に吸収させるCO2を、大気回収技術(DAC、連載2回目参照)やバイオマス燃料由来の燃料消費などを使って、大気から直接回収すれば、実質的に大気中のCO2をコンクリートの中に半永久的に閉じ込めることができる。炭素を大気中から除去するネガティブエミッション技術として利用できる可能性があるわけだ。

 鉄筋コンクリート造の建材には使えないが、製造されたコンクリートは舗装ブロックやフェンスの基礎などの土木分野の外構材料には十分に利用できる。代替できるコンクリートの市場規模が大きい分、今後の温室効果ガスの排出削減に寄与できるポテンシャルも非常に大きい。2020年1月に発表された内閣府の統合イノベーション戦略推進会議の報告書では、CO2吸収コンクリートを使えば、世界全体で40億トン以上のCO2を吸収できるという試算結果も紹介している。数あるカーボンリサイクルの中で、特に今後の重点的な開発が望まれる技術といえる。

 同様に、CO2の排出削減に寄与すると期待されているのが鉱物化技術だ。CO2がカルシウムやマグネシウムなどの物質と接触すると炭酸塩(鉱物)になる、という性質を利用してCO2を取り込み、化学的に安定した物質にすることで固定化させる。技術の原理はCO2吸収コンクリートとほぼ同じだ。

 CO2を取り込んで生成される炭酸塩には、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムなどがあるが、なかでも炭酸カルシウムは、食品などの製造で使われるフィラー(増量剤)や、コンクリート、骨材などに多様な需要がある。この技術を使うには、原料のカルシウムなどを確保する必要があり、調達源としてはカルシウム鉱山の開発や海水からの抽出などが検討されている。現時点では産業廃棄物からの回収が最も有力だ(注4)。

 鉱物化によるCO2の吸収・固定策としては、地下にある帯水層にCO2を圧入し、そのままCO2を帯水層中に含まれる物質と反応させることで鉱物化させる、という技術の開発も進められている。アイスランドでの実証試験では、地下の地層にCO2を圧入したところ、数週間程度で安定的に固定化させることができたという成果も報告されており(注5)、鉱物化の技術は、コンクリート吸収同様、今後の利用拡大が期待される。

 回収したCO2からは、化学製品を製造することもできる。CO2と水素を反応させることで、メタノールやエタノールという、いわゆる含酸素化合物を作り、これを元にプラスチックや溶剤などの化学製品を作ることが可能だ。メタノールやエタノールは、それぞれ発電用の燃料や自動車用の燃料としても利用できるため、一度製造すると多様な用途に用いることができる(注6)。これらの含酸素化合物は、フィッシャー・トロプシュ法による合成燃料の製造に比べて投入するエネルギー量が少なく、製造コストも抑えることができる。

アイスランドの地熱発電所
アイスランドの地熱発電所

 CO2を原料とした含酸素化合物の製造技術を商用化しているのが、アイスランドのカーボン・リサイクリング・インターナショナル(Carbon Recycling International)社だ。同社は、アイスランド国内で地熱発電を行う際に出るCO2と、地熱発電で得られた電力で水を電気分解して得た水素を使って、メタノールを生産している。ただし、メタノール生産能力は年間4000トンと、標準的なメタノールプラント(年間100万トン)よりかなり少なく、原料として再利用されるCO2も年間で5500トン程度にとどまる(注7)。

 このほかにも、CO2を利用する化学製品の開発は多岐にわたる。その一つが、自動車のヘッドライトカバーやパソコンの外装などに用いられるポリカーボネートだ。これまで、ポリカーボネート製造では、原料にホスゲンと呼ばれる物質が使われていたが。旭化成はこれをCO2で代替する技術を開発し、既に実証化試験も済ませている(注8)。

衣料品などに用いられるポリウレタンもCO2から製造可能だ。この分野では、ドイツのコベストロ(Covestro)社がポリウレタンの原料となるポリオールをCO2から製造する技術を既に商用化している(注9)。

 さらに、プラスチックごみがもたらす環境負荷への関心が高まる中、使用済みのプラスチックを熱分解して別の石油化学製品として再利用する技術も、今後の石油化学事業の脱炭素化策の一つとして関心を集めている。

なお解決が必要な三つの課題

 このように、カーボンリサイクルには非常に多岐にわたる技術があるが、これらの技術が、今後、温室効果ガスの排出削減で大きな役割を果たすようになるには、まだ解決が必要な課題がある。

 第一の課題は、これまでにも触れてきた経済性、コストの引き下げだ。カーボンリサイクルは、コンクリートへの吸収や鉱物化を除き、追加的なエネルギーを投入してCO2を化学的に変化させなければならない。CO2はそれ自体、化学的に安定した状態にあるため、人為的に別の物質に転換しようとすれば、相応のエネルギーとコストがかかる。

 さらに、燃料や化学原料として再利用するには、CO2にあわせて水素も調達しなければならず、低コストの水素を安定的に確保することも重要になる。経済産業省と文部科学省が2019年6月に共同でまとめた報告書では、メタネーション技術によって製造されたメタンが、液化天然ガス(LNG)とコスト面で競合できるようにするには、原料となる水素の供給コストをノルマル立米(大気圧1気圧、1立方メートル)当たり3円まで引き下げなければならないと試算している(注10)が、20年の水素の価格(水素スタンド価格)は、まだノルマル立米あたり100円程度もする。

 一方で直近(21年3月)のLNG価格は100万BTU当たり6ドル台と、19年の試算時の100万BTU当たり10ドルから、さらに低下しており、水素供給コストを今より大幅に引き下げないと、競争力のある形でメタネーションを進めることはできない。

 二つ目の課題は、実質的なCO2収支の問題だ。カーボンリサイクルの技術には、追加的なエネルギー投入が必要になるものが多いため、そのエネルギーを何から確保するかが重要となる。再生可能エネルギーや原子力から得た電力なら追加的なCO2の発生はないが、化石燃料を用いたエネルギーを使う場合は、カーボンリサイクルを行うために追加的なCO2の排出が生じ、追加排出分は、カーボンリサイクルによる排出削減分から差し引かなければならない。

 カーボンリサイクルといっても、回収したCO2を燃料として再利用する技術を使えば、再びCO2が大気に排出される。このCO2は、もともと燃料を製造する際に大気中から回収されていたものだから、大気中のCO2を純増させるわけではない。しかし、火力発電所や産業集積地のような排出源から出たCO2を原料に使う場合には、その排出源そのものから出てくるCO2が問題とされる可能性がある。このため、将来は<1>直接大気回収技術(連載第2回目を参照)によって大気からCO2を回収する<2>燃料として利用された際に発生するCO2を再び回収して貯留ないし再利用する<3>利用時に排出されるCO2相当分を植林などで相殺する――といった対策が、あわせて求められる可能性がある。

 三つ目の課題は、カーボンリサイクルによる環境価値の「見える化」だ。様々なカーボンリサイクル技術を使った燃料や化学製品などを普及させて既存の製品から切り替えていくには、一つ目のコストの課題は避けて通れない。価格高を前提にしたうえで、政府による規制や政策的インセンティブなどを通じて、カーボンリサイクル製品のもつ「環境価値」が適正に評価される仕組みを作ることが必要になる。消費者に対しても、カーボンリサイクルによって製造された製品の価値を知ってもらう広報面の取り組みが不可欠だろう。

 これまで4回にわたってCCUSとカーボンリサイクルについて、その概要と可能性、今後の課題について解説してきた。1回目に記したように、今後、世界が温室効果ガスの排出削減を進めていく際に、現在利用されている化石燃料を、全て再生可能エネルギーをはじめとする非化石エネルギーに転換すると想定することは現実的ではない。最大限CO2の排出削減を進めても、削減しきれないCO2が残ってしまうことを想定し、残ってしまったCO2を回収して貯留や再利用できるような技術開発を今から進めておくことは、今の世代が将来の世代に対して果たすべき責務ではないか。

 連載で繰り返し指摘したように、CCUSやカーボンリサイクルの普及には、まだ克服すべき課題が山積している。しかし、CCUSが実用化されない限り、温室効果ガスの排出を実質的にゼロにすることは不可能だ。できることから着実に、一つ一つの課題を解決していく粘り強い取り組みを進めていかなければならない。

  • (注1)国際石油開発帝石株式会社プレスリリース(2019年10月16日)https://www.inpex.co.jp/news/assets/pdf/20191016.pdf(2020年12月26日アクセス)
  • (注2)LanzaTech社ホームページ https://www.lanzatech.com/(2020年12月26日アクセス)
  • (注3)全日本空輸株式会社プレスリリース(2019年6月14日)https://www.anahd.co.jp/group/pr/201906/20190614.html(2020年12月26日アクセス)
  • (注4)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、「石油火力発電所等から発生するCO2の分離回収・貯蔵・利用等の技術開発動向調査」(2020年3月)、p18
  • (注5)Philip A.E.Pogge von Strandmann,Kevin W.Burton,Sandra O.Snaebjornsdottir,Bergur Sigfusson,Edda S.Aradottir,Ingvi Gunnarsson,Helgi A.Alfredsson,Kiflom G.Mesfin,Eric H.Oelkers,and Sigurour R.Gislason、「Rapid CO2 mineralisation into calcite at the CarbFix storage site quantified using calcium isotopes」『Nature Communications』Vol.10(2019年4月)、p.2
  • (注6)ただし、エタノールの場合には、ガソリンの基材油として利用ができるが、水との親和性が高く (さび) を起こす可能性があるため、貯蔵タンクや油槽船などで既存のものとは別のインフラを整備する必要がある。
  • (注7)Carbon Recycling International社ホームページ https://www.carbonrecycling.is/projects#projects-circlenergy(2020年12月26日アクセス)
  • (注8)旭化成株式会社プレスリリース(2017年8月7日)
  • https://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/news/2017/ch170807.html(2020年12月26日アクセス)
  • (注9)Covestro社ホームページ https://solutions.covestro.com/-/media/covestro/solution-center/brands/downloads/imported/1556806584.pdf(2020年12月26日アクセス)
  • (注10)経済産業省・文部科学省、「エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会報告書」(2019年6月)、p.30

【連載】温暖化対策の奥の手「CCUS/カーボンリサイクル」を 1回目 から読む

プロフィル
小林 良和氏( こばやし・よしかず
1973年北海道生まれ。東燃株式会社(現ENEOS株式会社)を経て2004年より日本エネルギー経済研究所勤務。

無断転載・複製を禁じます
1970505 0 経済・雇用 2021/04/08 13:48:00 2021/04/08 14:55:31 2021/04/08 14:55:31 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210407-OYT8I50018-T.jpg?type=thumbnail

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