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古くて新しいゼロ・カーボン対策:省エネルギー<1>省エネはなぜ重要なのか?

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POINT
■省エネルギーは、エネルギーの使用量を減らすだけでなく、エネルギーを使用して得られる効果を変えないか、または向上させることが前提になる。決して必要なエネルギーの利用を無理してガマンすることではない。

■省エネルギーは、相対的に安価な投資で地球温暖化対策など環境問題に寄与し、エネルギー安定供給に貢献し、さらに消費者がエネルギー費用を節約できる「三方良しの取り組み」でなければならない。

■省エネルギーは、脱炭素化を目指す国際的な潮流の中、地球温暖化対策としての重要性に対する認識が深まっている。

オンライン形式で行われた気候変動問題に関する首脳会議(ユーチューブより)
オンライン形式で行われた気候変動問題に関する首脳会議(ユーチューブより)

 菅首相は4月22日に開かれた気候変動問題に関する首脳会議で、「2030年度の排出量を13年度比で46%削減する」とする新たな温室効果ガスの削減目標を表明した。省エネルギーは二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの削減に向けた重要な手段のひとつだ。この連載では、省エネルギーについて、その概念や、日本および諸外国の政策、さらに新しい省エネルギー技術について紹介していく。1回目は、省エネルギーの意味や重要性について解説する。

日本エネルギー経済研究所 研究員 小川元無  

省エネルギーとはガマンすることではない

 「省エネルギー」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。夏場にエアコンの設定温度を上げることだろうか。それともエレベーターを使用せず階段を使うことだろうか。これらは確かにエネルギー使用量を減らす取り組みではあるが、必ずしもわれわれが目指すべき省エネルギーではない(注1)。

 省エネルギーは、「エアコンを利用した快適な室内環境の実現」や「照明による明るさの確保」または「自動車を利用した目的地への到達」など、社会生活に必要な活動や効果を定めたうえで、それに投入するエネルギーを節約することを前提としている。

写真はイメージです
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 夏場のエアコンのケースでは、設定温度を上げることによってエネルギー使用量は減少する。しかし、設定温度を適切な水準に保たず、快適性を犠牲にするようでは、エアコンの使用によって得られる効果を最適化したことにはならない。

 ガマンによるエネルギー使用量の節減は一時的なもので、それを行動として定着させることは難しい。2011年の東日本大震災以降、消費者が震災前と比較して、エアコンの利用時間の減少や設定温度を上げているか聞いたところ、震災直後には約70%が設定温度を上げるなどしていたのに、この割合が数年間で減少した、とする調査結果もある。(注2)

 生活水準を維持しつつ、無理なく持続可能な形でエネルギー使用量を減らすには、ガマンしないこと(=エネルギーを使用して得られる効果を低下させないこと)が重要となる。技術の高効率化やデジタル技術等を活用し、無駄な運転を省いてエネルギー使用量を節約することが必要だ。

省エネルギーは「効率」と「行動」の改善で

出所:日本エネルギー経済研究所(2020)(注3)
出所:日本エネルギー経済研究所(2020)(注3)
写真はイメージです
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 エネルギー使用量は、1回あたりに使うエネルギー量の効率と、エネルギーを使う活動量の大きさで決まる。このため、エネルギー効率か活動量のどちらか、または両方を改善すれば、エネルギー使用量を減らすことができる。ガマンせずにエネルギーの使用量を節約するには、「効率の改善」と「行動の改善」の二つの方法がある。

 自動車を例に考えてみる。ガソリンの使用量は、燃費と走行距離で求められる。「効率の改善」の一例は、「燃費の良い自動車の利用」だ。目的地までの走行距離が同じだとしても、これまでより燃費が良い車に乗り換えることで、ガソリンの使用量を減らすことができる。一方、「行動の改善」の例としては、カーナビゲーションの利用があげられる。カーナビを利用することで、目的地までの最適なルート選択が可能となり、渋滞などを避け、不要な走行距離を減らすことで、燃費が同じ自動車でも、ガソリンの使用量を減らすことができる。

 「ある地点まで自動車を利用して到着する」という目的を達成するために、燃費の良い自動車やカーナビの利用による「効率の改善」と「行動の改善」によって、エネルギー使用量を減らすことが可能となるわけだ。

省エネルギーは三方(環境・経済・安定供給)良し

 菅首相は2050年を目標とする「脱炭素(カーボンニュートラル)」宣言にあわせて「徹底した省エネルギーの実施」についても言及している。省エネルギーのメリットとしては、<1>現在注目が集まる太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入と比べて、省エネルギーは、相対的に安価で短時間での温暖化対策が可能になる(注4)<2>消費者の電力・ガス・石油等の支払いを節約できる<3>エネルギーの安定供給につながる――といったメリットを、同時に達成できる手段だ。

出所:日本エネルギー経済研究所(2020)(注3)
出所:日本エネルギー経済研究所(2020)(注3)

 <1>は、地球温暖化問題や大気汚染問題などに対する環境的なメリットだ。省エネルギーによって石油やガスといった化石燃料の使用を減らすことで、CO2などの温室効果ガスを削減でき、地球温暖化対策となる。化石燃料の使用は大気汚染の要因でもあるため、省エネルギーによって化石燃料の使用を減らすことは、大気汚染問題の改善にも寄与する。

 <2>は、省エネルギーによってエネルギー使用量を減らすことで、エネルギーの購入費が節約できる経済的なメリットだ。先ほどの自動車の例では、燃費や走行距離を改善することでガソリン購入費を節約でき、節約した費用は他の支出に回せるようになる。家計ではこれまで購入できなかったものへ支出を回せれば生活が豊かになり、企業では事業の拡大や従業員の給与増などを促す効果が期待できる。

 <3>は、エネルギーの安定供給に寄与できるという社会的なメリットだ。通常のエネルギー使用量を減らすことができれば、エネルギーの供給が途絶するなど万一の事態が起きても、その影響を可能な限り減らすことができる。

 日本はエネルギーの対外依存度が高く、全エネルギー消費の90%近くを輸入に依存している(注5)。国際情勢の急変などによって、エネルギーの輸入に影響が出るケースも想定される。台風や震災などの自然災害によって、停電などエネルギーの供給が停止することもある。省エネルギーによって日常的なエネルギー使用量を減らすことができれば、こうした不測の事態が起きても、その影響を和らげることができる。

 以上のように、省エネルギーは、環境と経済を両立し、社会の安定化にも貢献する「三方良し」の取り組みだ。エネルギーの分野では、上記の「環境(Environment)」「経済(Economic efficiency)」「エネルギー安定供給(Energy Security)」は、いずれも実現すべき重要な目標とされ、それぞれの頭文字を取って「3E」と呼ばれる(注6)。3Eをいずれも満たすエネルギー源は、現時点では原子力を除いて存在しない(注7)。例えば、石炭は安価ではあるが温室効果ガスが多い。太陽光や風力といった再生可能エネルギーは地球温暖化対策への貢献は大きいが、天候などによる出力の変動幅が大きく、安定供給に課題がある。それぞれのエネルギー源に長所と短所があり、原子力発電所の再稼働も難しい。3Eすべてに貢献できる省エネルギーの重要性はますます高まっている。

脱炭素に向けた省エネルギーの重要性と期待

 日本は1973年のオイルショック以降、積極的に省エネルギーに取り組んできた。エネルギーの利用効率を表す指標の一つで、GDP(国内総生産)あたりのエネルギー使用量である「エネルギー原単位」の推移をみると、70年代から80年代までは、オイルショックによる原油価格の高騰を受けて産業部門を中心に省エネルギーが進んだため、急速に低下している。

出所:日本エネルギー経済研究所(2020)(注8)1973年の値を100としたエネルギー原単位の推移。エネルギー原単位の分子は最終エネルギー消費量、分母はGDP
出所:日本エネルギー経済研究所(2020)(注8)1973年の値を100としたエネルギー原単位の推移。エネルギー原単位の分子は最終エネルギー消費量、分母はGDP

 その後は核家族化に伴う世帯数の増加や、家電や乗用車の普及などで2000年代まで横ばいで推移するが、2000年代以降は再び低下している。家電や乗用車の普及が一段落し、家電の省エネルギー性能や自動車の燃費が向上して省エネルギーが進んだためだ。

 近年では地球温暖化対策のため、さらなる省エネルギーの深掘りが求められている。

もちろん、化石燃料を使用しない再生可能エネルギーの導入や、大気から直接CO2を取り込んで地中に回収するCCSなどのネガティブ・エミッション技術は、脱炭素社会を目指す上で欠かすことはできない。しかし、現状ではCCSなどの技術は、高額の投資を必要とする経済性の課題があり、まだ研究開発や実証実験事業を積み重ね、ひとつひとつ課題を克服していくことが必要な段階だ。太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、目覚ましい勢いで普及が進み、コストの低減も進んでいる。だが、一年中安定した供給ができるわけではなく、その変動性に対応するバックアップが求められる。

 菅首相が2030年の削減目標を46%に引き上げる前は、日本は温室効果ガスの削減目標として「30年度の排出量を13年度比で26%削減する」としていた。この目標を達成するため、再生可能エネルギーの導入拡大とともに、「徹底した省エネルギー対策」によって、年間に原油換算で5030万キロ・リットル相当のエネルギーを削減する計画を立てていた。

出所:資源エネルギー庁(2021)(注9)
出所:資源エネルギー庁(2021)(注9)

 これまで資源エネルギー庁は、暫定値として5030万キロ・リットルを5800万キロ・リットルまで上乗せする方向性を示していた(注9)。排出量削減の手段は省エネルギーだけではないが、菅首相が30年度の削減目標を「13年度比26%削減」から「46%削減」に引き上げられると表明(注10)したことで、5800万キロ・リットルの省エネルギー目標の数値も、さらに変更される可能性がある。

 では、これをどうやって実現するのか。次回は、省エネルギーを進める上での課題を整理し、どのような政策が行われているか、解説したい。

  • (注1)東日本大震災時の輪番停電や節電要請のように一時的にガマンが求められるケースも存在する。また、長時間の外出時にペットも含め誰も在宅していないにも関わらず、エアコンを使用し続けるような不必要なエネルギーの使用を容認するわけではない。
  • (注2)西尾健一郎(2015)「家庭における2011~14年夏の節電の実態―東日本大震災以降の定点調査―」
  • https://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/download/BxCwUMkLSeJzrVADB7vNxfvHmbl5Wojc/Y14014.pdf(2021年4月19日アクセス)
  • (注3)日本エネルギー経済研究所(2020)「第33回エネルギー・環境基礎講座 省エネルギーと日本の課題 資料」
  • (注4)エネルギー・環境会議コスト等検証委員会(2011)「コスト等検証委員会報告書」P.62、78、79
  •   https://www.env.go.jp/council/06earth/y060-100/mat02_3.pdf (2021年4月19日アクセス)
  • (注5)資源エネルギー庁ホームページ(2020)「2020――日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
  •   https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2020_1.html(2021年4月19日アクセス)
  • (注6)安全(Safety)も加え、「S+3E」と称されることが多い。なお「S+3E」の詳細については別稿で触れる予定のため、解説は他の執筆者に譲る。
  • (注7)原子力に関しては社会的な受容性等に課題がある。
  • (注8)日本エネルギー経済研究所(2020)「エネルギー・経済統計要覧」
  • (注9)「第32回総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 事務局資料2 2030年エネルギーミックスにおける省エネ対策見直し事務局試算結果(暫定)」P.25より抜粋
  •   https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/032_09_00.pdf(2021年4月19日アクセス)
  • (注10)首相官邸(2021)「令和3年4月22日 地球温暖化対策推進本部」  http://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202104/22ondanka.html(2021年4月19日アクセス)

古くて新しいゼロ・カーボン対策:省エネルギー <2>日本の省エネルギー政策 へつづく

プロフィル
小川 元無氏( おがわ・あさむ
1986年生まれ。法政大学大学院政策創造研究科都市政策専攻博士後期課程(単位取得満期退学)。2015年より日本エネルギー経済研究所勤務。

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2022604 0 経済・雇用 2021/04/30 12:00:00 2021/06/09 13:22:19 2021/06/09 13:22:19 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210428-OYT8I50092-T.jpg?type=thumbnail

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