読売新聞オンライン

メニュー

「予定調和」を拒んだ学者の良心

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

POINT
■国会の予算委員会は、今回も予算案に関する質疑が深まらなかった。

■予算案を精査すると、粗雑な中身が目につく。「第2の予算」財政投融資に関する財務省の審議会では異論が続出し、部会長の池尾和人・立正大教授は、賛意を示すことなく議論を締めくくった。

■学者の良心を貫き、大筋賛成という「予定調和」を排した池尾先生は、2月に逝去された。哀悼の意を表したい。

 いつものことながら、政策論議はそっちのけで、野党による「疑惑追及モード」が目立った国会の予算委員会。この際、経済・財政に精通した少数議員による「真予算委員会」でも作ってはどうか。

調査研究本部主任研究員 林田晃雄 

 政府は2020年度第3次補正予算案と21年度当初予算案を「15か月予算」として一体的に編成した。一般会計の歳出は計122兆円を超える空前の規模なだけに、充実した予算委員会審議が求められたが、菅首相の長男と総務省幹部らの会食問題が浮上するや、いつもの「疑惑追及モード」になった。毎度のことだが、予算はほとんど話題にならなかった。

今年の予算委も、菅首相の長男による総務省幹部接待問題が浮上すると「疑惑追及モード」に(衆院予算委で陳謝する菅首相。左は武田総務相、2021年2月22日)
今年の予算委も、菅首相の長男による総務省幹部接待問題が浮上すると「疑惑追及モード」に(衆院予算委で陳謝する菅首相。左は武田総務相、2021年2月22日)

 言い古された「予算委批判」をあえて取り上げたのは、コロナ禍という危機時に編成されたこともあり、今回の予算案が例年になく粗雑だったからだ。

 私がメンバーとして参加している財政制度等審議会財政投融資分科会で展開された議論を紹介しながら、問題点を指摘したい。

 例えば、10兆円規模を目指す大学ファンドだ。予算案には財政投融資で4兆円、一般会計で5000億円が計上された。科学技術振興機構(JST)に託して株式などで運用し、その利益で大学を支援する。

 日本の大学の研究力低下は深刻だ。公的支援の必要性に異存はない。心配なのはその仕組みである。

 財投は、財投債という国債でお金を集め、政府系金融機関や官民ファンドに出資や融資をする制度だ。かつて「第2の予算」と言われた。貸したお金は後で国が取り立て、将来世代に借金のツケを回さない。大学ファンドは必ず返さねばならない巨額資金を借りて、元本割れリスクがある投資に回す。審議会では「大きな損失が出たらどうするのか」との懸念が続出したが、事務局の説明は「リスク管理のあり方はこれから詰めていく」だった。まるで、出たとこ勝負ではないか。

 一般会計の5000億円は国債ではなく、政府保有の金(ゴールド)の売却代金を充てる。理由について20年12月17日付の東京新聞は、財務省幹部の発言として「リスクのある出資。将来世代の負担になる国債発行は適切ではない」と報じた。私は審議会で「財投債も国債だ。財投ならいいという理屈がわからない」と質問したが、財務省理財局は、「主計局の話なので答える立場にない」と回答を避けた。

 コロナの影響を度外視したインフラ整備も目についた。21年度は、中部国際空港のターミナル改修など空港関連に約1400億円の財投が充てられた。30年に訪日外国人客を6000万人とする従来の政府目標が前提だ。コロナ禍で訪日客の増加にブレーキがかかるのは必至だろう。情勢に応じて計画を見直し、緊急のコロナ対策を優先すべきだ。

 他にも、国土強靱(きょうじん)化を旗印にした公共事業などの中に首をかしげる要求項目があり、12月10日の審議会で疑問の声が相次いだが、12月18日の審議会に示された政府案は、前回とほぼ同じ内容だった。再び不満の声が広がり、立正大教授の池尾和人分科会長は「皆様の様々な意見をもって、本分科会の意見とします」と議論を締めくくった。審議会は、反対論があっても、適切な予算執行などの条件付き賛成で意見集約する例が多い。賛意を示さず打ち切るのは異例である。

 審議会が採決しなかった財投計画案は何事もなかったように国会に提出された。菅首相は2月15日の衆院予算委で今後の財政再建について「歳出・歳入両面で改革を進めたい」と述べたが、まずは審議している予算案の問題点を精査すべきだろう。

 何でも質疑できるいまの予算委では、野党が政権の落ち度を追及し、政府が防戦に回る構図は大きく変わるまい。建設的な予算審議が期待できないのならこの際、別に経済・財政に通じた少数の議員による「真予算委員会」でも作ってはどうか。

 大筋賛成の「予定調和」を拒み、学者の良心を貫いた池尾先生は去る2月21日、ご病気のため逝去された。この場を借りて哀悼の意を表したい。

※この論考は調査研究本部が発行する「読売クオータリー」掲載されたものです。読売クオータリーにはほかにも関連記事や注目の論考を多数収載しています。最新号の内容やこれまでに掲載された記事・論考の一覧は こちら にまとめています。
無断転載・複製を禁じます
2022638 0 経済・雇用 2021/04/30 10:02:00 2021/04/30 20:37:31 2021/04/30 20:37:31 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210427-OYT8I50058-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)