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物流業界 急務のDX

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POINT
■物流現場では、長時間の荷待ちや手積み・手おろし、細かい検品作業が効率化を阻んでおり、トラック予約システムなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)で改善できるものもある。

■トラック運送業者は一般的に荷主よりも立場が弱い。メーカーや小売りも巻き込んで、サプライチェーン全体で物流の最適化を目指す必要がある。

■加工食品業界では、効率化を目指し、伝票を電子化する動きがある。中小運送会社でも対応できる簡易な方法なら、他業界にも浸透していく可能性がある。

■「フィジカルインターネット」の理念は物流リソースの共用化。物流を最適化するプラットフォーム構築に向け、DXが加速されていくだろう。

調査研究本部次長・主任研究員 井深太路

 ドライバー不足が深刻化する物流業界で、デジタルトランスフォーメーション(DX)による構造改革を目指す動きが進んでいる。しかし、労働集約型の現場に根付いた固有の作業方法や、サプライチェーンの業界ごとの商慣習が足かせとなり、道のりは平坦(へいたん)ではない。それでも、「このままでは日本の物流が持たない」という強い危機感が、DXを後押ししている。

ベンチャーが挑む物流改革

 「メーカー、卸、小売り、物流業者、倉庫……。それぞれが個別の部分最適を目指したことで、サプライチェーン全体の最適化を阻害してきたんです」。2020年12月初め、東京・三田のオフィスで、物流ベンチャー「Hacobu」の佐々木太郎社長は、物流現場の構造的な問題点について力説し、こう付け加えた。「経済学で言うところの『合成の誤謬(ごびゅう)』(=個々のレベルでは正しい選択をしても、経済全体では悪い結果に陥ること)。これを解決するには指揮者の存在が必要なんです」

 同社の創業は2015年。佐々木社長は慶応大を2000年に卒業後、コンサルティング大手・アクセンチュアなどを経て、米国でMBA(経営学修士)を取得した。その後、日本で化粧品や食品の電子商取引(EC)事業者として起業したが、そこで物流現場のアナログなやり取りの実態を垣間見て、デジタルによる変革を旗印にHacobuを創業した。

 アナログなやり取りとは、中小の運送会社が、ファクスや電話を使い、紙に記入して情報を交換していたのが一例だ。ほかにも、ドライバーによる長時間の荷待ち、荷物の手積み・手おろしなど、物流現場には非効率が横行している。当初、佐々木社長らは、荷物を探しているトラック運送会社と運び手を探している荷主をマッチングするサービス(求貨求車)を試みたが、デジタルの仕組みだけではサービス品質に限界があった。BtoB(企業間)物流の現場では、場所によって納品の流儀が異なり、それを踏まえ、大手物流会社がデジタルの仕組みに、調整役の人間を組み合わせたマッチングシステムを確立していた。「我々がやっても売り上げは立った。でも、目指す世界は別にあると思った」。試行錯誤するうち、中小運送会社のDXを進めるには「メーカーなどの大手荷主や小売り側を巻き込み、物流全体の最適化を図らないと、前に進まない」と感じるようになった。

 創業から3年、手応えを感じたのが、トラック予約受け付けシステムだった。「MOVO Berth」と名付けたシステムは、トラックが倉庫で荷物の積み下ろしをする「トラックバース」の予約をオンライン上で受け付けて管理し、荷待ちによる渋滞を防ぐ仕組みだ。このシステムを西日本の物流センターに導入した物流会社は、ドライバーの荷待ち時間が、導入前は全国的な平均時間とされる1時間45分程度だったのが、導入後は5~6分程度と大きく改善されたという。改善の度合いは、倉庫の受け入れ態勢によっても異なるが、Hacobuによると、同社のトラックバース予約システムは18年のサービス開始後、20年12月までに、全国約4300か所に導入された。最近は、小売り側の物流センターで導入されるケースが増えたといい、「サプライチェーンの力学で一番強い小売り側に予約システムを使ってもらうことは、物流全体を最適化していく上で非常に重要」と佐々木社長は語る。同社の予約システムを使う倉庫が、メーカー、卸、物流業者、小売業者の間で増えるほど、利用者にとっては同一システムで多くの取引相手とつながることができ、利便性が高まる。プラットフォームにおけるネットワーク効果である。

 同社は、車両位置や運行状況などを見える化した「動態管理サービス」などのサービスも提供しており、これらのサービス利用者の車両や荷物に関するデータがプラットフォームに集積されていく。20年になると、大手トラック製造メーカーの動態管理とデータ連携してサービスの付加価値を高めたほか、ERP(基幹系情報システム)を提供する世界的なソフトウェア企業との協業により、Hacobu側の物流情報(いつ、どこに、何を、どれだけ持っていくか)とERP側の商流情報(受発注情報)とを連携させる取り組みも始めている。

 佐々木社長は、顧客企業からのデータを集積したデータベースこそ、部分最適を優先して全体最適が阻害されてきた物流現場の「指揮者」になり得るのでは、と考える。メーカーや物流会社、卸、小売りなど、サプライチェーンを構成する有力な1社が音頭を取って物流改革を進めようとしても、ライバル社には、そう簡単には協力できない事情もあるだろう。しかし、サプライチェーンの枠外にいたプレーヤーが、トラック予約システムなどの便利な仕組みを提供することでデータを集約し、誰もが利用する物流情報プラットフォームが形成されれば、その時は各社でばらばらだった規格も統一され、物流の効率化が実現する、というのが、佐々木社長らの仮説である。

ドライバー不足とホワイト物流推進運動

 トラック運転者の数は、国勢調査でみると、1995年に98万人だったのが、2015年には76万7000人に減っている。公益社団法人鉄道貨物協会は、18年度の報告書で、トラックドライバーの不足は25年度に約20万8000人、28年度には約27万8000人に拡大すると推計している。高齢化も進んでおり、18年の総務省・労働力調査によると、道路貨物運送業では45~59歳が44.8%(全産業32.8%)を占め、15~34歳は14.9%(同25.1%)にとどまっている。

 ドライバーが不足する理由の一つが、低賃金・長時間労働の職場環境だ。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(19年)によれば、トラックドライバーの年間所得額は全産業平均と比較して大型トラック運転者で約1割低く、中小型運転者で約2割低い。一方、年間労働時間は、大型トラック運転者、中小型運転者とも約2割長い。

国交省・厚労省「トラック輸送状況の実態調査」(2015年)より作成
国交省・厚労省「トラック輸送状況の実態調査」(2015年)より作成

 長時間労働の要因の一つとされるのが、運転の前後にある荷役と荷待ち時間の長さだ。15年に国が行った実態調査では、荷物を積んだり下ろしたりする荷役の1運行あたりの平均時間は2時間40分余で、このうち、荷待ちが発生するケースでは、荷待ちの平均時間が1時間45分に及んでおり、3時間を超えるケースも15.1%あった。このほか、大量の荷物を手作業で積み込み・積みおろししたり、納品までの時間(リードタイム)が短いがために夜間・早朝の積み込み作業を強いられたりする状況もみられた。

 深刻化するトラック運転者不足を受け、政府は19年、「ホワイト物流」推進運動を始めた。ここでの「ホワイト」とは、女性や年配者でも働きやすい労働環境を指す。働き方改革の一環で、トラック運転者の時間外労働については、罰則付きの上限規制(年960時間以内)が24年に適用されることが決まっている。猶予期間中に長時間労働を少しでも解消するのも同運動の狙いであり、国土交通、経済産業、農林水産の3省が、上場企業など約6300社に運動への参加要請文を送付、20年12月までに1100社以上が、物流改善に向けた取り組みを自主行動宣言として公表している。

低迷する積載効率

 日本の物流におけるトラック輸送の役割は極めて大きい。重量ベース(輸送トンベース)でみると、国内貨物の約9割をトラックで運んでおり、残りを海運、鉄道、航空が担っている。貨物重量に輸送距離を掛けた「トンキロベース」で見ても、かつては海運が多かったが、18年度はトラックが全体の約51%を占めている。

 しかし、トラックがどのくらい荷物を載せて走ったかを示す指標である「積載効率」は低迷している。営業用トラック輸送の積載効率は、11年度が41.6%だったが、徐々に低下し、16年度に39.9%と4割を切ると、19年度は37.7%まで落ちた。積載効率が低迷する原因について、国土交通省の物流政策課は、様々な理由があるものの、主に<1>ジャストインタイム、時間指定が主流であり、(配送の)リードタイムが短い<2>小規模事業者が多く、事業者間の連携が確保されていないため、車両を効率的に運用できていない<3>荷主の立場が強く、運送事業者の提案では改善活動を開始する荷主が少ない―などが考えられる、とする。

 <1>の「ジャストインタイム」は、「必要なものを必要な時に必要な量だけつくる」という、無駄を排除したトヨタ自動車の生産方式として有名だ。余分な在庫は経営を圧迫する。それは小売店も同様で、売れた分だけ都度、補充するほうが、商品の鮮度を保ちながら品ぞろえを維持できる。しかし、運ぶ側は大変だ。少量・多頻度配送は、小型の車で何度も往復する必要がある。その上、納入先の都合で納入時間を指定されると、その時間がネックになって、効率的な配送ルートを組みにくくなるため、積載効率は悪化し、運転手の負担も増える。

 「リードタイムが短い」というのは、主に発注翌日の納品が商慣習になっていることを指している。納品する側は無理をしてでも翌日納品を励行するが、その分、余裕を失って計画的な配車ができず、積載効率が犠牲になる。<2>の「小規模事業者が多い」はトラック業界の大きな特徴で、零細な会社ほど連携のためのシステム導入は進んでいない。

 そして、<3>は、運送会社に運賃を払う荷主の方が運送会社よりも立場が強い、ということだが、荷主にも発荷主と着荷主があり、流通の世界は単純ではない。一般社団法人「日本物流団体連合会」の宿谷(しゅくや)肇事務局長が解説する。「物流会社が運賃をいただく相手は発荷主。しかし、もっと気を使う相手は、荷物の配送先である着荷主だ」。どういうことかと言うと、物流会社は、自らの客である発荷主から「朝の何時に(着荷主の)倉庫に持っていき、こういう風に置いてきてほしい」と指示を受けて配送する。着荷主は、物流会社にとっては運賃を頂く直接の客ではないが、発荷主の客であり、近年の日本のサプライチェーンでは、メーカーよりも小売りの方が価格決定力を持ち、立場が強い傾向にある。着荷主の倉庫に荷物を届けた際、ドライバーが発荷主との契約書には記載のない付帯作業を求められても、立場の弱い物流会社は抗議しにくい。「契約書にない作業が現場では『あうんの呼吸』で行われ、『この作業の料金はもらってない』と言えば、『じゃあ、別の業者に頼むよ』と言われるリスクがあるから、それも言えない」。契約書にない作業とは、例えば、納品先のパレットへの積み替え作業、仕分け作業、格納作業などだ。

 サプライチェーンの中で立場が弱いトラック業界だが、その業界は多層構造で、数次の下請けが連なり、下にいくほど、さらに立場は弱く、デジタル投資も難しくなる。デジタル化による「伝票レス」が進んでいないどころか、契約の書面化さえ不十分なこともあり、逆に「紙の伝票ぐらいないと、データ的裏付けなしに仕事をすることになる」という。その紙の伝票も各社で様式はばらばら。物流会社の社員時代、ドイツに3年間勤務した経験がある宿谷事務局長は「欧州ではパレットも統一されているが、日本はそうなっていない」と指摘し、「物流効率化に必要なのは、規格の標準化とデジタル化。すでに加工食品業界などが着荷主を巻き込んで動いているが、国が音頭を取って他の業界にも広めていくことを期待している」と話す。

コロナ禍でも多くの大型トラックが立ち寄る海老名サービスエリア(2020年4月撮影)
コロナ禍でも多くの大型トラックが立ち寄る海老名サービスエリア(2020年4月撮影)

嫌われる加工食品物流

 加工食品業界は物流効率化に向けた動きを強めている。だが、それは危機感の裏返しで、長時間の荷待ちや手積み・手おろしによる荷役、非効率な検品が多く、トラック運転者が働きにくいとされる現場の一つだ。

 「嫌われる加工食品物流」。20年9月、今後5年間の国の「総合物流施策大綱」を策定するために開かれた検討会で、プレゼンテーションを行った味の素の堀尾仁上席理事・食品事業本部物流企画部長は、自ら身を置く加工食品業界が配送業者からいかに嫌われているかを、敢えて強調し、その理由を詳細に語った。

 まず、長時間の荷待ちだ。トラックは指定時間に着いたものの、7時間10分待たされ、ようやく始まった荷おろし作業は30分で終わり、その後、受領書をもらうのに2時間30分待たされたため、結局、「30分で終わる荷おろしのための待ち時間が(合計)9時間40分」という事例を紹介。これはかなりひどいケースと思われるが、長時間待機の事例を集めた表には、ほかにも5時間待ちのケースなどが並んでおり、その頻度は「慢性的」とある。20年3月からの1か月間、加工食品の物流拠点数か所を調べたところ、90分以上の待機が330件、納品できずに持ち戻ったケースも66件あったという。

 このプレゼンで堀尾部長は、ある地方の物流基地で、ドライバーが荷積み・荷おろしをする様子を撮影した動画を紹介した。動画では、物流会社の自動倉庫からベルトコンベヤーで、加工食品の段ボール箱が積まれた平パレット(1・1メートル四方、高さ14センチ程度)が次々に流れてくる。1枚目のパレットには商品Aばかり、2枚目には商品Bばかりが積まれている、という状態だが、紙の納品伝票の束を携えた男性ドライバーが、伝票を見ながらそれぞれのパレットから段ボールを別のパレットに積み替えていく。伝票には、納品先ごとに納める商品(加工食品)の種類と数などが記されており、それに従って、納品先ごとのパレットに様々な商品の段ボールを積んだ後、全体をラップ巻きにする。ラップは、汚れと荷崩れを防ぐのが目的だ。ドライバーは、基地にあるフォークリフトを操作し、パレット側面の穴にフォーク(爪)を指して、トラックの荷台に積み込んだ。

 この作業は午後7時頃に行われたが、トラックの出発は翌朝だ。業界で「宵積(よいづ)み」と呼ばれる手法で、朝一番の出発に備えて前夜のうちに荷を積んでおくのだ。ドライバーは翌朝5時にアルコールチェックを受けた後、午前6時半頃、最初の納品先である卸会社の倉庫に到着。トラックバースに車を着けると、納品先のフォークリフトで倉庫内の指定場所へパレットを移動させ、ラップをはがし、納品先のかご台車(小さな車輪付きの台車)に段ボール箱を手で積み替える。

 続いて、納品先の荷役担当者と一緒に行う検品作業だ。伝票通りの商品が納品されたかを確認し、さらに、ドライバーが段ボールに記された賞味期限を読み上げると、納品先の荷役担当者が伝票にそれを書き写していく。書き写した賞味期限は、卸側の別の担当者がパソコンに打ち込み、最終的に納品する小売業者に伝達しているという。なぜ、そこまでやるのか。小売り側で「逆転出荷」が嫌われるからだという。売り場では通常、賞味期限が長い商品(鮮度のいい商品)ほど陳列棚の奥に配置する。そうしないと、賞味期限の短いものばかりが売れ残るからで、納品時に鮮度が逆転していると、はねられるのが通例という。

 このドライバーの納品先は11か所だから、ドライバーはこうした作業をこの日、11か所で行ったことになる。堀尾部長は「全部がこうした(動画のような)状況ではないが、とはいえ、そんなに特別な場所でもない」と指摘。加工食品業界では18年から19年にかけ物流業者からの撤退表明や改善要請が相次いだといい、持続可能な物流をつくるためには「配送業者に選ばれる荷主」を目指さないといけない、と述べた。

共同配送、伝票レスへの取り組み

 加工食品物流で荷待ちや付帯作業が多いのは、商品のアイテム数が多いこと、休日の「特売」など小売り側の発注量に波動があること、賞味期限の確認作業があることなども関係しているのだろう。現場の流儀は現場の数だけある、とも言われ、ドライバーは初めての現場では、流儀の習得から始めなければならない。

 業界側も、非効率を放置してきたわけではない。

 味の素など大手メーカー6社は15年、「F-LINEプロジェクト」という取り組みを開始。まず、北海道で共同配送をスタートさせ、各社の在庫拠点やトラック台数を減らした。共同配送では、倉庫管理システムを統一し、納品書も共通化。九州でも同様の取り組みを始め、各社出資の物流会社も設立した。さらに、他のメーカーも加わり、外箱(段ボール箱)の表示統一、賞味期限表示の年月日から年月単位への簡略化などを進め、18年からは、卸や小売りにも枠を広げて検討を続けている。

 国交省など行政も、調査で荷待ち時間が長いとの結果が出た「加工食品」「建設資材」「紙・パルプ」の3分野で、18年度から「生産性向上及びトラックドライバーの労働時間改善に関する懇談会」を設置し、改善に向けたガイドラインを20年に策定した。標準化についても、関係者を集めた研究会が「加工食品分野における物流標準化アクションプラン」=アクションプランの要旨参照=を発表した。プランに沿って標準化に取り組む4項目のうち、納品伝票については、伝票電子化プロジェクトとして、メーカーが卸、小売り側に働きかけながら実証実験を進めている。

 伝票電子化とは何を意味するのか。商品の受発注は、大手企業間では電子化されていることが多い。例えば、メーカーに対する「いつ、どこに、どの商品を、いくつ納品してほしい」という注文は、業界のEDI(電子データ交換)の仕組みを利用できる。注文を受けたメーカーが、運送会社に品物の配送を手配する際も、相手の運送会社にもよるが、電子データでの手配はできる。しかし、多くの場合、配送現場では紙の伝票が使われる。つまり、運送会社が電子データから紙に印刷した納品伝票をドライバーに渡している。これは、ドライバーが納品先に紙の納品伝票を示し、伝票に受領印(判子)を押してもらって、確かに届けたという証しにするためだ。

 電子化プロジェクトのメンバーが想定しているのは、納品伝票をPDF化してクラウド上に置き、関係者がそれをネット経由で見にいくという、比較的簡易な方式だ。納品先は、クラウド上にある納品伝票に受領印として電子スタンプを押す。運送会社は、クラウド上に見にいけば、自分たちが届けた証しがあるというわけだ。

 この伝票電子化を起点に、検品の簡素化、外装サイズ(段ボール箱の大きさ)の標準化なども進めていき、加工食品データプラットフォームを構築する。さらに、他の業界のプラットフォームともデータ連携することで、ドライバーが働きやすい持続可能な物流を構築する。それが味の素の堀尾部長の描く構想だ。

総合物流施策大綱での議論

 今後5年間の物流政策の方向性を示すため、政府は次期総合物流施策大綱の策定に向け、20年7月以降、21年春頃の閣議決定を目指して有識者検討会を重ねた。構成メンバーは、前述の宿谷・日本物流連事務局長や堀尾・味の素物流企画部長も含め、メーカー、卸、小売り、物流会社、業界団体、自治体、コンサル会社、有識者などの計30人。

 この検討会に、内閣府が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で「スマート物流サービス」のプロジェクトを率いる田中従雅氏(ヤマトホールディングス執行役員)がゲストに招かれた。田中氏は、サプライチェーン全体をつないだ「物流・商流データ基盤」に集まる情報に基づいて最適化を図っていくことを目指しており、商流受注のプラットフォームと物流基盤のプラットフォームをマッチングさせて、全体の物流効率を上げていく、と説明した。

 このプロジェクトの役割は、まず、データ基盤作りに必要な技術、例えば、ライバル企業間で共有できる情報とできない情報とを選別・コントロールして活用する技術や、他のプラットフォームと連携する技術などを開発し、サプライチェーンに関係する業界で広く利用できるようにすることだ。その上で、物流・商流データ基盤を早期に社会実装するモデルとして「日用消費財」「ドラッグストア・コンビニ等」「医薬品医療機器等」「地域物流」の4分野を選定しており、各分野がそれぞれにプラットフォームを作ることを技術的に後押しする。巨大な一つのプラットフォームを作るというものではなく、既存の別のプラットフォームとも積極的に連携していく構想を描いているようだ。

 経済同友会で物流改革の提言をまとめた山内雅喜氏(ヤマトホールディングス取締役会長)もゲストに招かれ、共同配送実現のためのハード(パレット、段ボール等)とソフトの標準化、翌々日納品や検品レスを標準慣行にすること、デジタル化推進とデータ仕様の標準化などが必要と述べたほか、(営業用ではない)自家用トラックや女性・外国人ドライバーの活用など、規制緩和を含む改革案を提示。さらに、物流デジタル化・標準化団体の設立や、デジタル物流人材育成のための産官学の連携など、同友会でまとめた提言内容を説明した。

 構成メンバーからも、古い商慣習を改め、標準化とDXを推進し、持続可能な物流体制を構築すべきだとする意見が次々表明された。海外事情に詳しいメンバーからは「日本の物流は、サービス水準は世界一だが、IT投資は遅れていて生産性が低い」「欧米や中国と比べ、日本のDXは5年から10年遅れている」といった指摘も出た。

 有識者検討会は20年12月、「物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化」「労働力不足対策と物流構造改革の推進」「(きょう)(じん)で持続可能な物流ネットワークの構築」を柱にした提言をまとめており、これを基に国が次期大綱を策定する。DXの進め方を巡っては多様な意見があるが、物流現場でDXを加速させるべきだという点は、メンバーの一致した意見だ。

フィジカルインターネット

 DXが進むと、10年、20年先の物流はどんな姿になっているのか。あるいは、どんな姿を目指していくべきか。その一つの解として最近注目されているのが「フィジカルインターネット」と呼ばれる、海外生まれの概念だ。

 言葉の意味で考えると、フィジカル(物理的)なインターネット(複数のネットワークをつないだ大きなネットワーク)、つまり、複数の物流網をインターネットのように接続した大きな物流網、ということになるだろうか。インターネットの特徴の一つが、情報はパケットと呼ばれる小さな塊になって送られ、各パケットは複数あるルートのうち最適ルートで目的地に到達するということだ。これを、物流にあてはめると、同じようなサイズのコンテナに入った荷物が、インターネットのように接続された物流網の上を、最善ルートで目的地に到達する。無論、最善のルート探しは、コンピューターが担うことになる。

 フィジカルインターネットを提唱・研究するパリ国立高等鉱業学校のエリック・バロー教授、ジョージア工科大のブノア・モントルイユ教授、アーカンソー大学のラッセル・D・メラー教授による著書「フィジカルインターネット」(日経BP、英語原題は「The Physical Internet」)によれば、オープンなネットワークで輸送することから、発送者が自分の荷物の配送状況を知るためには、コンテナごとに標準化された追跡ツールや経路管理ツールが必要になる。ネットワークは1社が管理するものではなく、複数の事業者がネットワーク内の拠点を利用することを前提に、各拠点を1社または複数の企業が運営するイメージという。ネットワーク内では、多くの代替ルートや保管オプションを提供することを目指し、例えば、自家用車も短距離のコンテナ輸送などに使うことを提案している。

 様々な物流網を連携させて、コンピューターが示す最適な運び方をする。あらゆる物流資源を共有または共用し、効率化を追求する究極の「シェアリングエコノミー」を目指している、ということか。

 同書を翻訳した東京理科大経営学部の荒木勉教授(上智大名誉教授)は「究極のオープンな共同輸送・共同配送だ。だれもが、いつでも、共同配送システムに荷物を預けることができ、物流業者も効率的に運べるようになる」と意義を語る。実現のターゲットは2050年とも40年とも言われるが、荒木教授は「日本の物流は切羽詰まっているから、2030年を目指したい」といい、すでに、研究会や懇話会を開催して各方面に協力を呼びかけ、研究を進めているという。

サプライチェーン全体の戦略を描く時だ

 ここまで紹介してきた事例が示しているのは、持続可能で効率的な物流を実現するには、現場の課題を丹念につぶしていくと同時に、サプライチェーン全体の最適化を進める戦略が必要ということだ。製造現場、配送現場、小売りの現場が、それぞれの部分最適を優先すると、力の弱い現場にしわ寄せがいく。日本企業には、物流部門を「コストセンター」(利益を生まず、コストとなる部門)と位置づけ、コスト削減ばかりに関心が向く傾向があった。経営層が物流に関心を持つことや、サプライチェーン全体のマネジメント(=SCM)について高度な専門知識を持つ人材を育成していくことも大切だ。

 今、サプライチェーンを覆っているのは、現状を放置すると、いずれは物が運べなくなるという危機感だ。優れた営業戦略があっても、物が届かなければ商売はできない。ステークホルダー(利害関係者)が危機意識を共有するところまでは、おおむねたどり着いており、次は「総論賛成、各論反対」をどう打破するかだ。自由競争の世界で全体最適の利害調整は、骨の折れる仕事になる。

 Hacobuの佐々木社長は、集約したビッグデータが全体最適へと導いていくビジネスモデルの構築を目指すと述べた。物流連の宿谷事務局長は、従属的立場に置かれてきた物流業界を変えるには官民の協力が重要だと話した。味の素の堀尾部長は「リードタイム延長も荷待ち時間解消もデータ基盤構築もすべて必要だが、問題はだれが推進するかだ」と指摘し、「まず足元の出血を止め、一つひとつ整理し、説得し、横展開して物流の景色を変えたい」と語った。

 手法はいろいろだが、やはり、突破口はDXだろう。今、物流界では、トラック予約システムだけでなく、求貨求車や倉庫のマッチング、ルート最適化、配送ロボットなど様々な分野でベンチャー企業が参入し、効率化に向けたアイデアと技術を競っている。デジタル化を進めていくと、これまで見えにくかった作業効率や働き方が「見える化」され、改革は加速する。他方、経済のグローバル化は、企業が物流DXを進めなければ生き残れない状況を作り出すだろう。つまり、物流DXは、その成否が日本経済の浮沈にも影響する必達事項と言える。

 物流DXの議論では、様々なプラットフォームの形が構想されている。一般的に、強大なプラットフォーマーが出現し、公正な競争が阻害されると、ユーザーが不利益を被るから、複数のプラットフォームが利便性を競い合い、互換性があって、新規参入も可能な市場でなければならない。プラットフォームに、どんな情報をどんな形で集約し、どのような機能を持たせるのか、複数のプラットフォームがどのように連携してネットワークを形成するのか、それらの明確な姿はまだ見えないが、事業者がそこに接続すれば、集積されたデータとアルゴリズムで便利なサービスが受けられる、という代物ではあるだろう。自由で公正な競争でイノベーション(技術革新)を呼び込み、足元の非効率を是正しながら、データを駆使した仕組みでサプライチェーン全体を強靱化していく、そんな戦略的なかじ取りが、官民双方に求められている。

※この論考は調査研究本部が発行する「読売クオータリー」掲載されたものです。読売クオータリーにはほかにも関連記事や注目の論考を多数収載しています。最新号の内容やこれまでに掲載された記事・論考の一覧は こちら にまとめています。
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2023483 0 経済・雇用 2021/04/30 01:00:00 2021/05/07 17:16:40 2021/05/07 17:16:40 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210430-OYT8I50080-T.jpg?type=thumbnail

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