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古くて新しいゼロ・カーボン対策:省エネルギー<2>日本の省エネ政策

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POINT
■日本の省エネルギー政策は、省エネルギー法などによる規制と補助金などの助成制度の「アメとムチ」で進められ、日本のエネルギー効率水準は先進7か国(G7)の中でも高い水準にある。

■製造業など企業に対する省エネルギーだけでなく、私たちの身の回りの家電や自動車、住宅などの省エネルギー性能向上を促す制度が導入され、品質や性能向上に貢献している。だが、これまでの政策によって、企業や製品がさらに省エネルギーを進める余地は限られている。

■2021年4月に発表された新たな温室効果ガス削減目標「2030年度の排出量を13年度比で46%削減」を達成するには、従来の省エネルギー政策を推し進めるだけでなく、都市レベルでのエネルギーの面的利用や、行動経済学等の新たな知見の活用など、既存の枠組みにとどまらない“総力戦”が求められる。

 省エネルギーは二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの削減に向けた重要な手段のひとつで、2050年に脱炭素を達成する「カーボン・ニュートラル」を宣言した菅首相も、「徹底した省エネルギーの実施」を掲げている。菅首相は4月22日に2030年の温室効果ガス削減目標を大幅に引き上げる方針を表明したが、省エネルギーは目標達成にどこまで寄与できるのだろうか。連載の2回目では、日本の省エネルギー政策の経緯と今後について解説する(注1)。

日本エネルギー経済研究所 研究員 小川元無  

日本の省エネルギーは国際的に高い水準

*エネルギー原単位の分子は一次エネルギー供給量、分母はGDPである。出所:IEA(2019)“World energy balances”
*エネルギー原単位の分子は一次エネルギー供給量、分母はGDPである。出所:IEA(2019)“World energy balances”

 日本の省エネルギーは、他の先進国と比べてかなり進んでいる。エネルギーの利用効率を示す「エネルギー原単位」(GDP=国内総生産あたりのエネルギー使用量)を比較すると、日本は先進7か国(G7)では英国に次ぐ水準にある(注2)。英国は近年、CO2排出量が多い製造業から、排出量が相対的に少ないサービス業への産業構造の転換が急速に進んだため、2011年からG7でトップとなっているが、それ以前は日本が英国に(まさ)っていた。2018年の日本のGDPのうち、製造業が占める比率は21%と、英国の10%に比べてかなり高い(注3)。にもかかわらず2位というのは、現在も日本のエネルギー効率が非常に高い水準にあることを示している。

省エネルギー政策はアメ(助成)とムチ(規制)

 では、日本はどのようにして、先進国の中でも高いレベルまで省エネルギーを進めてきたのだろうか。その推進役となってきた車の両輪は、省エネルギー法(注4)による規制と、補助金や減税等の助成だった。省エネルギー法は1973年のオイルショックを契機に79年に施行され、その後、複数回の改正を経て現在に至っている。施行当初はその対象を産業部門としていたが、時代の変遷とともに、対象を家庭部門やオフィスビル等の業務部門、運輸部門等へ広げてきた。

出所:日本エネルギー経済研究所(2020)「第33回エネルギー・環境基礎講座 省エネルギーと日本の課題 資料」
出所:日本エネルギー経済研究所(2020)「第33回エネルギー・環境基礎講座 省エネルギーと日本の課題 資料」

 産業部門や業務部門、運輸部門に対しては、常に省エネルギーの進捗(しんちょく)度合いを報告し、評価する制度がある。一定以上のエネルギーを使用した企業(事業者)は、毎年、努力目標として年平均1%のエネルギー効率の改善が求められ、国にエネルギー使用量を報告しなければならない。国は報告に基づいて事業者をクラス分けすることで、省エネルギーの進捗状況を評価する。

 実際に省エネルギーを進める過程も、国の評価の対象になる。事業者は国が定めた空調や照明などのエネルギーの管理方法に沿ったマニュアルを作成し、国にその遵守(じゅんしゅ)状況についても、毎年報告することが義務付けられている。特にエネルギーを多く使用する鉄鋼やセメント、電力などの業界に対しては、業界ごとに個別の省エネルギー指標を作成し、その進捗の確認を行っている(注5)。電力部門に関しては、石炭火力発電に限った指標を設け、非効率な石炭火力発電のフェードアウトを促す制度を検討中だ(注6)。

 一方で、省エネルギー投資や省エネルギー技術の研究開発を促すため、補助金や減税措置といった様々な助成制度も充実させてきた。規制によって企業の省エネルギーの進捗状況を厳しく確認し、あわせて補助金などの助成によっても省エネルギーを支援する「アメとムチ」の両輪で進めてきたわけだ。

省エネルギー政策は身近な家電や自動車なども対象

 実は、私たちの身の回りにあるエアコンやテレビなどの家電や自動車も、多くが省エネルギー法の対象となっている。その代表が、製品ごとに省エネルギー性能の基準を設け、各メーカーに期限(目標年度)までの達成を求める「トップランナー制度」だ。

出所:資源エネルギー庁ウェブサイト
出所:資源エネルギー庁ウェブサイト

 各メーカーは、「基準を決める時点で流通している製品のうち、最もエネルギー効率が高い製品」より、さらに高い効率の製品を期限までの数年間で製造しなければならない。現在はテレビやエアコン、冷蔵庫、自動車など32品目が対象となっており、暮らしに身近な製品以外に、業務用の自動販売機や断熱材などの建材も対象になっている。

 この制度によってメーカー間の競争が進んだ結果、私たちが目にする家電や自動車は、一定以上の省エネルギー性能を持つようになった。常に最も省エネルギーが進んだ製品の値が基準とされたことで、環境性能に優れたものづくりが進んだ。トップランナー制度は日本の製造業の国際競争力強化にも貢献したといえる。

 製品が出荷される前の規制だけでなく、店頭に並んだ後に、消費者がより省エネルギー性能が高い製品を選びやすくする制度もある。製品本体やカタログに使用時の電気代などの情報を表示する「省エネルギーラベル」だ。消費者がより省エネルギー性能の高い製品を購入することを促している。

出所:資源エネルギー庁(2020)「家庭用 省エネ性能カタログ2020年版」P.8より抜粋。国土交通省「燃費基準達成ステッカーの表示について」P.2より抜粋 https://www.mlit.go.jp/common/001385901.pdf(2021年4月26日アクセス)、「住宅・ビル等の省エネ性能の表示について」P.1より抜粋 https://www.mlit.go.jp/common/001122749.pdf(2021年4月26日アクセス)
出所:資源エネルギー庁(2020)「家庭用 省エネ性能カタログ2020年版」P.8より抜粋。国土交通省「燃費基準達成ステッカーの表示について」P.2より抜粋 https://www.mlit.go.jp/common/001385901.pdf(2021年4月26日アクセス)、「住宅・ビル等の省エネ性能の表示について」P.1より抜粋 https://www.mlit.go.jp/common/001122749.pdf(2021年4月26日アクセス)

 住宅やマンション、職場のオフィスビルなども、省エネルギー法の対象となっている。住宅やオフィスビルなどの建物は一度建設すると、数十年は使用されるため、断熱材の導入などで短期間に省エネルギーを進めることが難しく、新築の段階から進める必要がある。このため、2015年に既存の省エネルギー法から独立する形で、建築物省エネルギー法が成立し、建造物独自の制度がつくられた。

 現在の制度では、オフィスビルなど住宅以外の建造物は、床面積300平方メートル以上の場合、省エネルギー基準を満たしていないと建設許可を得られない。住宅の省エネルギー基準は努力目標だが、建築士が施工主に基準に適合しているかどうかについて、説明することが義務付けられている。家電や自動車と同様に、建物にも省エネルギーラベルが導入されている。

さらなる省エネルギーの余地は小さい

 前述したように、部門横断的な政策を進めた結果、日本の省エネルギーは国際的にも高水準となった。しかし、そのことは、今後の省エネルギーの余地が小さいということでもある。早くから省エネルギーに取り組んだ製造業などの産業部門や、オフィスビルや飲食店などサービス業が含まれる業務部門では、近年、エネルギー原単位が横ばいで推移しており、省エネルギーは足踏みしているのが実情だ。だが、温室効果ガスの削減目標を達成するためには、さらなる省エネルギーが必要になることは間違いない。

 4月22日、菅首相は2030年の削減目標を13年度比で46%減らすとする新たな目標を表明したが、この目標は15年に策定した「30年度の排出量を13年度比で26%削減する」という従来目標を大幅に上回る。従来の目標は、原油に換算して5030万キロ・リットル分の省エネルギーを前提としているが、それを達成するには、急速に省エネルギーが進んだオイルショックの時期と同等の35%のエネルギー効率改善を行う必要があった。すでに省エネルギーの余地が少ない中、最も省エネルギーが進んだ時期と同じペースで進めるという従来目標でさえ、達成は容易ではなかったのだ。

 それを、さらに46%削減へと目標を引き上げるというのだから、達成がいかに難題かお分かりだろう。菅首相が所信表明演説にて述べたように、まさに“徹底した”省エネルギーの深掘りが不可欠だ。過去、最も省エネルギーが進んだ時期と同等以上、すなわちこれまで経験したことがない水準のエネルギー効率化が不可欠となる。

従来の枠組みにとどまらない総力戦が必要

 このような厳しい状況の中で省エネルギーを進めるには、これまで述べた従来の政策を一層推し進めるとともに、さらなる技術の活用と研究開発が必要となる。効果が期待できる対策としては、再生可能エネルギーの導入と高い省エネルギー性能によって、エネルギー使用量を実質ゼロとするネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)やネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)があげられるだろう。

 ZEBとZEHに関しては、すでに政府が2020年や30年の導入目標を定め、一定の成果を挙げている(注7)。しかし、現状では、高い費用が普及を阻んでいる。ZEB・ZEHのように、エネルギー使用量の大幅な節減が望めるものの、その費用が導入障壁となっている省エネルギー技術はほかにもある。すでにある技術のコスト低減策は、早急に取り組むべき課題だろう。

写真はイメージです
写真はイメージです

 省エネルギーの範囲についても、企業単位、製品単位で進めてきたこれまでの手法を見直すことが考えられる。対象を地域単位まで広げ、スケールメリットを生かすことができれば、これまで難しかった省エネルギー技術の導入が可能になる。地域内に複数の主体が存在することで、エネルギーの利用の平準化が可能となり、効率的にエネルギーを使用することもできる。

 近年は、企業や製品といった枠を超えて、地域全体で面的に省エネルギーに取り組む例も出てきている。企業や家庭といった枠を超え、IoTを活用した「スマートシティ」「スーパーシティ」といった都市単位に広がる構想も打ち出されている。

 新たな科学的な知見を省エネルギーの分野に応用することも検討すべきだ。「ナッジ(nudge)」と呼ばれる行動変容を促す「しかけ」を行い、省エネルギーの推進を図る試みがその一例だ。

 ナッジは、行動経済学の知見に基づくもので、すでにマーケティングや公共政策など様々な分野に導入されている。省エネルギーの分野でも、「人は周りの人の行動を参考にする」「人は損失をより重視する」といった行動経済学の知見を応用して、家族構成などがよく似た近隣の世帯との電力消費量の比較ができる「省エネ成績表」を送付する実証実験が行われている。他の世帯の電力消費量の情報を得た世帯は、情報を得なかった世帯より熱心に節電に取り組んだという結果も出ている。

出所:平山他(2018)「ホームエネルギーレポートによる省エネ効果の地域性・持続性に関する実証研究」,BECC JAPAN 2018発表資料P.8より抜粋の上、一部加工 https://seeb.jp/material/2018/download/2018BECC-1AB2Hirayama.pdf
出所:平山他(2018)「ホームエネルギーレポートによる省エネ効果の地域性・持続性に関する実証研究」,BECC JAPAN 2018発表資料P.8より抜粋の上、一部加工 https://seeb.jp/material/2018/download/2018BECC-1AB2Hirayama.pdf

 「46%の削減」という新たな目標を達成するには、既存の枠組みにとどまらない“総力戦”による省エネルギー政策が求められる。また、世界共通の課題である地球温暖化対策・エネルギー安全保障の手段として、日本による諸外国への省エネルギー政策形成・高効率技術支援・人材育成等での貢献が期待されている。次回、解説したい。

(注1)本稿は2021年4月25日時点の情報を基に執筆している。
(注2)エネルギー原単位はわかりやすいため、エネルギー効率の国際比較によく用いられるが、気候、産業構造、人口、為替レートなど国ごとの特性にも留意する必要がある。
(注3)国連「National Accounts-Analysis of Main Aggregates」における2018年の製造業およびGDPの値より試算。
(注4)省エネルギー法は通称で、正式名称は「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」という。
(注5)「ベンチマーク(産業トップランナー)制度」と呼ばれ、各業界での上位事業者(1~2割)が満たすべき効率水準が設定される。達成した事業者は「省エネ優良事業者」と認められ、プラス評価(S評価)にクラス分けされる。産業部門だけでなく、コンビニエンスストアやホテルなど業務部門を含む15業種19分野が評価の対象となっている。
(注6)資源エネルギー庁(2021)「総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会合同 石炭火力検討ワーキンググループ中間取りまとめ概要」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/sekitan_karyoku_wg/pdf/20210423_1.pdf(2021年4月26日アクセス)
(注7)ZEB・ZEHの導入目標として、2018年に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」において、下記のように定められている。
 ZEB:「2020年までに国を含めた新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現することを目指す」
 ZEH:「2020年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上で、2030年までに新築住宅の平均でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の実現を目指す」

古くて新しいゼロ・カーボン対策:省エネルギー <3>海外の省エネルギー政策 へつづく

古くて新しいゼロ・カーボン対策:省エネルギー <1>省エネルギーはなぜ重要なのか?

プロフィル
小川 元無氏( (おがわ・あさむ)
 1986年生まれ。法政大学大学院政策創造研究科都市政策専攻博士後期課程(単位取得満期退学)。2015年より日本エネルギー経済研究所勤務。

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2041007 0 経済・雇用 2021/05/10 15:51:00 2021/06/09 13:20:31 2021/06/09 13:20:31 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210510-OYT8I50049-T.jpg?type=thumbnail

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