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古くて新しいゼロ・カーボン対策:省エネルギー<3>海外の省エネ政策

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POINT
■日本の省エネルギー(省エネ)は、過去の実績、政府の施策の両面で世界のトップクラスにある。しかし、国際的に見て、近年は改善のスピードにかげりが出ていることは否めない。

■エネルギー安定供給、生産性向上、大気汚染対策など、省エネルギー対策に取り組む端緒は国によって異なるが、対策の柱は欧州、米国と共通するものが多い。その中には、日本の参考になる対策もある。

■日本には、世界各国の省エネを支援する役割が期待されている。世界的に温暖化対策が求められる中、日本への期待は今後も高まるだろう。これまで培ってきた日本型の省エネ普及策を国際貢献に生かすべきだ。

日本エネルギー経済研究所 研究主幹 岡村俊哉  

 日本は世界的にも“省エネルギー(省エネ)の優等生”として知られる。省エネの進捗(しんちょく)度合いの指標となるGDP(国内総生産)当たりのエネルギー原単位と、政府が実施する省エネ施策の中身を諸外国と比較しても、ともに世界のトップクラスにある。しかし、近年は、国際的に見て、その改善ぶりにかげりが出てきているのも事実だ。2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の目標実現に向けて、さらなる「省エネの深掘り」をしなければならない。

 それには、各国のエネルギー事情と省エネへの取り組みを知った上で、日本の省エネ対策に追加できることはないか、検討する必要がある。日本がこれまで実施してきた省エネへの取り組みを世界に広げるためにも、他国の現状や政策を知ることが欠かせない。

省エネ国別ランキングからわかること

 冒頭で、日本の省エネは「エネルギー原単位」で国際比較すると世界のトップクラス、と紹介したが、省エネの指標はエネルギー原単位だけではない。省エネの進展度を国際比較する別の指標があれば、他国の現状や政策をつかみやすくなるはずだ。

アメリカ省エネルギー協議会(ACEEE=American Council for an Energy―Efficient Economy)という非営利団体は2年おきに「省エネ国別ランキング」を発表している(2020年発表は中止)。2014年に発表されたランキングでは1位はドイツ、2位はイタリア、3位は欧州連合(EU)と欧州勢が上位を占め、4位に中国、日本は6位とされていた。

 この時のランキングは「省エネ大国日本 もはや幻想 中国より下位」という見出しで報じられたこともあって、インターネット上などで発表内容の解釈をめぐって白熱した議論を呼んだ。「エネルギー使用量や過去のエネルギー効率、一部の政策項目の有無だけで点数をつけるなど評価手法に問題があり、各国の省エネの実力を正確に反映していない」と反論した日本の専門家もいた。

 これに対して、ACEEEはのちに、「ランキングはアメリカ50州の省エネ政策を比較する手法を援用して作成している」として、経済状況の異なる国同士の比較にそぐわない面があることを認めた上で、「省エネ政策の立案者が他国の事例を自国の政策に役立てるために使ってほしい」と説明している。発表内容は各国の比較検討によって足りない政策を補うためのもので、順位はその参考に過ぎない、というわけだ。

 ACEEEは、<1>産業<2>住宅や建築物<3>自動車など運輸<4>政府の省エネ政策――の4分野について、エネルギー効率の実績を示す13の項目と、省エネ政策の有無に関する23項目について点数をつけ、その合計点をランキングにしている。

The 2014 International Energy Efficiency Scorecard,ACEEE Report Number E1402から作成
The 2014 International Energy Efficiency Scorecard,ACEEE Report Number E1402から作成

 現時点で最新の18年のランキングでも、1位はドイツ、2位はイタリア、3位はフランス(EUは16年からランキングの対象から外された)となったが、14年に中国より下位だったイギリスが4位、日本は5位に順位を上げ、反対に中国は4位から8位に後退している。23の政策に対する評価を18年と14年で比べると、欧州各国とアメリカは4~8ポイント増えており、省エネ政策を強化していることがうかがえる。日本はともに40ポイントで変わっていない。経済成長の著しい中国やインドの政策項目のポイントは、ほとんど伸びていない。

The2014International Energy Efficiency Scorecard,ACEEE Report Number E1402/The 2018 International Energy Efficiency Scorecard,ACEEE Report Number I1801から作成。政策ポイントの2018年と14年では満点が異なるため18年の政策ポイントと比較できるように14年の政策ポイントを再計算した結果を示した
The2014International Energy Efficiency Scorecard,ACEEE Report Number E1402/The 2018 International Energy Efficiency Scorecard,ACEEE Report Number I1801から作成。政策ポイントの2018年と14年では満点が異なるため18年の政策ポイントと比較できるように14年の政策ポイントを再計算した結果を示した

住宅建築分野で対策が進む欧州

 では、政策項目のポイントで日本よりも上位にいる欧州の国々は、どのような省エネ政策を強化しているのだろうか。ACEEEランキングで欧州が日本よりもポイントが大きかったのは住宅建築の分野だ。欧州では、電気・ガスの小売り事業者に省エネ義務を課す制度や、既存の建築物も含めた省エネ性能の表示制度など、日本では実施していない制度が導入されている。家電エネルギー基準の対象となる製品数も、欧州の方が日本より多い。

https://www.europarl.europa.eu/resources/library/images/20160704PHT35016/20160704PHT35016_original.jpg
https://www.europarl.europa.eu/resources/library/images/20160704PHT35016/20160704PHT35016_original.jpg

 住宅やビルのエネルギー消費量は、新築より既存の建築物の方が格段に大きい。省エネを進めるには、既存の建築物を省エネ対応型に改修する必要がある。それには莫大(ばくだい)な時間と手間がかかるが、欧州には、エネルギーの小売り事業者が建物のオーナーやユーザーに販売するエネルギー量を一定割合減らすことを義務付ける制度がある。既存の建築物の省エネ改修に補助金を出したり、断熱改修費の一部を所得税控除の対象にしたりする制度も充実しているほか、近年は建築物の省エネ性能表示にも力を入れている。

 日本でも電力小売りの事業者が、電気利用量を類似世帯と比較できるサービスや、節電のヒントなどの情報提供を契約世帯向けに行っているが、定量的な省エネ義務付けまではしていない。新築の住宅・ビルの省エネ性能基準もすでにあるが、欧州各国は既存建築物の改修でも新築と同等の要件を課し、建物の売買や賃貸契約時に、建物のエネルギー性能ラベルの表示を義務付けている。エネルギー小売り事業者を通じて省エネを進めている点や、建物取引のさまざまな機会を使ってオーナーやユーザーの省エネに対する意識を高めようと工夫している点は、日本も参考にすべきではないか。

エネルギー消費大国、アメリカの対策

 一方、アメリカは2018年のACEEE国別ランキングでは10位だが、住宅建築分野の機器の省エネルギーラベル制度では、ランキング対象国の中で最高得点をあげている。日本にも同様の省エネルギーラベル制度があるが、その対象は22製品で、アメリカの51製品には及ばない。アメリカの省エネラベル「Energy Star」は住宅家電、オフィス家電、断熱材・窓、給湯器、空調機器、冷水器、業務用調理機器まで幅広くカバーし、近年使用電力が増えているデータセンター機器や電気自動車の充電設備も対象にしている。

https://www.energystar.gov/productsから抜粋して作成
https://www.energystar.gov/productsから抜粋して作成

 アメリカでは民主党と共和党という2大政党で多くの政策が異なり、どちらの党が政権を担うかで政策全般の方針が大きく変わる。エネルギー政策も例外ではなく、17年に発足した共和党・トランプ政権は、民主党・オバマ政権が策定したクリーンエネルギー政策を次々に覆した。パリ合意からの脱退、石炭火力発電の継続、自動車燃費基準の凍結などが続き、省エネラベル基準の改定も全く行われなかった。トランプ政権に代わって誕生した民主党・バイデン政権は、再びクリーンエネルギー政策に(かじ)を切り、凍結していた家電省エネ基準の改定を急ピッチで進めている。

建築物や車の省エネ対策は州ごとに

 家電機器には全米共通の基準が設けられているが、建築物の省エネルギー基準、自動車の燃費基準などは州が独自に定めている。このため大統領によって連邦政府の政策が変わるのと同様に、エネルギー政策については、州知事が民主党か共和党かによって変わる可能性がある。

 だが、経済合理性が重視された結果、政策や規制より先に省エネが進むケースもある。例えば石炭火力発電はこれまで最も安価な電源だったが、多くの州で太陽光パネルや風力発電タービンの発電コストが石炭や天然ガス火力発電のコストを下回ったことから、州知事の方針にかかわらず、普及が加速している。

 一方、住宅やビルなどの建築物の省エネ性能や自動車燃費基準は、政策の後押しがないと省エネが進まない面がある。アメリカで省エネへの取り組みを率先して進めているのはカリフォルニア州だ。同州は1978年に住宅建築に省エネ基準を設け、3年ごとに基準を厳しい方向に更新してきた。最新の2019年基準では、新築戸建て住宅へのソーラーパネル設置が義務化されている。2002年には、連邦政府に先駆けて乗用車の排ガス成分だけでなく、温室効果ガス(CO2)の排出、燃費規制を法制化している。

 カリフォルニア州が環境規制に積極的なのは、同州が1960年代から70年代にかけて経験した大気汚染や海洋などの環境破壊に対する強い危機意識が背景にある。気候変動についても、近年の高温・乾燥による干ばつ、大規模な山火事被害などを目の当たりにした自治体や住民が強い危機感を持ち、州知事や自治体のカーボンニュートラル政策を強く後押ししている。このような市民の危機意識が自治体の対策強化を後押しする流れは、大規模な台風や洪水被害が頻発する他州にも広がっている。

 アメリカの省エネ性能ラベルの対象製品は幅広く、新しい分野でエネルギー消費増が予想される製品を積極的に対象に加えている点も、日本の参考になる。日本では深刻な大気汚染や河川の汚濁といった環境汚染を目の当たりにした世代が少数派になりつつあるが、アメリカをはじめ世界各国では、若い世代が気候変動に伴う自然災害の脅威を目の当たりにして、温暖化への危機感を強めている。一般市民の環境意識の向上は、今後の日本の温暖化対策を考える上で、注目するべき要素の一つになるだろう。

日本は何に取り込み、世界にどう貢献すべきか

 ACEEEランキングで政策ポイントを向上させた欧州やアメリカの取り組みをみると、今後日本が取り入れることができる政策として、省エネラベル表示の対象の拡大、既存の建築物の省エネ性能向上のための施策などが考えられる。具体的には、エネルギー小売り事業者への省エネ義務付けや、建物の省エネ性能ラベル適用などだ。

 また、ACEEEランキングの付与ポイントは1点だけではあるが、日本は節水に関わる施策評価でポイントを獲得していない。節水は給湯エネルギー量の削減にとどまらず、上下水の処理量削減、処理エネルギーの削減につながる。日本には節水水栓やシャワーヘッド、節水トイレなど、日常生活に浸透している節水の工夫が多い。節水対策も省エネ政策として明確に位置付けることで、他国の見本になるのではないかと考える。

 世界的な気候変動への取り組みが強化され、2050年カーボンニュートラルの実現を掲げる国が増えているが、炭素固定化技術や水素燃料の技術開発にはまだ時間がかかる。実用化に時間がかからない省エネ対策は、30年までに可能な限り実施すべき対策として期待が高まっている。気候変動対策は大気汚染や水質改善のような環境対策と異なり、一部の国や地域だけでは実現できず、温室効果ガスの削減は全ての国と地域で進めなければならない。日本が豊富な経験を有し、ノウハウを蓄積する省エネで諸外国をサポートすることは温暖化対策の有効な手段となり得る。

 すでに、産業部門でのエネルギー管理士の育成という形で途上国への支援が行われている。また、エアコンなどの機器の省エネ基準形成に関わる人材の育成を通じてASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の制度づくりに寄与している。日本の省エネは、まず専門家を育成し、専門家がじかに現場に出向いて得た見識を広げていく、という流れで進められてきた。国ごとにエネルギー事情や経済状況が異なっても、それぞれの事情に合わせて現場で省エネの専門家がサスティナブル(持続的)に省エネに取り組めるような教育、人材育成をサポートする――これが、省エネにおける最も日本らしい国際貢献ではないか。

古くて新しいゼロ・カーボン対策:省エネルギー <2>日本の省エネルギー政策

プロフィル
岡村 俊哉氏( おかむら・としや
 1962年生まれ。88年東京大学工学系大学院修士課程(船舶工学)修了、東京ガス株式会社入社。2021年日本エネルギー経済研究所入所。

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2100602 0 経済・雇用 2021/06/04 11:28:00 2021/06/09 13:18:54 2021/06/09 13:18:54 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210603-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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