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デジタル化と新「流通革命」

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POINT
■ネットを使った産直ビジネスなど、「メーカー(生産者)→卸(問屋)→小売り」という既存の流通構造とは異なる流通チャネルが増えている。

■日本の中間流通の担い手「卸(問屋)」は、半世紀余り前に叫ばれた「問屋無用論」に反発・奮起しながら進化を遂げ、今も大きな役割を果たしている。

■「BtoB」(企業間)で商流(情報の流れ)を効率化する業界インフラがあるが、今後は「BtoC」(企業・個人間)を意識した対応も課題になるだろう。

■物流の現場では効率化が急務だ。今後はデジタル化で流通過程も「見える化」されていき、新たな流通革命を呼び起こす可能性もある。

調査研究本部次長・主任研究員 井深太路 

 インターネットを使った新ビジネスが、コロナ禍の影響も受けて急速に拡大している。日本の流通は、卸などの中間部分が強いのが特徴だが、ネット通販の利用が消費者に浸透したことで、新たな流通チャネルが生まれている。デジタル化は流通過程も「見える化」していく可能性があり、物流基盤を支えてきた既存プレーヤーにも変革を促していくだろう。

産地直送サイトが花盛り

 2016年創業の「ビビッドガーデン」(東京)は、消費者が生産者から直接、食材を購入するためのオンライン直売所「食べチョク」を運営する。実家が農家だった秋元里奈社長が、「こだわって作っても付加価値をつけた価格で売る場所が少ない」という生産者の嘆き声を聞いて、IT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)を退職して起業した。

 食べチョクのサイトには、食材の画像が並び、値段と送料、配送方法、出荷日などが記され、生産者の「こだわり」として生産過程などが分かる情報も手厚く掲載されている。消費者がサイト上で購入すると、生産者が梱包し、宅配便で発送する。価格に「こだわり」を反映させるため、価格は生産者が決め、その8割が生産者、2割が食べチョクの取り分になり、配送料は消費者が負担する仕組み。生産過程と関係者(生産者、食べチョク、消費者)の配分を「見える化」することで、生産者と消費者の直取引が成立しやすい環境を用意した。

 コロナ禍で農林水産省が配送料を補助する事業を実施したことも追い風となって利用者が急増し、2021年6月時点で、登録生産者数が4700軒以上、ユーザー数も50万人を超えたという。こだわり産品をどのように売っていくか、生産者が勉強するセミナーや互いに相談する場も用意するなど、「生産者ファースト」のプラットフォーム作りを掲げる。

 起業にあたって苦労したのは、農家にいかに信用してもらうかだったと秋元社長は自著「365日#Tシャツ起業家」(KADOKAWA)で書いている。以前から、インターネットを使った産直の新規ビジネスは様々な企業がチャレンジしては撤退を繰り返したため、全国の農家を訪ねた秋元社長も「君みたいな人ってよく来るけど、うまくいった試しがないから」と断られ、農作業の手伝いなどで本気度を示しながら、徐々に信用を得たという。

 宅配便は、生産者が選んでいるが、食べチョクはヤマト運輸と連携し、割安な送料となるため、ヤマトを使う生産者が多い。卸売市場などを経由する既存流通との違いについて、ビビッドガーデンの下村彩紀子・広報担当は「在庫管理や梱包・発送は生産者自身が負担するが、売値を生産者が設定でき、手取りが高いところが利点。大量栽培大量発注であれば既存流通の方が向いているだろう」と話す。

 コロナ禍で利用者を拡大させた産直サイトは多数あり、食べチョクのライバルは多い。生産者が自らオンラインの直売サイトを開設しているケースもある。

物流拠点も運営し、チャネルを広げるオイシックス

 ネットを介して生産者と消費者を結ぶビジネスの先駆者は、「オイシックス・ラ・大地」だ。昨年4月に東証一部上場を果たし、2021年3月期の連結売り上げは、コロナ禍もあって1000億円に達したが、2000年の起業当時は苦労の連続だった。創業した高島宏平社長らがネットで有機野菜を売りたいと農家を訪ねても、当時はネット自体が浸透していないから、やはり簡単には信用されない。基本的な事業モデルは、生産者から仕入れた食材をいったん倉庫に集め、ネット注文に応じて倉庫で食材を選んで箱詰めし、宅配便で消費者宅に配達するというもの。当初は倉庫作業を委託していたが、業者の廃業を機に自分たちで倉庫もやるようになった。事業拡大に伴い、集配拠点を大型物流センターに移し、3温度帯(常温・冷蔵・冷凍)に対応できる設備も整えた。

 卸売市場など既存流通との違いについて、同社コーポレートコミュニケーション部の大熊拓夢部長は「価値基準が違う」と説明する。有機などの栽培方法は技術が必要で、手間も掛かる。「一般の流通は、規格に合った、きれいな状態で出荷すれば、あとは重量で価格が決まるが、豊作だと安くなる。我々は、我々の安全基準でおいしいものを作ってくれれば、決まった値段をお支払いする。生産者は収入がだいたい見えるので、投資や雇用の計画が立てやすくなる」。サブスクリプション(定期宅配)型のため、需要が予測しやすいという面もある。既存流通について大熊部長は「中間プレーヤーが多く、伝言ゲームのようになって生産者と消費者の相互理解が難しい」と指摘する。有機野菜などをベースに食品の新市場を開拓中という認識だ。

 オイシックス社も、ネットと宅配便を活用する点では、新興の産直サイトと共通するが、物流拠点を持つことで在庫調整し、多くの注文に応えられる体制を取っている。仕事と育児に追われる家庭の調理時間を短縮するための「ミールキット」の販売も手掛けるほか、一部のスーパーや保育園、ネット通販にも食品を卸している。「ネットや宅配だけではリーチできないお客様に出会いの場を提供できるメリットがある」(大熊部長)という。メインは宅配小売りだが、製造や卸、海外にも進出し、食の領域でチャネル開拓に余念がない。

食品流通チャネルの多様化

 生産者から消費者へ食品が流通する代表的なルートは、農協などを通して卸売市場に出荷され、卸や仲卸などが参加した「競り」「相対取引」などを経て価格や流通先の小売業者が決まる「卸売市場流通」だ。農家にすれば、販売先を見つけてもらえるし、在庫管理も任せられるため、生産に専念できるメリットがある。外観や大きさなどを規格化し、多くの生産物を全国に流通させるシステムとして産地と消費地を支えてきた。

 しかし、こだわって栽培しても価格に反映されにくい面があるほか、天候などで需給バランスが変わると、価格も乱高下する。中間業者が入れば、その分、手数料も発生する。消費者の側でも、食の安全・安心に対する意識が高まり、生産者の顔の見える食品を求めるニーズも増してきた。

 新たなニーズに応えるように、卸売市場を通さない「市場外流通」の割合は増えている。農林水産省の調査では、卸売市場経由率は1990年度は青果81.6%、水産物72.1%だったのが、2018年度はそれぞれ54.4%、47.1%に落ちている。市場外流通には、産直取引、契約栽培、直売所、ネット通販などがあり、契約栽培では食品メーカー、卸、小売りも生産者側から仕入れルートを開拓している。最新チャネルが産直サイトというわけだ。

1960年代に叫ばれた問屋無用論

 日本の流通を欧米先進国と比べると、生産者(メーカー)と小売りを結ぶ卸などの中間流通が発達しているのが特徴だ。仮に、メーカーが5社、商店が5店あったとして、商店が全メーカーの製品を仕入れたい場合、商店は5社を相手に発注や入荷、決済などの業務をしなければならない。メーカー側も事情は同じだ。しかし、中間に卸が1社入れば、メーカーも商店も卸1社とやりとりすれば済み、全体の取引ルートも25(5×5)から10(5+5)に減る。

 卸は便利な存在だが、相応の手数料も発生する。そんな流通構造、とりわけ卸業界にかつて激震をもたらしたのが、1962年に刊行され、ベストセラーになった林周二氏の「流通革命」(中公新書)だ。

 同書は、零細商店が多数を占める小売業界は、当時台頭していたスーパーマーケットが主流になっていくとし、スーパー各店を束ねるチェーン本部が巨大な流通機構を持ち、メーカー(食料品、日用品を問わず)と直接有利に交渉できるようになっていくと指摘。問屋(卸)を通過している消費財の相当部分は、メーカーから巨大小売連合の倉庫などへの直卸形態へ移行し、問屋機構は大幅に排除され、代わって、運輸、倉庫、情報の3機能に徹した合理的な中間機構が設置されるだろうと予言して、世上叫ばれていた「問屋無用論」を拡大させた。そして、少数のスーパー卸(巨大卸)が中間機構を担う可能性にも言及している。

 同書の予言は当たっている部分もある。巨大小売りが価格決定力を強め、卸も合従連衡による大型化が進んでいる。

 しかし、問屋機構の大幅排除には至っていない。卸は今も健在で、運輸、倉庫、情報(取引先に情報提供する機能)の3機能だけでなく、金融(消費者の購入前に生産者に代金を払い、計画的生産を促す機能)や販売支援などの機能も働かせ、中間流通を担っている。この点の評価については、創業300年を超える独立系の卸「国分」の国分勘兵衛会長が2019年、日本食糧新聞のインタビューで語った「流通の中間部分はメーカーでも小売りでも誰が担っても構わないが、結果的に卸が一番優れた機能を発揮し、中間流通機能は卸に任せるのが良いということになった、ということだろう」という分析がわかりやすい。国分会長は、現在も同じ認識であると、21年6月の筆者の問い合わせに答えている。

中間流通を支える卸の機能とは

 国分の創業は江戸時代中期の1712年。江戸・日本橋に店を構え、呉服やしょうゆ醸造を手掛けた。1880年(明治13年)に食品を扱う問屋になり、現社長の国分晃氏は2017年、12代国分勘兵衛である国分会長から社長を引き継いだ。連結売上高は1兆8000億円余で、内訳は食品が64%、ビールも含む酒類が31%となっている。

 国分が取引するメーカーは約1万社で、そこから仕入れた商品をスーパー、コンビニ、百貨店、ドラッグストア、外食・給食事業者、通販・ネット事業者など計約3万5000社に卸している。約60万アイテムという多種多様な商品を全国の小売りに振り分ける結節点になっており、国分グループ本社の花沢裕広報課長は「商品にはエリア特性もあり、北海道と九州で食べものが違うし、旬の時期も異なり、細かい対応を卸が支援している」と説明する。物流や需給調整、金融などの機能に加え、メーカーの商品開発のお手伝いや、小売りの販促・マーケティング支援も手掛けており、大手のネット通販会社からも品ぞろえや商品開発の支援を求められるという。

 国分は2010年に「問屋国分ネット卸」を始めた。離島や山間部など仕入れが困難な地区の商店などからネットで注文を受け、宅配便で供給する事業だ。事業を始める前、山間部の小売業者にヒアリングに行った黒崎雅人・商品開発部ギフト・EC開発課長は、年配の小売店主から「元気なうちは週1回、朝4時起きで町の市場に仕入れに行くが、難しくなったら、運賃を別に払ってでも仕入れたい」と言われた。ヤマト運輸の担当者と過疎地の店を支援する相談をしていたため、事業化に踏み切ったが、宅配便の送料を小売店に負担してもらっても、国分にとってはシステム投資や人件費などを回収できず、事業単体では赤字が続いた。続けるうちに、ネット通販を展開する小売業者が、国分ネット卸を活用して「ドロップシッピング」(ネット通販業者が注文を受け、卸の倉庫などから消費者に直接配送する方式)を行うケースが増えた。小売業のネット通販で消費者が買い物をすると、データ連携した国分が自社倉庫や産地から宅配便で消費者に商品を届ける仕組みだ。小売りにとっては、店頭にない商品を在庫なしで扱えるメリットがある。通販サイトを持つ小売業にも利用が広がったことで、国分ネット卸は黒字化を達成した。

 配送に宅配便を使うのは、従来の卸の物流とは相反する手法だ。卸の物流は、物量をまとめることで低コストの配送サービスを提供する点に使う側のメリットがあった。一般的に、荷物単位の宅配便よりもトラック単位で物量をまとめた方が配送単価は下がる。しかし、きめ細かい宅配網の先に仕入れ難民がおり、その先に買い物難民もいる。国分全体から見れば、売り上げは小さいが、社会インフラとしての役割も小さいとは言えない。

物流センターでは、大量の食品が方面別に自動仕分けされた後、カゴ台車に積まれて出荷を待つ(国分グループ本社提供)
物流センターでは、大量の食品が方面別に自動仕分けされた後、カゴ台車に積まれて出荷を待つ(国分グループ本社提供)

 小売業界でネット通販が勢いを増しており、卸としても、店舗ではなく小売りの物流センターに商品を出荷するパターンが増えている。最近のネット通販の隆盛について、国分の神谷幸嗣・営業戦略統括部EC/宅配担当部長は「全国の多種多様な商品をローコスト(低料金)でそろえる卸の機能は活用したほうがいいと、EC(電子商取引)事業者側にもご理解いただいている」と説明する。ただ、一方で「通販の物流センターは在庫調整など、これまで卸が担ってきた機能も持っている。ネット社会で商品情報もあふれており、卸が担ってきた情報機能にも独自の付加価値が必要になる」と課題も口にする。店頭での棚割り提案(どんな商品をどう陳列するか)や季節ごとの細かい販促支援など小売り側に提供してきた機能は、ネット通販にも通用するが、提供の形は変化する。乱立する物流センターのオペレーションも任されるかどうかは、国分会長が言うように、「一番優れた機能を発揮」できるかどうかにかかっている。

 注目領域は、温度管理が必要な食品流通と海外市場だ。働く女性が増えたことで、冷凍食品市場は拡大している。「一昔前は冷凍食品を使うことに後ろめたさを感じる女性も多かったが、今はほぼない」(花沢課長)という。海外市場は、人口減の日本では長期的に消費財市場の縮小が避けられないと見ているからで、効率的な中間流通の仕組みを輸出することに狙いがある。

 経産省の商業統計で1988年と2014年を比べると、小売りの事業所数が162万から102万に減ったが、年間販売額は115兆円から122兆円に増え、大規模化の流れが読み取れる。卸は、事業所が44万から38万に、販売額が446兆円から357兆円に減っている(卸は、メーカーに原材料を提供する卸や、1次卸、2次卸などの多重構造があるなど範囲が広いため数字が大きくなる)。卸の数字の減少は流通経路の簡素化も意味しているとみられるが、それでも、存在感は大きい。14年の小売業販売額を仕入れ先別で分類すると、「卸売業者・その他」が66.6%を占めており、各種商品小売業(スーパーや百貨店など)では8割以上に上る。

 卸の歴史は古く、中世では「 問丸(といまる) 」と呼ばれ、物資の輸送や管理を担っていたが、産地と消費地の中継業として次第に力をつけ、江戸時代には「そうは問屋が卸さない」という言葉がある通り、大きな権力だった。戦後は、大型小売りの出現で相対的に力は弱まり、小売りが物流センターを持ったり、メーカーと直接取引をしたりして、卸の領域は狭まったようにも見える。しかし、小売りの物流センターでも、オペレーションは卸や物流会社が「黒子」として支えているケースは多い。倉庫管理システムや受発注システムは卸の仕組みを使い、卸の社員が常駐するケースもある。「業種店」から「業態店」へと変貌し、少量・多頻度配送を求める小売り側のニーズに合わせて、卸も変化を遂げてきた。小売りの業態とは、スーパー、コンビニ、ドラッグストア、そしてネット通販だ。外食産業向けの流通でも、卸は中間で束ねる役割を担っている。

商流を支える情報インフラと標準化の取り組み

 流通構造は「商流」と「物流」に分解することができる。商流は受発注や入出荷、請求などの情報の流れ、物流は商品など物の流れを指す。商流情報は、かつては電話やファクスでやりとりされたが、1985年に日用品・化粧品業界で、翌86年には加工食品業界で、当時は業界VAN(付加価値通信網)と呼ばれたEDI(電子データ交換)の仕組みがスタートした。通信自由化に伴い、業者間の受発注情報などを共通の通信手順やデータフォーマットに基づき、メーカー・卸間でやり取りし、互いの業務を省力化しようという業界の取り組みだった。

 日用品・化粧品業界でEDIを運営するのは、ライオン、ユニ・チャームなど主にメーカー出資の株式会社「プラネット」だ。同社の基幹EDIを利用するのは2021年6月現在、日用品・化粧品業界、ペットフード・ペット用品業界、OTC医薬品(市販薬)業界のメーカー786社と卸496社。伝票のペーパーレス化に寄与するインフラだが、業界の全社に普及しているわけではない。プラネットの上原英智執行役員によると、日用品・化粧品業界のメーカー・卸間の取引額のかなりの部分をカバーするものの、卸からデータを受け取ったプラネットが、ファクスに変換して送っている中小零細メーカーが全体で約1800社ある。こうしたメーカーは、ファクスで発注を受けると、自社システムで発行した伝票を郵送で卸に送ることが多い。卸にすれば、業務のスピードが落ちるが、小規模ながら特徴ある製品を作るメーカーも多く、多様な品ぞろえの維持には欠かせない。プラネットでは商品データベース(DB)も運用しており、メーカーが新製品をDBに登録すれば、卸が効率的に情報を収集できる。

 プラネットのEDIは、卸を通して流通させることを前提にした枠組みだが、「花王」のように、プラネットを一部利用しつつも、大半の取引は自前の販売ルートで流通させているケースもある。これとは別に、近年、メーカーが消費者とネットで直につながる販売サイトを設けるケースが目立っているといい、上原執行役員は「高価格商品については、(卸も小売りも通さず)生活者と直接つながってロイヤルカスタマー(忠誠心が高い顧客)を作りたいというのがメーカーの本音だろう」と分析する。一方で、「卸側にもメーカー機能や小売り機能を持つ動きが出ており、今後、事業領域を広げていくのでは」とも予測する。

 卸をはさんで流通を「川上」と「川下」に分けると、プラネットは川上部分の商流を担っていることになるが、川下部分では、小売業界主導で標準仕様「流通BMS(ビジネスメッセージ標準)」が策定され、2009年度から一般財団法人「流通システム開発センター」が流通システム標準普及推進協議会を組織して管理を始めた(流通BMSは基本的に卸・小売り間だが、牛乳など鮮度が重要な商品についてはメーカー・小売り間で利用している)。BMS策定前にも旧手順があったが、坂本真人・同協議会事務局長によると、標準仕様の管理体制が整っていなかったため、小売業者ごとの独自のフォーマットが乱立してしまった。そこでBMSを定めたわけだが、卸は、インターネット事業者のサービスを利用して自社フォーマットに変換して取り込んだ上で、そのままメーカーに流すのではなく、複数の小売業者の情報を自社在庫の状況も加味してメーカーに流す運用が多いという。

 商流を標準化する取り組みは、川上と川下でインフラが別建てになっているわけだが、統一の動きは表面化していない。小売り・卸間のやりとりには店舗情報も含まれるなど、川上と川下で取引プロセスが異なることなどが背景にある。

 変化の風も吹いている。同じ小売りでも、ネット通販が中心の業者の中には、流通BMSを利用しないケースもある。流通BMSは「BtoB(企業間)」を想定した仕組みだが、ネット通販業者は、その先のC(消費者)も意識し、よりきめの細かい商品情報を必要としていることが関係しているようだ。同センターでは、商品についているバーコード(JANコード=商品識別番号)も管理しているが、センターが加盟する国際的な標準化団体「GS1」(本部・ブリュッセル)では、ネット通販の商品にコードが適切に付いているかどうか確認しやすい仕組み作りの検討が始まっているという。

ネット通販は今後も成長

 日本では1995年を「インターネット元年」と呼ぶことが多い。阪神大震災でボランティアが活用したことやウィンドウズ95の発売などが普及の契機となったが、「通信販売」はその前から盛んだった。通販の一般的な定義は、「メディア」で商品を紹介し、「通信」で消費者から注文を受けて販売する、というもの。「メディア」には、ネットのほか、カタログやチラシ、テレビ・ラジオ、新聞広告などが、「通信」には電話や郵便なども含まれる。

 日本通信販売協会(JADMA)が設立されたのは1983年で、当時はカタログ通販が多かった。協会の調査では、2019年度の通販業界の売上高は推計8兆8500億円となり、前年度比で8.2%増。この10年で倍以上に膨らんだ。協会が2020年の通信販売での買い物について、何を見て購入したかを700人余に尋ねたら、<1>携帯電話・スマホ・タブレット63.5%<2>パソコン27.3%<3>テレビショッピング22.4%<4>新聞広告11.9%<5>折り込みチラシ11.5%<6>国内カタログ10.6%などとなり、やはりネット通販が主流になっていることがうかがえた。

 経産省の「電子商取引に関する市場調査」は、「インターネットを利用して受発注がコンピューターネットワークシステム上で行われる」が要件で、2019年のBtoC(企業・個人間)-EC市場規模(推計)は物販系が10兆515億円、前年比8.09%増だった。日本の個人消費の物品購入が約149兆円だとして、EC化率を6.76%とはじいている。品目では、家電や書籍などのカテゴリーが30%以上と高い反面、「食品、飲料、酒類」は2.89%と低い。日米英の2018年のEC化率は日本6.22%、米国9.85%、英国20.67%となっており、日本のネット通販は伸びしろがありそうだ。

これからの日本の流通構造は

 前出の林氏の「流通革命」は、将来は小売りが巨大チェーン化し、メーカーとの地位が逆転すると示唆したが、指摘の通り、近年の流通の力関係は小売り側が優位に立っている。モノが不足した時代は供給側に力があったが、モノがあふれてくると、選別する消費者が力を持ち、消費者と接点を多く持つ企業が有利になる。近年のベンチャー企業の成功条件の一つは、徹底的に顧客視点でビジネスを構築することであり、タイミングよくデジタル技術を投入すれば、成長は加速する。

 デジタル化の進展により、近年は生産者やメーカーも消費者と直接つながるツールを持ち始めた。物流は宅配便でカバーできるから、個人向け流通は多様化が進んでいる。日本では宅配会社のきめ細かい配送網が確立されており、それがビジネスの基盤になる。国際的に見ても、日本の宅配は、配達日時の正確さ、丁寧な荷扱い、顧客目線のサービスという点でレベルが高く、新規の通販ビジネスが参入しやすい面はあるだろう。宅配会社も、コロナ禍でネット通販の荷物が増えており、ヤマト運輸によると、最初の緊急事態宣言が出た2020年4~5月に利用者のすそ野が一気に広がり、その後も増加傾向が続く。同社自身、ライブ動画配信事業者と連携し、ネット中継で商品を紹介・販売する「ライブコマース」で生産者を支援する事業に乗り出している。個人向けの流通拡大は、宅配会社に商品開発を促すとともに、軽トラック配送を請け負う企業や個人の参入や、仕事の形態は違うが、自転車やバイクでの配達も増やすなど、ラストワンマイル領域で新たな競争を生んでいる。

 「BtoB」(企業間)の流通はどうか。

 社会が豊かになると、商品の種類や量が増大し、生産と消費の間でさばく機能の強化が求められ、卸の組織は重層的に発展したが、外からは見えにくく、複雑ゆえに理解もされにくい。その機能は多岐にわたるが、単純化すれば、生産地で良い商品を探し、消費地に運び、商人に売ることだ。そこでは、目利き力と信用がものを言う。単純な取引は相対でもよいが、取引が複雑になるほど、有能な仲介者の存在は貴重であり、それは公正な第三者が望ましく、信用と経験と判断力が求められる。中間流通は、誰が担っても良いが、誰でも担えるものでもない。

 卸が提供してきた中間流通のオペレーションは効率的である反面、卸とともに物流を支えてきた運送会社の現場では、トラック運転手の待遇改善が喫緊の課題になっている。「製(メーカー)・配(中間流通・卸)・販(小売り)」の3層が連携し、物流効率化を模索する動きが始まっているが、労働集約型の現場をデジタルで効率化していくのは、簡単な作業ではない。倉庫内の自動化は進みつつあるが、倉庫とトラックの接続部分は課題が多い。ドライバーの荷待ち時間や手積み・手おろし、検品作業などを軽減・効率化するため、物流の規格を標準化する取り組みは緒に就いたばかりだ。

 今後の流通は、デジタル化の進展で中間でつなぐ仕事も「見える化」されていくだろう。「BtoC」まで意識した商流の構築やSDGsなど新たな課題に対応する力も求められる。デジタル消費革命とも言える状況の中、消費者という最終判定者は、生産過程だけでなく、流通過程への監視も強めていく。新たな流通ルートが生まれ、無駄なルートは除かれる。本質的な価値を提供し、変化のスピードに対応できる者だけが、流通業界で生き残ることになる。

*  *  *  *  *

 この拙文を執筆中に、林周二氏の訃報が入った。日本の流通業界に大きなインパクトを与えた林氏の著作を読んで奮起し、業界の発展に尽力したという経済人は多い。謹んでご冥福をお祈りしたい。

※この論考は調査研究本部が発行する「読売クオータリー」掲載されたものです。読売クオータリーにはほかにも関連記事や注目の論考を多数収載しています。最新号の内容やこれまでに掲載された記事・論考の一覧は こちら にまとめています。
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2503987 0 経済・雇用 2021/10/29 09:50:00 2021/10/29 09:50:00 2021/10/29 09:50:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/11/20211105-OYT8I50061-T.jpg?type=thumbnail

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