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技術革新がもたらす新しいゼロカーボン・エネルギー技術<1>植林でどこまでCO2を吸収できるか

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POINT
■主要国には、2050年に向けて森林等吸収源による吸収量を大きく増加させる動きがある。森林吸収源が減少傾向にある中で、建築物や木材製品へのCO2貯蔵を進めるフランスなどの取り組みが注目される。

■日本の森林等吸収源による年間の吸収量は、2003~19年でほぼ半減している。減少の要因としては、人工林の老齢化による吸収量の頭打ちがある。吸収量を増やすには、いったん老齢化した人工林を伐採し、成長の速い若い森林を再造林していく必要がある。

■しかし、伐採コストは高く、伐採を促進するには価格インセンティブ(価格による動機付け)をどう与えるか、伐採コストをどう低減するかが課題となる。森林から木材を伐採したとしても、引き続きCO2を建築物や木材製品に留めおき、大気に放出しないことが重要となる。

 「カーボンニュートラル」とは、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温暖化ガス排出量をまったくゼロにするということではなく、大気への排出量と大気からの吸収量をバランスさせることを意味する。排出量をゼロにすることは難しく、植林などで吸収源の森林を増やしたり、CO2除去技術を活用して吸収量を確保したりしなければ、カーボンニュートラルは達成できない。まず、森林などの吸収源を増やす取り組みはどこまで進んでいるかに焦点を当てる。

日本エネルギー経済研究所 研究主幹 田上貴彦  

森林が最も増えている国は?

 国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書によると、全世界で1年間に大気に排出されたCO2(2010~19年の平均)は、約400億トンにのぼる(注1)。化石燃料の燃焼とセメント製造により年間で340億トン、森林破壊など土地利用の変化によって59億トンが排出されているが、大気中のCO2が400億トン純増したわけではない。排出されたうち92億トンが陸域(森林など)に、120億トンが海洋に吸収され、大気中に残ったのは約190億トン。森林は、大気に排出されるCO2の約2割を吸収する大きな役割を果たしている。

 国連食糧農業機関の「世界森林資源評価2020」によると、世界の森林面積(2020年時点)は40.6億ヘクタールで、陸地面積の約3割は森林に覆われている。森林面積が大きい国の1位はロシアで、以下ブラジル、カナダ、米国、中国の順となり、これら5か国で世界の森林面積の半分以上を占めている(表1)。一方、森林の立ち木の体積にあたる「蓄積量」が最も大きいのはブラジルで、以下ロシア、カナダ、米国、コンゴ民主共和国と続く。森林面積と蓄積量が大きい国について面積当たりの蓄積量を比べると、コンゴ民主共和国が最も大きく、以下ブラジル、米国、カナダ、ロシア、中国の順となる。熱帯雨林ほど大きく、このような国の森は豊かということができる。

出典:FAO,Global Forest Resources Assessment 2020
出典:FAO,Global Forest Resources Assessment 2020

 世界の森林面積は1990年の42.4億ヘクタールから2020年の40.6ヘクタールへと微減している。その中で、2010~20年の森林面積が最も純増しているのは中国だ(表2)。一方で純減幅が大きい国は、ブラジル、コンゴ民主共和国、インドネシア、アンゴラなどで、これらの国では森林破壊が進んでいる。原因としては過剰伐採、食料確保のための森林から農地への転換などが考えられる。また、森林の年平均蓄積増加量でみると、最も増えているのは中国で、米国、ルーマニア、フランス、ポーランド、スウェーデンが続いている。

出典:FAO,Global Forest Resources Assessment 2020
出典:FAO,Global Forest Resources Assessment 2020
FAO,Global Forest Resources Assessment 2020のデータをもとに作成
FAO,Global Forest Resources Assessment 2020のデータをもとに作成

 蓄積量は樹木の体積あたりのCO2のストックの量、吸収量はCO2が樹木に吸収されるフローの量を指し、蓄積量の増加はCO2吸収、減少はCO2排出を意味する。蓄積量では樹木の体積、吸収量はCO2(炭素量)で比較するが、一般的に樹木の体積1立方メートル当たりの重量(乾物ベース)は0.5トン前後、乾物ベースでの重量1トン当たりの炭素量は0.5トン程度とされ、樹木の体積1立方メートル当たりの炭素量は0.25トンとなる。炭素とCO2の分子量の比は12:44なので、樹木の体積1立方メートル当たりのCO2の量は約0.9トンとなる。

 この数字を使って、蓄積量の増加から2010~20年のCO2の吸収量を推計したのが表3だ。この間に植林などによって最もCO2吸収量を増やしたのは中国で、欧米諸国も数字を伸ばしていることがわかる。

各国はどんな工夫をしているか

中国内陸部には砂漠が広がる(NASA World Wind)
中国内陸部には砂漠が広がる(NASA World Wind)
出典:各国NDCから作成
出典:各国NDCから作成

 中国とインドはパリ協定のNDC(Nationally Determined Contribution=国が決定する貢献策、2030年目標)として、森林等吸収源に関する目標をもっている(表4)。中国は、1998年に水源地域の荒廃が要因となって拡大した長江などでの大洪水をきっかけに、森林保護・造成政策を強化する国家プロジェクトを進めてきた。

中国は、2030年までに森林蓄積量を05年と比べて60億立方メートル増やすとしているが、これは年平均で2.4億立方メートル増やせば達成できる。表2の通り、中国は2010~20年に年平均で4.2億立方メートル森林蓄積量を増やしているから、目標の達成は確実とみられる。

 欧州諸国を含む主要国の長期シナリオ分析をみると、どの国も50年に向けて森林などの吸収源による吸収量を大きく増やすことを見込んでいる(図1)。フランスは吸収量を20年の3900万トンから50年に6700万トンに増やすが、この量は同国の20年のCO2などGHG(Greenhouse Gas=温室効果ガス)総排出量の15%に相当する。欧州連合(EU)も20年の3.2億トンから50年には5.0億トン(20年のGHGの13%に相当)に増やす。中国は、20年の7.2億トンを50年には7.8億トン(同6%に相当)にする。20年には1200万トンの「排出国」だった英国は、50年には1900万トンの「吸収国」(同4%に相当)に転換することを目指している。

出典:各国長期シナリオ分析から作成
出典:各国長期シナリオ分析から作成

 フランスは、減少傾向にある森林吸収源の維持に取り組むとともに、建築物や木材製品へのCO2貯蔵を進めている。木材に含まれているCO2は伐採時にすべて大気に排出されるというこれまでの考え方を改め、建築物や木材製品が廃棄・腐朽するまで大気に排出されないようにする。CO2をたくわえた木材は「伐採木材製品」と呼ばれ、13年から国際的にも認められている。フランスの森林のCO2吸収量は15年の6200万トンから50年には3100万トンに減少する見通しだが、長寿命の木材製品への貯蔵は、逆に15年の500万トンが50年には2100万トンに増加する見通しだ。

 EUの対策は森林管理と新規植林が中心となるが、そのインセンティブとしてカーボンプライシングが検討されている。21年12月には、「森林等吸収源クレジット制度(注2)」の素案が提示される予定になっている。

 英国は、50年までに新規植林で1200万トン、泥炭地の修復で1000万トンの吸収量増加を見込む。今後、肉食の削減などによる農業生産減に伴って農地の20%が放出されるとみて、それを新規植林などの土地に充てるとしている。

 主要国の中では、森林吸収源が減少傾向にある中で、建築物や木材製品へのCO2貯蔵を進めるフランスの取り組みが注目される。

日本は京都議定書をどうクリアしたか

出典:林野庁「森林資源の現況」
出典:林野庁「森林資源の現況」
出典:国立環境研究所「日本国温室効果ガスインベント」をもとに作成
出典:国立環境研究所「日本国温室効果ガスインベント」をもとに作成

 日本の森林面積は2017年の時点で2505万ヘクタールと、国土の約7割を占める。面積は1966年の2517万ヘクタールと大きな変化はない(図2)が、森林蓄積量は、66年の18.9億立方メートルから2017年には52.4億立方メートルへと3倍弱も増えている。

 増加のほとんどは人工林の蓄積量増加によるものだが、人工林が豊かになっているわけではない。輸入材の価格のほうが安いため国内材が売れず、労働力の高齢化も進んで伐採ができず、体積が増加してきたというのが実態だ。

 近年は森林の高齢化によって体積の伸びが小さくなり、吸収量の増加幅も年々小さくなっている。森林等吸収源による吸収量は、03年の9800万トン(CO2換算<CO2e>)から19年は5000万トンへと、ほぼ半減している(図3)。

 08~12年の京都議定書第1約束期間には、追加的な間伐等の森林整備が実施され、吸収量の増加がみられた。この期間のGHG排出削減目標は「1990年比6%減」だったが、実は排出量自体は1.4%増加している。森林等吸収源による吸収量が年平均で4900万トン(3.9%分)あり、さらに京都メカニズムのクレジット5.9%分をあわせると、差し引きのネットで8.4%の排出削減を達成した。

 2003年以降の吸収量の減少は、人工林の老齢化で吸収量が頭打ちとなっていることが要因だ。1960年代には大規模なスギの植林が行われたが、64年に木材輸入が自由化された。73年には木材総需要量が、80年には木材価格がそれぞれピークを迎えたが、その後は需要が減り、価格も下がったことで植林が大きく減少した。60年代の植林地は現在、花粉症の一つの要因となっているが、林齢が50年を超え、2017年には、林齢51年以上の人工林が全人工林面積の半分を占めるようになった。吸収量を増やすには、老齢化した人工林をいったん伐採し、成長の速い若い森林を再造林していく必要がある。

 林業経営統計調査(注3)によると、林齢50年までのスギ人工林の造成に要する費用(2018年)は1ヘクタール当たり116万円とされる。日本の人工林の1ヘクタール当たりの蓄積量は324立方メートルなので、蓄積量1立方メートル当たりでは3600円程度となる。CO2の蓄積量に換算すると、人工林の蓄積量を1トン増やすために、約4000円の造成費用が必要ということになる。

日本は、何を、どこまでできるのか

出典:林野庁「木材需給表」
出典:林野庁「木材需給表」

 日本は2021年10月12日、国連気候変動枠組み条約事務局に提出したNDCの更新版で森林等吸収源の30年の目標を3690万トンから4770万トン(13年度の排出量の3.4%相当)に引き上げた。この新目標を達成するため、10月22日に閣議決定された改定地球温暖化対策計画では、「 () って、使って、植える」循環利用が提案されている。

 伐採・利用の状況をみると、国内生産材による供給量は、02年の1700万立方メートルを底に、20年には3100万立方メートルまで回復している(図4)。内訳をみると、丸太(用材)はほとんど増えていないのに対し、燃料材(890万立方メートル)、輸出(300万立方メートル)が増加している。

出典:令和2年度森林・林業白書
出典:令和2年度森林・林業白書
林業機械(ハーベスタ)の作業風景(秋田県大仙市で)
林業機械(ハーベスタ)の作業風景(秋田県大仙市で)

 日本の木材価格(立ち木価格、伐出コスト、運材コストおよび流通コスト)は、1立方メートル当たり約1万4000円と、海外に比べてかなり高い(注4)。にもかかわらず燃料材の供給や燃料材が増えているのは、<1>再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の導入でバイオマス発電が増え、燃料用チップの価格が上昇した<2>2000年前後から中国の需要が増え、さらに各国が伐採・輸出制限を始めたことで、木材の国際価格が上昇している――などの要因がある。木材価格が伐採の促進につながるといえそうだが、伐採が進むのは条件のよい森林に限られている可能性もある。

 一方で、機械化による林業作業の省力化による伐採コスト低減の取り組みも進んでいる。森林・林業白書には、林業機械(ハーベスタ)の導入によって生産・流通コストが1立方メートルあたり約4000円に改善された例も紹介されている。

伐採した木を燃やさない知恵を

 CO2排出量削減の観点からみると、燃料材や輸出には懸念要素もある。木材を燃やせば、木材に吸収されていたCO2は大気に放出され、CO2削減量は差し引きゼロになってしまうし、輸出された木材は国内のCO2ストック量から外れてしまうのだ。せっかく大気から吸収したCO2を再び放出させないためには、引き続きCO2を建築物や木材製品に留めおくことが重要だ。燃料材には廃棄された建築物や木材製品の廃材を活用するといったカスケード利用(再利用)が考えられてよいだろう。

国産材CLT(直交集成板)パビリオン(CLT PARK HARUMI)出典:三菱地所報道発表
国産材CLT(直交集成板)パビリオン(CLT PARK HARUMI)出典:三菱地所報道発表

 木材の建築物への利用を増やすため、木造建築物の高層化に関する技術開発も進んでいる。19年11月には東京・晴海に、国産材を用いたCLT(Cross Laminated Timber=直交集成板)パビリオンが 竣工(しゅんこう) した(注5)。21年3月には仙台市に7階建ての木造オフィスビル「高惣木工ビル」が完成し、横浜市では11階建ての木造研修施設が建設中だ。

 吸収量の増加のための再造林には、まず伐採が必要となる。しかし、伐採コストは高く、伐採を促進するには、価格インセンティブをどう与えるか、伐採コストをどう低減するかが課題となる。また、森林から木材を伐採したとしても、CO2を大気に放出しないよう、引き続きCO2を建築物や木材製品に留めおくことが重要となる。木造建築物の高層化のための技術開発にも注目したい。


(注1)2021年8月に発表されたIPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書。
(注2)森林管理などによる温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして認証する制度。EUの各国政府は、クレジットを買って排出量削減目標の不足分を補うことができる。
(注3)農林水産省平成30年林業経営統計調査報告(2018年調査)。
(注4)令和2年度「森林・林業白書」に引用された森林研究・整備機構の研究成果。
(注5)2021年7月に岡山県に移築された。


プロフィル
田上 貴彦氏( たがみ・たかひこ
 1988年東京大学教養学部卒、93年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、97年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。97年科学技術振興事業団CREST研究員、2003年日本エネルギー経済研究所研究員。


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2509425 0 経済・雇用 2021/11/10 12:57:00 2022/01/14 14:22:50 2022/01/14 14:22:50 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/11/20211109-OYT8I50061-T.jpg?type=thumbnail

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