安定供給優先の現実的エネルギー戦略を

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POINT
■原油や液化天然ガス(LNG)の高騰は、「日本のエネルギー供給は綱渡り」という事実を改めて突きつけた。だが、岸田首相の所信表明から危機感は伝わらない。

■岸田内閣は、菅前政権がまとめた第6次エネルギー基本計画を、ほぼそのまま閣議決定した。2030年度までに、電力に占める再生可能エネルギーの比率を現在の約2倍に増やす目標を掲げた。

■温暖化対策は急務だ。火力頼みの電源構成を変えねばならない。ただし、再生エネの急拡大は容易ではない。コストや電力供給の安定性などに課題が残る。

■安全確保を大前提に原発を活用することも選択肢となる。しかし、政府の原発政策は将来ビジョンが見えない。現実的なエネルギー政策を早急に描くべきだ。

調査研究本部主任研究員 林田晃雄 

 岸田内閣は、政権発足から1か月あまりの2021年10月22日、第6次エネルギー基本計画を閣議決定した(注1)。菅前首相の野心的な温室効果ガス削減目標を達成するため、再生可能エネルギーの急拡大を掲げた前政権の原案を踏襲した。天候などで大きく変動する再生エネに大きく依存して、電力の安定供給は確保できるのか。不安の残る計画である。

コロナ後の新・観光戦略論

 折しも、原油が急騰し、エネルギーの安定供給の重要性を再認識させられた中での決定だった。岸田首相の所信表明演説からは、エネルギー問題への危機感は伝わってこなかった。約半世紀前の石油ショックで、日本はエネルギー安定供給の大切さを思い知ったはずだ。日本のエネルギー戦略は、本当にこのままでいいのか。

電力は温室効果ガスの「大排出時代」

写真はイメージです
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 菅前首相は2020年10月26日の所信表明演説で、「2050年カーボンニュートラル」を目指すと宣言した。二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を大幅に減らし、残る排出分も森林拡大などの吸収量増加で打ち消す「実質ゼロ」を目指す。菅首相は21年4月22日には、30年度までに排出量を13年度比46%削減する野心的な目標も掲げた。その達成に向けて、エネルギー基本計画は、30年度の電源構成に占める再生可能エネルギー比率の目標を、「22~24%」から「36~38%」に引き上げた。

 むろん地球温暖化対策は喫緊の課題だ。海水面の上昇や激甚化する豪雨災害など温暖化の弊害は既に顕在化している。

 日本では、温暖化の原因となるCO2の約4割が、発電などの「エネルギー転換部門」から排出されている(注2)。家庭から出たCO2も、19年度は電力からが45.1%を占め、ガソリンから(25.1%)、都市ガスから(8.9%)などを大きく引き離している(注3)。温室効果ガスの排出量を減らし、カーボンニュートラルを実現するには、再生エネなどCO2を出さない電源の比率を高めることが欠かせない。とはいえ、たやすい道ではないことは、日本の電力事情を見ればわかる。

 最大の問題は、日本の電源構成が、CO2排出量の多い火力中心であることだ。

化石燃料に過度に依存するリスクが顕在化した石油ショック当時、火力の比率は70%強だった。その後、原子力発電所が相次いで新設されたことで、電源は多様化した。火力は55~65%の水準で安定して推移していた(注4)。

 この電源バランスが一気に崩れたのが、東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故の後である。安全性確認のため原発は相次いで運転を停止した。その代わりに日本の電気を支えたのが、液化天然ガス(LNG)、石炭、石油を3本柱とする火力発電だ。

 原発の比率は、福島第一原発事故の前は3割前後だったが、13年度に1%、14年度はゼロになった。火力の比率は13~14年度、88%に達した。CO2を出さない原発がすべて止まり、その大半を火力が肩代わりした。日本の電力は、CO2の「大排出時代」を迎えたといえる。

「汚く」「高く」なった日本の電気

 その後、原子力規制委員会が定めた新たな安全基準の審査にパスした原発の再稼働が進められた。それでも2019年度の原発比率は6%にとどまる。震災前のほぼ5分の1である。一方、火力は依然として76%を占めている(注5)。一方で、クリーンエネルギーの代表である水力や太陽光、風力など再生エネの比率は、震災前の9%から、19年度は18%に倍増した。このうち水力を除く太陽光や風力などの「新エネルギー」は、震災前は2%だったが、19年度は10%に大きく伸びた。

 その原動力が、再生エネで発電した電気を事前に決めた価格で電力会社が買い取る「固定価格買い取り制度」(FIT)である。12年度に導入された際、1キロワット時(kWh)当たりの買い取り価格は、大規模太陽光発電が40円(税別)と、風力(22円=税別)などより割高に設定された(注6)。20年間、高値買い取りが保証されるとあって、「太陽光バブル」といわれるほど導入が殺到した。

 再生エネは、発電時にCO2を出さず、国内自給できる利点がある。導入を後押しするFITの狙いはわかるが、太陽光の買い取り価格が当初、高すぎたために、日本の再生エネを割高にしてしまった。

 実際に、利用者の負担は大きく増えた。FITによる電力会社の買い取り負担は「再エネ発電賦課金」などの名称で電気料金に上乗せされる。標準的な家庭の電気使用量を月300kWhとすると、家計が負担する再エネ向けの上乗せ額は、制度が始まった12年度は年800円足らずだった。これが、21年度には1万2000円を超えた(注7)。

 東日本大震災後、日本の電力の大半がCO2を大量に排出する火力となり、一部はクリーンな再生エネの導入で補った。再生エネは太陽光を優遇しすぎたFITによってコスト高になった。日本の電力は震災を境に「汚く」「高く」なったと言える。

石炭火力が原発の代替電源に

 日本の電力が火力頼みという現状は、世界的な「脱炭素」の流れに逆行する。2018年時点で、先進7か国(G7)のうち火力の比率が70%を超えているのは日本だけである(注5参照)。

 中でも最近やり玉に挙がっているのが石炭火力だ。LNG火力の2倍もCO2を排出する。それでも、日本で石炭火力がなかなか減らないのはなぜか。第一に、燃料コストが安く、一度稼働すれば発電量が安定している優れた特性が挙げられる。産出地が中東などに偏った石油や天然ガスとは違い、石炭は世界各地で産出されるため調達先を多様化しやすい。燃料を安定して確保できるエネルギー安全保障の面でも優れている。

 燃料コストの低さや稼働の安定性など、安価で安定した電力供給に資するという特性で、石炭火力は原発と共通する部分が多い。原発が止まる中で、電力の安定供給を支える柱として、震災後は全発電量のほぼ3分の1を賄うことになった。

 震災前に54基あった原発は33基に減り、再稼働は21年12月7日時点で10基にとどまる(注8)。電力の3割を担う主力電源だった原発が止まった急場をしのぐため、石炭火力に頼ったのはやむを得ない面もある。とはいえ、その環境負荷の大きさから、国際的に批判が強い石炭火力への依存を、いつまでも続けていくわけにはいかない。

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