経済安全保障とバズワードの罠
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ロシアのウクライナ侵略は、多くの人に経済安全保障の重要性を印象付けた。

ロシアは原油の輸出量が世界2位、天然ガスは世界首位のエネルギー大国だ。そのロシアが戦争を始めたことで原油やガスの供給不安が広がり、国際市況は急騰した。日本などエネルギー輸入国にとって厳しい事態となっている。
とりわけ、欧州への影響は大きい。欧州連合(EU)加盟国のエネルギー輸入は2021年、原油の27%、天然ガスの45%をロシア産が占める。
冷戦終結後、欧州では西側の北大西洋条約機構(NATO)が東方に勢力を拡大し、反発するロシアとの間で緊張が高まっていた。それでも欧州各国は、自国経済の生殺与奪を握るエネルギー資源の多くを漫然とロシアに依存し続けた。
ロシアが一気に侵略の暴挙に出たのは想定外だった。とはいえ、ロシアの強硬姿勢を踏まえ、エネルギー調達先の多様化を図るなど、経済安全保障にもっと気を配る余地はあったろう。
米国がロシア産原油の禁輸など経済制裁を発動しても、EU諸国の多くは足並みをそろえることができなかった。経済安全保障の取り組みを怠れば、本来の安全保障でも自由に動けなくなる。

欧州の問題は、ひとごとではない。日本は化石燃料のほぼ全てを輸入に頼る資源小国だ。なのに、電力の4分の3は火力発電である。原子力の将来戦略は議論が止まっている。日本のエネルギー政策は、経済安全保障が軽視されていないか。有事に対し
ウクライナ侵攻後、世界の主要企業が相次いでロシア事業の停止や撤退に動いた。侵略を
経済安全保障という言葉には、こうした「経済活動を守る」意味とは別に、「安全保障のために経済活動のあり方を見直す」という含意もある。
侵攻を受けたウクライナは、同時に激しいサイバー攻撃にさらされた。ハイブリッド戦争では、サイバーへの耐性が重要だ。高度技術や軍事情報を盗まれぬよう、マルウェア(悪意あるプログラム)の侵入も防がねばならない。通信など主要インフラに使う機材・部品の調達国は慎重に選ぶ必要がある。「高性能で安いモノを買う」ことを基本とする経済合理性だけでは、安全保障に穴があく。
このように、経済安全保障には多義性がある。多様な意味を持つ言葉が政策の旗印になると、「あれもこれも」となり、的外れな施策が入り込むきらいがある。
例えば、約20年前の小泉政権では、確たる定義のないまま「構造改革」が叫ばれた。改革にかこつけた新自由主義的な政策が、格差拡大や拝金主義を招くなど、さまざまな弊害をもたらした。
定義が曖昧なまま広く使われる言葉を「バズワード」と呼ぶ。ウクライナ危機という世界的な試練のなか、日本の経済安全保障がバズワードの
過剰に経済活動を制約することも、経済を優先して安全保障を