地方創生の切り札に 和田浩一・観光庁長官インタビュー

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 新型コロナウイルス感染症の広がりで大きな打撃を受けた日本の観光産業は、どう巻き返しを図っていくのか。国の観光政策を統括する観光庁の和田浩一長官に今後の戦略を聞いた。

コロナ後の新・観光戦略論
聞き手・構成 調査研究本部主任研究員 高橋徹 

観光産業のポテンシャル

「観光は地方創生の切り札になると期待している」と語る和田浩一観光庁長官
「観光は地方創生の切り札になると期待している」と語る和田浩一観光庁長官

――日本経済における観光産業の位置づけは。

 観光による消費は、単なる宿泊施設やお土産店の収入につながるだけではなく、間接効果もあり、裾野が広い。大きな経済波及効果を有する総合産業だ。そのポテンシャルは限りなく大きい。

 日本は急速に少子高齢化が進み、人口減少に直面する中で、どうやって日本の活力を維持していくかを考えた場合、そのカギを握っているのが観光産業だ。南北に長く、明確な四季を持つ日本には、観光振興に必要な「気候」「自然」「食」「文化」の4要素がそろっており、フランスと並んで観光立国としての潜在能力がある。

 訪日外国人旅行者数は、東日本大震災が発生した2011年には622万人だったが、その後、ビザの要件緩和や空港・港湾の受け入れ体制の整備などで順調に伸び、コロナ禍前の2019年には3188万人、その旅行消費額は4兆8135億円に達した。国内外の交流を活発にして、地域の活性化を図ることは、わが国にとって極めて重要だ。特に、人口減少が深刻な地方にとっては、成長戦略の柱や地方創生の切り札になると期待している。

コロナ禍で浮かんだ課題

――コロナ禍で訪日外国人旅行者数が激減し、国内移動も制限されたことで、観光業界は大変厳しい状況にある。

 コロナ禍を経験して、大きく分けて三つの問題意識を持っている。一つは、もともと指摘されていたことだが、生産性の低さやデジタル化の遅れといった構造的な要因が顕在化してきた。二つ目は、コロナ禍を経て人々の生活様式や考えが変わり、どういう新しいビジネスモデルを構築していくかが問われている。三つ目は、国内観光の重要性についてだ。今回のようなパンデミックや有事があると、インバウンド需要は変動が大きい。国内観光の新しい需要を掘り起こし、地域経済の活性化につなげることが大事だ。地域独自の観光資源を活用した稼げる看板商品を作っていくという取り組みも欠かせない。

 一つ目のデジタル化支援としては、旅行者の満足度を上げて観光消費を増やすため、ポストコロナをにらみながらデジタル化に対応した宿泊施設のリニューアルを推進していきたい。宿泊施設の事務所、作業場、調理場といったバックヤードのデジタル化も生産性の向上には重要だ。また、コロナ禍で密を避ける動きが加速したことに対応し、観光地の混雑情報をビジュアルで示す仕組みや、顧客情報を管理・分析してリピーター獲得につなげるシステム構築のための施策を拡充しているところだ。

――インバウンドの領域でも課題が多い。

 旅行者数の増加に比べて旅行消費額が伴っていない、東京や大阪など大都市部に集中している、という二つの問題が浮かび上がった。

 滞在日数が長く、消費額も多い欧米、オーストラリアなどからの観光客を増やしていく必要がある。1回の旅行で100万円以上使う富裕者層の取り込みも不十分だ。付加価値の高い旅行を提供するために観光地側としてどう取り組んでいくべきか、考えていかなければならない。

富裕層をどう取り込むか

――富裕層を増やすための課題は。

 四つの課題がある。一つは、大都市には高い付加価値を求める富裕層の満足する宿泊施設があっても、地方にはあまりない点。二つ目は、そうした層は物事の本質を見に行きたいという欲求が強いとされ、それにどう対応するか。各地に根付いた伝統や地場産業について、「これはどうしてこの地域で発達しているのか」といった疑問に上手に答えられるか。つまり、どうやってこのウリを磨くかが重要になってくる。

 三つ目は人材の確保だ。富裕層が旅行する際には、トラベルデザイナーから「日本に行くとこんな素晴らしい体験ができる」といった情報を聞いて、旅程を立てることが多いが、日本ではコンシェルジュやトラベルデザイナー、案内する人材の層が薄く、質量ともに足りない。こういうところへの対応も必要だ。最後は、富裕層のマーケットへの食い込み、コネクションが足りない点。これらをよく分析しながら、手を打っていきたい。

地域の看板商品を育てる

――地方の看板商品づくりの好事例はあるか。

 三重県鳥羽市は、観光と漁業が二大産業で、双方の関係者が連携して、観光客に漁業に関する学びの機会を設けたり、競りに参加してもらったりする取り組みを始めた。競り落とした魚介類を宿で調理して食べてもらって観光客の満足度を高め、5年間で観光客を約1.5倍に増やした。

 岐阜県関市の地元特産の刀づくりに参加できるツアーや、新潟県湯沢町の美しい田園風景を見ながらランチを食べる企画も人気だ。新潟県の燕三条地域では、地元の様々な「KOUBA(工場)」を開放して見学・作業体験できるイベントを開いた。職人の後継者不足や廃業を解消するためにも、地域のファンを育て、リピーター客を増やす意義は大きい。観光客の消費行動がモノ消費からコト消費に移る中、地域の人々でアイデアを出し合ってもらいたい。

新たな旅のスタイル

インタビューに答える観光庁の和田浩一長官
インタビューに答える観光庁の和田浩一長官

――リゾート地などで働くワーケーションや近場の観光地を回るマイクロツーリズムにも注目が集まっている。

 従来の国内旅行のスタイルは、<1>お盆や年末などの時期に一斉に休暇を取得する<2>宿泊日数が短い―といった特徴があった。旅先で混雑や密が生じやすく、消費額が伸び悩む原因となっていた。感染リスクを軽減しつつ、旅行需要を平準化するために、ワーケーションなどの「新たな旅のスタイル」の普及を図り、休暇の取得や分散化を促す必要がある。ワーケーションに関しては、受け入れる地域側は積極的だが、送り出す企業側は必ずしも前向きではない。そこで、観光庁は、ワーケーションなどを通じた企業と地域の継続的な関係を構築・定着させるため、送り手(企業)と受け手(地域)のマッチングを行い、課題や効果を検証するモデル事業を始めた。

 また、新しい取り組みとして「第2のふるさとづくり」がある。密を避けて自然に触れる旅へのニーズの高まりや、人口の大都市集中でふるさとを持たない若者が増えたことで、田舎にあこがれを持つ動きがある。こうした動きを踏まえ、いわば「第2のふるさと」として、「何度も通う旅、帰る旅」という新しいスタイルを推進・定着させたい。21年度内に中間報告をまとめた上で、22年度に各地で実証事業を進めたい。

地方創生との連携

――地方創生を進める上で、地域と継続的に関わりを持ってもらう「関係人口」を増やすことが重要だ。観光戦略と地方創生の連携をどう考えるか。

 ポストコロナにおいても観光を通じた国内外との交流人口の拡大による地域活性化は大切だ。IT(情報技術)、デジタル化の必要性や需要の変化、ポストコロナをにらみながら、どういう新しいビジネスモデルを構築していくべきかが問われている。言い換えれば、地域を持続可能にする観点で広く関係者が連携し、いかにお客さんをたくさん呼んでくるか、いかに消費をしてもらうか、さらに繰り返し来てもらうかが重要。今後、どういう方向性を目指すのがいいのかを有識者会議で議論してもらっている。

 日本は災害の多い国だが、避難施設としてのホテル・旅館などの宿泊施設の重要性も浮かび上がった。災害に備え、自治体と宿泊施設の間で協定を結んでおくことも考えられる。

――地方創生のためには、観光資源の発掘や誘客に向けた戦略立案を担う「DMO(観光地域づくり法人)」のほか、地域の農業、漁業者などとの連携も大事だ。

 観光というと宿泊業、旅行業、交通事業者などが思い浮かぶが、地域活性化のためには人に来てもらわないといけない。例えば、各地域には地場産業や農業、漁業を営んでいる人がいる。地域をあげて、どうやったら人を呼び込めるかという観点で見てもらう必要がある。そのために2020年度、21年度の補正予算で地域の看板商品づくりを支援する予算を確保した。上手に活用してもらいたい。

持続可能な観光づくり

――今後、国の観光政策をどう見直していくのか。

 観光地のリニューアルやデジタル化、生産性向上を支援していく。豊かさを実感できるようにするためには、稼げる地域にする必要がある。看板商品を作り、オーバーツーリズムを生じさせない持続可能な観光づくりを進めることが柱になる。

 インバウンドの需要回復を見据えたキャッシュレス化の準備、WiFiなど受け入れ環境の整備は、着実に進めていく必要がある。


プロフィル
和田 浩一氏( わだ・こういち
 1964年生まれ、87年東大法卒後、運輸省(現・国土交通省)入省。観光庁観光資源課長、国土交通大臣秘書官、観光庁次長、国交省航空局長などを経て、2021年7月、観光庁長官に就任。58歳。

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2960288 0 経済・雇用 2022/04/20 11:55:00 2022/04/20 11:55:00 2022/04/20 11:55:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/04/20220427-OYT8I50097-T.jpg?type=thumbnail

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