物流の生産性向上を考える

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POINT
■日本の労働生産性は主要先進国に見劣りし、特にサービス産業で低いとされるが、物流業界も例外ではない。

■世界に目を転じると、国家戦略として、交通・物流基盤の整備に注力してきた国は運輸・郵便の分野で生産性を高めている。

■日本の物流は個々のサービス品質は高い。しかし、生産性の向上には全体最適の視点でサプライチェーンを点検することが必要だ。

■デジタルプラットフォームを駆使し、物流資源の有効活用を図ることが重要だ。設備投資だけでなく、能力開発のための教育など人材投資が不可欠だ。

調査研究本部主任研究員 井深太路 

 日本の産業の生産性は主要先進国に見劣りし、物流分野は国内の産業間比較でも数値が低い。物流の生産性が低いというのは、どういう状況を示すのか。生産性という指標を軸に日本の物流を見渡すと、個別品質へのこだわりを優先し、全体最適の視点が不足する傾向が浮かび上がるが、デジタルや人材への投資を起点に巻き返すこともできるはずだ。

コロナ後の新・観光戦略論

低迷する日本の生産性

 生産性を表す指標は複数あるが、代表的な指標である「労働生産性」を使って、まずは近年の日本の状況を概観する。公益財団法人「日本生産性本部」が2021年12月に発表したリポート「労働生産性の国際比較2021」によると、経済協力開発機構(OECD)のデータを基に推計した20年の日本の労働生産性(就業1時間あたりの付加価値)は5086円(購買力平価換算)で、米国(8282円)の61.4%にとどまり、OECD加盟38か国中23位。ここでの基本的な計算式は「付加価値(各国の物価水準を勘案した購買力平価ベースのGDP)÷(就業者数×労働時間)」となる。付加価値とは企業などが生産活動で新たに創出した価値のことで、単純化すると、企業レベルでは売上高から外部購入価値(材料費、外注加工費等)を差し引いて求めることができる。この付加価値は企業の利益や人件費などに分配されるため、これらを積み上げる方法でも算出できる。GDPは国レベルで付加価値を算出したものだから、これを労働投入量で割ると、国単位の労働生産性になる。

 1時間あたりの労働生産性で1位のアイルランドは、法人税率を抑え、多国籍企業を呼び込んで経済規模を拡大させてきたほか、上位には北欧などの労働時間の短い国が並んでいると同リポートは分析する。米国は7位だ。その米国を100とした場合の日本の水準は、2000年が71.3だったが、近年は60台に低迷する。「就業者1人あたり」で比較しても、米国100に対し、日本は90年でも77で、20年は55.6にとどまる。

 生産性の国際比較で留意しなければならないのは、各国でGDPや就業者数の算出方法が異なり、正確な比較は難しいということだ。しかし、その前提を踏まえても、変化を丹念に追う意義は大きい。製造業に絞って就業者1人あたりの労働生産性(加重移動平均した為替レート換算)の推移を見ると、19年は米国4位、日本18位だが、00年時点では日本1位、米国4位だったのだ。この間、日本の数値も上昇はしたが、米国の上昇率の方がはるかに高かったという事実から目を背けるわけにはいかない。

運輸・郵便の労働生産性

 次に、産業別の労働生産性(1時間あたりの付加価値)に目を転じる。

 17年の「運輸・郵便」の米国水準を100とすると、日本は43.1。1997年にさかのぼると、米国100に対し、日本43.7。これは、日本生産性本部の委託研究として学習院大の滝澤美帆教授が20年5月にまとめたリポート(注1)にある数値だ。

 「運輸・郵便」の範囲は各国で正確に一致しないかもしれないが、鉄道、自動車、船、飛行機のそれぞれの旅客と貨物、さらに、倉庫や 梱包(こんぽう) などの付帯サービスなどがあり、これに郵便・信書便が加わる。物流だけを示す指標ではないが、旅客と貨物の基盤(インフラ)は共通する部分も多いため、物流の生産性を考える上で参考になる。

 主要国の「運輸・郵便」の労働生産性水準を並べた表では、日本は17年が14位で、97年の8位から順位を下げている。17年のベスト5は<1>オランダ<2>ルクセンブルク<3>ポルトガル<4>米国<5>デンマーク、97年は<1>オランダ<2>ルクセンブルク<3>米国<4>ポルトガル<5>デンマークという順だ。上位の欧州各国は海外企業誘致に熱心な国が多い。オランダは欧州最大級のロッテルダム港を抱え、内陸水路や高速道路網などの物流基盤により「欧州の物流センター」の役割を担い、ポルトガルも物流拠点の整備を進める。

日本でも道路網などのインフラ整備は物流施設を呼び込む(環状道開通などで物流適地として注目される愛知県飛島村周辺、2021年9月、本社ヘリから撮影
日本でも道路網などのインフラ整備は物流施設を呼び込む(環状道開通などで物流適地として注目される愛知県飛島村周辺、2021年9月、本社ヘリから撮影

 国家戦略として交通・物流基盤を整えることが、運輸・郵便という産業の付加価値を高め、生産性向上につながることがうかがえる。ただ、物流には原材料を工場に運ぶ「調達物流」もあれば、工場から卸(問屋)や小売店に運ぶ「販売物流」、近年は宅配も増えつつあり、多方面にわたる物流基盤を隅々まで整えるのは容易ではない。

 同リポートでは、日本の運輸・郵便について、品質は高く、他国よりきめ細かなサービスが提供されている可能性があると指摘し、一例として、配送の時間指定サービスの正確さを挙げる。これらのサービスに多くの人を配置しているため、時間あたりの付加価値が低くなっている可能性や、IT技術の活用が十分でない可能性にも言及している。

難しいサービス品質の比較

 サービス品質を上げようと手間をかけることが労働生産性の低下につながっているとすれば、企業はどう対応すべきか。生産性の計算は、付加価値などのアウトプット(産出)を総労働時間などのインプット(投入)で割り算する。値上げして、労働時間を削れば、机上の数値は上がるが、それで需要を失えば、元も子もない。

 日本生産性本部の木内康裕・上席研究員は「品質が高くなれば、消費者はその分だけ高く払ってもいいと考え、価格調整が進むというのが経済学の考え方。ただし、企業側で品質が高いと思っていても、消費者が本当に求めている品質とズレがあると、価格は上がらない」と指摘する。その一方で木内氏は「企業は商慣習など様々な要因で簡単には価格転嫁できない現実もあるから、生産性の指標は、企業経営者には理解されにくい面もある」とも語る。

 日本では、製造業よりサービス産業の生産性の数値が低い。滝澤教授の先のリポートでも、1時間あたりの労働生産性は17年の米国を100とすると、日本の製造業は69.8、サービス産業では48.7にとどまる。サービス産業の生産性を国際比較する場合、サービスは製造業の貿易財のようには直接的に品質を比較できない点がネックになり、同リポートでも、品質差を調整する指標がないことが課題だとして「(国際比較には)十分な注意が必要」と指摘しているが、日米の生産性格差をサービス品質の差だけで説明するのは難しいとも述べている。

 その背景にある研究の一つが、日本生産性本部が2017年、サービス品質の日米比較を試みたリポート(注2)だ。米国滞在経験のある日本人と日本滞在経験のある米国人に対し、どのくらい余分に価格を払ってもよいと思うかを聞くことにより品質差の数値化を試みたもので、宅配便については、日本人も米国人も、日本の品質の方が高いと感じていた。ただ、許容できる上乗せ金額は日本人の18.3%に対し、米国人は1.9%に過ぎず、評価にズレが生じている。日本の宅配の質はもっと高いという感想を抱く人もいるだろうが、配達に期待する価値が国や人によって異なるという点は重要だ。

 同リポートでは、翌日配達や時間帯指定、無料再配達など日本では一般的なサービスが米国で普及していないことなどを挙げ、高いサービス品質が価格に十分に反映されていないとして、ギャップ解消には「過剰」サービスの改廃や品質に見合った価格引き上げなどを進める余地があるとも指摘。そして、このリポートの続編的なリポート(注3)では、サービスの質の調整により、日本のサービス業の労働生産性は対米国比で1~2割程度上昇するものの、なお埋まらない格差が残ると述べている。

生産性の計測方法

 生産性の計算に用いるデータは複数あるが、先の滝澤教授のリポート(注1)は内閣府の国民経済計算(GDP統計)を使い、産業別の付加価値額を総実労働時間で割って1時間あたり付加価値を算出している。欧米の生産性は、オランダのグローニンゲン大学が中心となって構築した「EU KLEMS」データベースを利用している。

 国民経済計算は、国連の基準に基づき、日本経済の全体像を国際比較が可能な形でまとめた統計で、その基礎資料には、各省庁が数年がかりで共同作成する産業連関表(財やサービスの取引を行列で示した統計表)が使われている。国民経済計算を基に、日本生産性本部が推計した日本の運輸・郵便業の労働生産性は、2019年が就業1時間あたり3944円で、全産業(4800円)の8割程度の水準となっている。

 物流の生産性の計算方法も様々だ。

 国土交通省は、物流業の労働生産性について総合物流施策大綱(21~25年度)の中で、18年度が2569円(1人1時間あたり)という試算を示している。ここでの物流業とはトラック事業、内航海運業、貨物鉄道事業と倉庫業のことで、計算式には、利益や人件費などを足し上げ、減価償却費は含めない「純付加価値」を使っていることもあり、減価償却費を含めた「粗付加価値」を使う日本生産性本部などより生産性の数値は低く出る。18年度の全産業についても3695円と同省で独自試算しており、出典データが異なるため単純比較はできないが、この計算では物流業は全産業の約7割の水準になる。

 公益社団法人「全日本トラック協会」の経営分析報告書(令和元年度決算版)は、2300余のトラック運送事業者から提出を受けた資料を分析し、労働生産性が558万2000円という数値を公表している。貨物運送事業の経常損益を基礎に、運転者人件費(労務費)と一般管理費の人件費、金融損益、減価償却費などを足し上げて付加価値を算出し、これを貨物運送事業に従事する人数で割ることで、1人が年間に生み出した付加価値が558万円余になるという計算だ。やはり単純比較はできないが、日本生産性本部が国民経済計算などを基に推計した19年度の就業者1人あたりの労働生産性は829万円余だった(注4)。558万円余という付加価値は、ドライバーだけで計算した場合、さらに低くなる可能性があるほか、ドライバーの労働時間は全産業よりも約2割長いとされており、運送現場の労働環境の厳しさを反映している。

設備投資と人材への投資は十分か

 日本の運送業界の労働生産性が低い理由の一つに、中小企業比率が高いことが挙げられる。輸送手段で考えると、自転車より軽トラック、さらには大型トラックを使った方が荷物量も距離も増える。労働生産性は資本装備率(労働者1人あたりの資本設備量)が高い方が有利で、効果的な機械を導入するほど高まる。設備投資は生産性向上の重要ポイントであり、体力のある大企業が有利だ。

 もう一つ、生産性を高める要素として大きいのがイノベーションだ。物流で言えば、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)が鍵になる。例えば、デジタルを使ったプラットフォームで荷物とトラックを瞬時にマッチングし、物流リソースを有効活用する取り組みなどは効果的だ。しかし、こうした技術革新がどの程度の付加価値を生み出しているのかを直接的に計測するのは難しい。労働や資本なら数字に換算できても、優れた技術やアイデア、企業戦略などは、生産性向上に寄与するのは明らかでも簡単には数値化できない。

 そこで生産性の分析では、TFP(Total Factor Productivity=全要素生産性)という指標が使われる。付加価値の伸び率が、労働と資本(設備)の伸び率では説明がつかない「残差」の部分を、TFPの伸び率で説明しようという考え方だ。

 経済成長を労働、資本、TFPという三つの要素で考えると、生産年齢人口が減少する日本では、女性や高齢者も働きやすい環境を用意し、有望な分野への設備投資を加速し、人材への投資でTFPの向上を目指すべきであり、これは物流にも当てはまる。しかし、トラックドライバーは高齢化が進み、女性比率は極めて低い。独立行政法人「経済産業研究所(RIETI)」と一橋大学の日本産業生産性(JIP)データベースによれば、1995年以降5年きざみで見ると、道路運送業の労働生産性上昇率は2000~05年以外はマイナスかゼロに近く、TFP成長率も同様の傾向にある。生産性への資本の寄与はほぼマイナスで、依然、労働投入への依存度が高いことを示す。企業の人材投資を示す指標も98年頃をピークに近年は横ばいが続いている。

 ただ、00~05年の労働生産性上昇率は3.2%、付加価値ベースのTFP成長率も3.2%と推計され、「2000年代初頭の労働生産性の上昇要因は、ほとんどがTFPによるものと解釈できる」と、JIPデータベース構築に関わった深尾京司・日本貿易振興機構アジア経済研究所長(一橋大名誉教授)は指摘する。しかも「年率3.2%ということは5年で17%(複利計算)という高い上昇率」(深尾所長)だ。その要因について、明確には分からないものの、携帯電話やGPSを運行管理などに活用する取り組みが進んだ時期でもあり、これらのIT技術が物流効率化を促したことが関係している可能性はある。

国土交通省の生産性革命

 国交省は2016年を「生産性革命元年」と位置づけて、建設、交通、土地、観光などと並び、物流でも目標数値を掲げた。当時の目標は、物流事業の労働生産性を20年度までに15年度比で約2割向上させ、トラックの積載効率も16年度の39.9%から20年度に50%に引き上げるというものだった。労働生産性については、前述のように18年度が2569円と試算しているが、これは15年度比で約3%の伸びにとどまったため、総合物流施策大綱(21~25年度)で25年度までに18年度比で2割程度向上させる目標を改めて掲げた。積載効率は19年度に37.7%まで下がったが、20年度は38.2%に持ち直した。大綱では、25年度に50%に引き上げる目標を示している。

 労働生産性の向上には、正当な対価を得ることが前提だが、この点で国交省が問題視したのは、運送以外の役務などへの対価が支払われていないケースが目立っていたことや、1運行で2時間弱の荷待ち時間が発生している現場の実態だった。同省は、運送約款を改正し、「附帯作業」「積込み・取卸し」「荷待ち時間」などを配送と明確に区分けした。配送業者は荷主より力関係が弱い傾向にあり、行政の監視は重要だ。

 積載効率の低迷は、小口・多頻度配送の増加も大きな要因だ。無駄な在庫を持たずに生産・販売計画を進めたい荷主企業の事情があり、荷主を含めたサプライチェーン全体で考える必要がある。ただ、小口・多頻度配送は需要があるから増えているのであり、時間指定や短いリードタイムにも対応できる運送会社は価値を提供していることになる。全体効率よりも個別事情を優先させる配送には、相応の価格を転嫁できるようにして需給バランスを図り、平準化するのも一つの考え方だ。航空運賃のようなダイナミックプライシングの仕組みは参考になる。前提になるのは、配送過程の可視化や配送運賃の透明化であり、ここでもデジタルが鍵を握る。

 トラックと倉庫の接続部分は、手積み・手下ろしや検品などの作業で時間と手間を取られやすい。効率化するには、荷主と物流業者が連携し、荷姿やデータを標準化して情報共有する必要がある。大型トラック2台分を輸送する「ダブル連結トラック」や、鉄道などへのモーダルシフト、貨客混載なども生産性向上に有効だ。将来はドローンやロボットでの配送、自動運転などが物流の景色を変えていく。これらの物流DXは安全と効率を両立させるルール作りの調整を国が担う必要がある。

日本の物流の課題とは

 物流の生産性向上で難しいのは、品質と効率とのバランスをどう取るかという問題だ。日本の物流サービスは時間に正確で、荷扱いが丁寧なため汚損・破損や誤配送が少ない。これは大きな長所だが、運転手不足が深刻化する中、一つひとつの荷物を丁寧に扱うマインドと効率化の両立が課題になっている。

 海外経験が豊富な伊勢川光・日本物流団体連合会理事(事務局長)は「日本のサプライチェーンは欧米に比べ、多品種小ロットなどの比率が高く複雑だが、日本人は器用だから対応できてしまう分、効率が犠牲になりがちだ。海外でもオーダーメイドはたくさんあるが、基本はスタンダードに人が合わせる。日本では多様な注文にサプライチェーンが合わせている」と指摘し、「人手不足で日本流の対応が難しくなっている点が昨今の問題だ」と語る。

 日本のサプライチェーンは「製(メーカー)・配(中間流通・卸)・販(小売り)」のうち、中間の卸が発達しているのが特徴で、多くのメーカーの多様な商品を多数の商店にさばく機能を有し、多様な消費者ニーズに応えている。かつて、カルフール(仏)など海外の大型小売店が日本に進出しては撤退を繰り返したのは、日本固有の市場環境への適応が難しかったからだ。だが、例外もある。独自の戦略で定着する会員制大型スーパー「コストコ」(米国)の店内では、商品がパレットごと陳列されている。最終の店内までパレットごと搬送できれば積み替えの手間は省ける。広い倉庫型店舗だからできる手法とはいえ、米国流の合理的な発想は参考になる。

 海外勢で日本に定着した小売店といえば、アマゾンだ。各地に物流拠点を建設し、消費者に直送する方式はまさに流通革命と言える。顧客ニーズを探求しながら、調達と配送に最適な拠点を決定し、徹底したデジタル化と機械化による24時間営業体制を敷いて生産性を高めている。

 物流会社で長年、営業を担当してきた社員は、欧米と日本の荷主企業の違いをこう指摘する。「欧米企業にはロジスティクス担当役員がおり、調達から生産、販売まで自社のサプライチェーンをトータルで見ている。部分的、一時的にコストが上がっても、最終的に売り上げや利益につながるかを重視する」。一方の日本企業については「在庫や物流費を減らしたいという注文が多い。全体最適を見るか、部分最適を見るかの違いだが、最近は日本企業も(全体最適を見る方向に)変わりつつある」と話す。

DX時代を見通す人材育成が出発点だ

 調達から生産・販売までを一元管理する「ロジスティクス」の重要性を意識することは、日本企業が巻き返しを図るうえでのポイントの一つだろう。日本流の質の高いサービスを捨てるのではなく、現場の工夫が付加価値に結びつくような戦略を、全体最適の視点で構築する必要がある。物流現場で言えば、物の流れ、作業の流れを可視化し、付加価値の高い作業やサービスには相応の対価が支払われる環境が必要だ。運送業界は1990年施行の物流二法による規制緩和以来、参入企業が増えて過当競争に陥っている。赤字の会社も多いが、生産性向上で生き残りを図るなら、人材が定着する働きやすい環境作りとデジタル対応のための社員教育は必須だ。

 学習院大学の宮川努教授は、日本の生産性の伸び悩みについて「日本は人材育成投資の伸びが他の先進国に比べて極めて低い。バブル崩壊後、日本企業は人材育成の対象になりにくい非正規雇用を増やし、研修費を削って経費を節減してきた」と指摘する。宮川教授の言う人材育成投資とは、日本企業が得意とする業務時間内のOJT(on the job training)ではなく、業務時間外に業務関連の専門知識を学ぶことを指す。OJTは仕事の効率化につながっても革新的な技術や技能の習得にはつながらない。デジタル技術を生産性向上につなげるには、有効活用できる人材を育てることが重要だ。

 日本の物流を強くするために国が重視すべきは、物流の持続性を高めるための共通インフラを整備すること、物流DXを進めるための自由で公正なルールを整えること、デジタルを有効活用できる人材の育成を支援することだ。デジタル革命は、荷主企業と物流業者をつなぐチャンスであり、中小の運送会社が再浮上するきっかけにもなる。サプライチェーン全体の流れを見通した上で、個別の投資を判断できる高度な人材を育てることも重要だ。物流DXの成否と物流業界の成長は、インフラ、ルール、人材をそろえて、生産性を向上させられるかどうかにかかっている。

注釈
(注1)滝澤美帆(2020)「産業別労働生産性水準の国際比較 ~米国及び欧州各国との比較~」『生産性レポート Vol.13』日本生産性本部
(注2)深尾京司・阿部修人・有本寛・池内健太・木内康裕(2017)「サービス品質の日米比較」『生産性研究レポート032』日本生産性本部
(注3)深尾京司・池内健太・滝澤美帆(2018)「質を調整した日米サービス産業の労働生産性水準比較」『生産性レポート Vol.6』日本生産性本部
(注4)公益財団法人日本生産性本部(2021)「日本の労働生産性の動向2021」

参考文献
熊野英生(2019)「なぜ日本の会社は生産性が低いのか?」(文春新書)
公益財団法人日本生産性本部(2020)「生産性白書」
深尾京司[編](2021)「サービス産業の生産性と日本経済 JIPデータベースによる実証分析と提言」(東京大学出版会)
宮川努(2018)「生産性とは何か―日本経済の活力を問いなおす」(ちくま新書)
森川正之(2018)「生産性 誤解と真実」(日本経済新聞出版社)
吉川洋(2016)「人口と日本経済 長寿、イノベーション、経済成長」(中公新書)

※この論考は調査研究本部が発行する「読売クオータリー」掲載されたものです。読売クオータリーにはほかにも関連記事や注目の論考を多数収載しています。最新号の内容やこれまでに掲載された記事・論考の一覧は こちら にまとめています。
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