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「こども庁」創設に望むこと

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POINT
■子どもに関する課題に総合的に対応する行政組織「こども庁」の創設について検討が進む見通しとなった。早急に行うべきなのは乳児期や幼児期の子ども政策だ。

■近年の研究で、感受性や自発性、人を思いやる心など、目に見えないものを感じ取る「非認知(的)能力」は、生きる力の土台として、乳児期から育むべきであることがわかってきた。すでに保育園の保育指針や幼稚園の教育要領は、非認知能力の育成を図るための改訂が行われている。

■しかし、改訂された指針や要領が具体的な政策に反映されていない。こども庁は、乳児期から始まる子ども政策の総合的司令塔として創設されるべきだ。

社会福祉法人 博愛福祉会理事長 福田博幸  

骨太の方針2021を決定した経済財政諮問会議(6月18日)
骨太の方針2021を決定した経済財政諮問会議(6月18日)

 「こども庁」の創設構想が浮上し、与野党間で議論が活発化してきた。政府の経済財政諮問会議が6月18日に決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針)」にも、子どもに関する様々な課題に総合的に対応するための行政組織を創設するため、早急な検討に着手することが明記された。

 一方で、関係省庁による綱引きも始まり、関係者の間には、「このままでは名前だけの組織になりかねない」との懸念の声もある。「こども庁」を行政の司令塔にする制度設計をするためには、現在、子ども行政に携わっている省庁がカバーしきれていない欠落部分を担う新組織でなければならない。

乳児期から必要な「生きる力の土台づくり」

 現在の子ども関連政策で、最も重要でありながら的確に行われていないのは、「乳児期」政策である。保育園には生後57日目のゼロ歳児から、小学校入学前までの乳・幼児が通うことができる。小学校からは文部科学省の指導の下、「生きる力」を身につける教育をするが、子どもがそれを受け入れるには、乳・幼児期にそのための素地がつくられていなければならない。

 そこで保育園では、素地、すなわち「生きる力の土台づくり」をする。なかでも重要なのが、ゼロ歳から1歳半までの「乳児期」だ。人を信じる心が芽生えるか、芽生えないかの分かれ目の時期だからだ。

 人を信じる心が芽生えないと、次のステップである「幼児期」の「生きる力の土台づくり」ができない。信じる心を芽生えさせるためには、「受容と応答」を体験させることが必要だ。そうした体験によって、子どもは自分を「かけがえのない存在」と感じ取って日々を過ごせるようになり、「生きる力の土台づくり」が可能になる。いわゆる「愛着関係」の確立である。

 不安を安心に変える愛着は人生最初のストレス対処法だといわれており、これを乗り越えると自信につながり、生きる力の源泉になる。

写真はイメージです
写真はイメージです

世界的に見直される「非認知能力」の重要性

 文部科学省が行うIQ(知能指数)に代表される教育は、成果が目に見えることから「認知能力」といわれている。一方で、感受性や自発性、人を思いやる心など、目に見えないものを感じ取る力を「非認知(的)能力」という。近年は、OECD(経済協力開発機構)が中心となって、世界的な規模で非認知能力を見直す動きが広がっている。

 非認知能力は「学びに向かう力」「目標を達成する力」「他者と協働する力」「情動を制御する力」など、人間が生きるための重要な能力で、最近の研究で、これらの力は乳・幼児期から育むべきものであることがわかってきた。わが国の子どもを巡る社会問題に照らし合わせてみると、「引きこもり」「無気力」「人間関係がつくれない」「発作的な行動」などの問題は、乳・幼児期から育むべき非認知能力の欠如に起因している可能性があることが指摘されている。

 前述した通り、非認知能力を育む基盤は「愛着」であり、非認知能力を養成するには、子どもが安心できる身近な大人との愛情関係の確立が不可欠だ。だが、教育専門家の間では、「今の日本の子どもの3分の1が、安定した愛情関係を持てていない」というのが通説になっている。

保育指針や指導要領は改訂されたが…

 こうした問題を解決するため、乳幼児学に詳しい東京大学名誉教授の 汐見(しおみ)稔幸(としゆき) 先生らが中心になって非認知能力の見直し作業が行われ、2017年に乳幼児政策の基盤づくりのため、「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の大改訂が行われた。

 新たな指針や要領では、非認知能力を育むことを意識して、幼児教育で育みたい子どもたちの資質・能力に「知識及び技能の基礎」「思考力、判断力、表現力などの基礎」「学びに向かう力、人間性など」をあげ、これらの資質・能力が幼児期の終わり頃にどうなっているのが理想なのかを、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として具体的に明記している。

 最新の知見を取り入れた改訂については、素早い取り組みだったと専門家の評価は高い。ところが、関係者の大英断にもかかわらず、改訂された指針や要領の内容は、政策に十分反映されていないのが実情だ。関係省庁の行政の隙間になっているため、政策に取り入れる司令塔がなく、政策の後押しが十分とは言えないからだろう。

早急に必要な総合的政策の司令塔

 今の政府の子ども政策の最大の問題点は、総合的政策の司令塔がいないということにある。鳴り物入りで実現した「教育の無償化」から乳児教育に関する政策がすっぽり抜け落ちてしまっているのも、司令塔の不在に原因があることは明らかだろう。乳児期から非認知能力が育成できるかどうかは人の一生を左右し、行政の隙間に埋没していた乳・幼児期の政策の欠如が、今日の子どもを巡る多くの社会問題の原因になっている。こども庁が、乳・幼児政策を基盤とした総合的な司令塔として創設されることを強く願っている。

プロフィル
福田 博幸氏( ふくだ・ひろゆき
 1948年生まれ。79年に社会福祉法人博愛福祉会を設立し、理事長に就任。同年4月、横浜市青葉区にもみじ保育園を開園。現在、横浜市内にグループ園4園を経営。2007年から社会福祉法人こどもの国協会評議員。

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2141643 0 教育 2021/06/21 11:20:00 2021/06/21 11:20:00 2021/06/21 11:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210618-OYT8I50100-T.jpg?type=thumbnail

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