コロナ禍に「守るべき患者」を支える

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POINT
■感染すると、心臓病や糖尿病、がんなどの持病がある患者の致死率が高い

■自治体などは、重症化しやすい医療的ケア児と家族の支援を強化して

■患者の感染リスクを下げ、院内感染を防ぐオンライン診療の定着を目指せ

■自粛で孤立感を深める患者を支えるために、国は正しい情報の発信を

 新型コロナウイルスは、持病や難病を抱える患者を窮地に追い込んだ。こうしたいわゆる「基礎疾患」を持つ患者は、いったんウイルスに感染すると重症化する危険が高く、感染防止という名の闘いで神経をすり減らし、健康な人たちとは比較にならぬほど注意深く生活することを余儀なくされた。とりわけ、緊急事態宣言下では、物流の停滞などが原因で、在宅で闘病を続けるために必要な消毒液やガーゼなどの確保が難しくなり、患者やその家族は不安な日々を過ごした。第2波の到来が予想される今年秋・冬までに、持病・難病患者が安心して暮らせる支援体制を整える必要がある。

 

調査研究本部主任研究員 坂上博

ウイルス侵入の際の受容体が「カギ」

 新型コロナウイルスは、表面上にスパイク状の突起を持っている。この突起が、人間の鼻腔(びくう)やのど、肺などの細胞上の「ACE2受容体」にぴったりと結合する。鍵と鍵穴のような関係だ。この結合がきっかけとなり、ウイルスは細胞内に侵入する。

 ACE2受容体は血圧を調整する重要な役割も担っている。高血圧患者は新型コロナに感染すると重症化しやすいが、その理由として、この結合の仕組みが影響しているとみられる。

 ACE2受容体は、呼吸器周辺の細胞に存在するだけではない。心臓、血管の内側、肺、腎臓、肝臓、消化管などの細胞にも広く現れているとの報告がある。このため、新型ウイルスの侵入によって心臓や脳の血管に血栓ができて心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞が発症したり、心臓や肺などに持病がある患者が重症化したりしている可能性があるのだ。また、高血糖状態が長く続くと、血管内側に糖が付着し、それをきっかけに血管壁が傷ついてしまう。糖尿病患者の重症化と血管内側の傷害が関係しているとの見方もある。

ウイルスを排除しようとする免疫の働き

 ウイルスは自分だけで増殖することができないので、人間の細胞に侵入した後、たんぱく質合成システムを乗っ取り、自分のコピーを作らせて増殖する。

 これに対して人間には、ウイルスなど外敵が侵入してきた際、それを取り除こうとする免疫システムが備わっている。人間の免疫細胞がウイルスに乗っ取られた細胞ごと破壊したり、ウイルスにくっついて細胞への侵入を止める抗体を作ったりして、病気を治そうとする。がんや難病の患者らは、免疫システムの働きが弱く、重症化しやすくなるとみられる。

 また、ウイルスが感染した細胞は「サイトカイン」と呼ばれるたんぱく質を放出し、免疫細胞を呼び集めて、ウイルスへの攻撃を促す。免疫細胞自体もサイトカインを放出して、免疫システムを活性化させる。

 しかし、この免疫システムが暴走して、サイトカインが過剰に放出されると、肺や心臓、腎臓など様々な臓器も攻撃されてダメージを受ける。このような状況が嵐(ストーム)のように起こるため、「サイトカインストーム」と呼ばれる。

 血栓ができたり、持病を持つ患者や高齢患者などで症状が急速に悪化したりすることに、このサイトカインストームが関係していると思われる。

高血圧、糖尿病、心臓病の患者らが危険

 では、新型コロナウイルスの感染で具体的にどのような人々が重症化するのか? 重症化する危険がある患者像を示す詳細な研究結果が、中国から公表された。2020年2月11日時点で新型コロナによる感染症と確定診断された4万4672人を分析。致死率は、平均で2・3%だった。基礎疾患の有無による内訳を見ると、持病なしが0・9%、心血管疾患(心臓と血管の病気)が10・5%、糖尿病が7・3%、慢性呼吸器疾患が6・3%、高血圧が6・0%、がんが5・6%だった。やはり、持病があると致死率が高い。

 年齢別で見ると、致死率は80歳以上だと14・8%と高く、この調査では9歳までの小児に死亡例は報告されていない。ほかの調査でも、高齢者は死亡率が高く、子どもや若者の死亡率は低い傾向にある。

 中国の調査では言及されていないが、日本透析医学会は2020年6月26日時点で、国内の透析患者112人が感染し、うち20人が亡くなったと公表した。致死率は17・9%となり、かなり高い。透析患者は4割が糖尿病を合併しているとされ、また高齢者が多いことも影響しているとみられる。

 日本を含むアジアと欧米諸国の入院患者8910人を対象とした別の研究でも、不整脈を含む心臓病が死亡リスクを高めることがわかった。また、喫煙歴のある新型コロナ患者は致死率が高かった。

女優・岡江さん死去、がん患者に衝撃

 新型コロナウイルスがパンデミック(感染爆発)を引き起こし、国民は外出の自粛を求められ、マスクなど様々な物資不足が深刻化した。

 このような状況下に、感染すると命を落としかねない持病や難病を患う患者は、どのような困難に見舞われたのだろうか。今後はどのような支援体制が必要なのだろうか。<1>がんや心臓病などの病気を抱えて通院治療中や手術を控えている患者ら<2>人工呼吸器や在宅酸素療法など手厚い医療的ケアがないと生きていけない在宅の重症患者―に分けて、課題を探ろう。

 まず、病気を抱えて通院治療中や手術を控えている患者らの状況を見てみよう。

 現在、日本人の2人に1人が、がんになると言われ、2017年調査では、がん患者数は178・2万人と推計される。

 乳がん治療中だった女優の岡江久美子さんが2020年4月に亡くなった。享年63歳。所属事務所は「昨年末に初期の乳がん手術をし、1月末から2月半ばまで放射線治療を行い、免疫力が低下したのが重症化した原因かと思われます」と発表し、岡江さんと同じ病気と闘う患者たちの間で衝撃が走った。

 中国の研究結果でも、がん患者の致死率は持病がない人に比べて高かった。しかし、がん患者が総じてリスクが高いわけではない。がんの種類、治療内容、治療の副作用の有無など様々な要因により、個人差は大きい。過剰に恐れることは禁物だ。

「感染が不安で定期検査に行くことに躊躇」

 日本対がん協会は3月、がん患者・家族向けSNS「サバイバーネット」を通じて、がん患者らの新型コロナウイルスに対する不安の声を集めた。

 「抗がん剤治療中で免疫力が下がっています。感染すると重い症状が出るのではないかと心配です」(大腸がん患者)

 「肺の5割を切除しました。慢性閉そく性肺疾患(COPD)の兆候もあり、感染すると重症化する可能性が高いと思う。感染が不安で、外出して定期検査に行くことに躊躇(ちゅうちょ)する」(肺がん患者)

 「病院のベッド数や医師の数が不足することにより、がん手術を受けたい人が受けられなくなるのでは、と心配だ」(大腸がん経験者)

 日本対がん協会の垣添忠生会長は「新型コロナが日本に上陸した当初、これほどまで生活に影響を与えることになるとは思わなかった。感染への恐怖心から予定されている治療を避けようとするがん患者もいるが、冷静に対応する必要がある。このような緊急事態だからこそ、主治医としっかり連絡を取って、正しい判断をしてほしい」と話す。

日本癌学会などが、患者向けに情報発信

 垣添氏も指摘している通り、がん患者にとって最大の悩みは、検査や治療を継続するべきかいなか、ということだ。

 日本(がん)学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会は2020年5月、「がん患者はどのようなことに注意した方がいいのか」について、Q&A形式で情報をまとめてホームページ上に掲載した。

 それによると、手術を予定している患者については、自己判断で手術を中止したり、延期したりすることはせず、主治医や看護師に相談することが大前提だ。がんの種類や病気の進行度(病期)によっては、手術以外の治療を先に行うことも考えられる―とする。

 放射線治療については、ごく早期のがんやホルモン療法など待機治療が可能な前立腺がんなどでは延期が可能な場合もあるが、一般的には延期は好ましくないことが多いという。

 薬物療法についても、原則として治療の継続が勧められる。また、がんに対する免疫細胞の攻撃力を高める「免疫チェックポイント阻害薬」という新しい薬が使われるようになってきたが、今のところ、この薬が新型コロナの感染リスクを高めるというデータはないという。

 患者やその家族は、がんと新型コロナの二重の恐怖におびえている。行政、医学会、患者支援組織は、分かりやすく、丁寧に情報発信することが求められる。

心臓病患者「死の恐怖を感じた」

 新型コロナウイルスの感染拡大に対して、がん患者以上に戦々恐々としているのは、心臓病患者かもしれない。前述の中国の調査では、心臓病などの心血管病が感染すると最も致死率が高い持病だったからだ。高齢化に伴って日本人の心臓病患者は増えており、17年調査では、がんに匹敵する173・2万人と推計される。

 心臓と肺を結ぶ肺動脈の血圧が高くなり、呼吸困難や心不全などの症状が表れる難病「特発性肺高血圧症」を患う関東地方の女性は今年3月、新型コロナの感染者が少ない地方の実家に避難した。

 「東京から地方に移動することには申し訳ない気持ちもあった。しかし、新型コロナに感染し重症化したら、間違いなく死んでしまうと思う。それが怖い」と告白する。

 女性は肺動脈を広げる働きがある薬を鎖骨の下の静脈に差し込んだ細い管を通して24時間送り込む治療を受けている。そもそも、この病気のせいで心臓と肺の機能が低下している。別の免疫の病気も併発しているため、免疫抑制剤などの服用が欠かせず、感染症にかかりやすい。筆者の取材に女性は、「関東地方では電車での移動でも感染の恐怖を感じる。ストレスで、さらに免疫が下がっている感じ。同じ病気の仲間とメールや電話で励まし合っている」と話してくれた。

悪化する胸痛、動悸などに注意

日本循環器学会が、心臓病患者向けに注意すべきポイントをまとめたチラシ
日本循環器学会が、心臓病患者向けに注意すべきポイントをまとめたチラシ

 心臓病患者の不安を解消するために、日本循環器学会はホームページ上で、患者向けにQ&A形式で情報発信している。

 重要なことは、悪化する胸痛や動悸(どうき)、息切れ、失神という症状が表れた場合、受診をためらわず、主治医に電話することだ。学会は「心臓病の治療薬は、健康状態を保つために非常に重要だ」として、医師の処方通りに服用を続けることを勧めている。

 検査や手術を予定している場合、病状が安定しているなら、延期することもありえる。病院を受診する時に新型コロナに感染してしまう危険性はゼロではないからだ。もちろん、患者が自己判断せず、主治医に相談することが大切だ。

 特に注意が必要な心臓病患者として、<1>心臓移植などを受けて免疫抑制状態にある人<2>心臓病を患っていて白血病やリンパ腫を併発している人<3>高齢者<4>心不全がある人―などを挙げている。

 自粛生活を強いられる状況では、日本循環器学会のようにサイトを介して正確な情報を提供することは効果的な手法だ。ただし、心臓病患者は症状に個人差があり、突然の急変もありうる。高齢者はパソコンを使うことができず、孤立しやすい。場合によっては主治医や看護師の側から、電話で患者と連絡を取り、状態を把握する必要もあるだろう。

院内感染防止へ国民の予防意識が重要

 これまで、がんと心臓病に関して、患者の視点から見てきた。医療機関側としては、どのような対応が重要となるだろうか。

 まず、院内感染を起こして外来診療などをストップさせないことが大切だ。持病を持っている患者は、やはり、自分の病気のことをよく知っている病院・医師に診てもらいたいもの。外来診療が停止すれば、通院して薬を処方してもらえなくなる。また、持病が悪化した場合を考えると、さらに不安は大きくなる。

 入院中の患者にとっては、直接的に命に関わる可能性がある。大阪府内では6月22日の時点で、新型コロナが原因で亡くなった人は86人いたが、うち、39人が院内感染で死亡した。実に、約45%が院内感染で死亡したことになる。入院中の患者は高齢者が多く、重い症状の病気を抱える。致死率が高い患者像に一致する。

 新型コロナは無症状感染者からでも感染を広げてしまう、やっかいな感染症だ。医療機関側の対応も限られる。見舞いに来た人が病院内にウイルスを持ち込む可能性が十分にある。新型コロナの感染拡大が落ちついても、私たち一人一人が常日頃から、手洗いの徹底やマスク着用など、高い感染予防意識を持たなければならない。

感染リスク下げるオンライン診療の定着を

厚生労働省が、オンライン診療の予約から診療、薬を処方してもらうまでを解説したチラシ
厚生労働省が、オンライン診療の予約から診療、薬を処方してもらうまでを解説したチラシ

 新型コロナが感染拡大する中、スマートフォンやタブレット端末、電話を使った「オンライン診療」が注目を集めている。患者は医療機関に行く必要がないので、病院や診療所内で感染するリスクも、周囲に感染を広げるリスクも抑えることができるからだ。

 オンライン診療は2018年度に公的医療保険が適用された。診療対象は再診患者で、病気の種類は生活習慣病や難病などに限られていた。

 しかし、新型コロナの感染拡大を受け、厚生労働省は4月10日付で、病気の種類は問わず、初診患者でも対象とする時限的・特例的な取り扱いについての事務連絡を都道府県などに通知した。

 東京都渋谷区の「みいクリニック代々木」の宮田俊男院長は、すでに約3年前からオンライン診療に取り組み、今回、初診の患者も対象とした。

 同クリニックは、オンライン診療のための専用のシステムを導入しており、患者はスマホなどを使い、ビデオ通話によって診療を受ける。処方された薬は、患者の「かかりつけ薬局」で受け取れるほか、患者に宅配することもできる。患者は通院や診察待ち、会計待ちなどにかかる時間が短縮でき、利便性が高い。

 宮田院長は「オンライン診療では、患者と対面の上で検査をすることなどができないため、病気の見落としが起きないように慎重に診察を行っている。とりわけ、初診の高齢者はスマホなどが使えないため、既往歴を電話で聞き取る必要があり、診察に1時間くらいかかったこともある」と話す。1日10件もオンライン診療を行った日もあったという。

 「オンライン診療には設備投資がかかるのに、対面診療より診療報酬が低い。また、動脈血酸素飽和度と脈拍数を測定するパルスオキシメーターの測定値をオンライン診療に連動するなど、もっとICT(情報通信技術)を活用すれば、より使い勝手は良くなる」と課題を指摘する。

 今回は、新型コロナ感染拡大に伴う「時限的・特例的」な措置だ。第2波の襲来に備えるだけでなく、新型コロナ後の一般診療も念頭に置きながら活用事例の検証を行ってほしい。

医療的ケア児の家族、消毒液などが不足

 人工呼吸器や管を使った栄養補給、たんの吸引など医療的な介助が日常的に必要とされる「医療的ケア児」は、約2万人いるとされ、10年前の約2倍に上る。重い病気を持って生まれても、医療技術の進歩によって救命できるようになったことが理由だ。多くの子どもたちは障害を抱え、免疫も低下しているケースが多く、肺炎などにかかりやすい特徴がある。新型コロナの恐怖は、医療的ケア児はもちろん、その家族をも直撃した。

 まず、大きな問題となったのは、在宅闘病のために必要な医療品の不足だ。マスクや消毒液はドラッグストアなどで買い占められ、在庫が逼迫(ひっぱく)した。

 脳性まひの10歳代の娘を育てる女性Aさんは「エタノール消毒液が足りなくなりそうで不安だった」と話す。

 Aさんの娘は寝たきりで、胃ろうで栄養を補給している。一昨年、別のウイルスに感染し、気管支炎や肺炎を起こして呼吸困難となり、約10日間入院したことがある。それだけに、感染症には、より一層、注意している。介助者である両親の手指の消毒、たんの吸引を行うためのチューブの消毒などのためにエタノール消毒液は不可欠だ。

 日常の介助で欠かせないエタノール消毒液は、普段なら市中の薬局などで買えたが、新型コロナが流行してからは確保できなくなった。手元にあった消毒液を節約して使っていたものの、すぐさま足りなくなり、何軒か薬局を回って、やっと購入できた。自治体によっては、医療的ケア児を育てる家族に、エタノール消毒液を支給しているケースもあるが、Aさんの住む町では公的な支給がなかった。

 厚生労働省は3月、都道府県が備蓄している手指消毒用エタノールを、医療的ケア児がいる家庭に優先供給するなど積極的に活用してほしいとの事務連絡を出した。エタノールの配布については、医療機関と連携し、都道府県や市町村などから各家庭に配送するとした。ただし、届いていない家庭もあったという。

 今回、消毒液のほか、マスクや不織布ガーゼなども不足した。都道府県や自治体は、医療的ケア児を診ている医師や看護師、介護士らと日頃から連絡を密にして、緊急時には、医療品を各家庭に届けられる体制を早急に整える必要があるだろう。

難病患者の約4割が「通院控える」

 新型コロナは、診療面でも実害をもたらした。

 北海道に住む難病患者とその家族で作る「北海道難病連」が5月、新型コロナの影響についてアンケート調査を行った。小児患者に限った調査ではなく、回答があったのは、2~98歳の540人の難病患者。感染リスクを避けるため病院の受診をやめたり控えたりした割合が39・8%、体調や心理面に支障が出た割合が22・8%だった。また、病院や施設の都合で入院患者への面会や付き添いが制限された割合が18・7%あったという。

 北海道難病連の増田靖子・代表理事は「リハビリについては、病院側から中止を求められたケースも多い。リハビリをしないと症状が徐々に悪化していく患者もおり、大きな問題だ。このような状況が心理面にも影響し、『コロナうつ』になる人もいる」と指摘する。

 NPO法人「難病のこども支援全国ネットワーク」(難病ネット)によると、病児の中には居住している県とは異なる県の病院に通院しているケースもあるが、電車での移動でウイルスに感染するリスクを避けるため、主治医と相談した上で定期検診を延期した例などがあったという。

 片側のまひが交互に起きることがある難病「小児交互性片麻痺(まひ)」では、国内では販売されていない薬を海外から輸入して使っている患者がいる。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による物流の停止で、日々必要とする輸入薬が入手できなくなった。困難に直面する中、患者家族同士が薬を融通し合い、窮地を乗り切ったという。

 往診や訪問看護、訪問介護などは、在宅で闘病する患者にとって不可欠なサービスだ。幸い、大規模にサービスが止まったケースはなかったようだが、往診医らは感染防止に努めてほしい。

 受診の抑制も薬の輸入ストップも、一歩間違えば、患者の命に関わる。患者やその家族と主治医が常に情報を共有しておく必要がある。

家族の感染時、難病の子の預け先確保を

 医療的ケア児を育てる家族が最も恐れている事態が、同居する家族の感染だ。

 関東地方の女性Bさんは、全身の筋力が衰え、歩行や呼吸が困難になる難病「先天性ミオパチー」を患う10歳代の息子を自宅で育てる。息子は、人工呼吸器がないと生きられず、寝たきりの生活だ。

 Bさんはできるだけ自宅にこもっていたが、食料などを買うために外出することはあった。「自分だけが感染したら、息子はどこで預かってもらえるのだろうか」。心配になり、保健所に問い合わせたが、明確な回答はなかった。「新型コロナで息子を失う恐怖が迫ってくる。とても平静でいられなかった」と話す。

 こうした高リスクの医療的ケア児は、社会の中でも感染防止を最優先する必要がある。そのためには、家族の感染が疑われたならば、その家族が迅速に、感染の有無を調べるPCR検査を受けられるように体制を整えておくことが重要だ。この意味で、主治医が希望しても、なかなかPCR検査を受けられない時期が続いたのは残念だ。保健所を経由せず、民間の検査会社に検査依頼ができるようになり、改善されたようだが、個別の事情も考慮して検査を実施することも求められるだろう。

 もし、家族が検査で感染していることが判明し、病院やホテルなどに隔離されたならば、一人自宅に残していけない医療的ケア児をどこに預かってもらえばいいのか? 両親のどちらか一人が感染したのならば対応は可能だが、家庭内感染で両親とも感染するケースも多い。シングルマザー・シングルファザーもいる。ここでは、神奈川県の対応が参考になる。

神奈川は在宅難病患者受入協力病院を指定

 神奈川県は、医療崩壊を防ぐ新たな医療提供体制「神奈川モデル」を提唱し実行するなど、先駆的な取り組みを進めている。こうした中で同県は6月、介護者が感染して不在になった時、医学的な管理を常時必要とする在宅の難病患者への対応をいち早く決めた。この決定によって同県内の難病患者は、優先的にPCR検査を受けることができ、陰性ならば、県内2か所の「在宅難病患者受入協力病院」に一時的に入院してもらう。陽性ならば、新型コロナ患者を受け入れている医療機関に入院する。このように行政側の方針が明確に示されれば、患者・家族は安心できる。

 難病ネットの福島慎吾事務局長は「医療的ケア児は、家族によって生活が支えられている。家族が倒れてしまったら、子どもは生きていけない。国や自治体は、このような現実を認識して、子どもの受け入れ先の確保など、もしもの時に備えた対策を示してほしい」と訴える。

患者・家族の心のケアも大切

 病気と闘う患者やその家族は、平時でも様々な悩みを抱え、相談する相手が見つからず孤独を感じているケースもある。今回、新型コロナの影響で、自宅にいるように強く求められ、孤独感は倍増している。そんな患者・家族に寄り添う存在が、患者会や患者支援団体だ。

 しかし、同じ境遇の患者同士が直接会って、悩みを打ち明け合う会合も、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、各地で開催中止を余儀なくされた。

 そのような状況の中、日本対がん協会は積極的に新型コロナに関する動画を配信し、電話で相談も受け付けている。5月末までに相談を受けた件数は400件に達したという。ほかの患者会もサイトを通じて情報発信している。

 一方でインターネット上には、「新型コロナはお湯を飲めば予防できる」「花こう岩などの石はウイルスを分解する」など、科学的根拠がない「フェイクニュース」もあふれた。こうした情報に、一般市民ばかりでなく、より弱い立場である患者・家族らも振り回されたことを忘れてはならない。その意味でも国は、患者会・支援団体などとも連携し、新型ウイルスの感染防止に関する基本的な情報をはじめ、様々な基礎疾患との関係や対応策、各種の制度に関する情報を分かりやすく届ける責務を果たしてもらいたい。

 坂上博(さかがみ・ひろし) 医療取材歴は20年以上ある。主な取材分野は難病、薬害、再生医療など。

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