東京一極集中に限界 ウィズコロナの地方創生    

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POINT
■コロナ禍は地方経済に交流人口の減少や企業の撤退など大きな打撃を与えている。

■「非接触」「遠隔」「3密回避」の動きやテレワークが定着し、若年層の地方移住の意識にも変化が生じており、地方創生に結び付ける好機。

■情報通信技術(ICT)やデジタル技術を活用し、地域の課題解決や雇用創出に取り組んで、ヒト、モノ、カネを地方に呼び込め。

■これからの自治体の首長にはアントレプレナーシップの視点が不可欠。中央依存を脱却し、自らの強みを最大限生かした戦略を描け。

調査研究本部主任研究員 高橋徹 

 新型コロナウイルスの感染拡大で、経済活動が停滞し、基盤の弱い地域経済が大きな打撃を受けている。一方で、「密」を避けるライフスタイルの定着やテレワークの進展などで地方移住の関心が高まるなど、これまでの東京一極集中の流れが変わろうとしている。国難といえる災禍を乗り越えてチャンスに変え、長年の懸案である「国土の均衡ある発展」や地方創生につなげるにはどうすればいいのか。コロナを生き抜く地方自治体の先駆的な事例を紹介しながら、ウィズコロナ時代の地方創生を考察したい。

物流業界 急務のDX

生産停止の余波

 北海道東部地方の政治、経済、文化の中心都市である釧路市。この地に拠点を構える日本製紙が2020年11月、主力である製紙(紙・パルプ事業)の生産を21年8月に停止すると発表し、地元経済界は騒然となった。

 日本製紙の前身である富士製紙の釧路工場として、1920年(大正9年)に操業。以来、100年にわたり、石炭、水産業と並ぶ市の基幹産業として、地域経済を支えてきた。釧路工場では、新聞用紙や印刷用紙などを生産している。紙を作る抄紙機(しょうしゃき)の生産能力は年約22万トンで、日本製紙全体の洋紙事業の約6%にあたる。

21年8月に製紙事業を撤退する日本製紙釧路工場
21年8月に製紙事業を撤退する日本製紙釧路工場

同社が撤退を決めたのは、国内の人口減少やペーパーレス化の進展で紙の需要が落ち込んでいるところに、新型コロナウイルスによるテレワーク拡大などが追い打ちをかけ、今後も需要の回復が見込めないと判断したためだ。

 釧路工場で主力の新聞用紙は、最盛期の06年度に36万トンを生産したが、長引く需要減で19年度は11万6000トンとピーク時の3分の1以下まで落ち込んだ。

 撤退による減産分は同社の別工場に集約するほか、一部は他社に委託する計画で、04年から行っている発電・売電事業は継続するという。製紙事業の撤退により約250人の従業員がグループ内での配置転換などを余儀なくされ、地元の雇用が失われる見通しだ。釧路工場と地元企業との取引額などは年間計約105億6000万円に上り、その影響は極めて大きい。

 同社の野沢徹社長は地元メディアなどの取材に対し、「工場操業開始から100年間、地元の皆さんにお世話になった。撤退を打ち出さざるを得ないのは悔しく、断腸の思いだ」と説明した。危機感を強める釧路市の蝦名大也(えびなひろや)市長と地元経済界のトップが事業の存続を求める市民らの署名7万9917筆を携えて、年末に都内の日本製紙本社を訪れ、野沢社長に改めて撤退の再考を求めたが、色よい返事は得られなかった。

失われた訪日客

 古い町並みが残り、世界遺産に登録された白川郷の玄関口として外国人観光客の人気を集めていた岐阜県高山市もコロナ禍がもたらした試練に直面している。

 名古屋から高山などを経て、金沢に抜けるルートは訪日客にも人気で、2019年は過去最高の約473万人の観光客が訪れた。しかし、感染拡大が深刻になった20年春先以降は、訪日客の姿がぱたりと消えた。この余波で、市内の奥飛騨温泉郷新平湯温泉で、最大規模を誇った老舗旅館「奥飛騨薬師のゆ本陣」が4月上旬、約2億円の負債を抱えて倒産し、伝統を誇る高山祭も中止に追い込まれた。

古い街並みが残る高山市内。観光客もまばらに(2020年2月撮影)
古い街並みが残る高山市内。観光客もまばらに(2020年2月撮影)

 市が市民を対象にした地域優待券を配布して地元客を呼び込んでしのいできた。これに政府の観光支援事業「Go To トラベル」の効果が加わり、9~11月にかけて、家族連れなど国内観光客が街に戻ったのもつかの間、コロナの感染再拡大で年末年始の書き入れ時に、キャンペーンが一時中止となり、市内の宿泊施設にはキャンセルが相次いでいるという。

 飛騨・高山観光コンベンション協会の駒屋義明事務局長は「ワクチンが行き渡り、コロナが収束するまでは、訪日外国人が戻ってこないだろう。先が見通せない状況が当分続きそうだ」と頭を抱える。

 日本政策投資銀行の試算では、19年度に約22兆円あった国内観光消費(日本人国内日帰りなどを除く)のマーケット規模は、コロナ禍の余波で訪日客(インバウンド)需要の回復に時間がかかるとみられ、21~22年頃まで13.4兆円程度で推移した場合、年間で約8.5兆円の損失が生じる可能性があるという。

 日本銀行によると、コロナショックの影響で、20年度の実質国内総生産(GDP)は、前年度(534兆円)に比べて5.5%減の504兆円に減少する見通しだ。1年間で30兆円が失われる計算で、このうち三大都市圏を除いた地方経済で失われた額は、少なくとも18兆円に上るとみられる。新型コロナの影響は、容赦なしに地域経済に重くのしかかっている。

地方創生の 蹉跌(さてつ)

 以前から、少子高齢化に伴う人口減少や東京一極集中といった問題を抱える日本にとって、地方創生は重要な政策テーマだった。

 第2次安倍政権の看板政策の一つとして掲げられ、15~19年度の5か年計画となる第1期総合戦略では、「2060年度に1億人程度の人口を維持する」という中長期目標の下、東京圏の過度な人口集中を是正しながら地方の魅力を高めるため、政府機関や企業の地方移転などに軸足を置いた。

 地方における若者の就業率の改善やインバウンド需要の地方への広がりなど一定の成果はあったものの、総じて狙い通りにはいかなかった。むしろ、五輪・パラリンピックの開催に向けて、ここ数年、ヒト、モノ、カネがさらに東京周辺に集まり、東京一極集中の流れは加速した。1人の女性が生涯に産む子供の数にあたる合計特殊出生率が、19年は1・36に下がった。4年連続の低下となり、少子化に歯止めはかからなかった。

 こうした状況を踏まえ、20年度から始まった第2期総合戦略(~24年度)では、地域と様々な形で交流する「関係人口」の拡大や先端技術の活用を柱に据えたが、コロナショックという想定外の要素が加わったことで、前提が崩れ始めている。

東京圏の転入超過が激減

 地域経済に様々な爪痕を残しているコロナ禍だが、地方に追い風の動きも出始めている。「3密」を防ぐという観点から企業や大学で、リモートワーク(テレワーク)やオンライン授業などが普及。必ずしも都市近郊に住まなくても事足りることが広く浸透し、東京一極集中に変化の兆しが見えてきたのだ。

 例年、3、4月は入学や就職、転勤などで人口移動が多い時期で、企業や教育機関が集積する東京圏に多くの人が流れてくる。ところが、2020年4月は政府が新型コロナウイルス感染の拡大を防ぐ緊急事態宣言を発出した影響で、東京都の転入超過数(転入者数から転出者数を引いた数値)は前年同月の3分の1の4532人に落ち込んだ。

 東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)でも1万4497人の転入超過にとどまり、前年同月(2万7500人)からほぼ半減した。東京都は5月には、統計が比較できる2013年3月以降で初めて転出超過(1069人)となり、6月にいったん転入超過に戻ったものの、7月以降は転出超過が続いている。

この背景について、人口や地域振興の問題に詳しいみずほ総合研究所の岡田豊主任研究員は「春先以降、東京圏で転職者の多い25~39歳の転入超過が例年より大幅に減っており、地方の人が感染者の多い東京圏を避けて、近隣の中心都市にとどまった可能性が高い」と分析する。

地方移住に脚光

 コロナショック後、テレワークはどの程度浸透したのだろうか。内閣府が実施したコロナ禍における国民の生活意識や行動の変化に関するインターネット調査(15歳以上の計1万128人が回答)によると、全国で34.6%、東京23区で55.5%がテレワークを経験したという。

 就業者(6685人)に地方移住への関心度について聞くと、テレワーク経験者では「高くなった」(6.3%)と「やや高くなった」(18.3%)を合わせ、関心層が約25%に上った。テレワーク経験を問わず三大都市圏の居住者に聞いた質問でも、若者を中心に地方移住への関心は高く、東京23区の20代では35.4%だった。

こうした意識の変化が顕著になる中、恒常的に「密」な状態にあり、生活費も高い東京での生活を見切って、地方への移住を検討する動きも目立っている。

 東京・有楽町にある「ふるさと回帰支援センター」には連日、地方への移住を検討する人が多数訪れている。同センターには、41の道府県と神戸市、静岡市の政令指定都市2市が相談員を配置している。

 地方への移住希望者にとって気になるのは、生活を支える働き口があるかどうかだ。このため、センターは16年7月に厚生労働省の協力を得て、センター内にハローワークを開設し、移住先での職探しもできる体制を整えている。移住先として相談が多いのは、栃木、群馬、茨城、山梨の関東近県などで、コロナ禍でテレワークが広がり、新幹線などを使えば、週1~2回、1時間程度で出社できる居住地を選ぶ人が増えているようだ。

高橋(ひろし)理事長は「センターは主に東京圏の居住者の移住相談を受け付けているが、20年6月以降は、電話、メール、面談による相談が月平均2800件で昨年平均を3割近く上回っている。移住を検討・計画していた人たちが、コロナ禍によって背中を押されたようだ」と語る。

 特に20代、30代の若い層が増えているのが特徴で、高橋理事長は「大都市部には、非正規、派遣などで働く若者も多い。生活費のかかる都内を避け、地方都市での新たな生活を求める傾向があるようだ」と分析している。

静岡市のチャレンジ

 地方の拠点都市である政令指定都市の中でも移住者の呼び込みに熱心なのが静岡市だ。清水市と合併して05年に政令市に移行した静岡市は、人口減少が止まらないという悩みを抱える。政令市の一つの目安とされる70万人を切り、全国20の政令市の中で最も人口が少ない。

 静岡市の場合、東京から新幹線で1時間という距離の近さが逆にあだになり、進学や就職を機に東京圏に出たまま、地元に戻ることなく、そのまま移り住んでしまうケースが多い。結果的に生産年齢の人口が減るという構造的な問題を抱える。

 静岡市では首都圏の大学などに通う学生の新幹線通学定期券の費用の一部を貸与し、卒業後、市にとどまった場合は、返済を全額免除する画期的な制度を導入した。

 これに加えて、目を付けたのが首都圏で働く層だ。「仕事はそのまま、住まいは静岡市へ」をキャッチフレーズに、まずは実際に訪れてもらって静岡の良さを知ってもらおうと、市内でテレワークを体験する人に、新幹線代(最大1万2000円)と宿泊費(1泊当たり8500円)、オフィス使用料(4000円)を補助する1日~1週間程度の「お試しテレワーク体験事業」を展開している。

 18年から出身地の静岡市と都内の2拠点生活を実践している外資系コンサルティング会社勤務の船崎宏太さん(32)は「静岡は、東京に比べて物価が安く、人も密集しておらず混雑も少ない。顧客企業とのやり取りもリモートでできることが多く、場所に縛られないノビノビとした生活ができる」と満足げだ。

 静岡市移住支援センターの田邉あき相談員は「コロナによって東京にいる意味がなくなったと感じる人が増えたような気がする。静岡は食材も豊かで住環境が良く、日常の中に“プチぜいたく”が豊富にあり、移住先としておすすめ」とアピールする。

企業も“脱東京集中”

 個人だけでなく、企業にも「脱東京」の動きがみられる。今回のコロナのような感染症の流行や自然災害など不測の事態に直面した場合にも、被害を最小限に抑え、機能の維持や早期復旧を図るため、企業は作業手順や優先順位などを示した事業継続計画(BCP)を策定している。このBCPの観点からも主要な拠点が東京に集中することは、企業にとって大きなリスクにつながる。

 東京のバックアップ機能を持つ「副首都・大阪」の確立を目指している大阪府・大阪市副首都推進局が東京都内に本社を持つ東証1部上場企業を対象に20年9月に実施した調査(回答社数185社)によると、22.7%が東京圏以外での本社機能拡充や拠点の整備を予定していることが分かった。「コロナ禍で東京一極集中のリスクに対する意識の変化があった」と答えた企業は、56.2%に上り、経営者の危機意識が高まっているようだ。

 「脱東京」を実際に行動に移したのが、人材派遣大手のパソナグループだ。20年9月から段階的に東京にある本社機能の一部を兵庫県の淡路島に移している。パソナは東京駅近くに本社をおいており、営業部門やグループ企業を含めて約4600人が働いている。移転対象はほかにIT部門などで、一部の人員は東京に残すものの、幹部のほか、経営企画や人事などの社員約1200人が淡路島に常駐する見通しだ。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、在宅勤務が定着したことから、地方移転が可能だと判断したという。

カギを握る環境整備

 日本政策投資銀行地域企画部の白水(しろうず)照之次長は「コロナ禍を経て、多くの人がテレワークを経験し、多くの企業がすでに必要な設備投資を実施している。終息後もこれを活用していこうという考えが継続する可能性がある」と指摘したうえで、「テレワークを地域の活性化につなげるには、こうした意識が残っているうちに企業や個人双方にメリットがあるよう環境整備を強化すべきだ」と提言する。

 テレワークの取り組みで先行するのが長野県駒ヶ根市だ。人口約3万2000人の同市は17年に駒ヶ根テレワークオフィス「Koto(コト)」を中心市街地に開設した。

 東京から高速道で3時間以上かかり、立地条件は必ずしも良くないが、市内には、日本電産、養命酒製造などの開発・製造拠点があり、雇用環境は恵まれている。ただ、子育て中の女性らが時間や場所を選ばず自由に働ける仕事が少ないという問題を抱えていた。テレワークオフィスの設置は、都市部から仕事と人の流れを作る狙いがあった。

駒ヶ根テレワークオフィス「Koto(コト)」に設置されたテレワークセンターで作業する市民ら
駒ヶ根テレワークオフィス「Koto(コト)」に設置されたテレワークセンターで作業する市民ら

同オフィスは、民間ビルの1、2階合わせて約125平方メートルを市が借り上げ、東証マザーズに上場し、インターネット上で仕事の受発注を仲介する「クラウドワークス」と、システム・ソフトウェア開発などの「ステラリンク」など3社のサテライトオフィスが入居している。1階はクラウドワークスが運営するテレワークセンターで、ネット環境とパソコンを整備し、業務を請け負う人が手ぶらで訪れ、希望する時間に仕事をすることができる。登録者は約250人で、このうち95%を女性が占めるという。クラウドワークスのビジネスモデルは、首都圏の企業から委託された外部委託事業をオフィスに駐在するディレクターが自営型テレワーカーに発注する「クラウドソーシング」という仕組みを活用する。

クラウドソーシングは、人件費のかかる社員を必要以上に抱え込まず、「必要な時に必要なだけ活用したい」という企業にとってメリットが大きい。

 駒ヶ根市は、人材教育にも力を入れており、日本IBM(東京)と連携し、登録者向けにIT分野で働くための知識や技術を習得するプログラムを無償で提供している。知識や技術を高めて仕事の幅を広げてもらう狙いがある。

 市商工振興課の林光洋工業係長は「IT人材を育成する環境があり、業務を担える優秀な人材がいる街となれば、いずれは移住を考える人や、企業にとっても魅力的に映るだろう。コロナで急速に変化している時代に対応し、全国のモデルになれるよう育てていきたい」と意欲を見せている。

デジタル活用した街づくり

 一方で、コロナ後を見据え、地域内の企業や人材とデジタル技術を活用して自立的な街づくりを推進する自治体にも注目が集まる。

 地方創生・地方拠点都市の活性化に詳しい野村総合研究所の神尾文彦主席研究員が、IT導入による地方創生で参考にしているのは、日本と同様に人口減少や高齢化に直面しながらも高い生産性とビジネス創出力を誇るドイツの地方都市だ。その一例が南部のバイエルン州に位置するエアランゲン市で、人口約11万人の中小都市ながら国内屈指の医療人材を供給するエアランゲン・ニュルンベルク大学が立地し、グローバル企業のシーメンスヘルシニアーズ社が本社を置く。地元の中小企業とも連携し、大学や研究機関の優秀な医療系の人材や先端的な研究成果を活用しながら、世界に向けたビジネスを展開しているのが特徴だ。

 新たな雇用を生み出すベンチャー企業も多く育っており、同市の1人当たりの国内総生産(GDP)は、ドイツ全体の2倍の水準にあるという。

 野村総研は、エアランゲン市のような地方にありながら、高い生産性を維持し、世界市場とつながって、自立的な成長を遂げる都市を「ローカルハブ」(独立拠点都市)と呼ぶ。

 日本でこうした機能を持ちうる地方都市を考えた場合、京都市や浜松市など有力企業と研究機関が集積する都市圏が第一に浮かぶが、野村総研が期待を寄せているのが山形県鶴岡市だ。人口が約12万4000人で、ドイツのローカルハブと規模は変わらない。市内にシーメンスヘルシニアーズ社に該当する大企業はないが、山形大農学部や慶応大先端生命科学研究所、鶴岡工業高等専門学校などの研究機関が存在する。慶大の研究所が中心となって地元の研究機関と国立がんセンター、理化学研究所が連携し、ゲノムやメタボローム(代謝物)などの共同研究を行っている。鶴岡市はこうした環境を生かし、12~14年にかけて市民約1万1000人の医療・検診に関するデータを慶大研究所に提供。ゲノム、メタボ解析によって、がんにかかりやすい体質などを分析し、市内の医療機関などを通じて、その予防策を市民にフィードバックしている。

 市は19年末に野村総研と「デジタル化による構造改革の推進」について、また鶴岡高専と「デジタル人材の育成」に向けて協定をそれぞれ締結した。市との協定では、デジタル技術の活用による街づくりを通じて、<1>人材の育成<2>質の高い雇用の創出<3>付加価値が高く社会貢献にも資する産業の創造―を一体として進め、ローカルハブを構築することを目指している。神尾主席研究員は「鶴岡の強みを生かせるようなバイオ、医療、福祉といった分野で連携できる企業の活動拠点を強化し、都市としての情報発信力を高めながら新しい産業を創出できるよう支援していきたい」と話す。

人の移動を分析

 「小さな世界都市―Local&Global City―」というキャッチフレーズを掲げる兵庫県豊岡市(人口約8万人)もデジタルの活用に積極的だ。同市には志賀直哉の小説でも有名な城崎温泉があり、コウノトリが生息することで知られる。21年4月には県立の芸術文化観光専門職大学が開校する予定だ。

 市は開校に先駆けて20年9月に開催した「豊岡演劇祭」で情報通信技術(ICT)を駆使した車などの移動手段の提供や、人の移動データを集積する試みを行った。仏アビニョンで開かれる世界最大級の演劇祭を参考にしたイベントで、国際的に活躍する劇団などが市を訪れ、市内各地の劇場などで公演した。面積の小さいアビニョンと異なり、同市は県内最大の面積を誇り、主要会場間を移動するだけで30分以上かかるうえ、公共交通機関も少ない課題を抱えていた。

 そこで、予約を集約して希望する場所で乗降できる「オンデマンドバス・タクシー」を運行し、人工知能(AI)を活用して最適なルートを導き出した。また、来場者が首からぶら下げるパスポートのストラップに発信機を取り付け、個人を特定しない形で、観光スポットや会場をどういう風に回っているかを解析した。

 市は16年にKDDIと提携し、全地球測位システム(GPS)で観光客の動きを調査して、観光スポットごとの滞在時間などを解析しており、演劇祭のデータを含めて今後の観光戦略に役立てたいという。

 中貝宗治市長は「新型コロナウイルスによって、『密』が価値を失い、『疎』が価値を回復するという動きが顕著になってきた。疎の非効率をデジタル技術で補い、地域を活性化させたい」と意気込む。

首長に必要な経営マインド

 秋田県出身の菅義偉首相は昨年9月の就任記者会見で「地方を大切にしたい。日本のすべての地方を元気にしたい。こうした気持ちが脈々と流れている」と述べ、地方創生に並々ならぬ意欲を示した。

施政方針演説で地方創生への決意を表明した菅首相
施政方針演説で地方創生への決意を表明した菅首相

ただ、新型コロナ対応の予算が肥大化する中、直接的に地方創生に配分できる予算は限られる。中央政府に頼れない状況下で、地域を牽引(けんいん)する首長に求められるのは起業家精神(アントレプレナーシップ)、経営者マインドだろう。

 地域の魅力や強みを分析し、地域の価値をどうやったら高められるか。そうした知恵を絞る自治体間の健全な競争が加速することが、大都市圏と地方都市が共存共栄する「国土の均衡ある発展」につながると言えそうだ。

  • 主な参考文献・資料
  • 高橋徹(2020年)『アフターコロナの地域金融』読売クオータリー54号(読売新聞東京本社調査研究本部)
  • 日本政策投資銀行(2020年)『ウィズ・コロナにおける地域創生のあり方検討について』地方創生有識者懇談会(第2回提出資料)
  • 神尾文彦(2020年)『知的資産創造4月号 デジタル化を地方創生にどう活かすか リージョナルテック構築の重要性』野村総合研究所
  • 野村総合研究所 神尾文彦、松林一裕(2016年)『地方創生2.0 強い経済を牽引する「ローカルハブ」のつくり方』東洋経済新報社
  • 野村総合研究所 此本臣吾監修、森健編著(2020年)『デジタル国富論』東洋経済新報社
  • みずほ総合研究所編(2018年)『キーワードで読み解く地方創生』岩波書店
  • みずほ総合研究所 岡田豊(2013年)『地域活性化ビジネス 町おこしに企業の視点』(東洋経済新報社)
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2020年)『2021年 日本はこうなる』東洋経済新報社

※この論考は調査研究本部が発行する「読売クオータリー」掲載されたものです。読売クオータリーにはほかにも関連記事や注目の論考を多数収載しています。最新号の内容やこれまでに掲載された記事・論考の一覧は こちら にまとめています。
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