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コロナ禍で滞る結核対策 診断・治療を継続するには

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POINT
■新型コロナウイルスの感染拡大による医療提供体制の 逼迫(ひっぱく) で結核の診断や治療が遅れ、全世界で死者が増えている。結核患者は2020年から5年間で630万人増え、140万人が死亡するおそれがある。

■結核高まん延国の一つ、ケニアでは、結核診断数が2割減少している。2022年までに58万人余の結核患者にアクセス(診断・治療)することを目標にしているが、20年までのアクセス数は目標の半分にも達していない。

■こうしたなか、コロナ対策と結核医療を共存させる方法が模索されている。インドではすでにプログラムが立ち上がっている。日本で開発された超小型エックス線技術などの利用が期待されている。

国際NGO(特非)日本リザルツ・ケニア駐在員 長坂優子  

コロナ・パンデミックで遅れる結核治療

 日本では「すでに終わった病」という印象が強い結核だが、ケニアでは依然として深刻な問題だ。筆者はケニアで、貧困層向けに結核抑止に向けたプログラムを実施している。ケニアは世界保健機関(WHO)が指定する結核高まん延国の一つだ。高性能な日本発の結核診断機器を導入するとともに、医療従事者や住民などに啓発活動をし、結核の早期発見・治療に向けた取り組みを行っている。

〈写真上〉新型コロナ感染拡大後のナイロビ市内の診療所(ヘルスセンター)〈写真下〉受付では診療前に検温を行うなど、院内感染対策を徹底している(いずれも2020年春)
〈写真上〉新型コロナ感染拡大後のナイロビ市内の診療所(ヘルスセンター)〈写真下〉受付では診療前に検温を行うなど、院内感染対策を徹底している(いずれも2020年春)

 ケニア保健省によると、新型コロナウイルスの発生以降、1か月間に結核と診断される人の数は2割も減った。コロナと結核は(せき)、熱など症状が似ている。ケニアのスラム街のような場所では、コロナ感染者への差別が深刻だ。このため、同じような兆候があっても、病院に行くのを嫌がる人が増え、診断・患者数が減ったのだ。

 結核の迅速診断は、新型コロナ発生前には1か月に最大で80検体行っていたが、コロナ発生後は月に10件程度まで激減した。医師・看護師が慢性的に不足しているケニアでは、「医療ボランティア(CHV)」と呼ばれる有志が、結核の疑いがある患者の喀痰(かったん)を直接家に取りにいき、定期的に患者を家庭訪問するなどして、投薬・治療をフォローしてきた。

 しかし、ケニアでもコロナ禍は深刻な影響を及ぼしている。これまでに14万人近くが感染し、最近も1日に2000人近い感染者が確認される日もある。コロナ発生後は、衛生面の問題や感染拡大を防ぐ観点から、医療ボランティアの活動を制限せざるを得なくなっている。

 医療従事者へのコロナ感染も問題となっており、結核検査を行う技師がコロナにかかり、結核診断そのものができなくなってしまう問題も起きた。結核の検査や患者のケアが不十分になったことで、所在不明の結核患者が増え、このことが結核感染をさらに増やす要因にもなっている。

世界の目標達成にも遅れが

医療ボランティア(CHV)と行った診療所の清掃活動(2018年9月撮影)
医療ボランティア(CHV)と行った診療所の清掃活動(2018年9月撮影)

 2018年9月には日本が共同議長となり、ニューヨークの国連本部で結核に関する初の国連ハイレベル会合が開かれた。会合では「22年までの5年間で、結核患者4000万人に診断と治療を提供するため、22年までに結核対策費を少なくとも年間130億ドルにまで増やす」ことを確認している。

 ケニアではこれを踏まえて、22年までに58万5100人の患者(うち6万8900人は子ども)にアクセス(診断・治療)することを目標とし、ケニア保健省内にある国家結核プログラムが中心となり、結核対策を進めている。だが、20年末の時点では、25万5856人にしかアクセスできておらず、子どもへのアクセスは、3分の1以下の2万3793人にとどまっている。政府もプログラムの遅れを認識し、国を挙げて啓発キャンペーンを行うなどしているが、多くの医師や看護師は新型コロナ対応に割かれ、検査所や病院もコロナ対策に転用されてしまっている。

迅速結核診断の様子
迅速結核診断の様子

 新型コロナの影響による結核対策の遅れはケニアだけの話ではなく、世界全体の数値にも顕著に表れてきている。世界各地で大規模なロックダウンなどが行われ、結核の診断・治療体制がそのしわ寄せを受けた結果、2020年からの5年間で全世界の結核患者は630万人も増え、140万人の結核患者が死亡するおそれがある。

 未曽有のパンデミックに立ち向かうため、各国がコロナ対策に注力するのは理解できる。だが、医療のリソースがコロナに集中することで、結核終焉(しゅうえん)に向けた取り組みがさらに遅れ、これ以上亡くなる患者が増えることは避けなければならない。

コロナと結核対策の共存を目指して

 新型コロナ対策への支出・投資をコロナのためだけではなく、結核を含めた感染症対策と共存させることはできないだろうか。コロナと結核は症状も似ているが、診断・治療における考え方も似ている。結核対策で取り入れてきたマスクなどの感染対策はもちろん、接触者追跡、在宅ケアの方法などは、コロナでも同じように利用できる。

診療所があるナイロビ・カンゲミ地区。バラックの家が並ぶ
診療所があるナイロビ・カンゲミ地区。バラックの家が並ぶ

 エックス線機器などの診断ツールはコロナにも使用できる。すでに日本が開発した持ち運び可能な超小型エックス線機器などを、ケニアをはじめとする結核高まん延国や、コロナのまん延が深刻な開発途上国に普及させることができないか、検討が始まっている。

 新型コロナの経験をプラスに生かすこともできる。ケニアと同じく結核高まん延国のインドでは、政府の主導で結核とコロナ双方の診断を同時に行うプログラムが立ち上がっている。コロナ対策のため開発された接触者追跡システムを結核患者にも取り入れることで、患者の服薬状況や治療経過などがデジタルツールで管理できるようになった。

 何より変わったのが住民の意識だ。ケニアでは至るところで、マスク着用、手洗いと消毒などが徹底されるようになった。こうした感染予防、衛生面への意識向上は、結核、そして他の感染症を抑止するためにも効果がある。

 コロナ対策と結核対策を切り離して考えるのではなく、双方の経験から学び、知見と技術を結集させることで、より効果的な医療サービスやイノベーション(技術革新)を生み出し、双方の感染症に相乗効果をもたらすことを願っている。

(写真はすべて長坂さん提供) 

プロフィル
長坂 優子氏( (ながさか・ゆうこ
1985年、愛知県生まれ。通信社、テレビ局などで記者として勤務後、2016年から日本リザルツでコミュニケーション担当として、国際保健分野への日本政府のコミットメント拡大に向けて政策提言活動、メディアワークなどを実施。18年からはケニア駐在員として、ケニアのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)実現に向けて、日本・ケニア両政府や民間企業、国際機関などと連携し、結核抑止、公衆衛生改善、栄養指導などの啓発活動を進めている。名古屋大学大学院修了。

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1973921 0 NEWS特集 2021/04/09 15:23:00 2021/04/09 15:23:00 2021/04/09 15:23:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210409-OYT8I50052-T.jpg?type=thumbnail

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