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通じるか、憲法改正へ二つの「変化球」

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POINT
■憲法改正に前向きだった安倍前首相が退いた後、自民党は2種類の「変化球」を投じて局面の打開を図ろうと画策している
■1投目は「菅隠し」である。首相自らが勇ましい発言をすることを控え、静かに議論する環境を整える狙いがある
■それでも憲法論議に消極的な立憲民主党が改憲の発議に反対を続ければ、「立民外し」も視野に入れる。ただこの2投目は、乱闘を招く「ビーンボール」の危険もはらむ
■憲法改正の国民投票は、歴史的な大イベントとなる。子々孫々にわたり「失敗体験」が語り継がれることのないよう、入念な準備が必要だ

 菅首相は、憲法改正への考え方について、多くを語ろうとしない。反面、自民党の責任者である憲法改正推進本部長に「積極改憲派」として知られる衛藤征士郎・元衆院副議長を起用した。衛藤氏は「憲法改正案をまとめる」と意気込んでいる。自民党の一見ちぐはぐな動きの背後に、菅氏や二階幹事長の「深謀遠慮」がうかがえる。

主任研究員 舟槻格致

めどの立たない改憲論議

 憲法改正について議論する衆院の憲法審査会は11月、約半年ぶりに自由討議を行った。開会中の臨時国会で初日となった19日の審査会は、議場「3密」を避けるため開け放たれた窓のカーテンが風で激しくあおられ、憲法論議の行方が波乱含みなことを印象付けていた。多数の傍聴者も詰めかけ、憲法改正に対する国民の関心の高さをうかがわせた。

自由討議が行われた衆院憲法審査会(2020年11月19日)
自由討議が行われた衆院憲法審査会(2020年11月19日)

 この日の議題は、2018年6月から継続審議となっている憲法改正国民投票法の改正だった。相変わらず、議論の進め方などを巡る与野党の見解の違いは埋まらず、改正法が成立するめどは立っていない。まして「本丸」の憲法改正については、議論にいつ入れるのかさえも、全く見通せない状況が続く。

 そうした中、膠着(こうちゃく)状態の憲法論議を前に進めようと、自民党は2種類の新たな「変化球」を投げ込もうとしている。乾坤一擲(けんこんいってき)の「魔球」ともなりうるが、憲法論議を混乱させるだけの「ビーンボール」になる懸念もはらんでおり、「球筋」の行方から目が離せない。

1球目は「菅隠し」

 一つ目の変化球は、菅首相が憲法議論の表舞台から姿を消す作戦だ。

衆院本会議で所信表明演説に臨む菅首相(2020年10月26日)
衆院本会議で所信表明演説に臨む菅首相(2020年10月26日)

 安倍内閣では、一貫して首相本人が先頭に立ち、憲法改正の旗を振った。そのことが、立憲民主党をはじめとする複数の野党を刺激して、反発を招いた。「安倍政権の間は改憲を絶対阻止する」と意固地になるほどだった。

 立民の主張はこうだ。憲法改正は、国会が発議して、国民投票の過半数で承認を受けることで成立する(憲法96条)。憲法改正の主役は国民と、国民の代表である国会議員であって、行政(内閣)が先導して改憲を進めるのは、主・従が逆転した越権行為ではないか。内閣は、憲法によって権力行使を制限される立場だから、前に出るべきではないと。

 そこで菅首相は、国会の憲法論議を見守る受け身の姿勢に徹することにした。首相の強い意向を受け、自民党の二階幹事長、衛藤憲法改正推進本部長も、こうした方針で一致したとされる。今国会の所信表明演説では、「憲法のあるべき姿を最終的に決めるのは、主権者である国民の皆様だ。与野党の枠を超えて建設的な議論を」と、あくまで国民主導の改正論議を呼びかけた。

「魔球」になるか

 安倍政権の継承を掲げる菅政権が、憲法改正については「菅隠し」とも言えるやり方をとったことに、永田町では予想外の対応と受け止める向きが多い。立民の一部幹部は、菅氏の姿勢を評価している。少なくとも、審査会という「現場」で議論している与野党幹事たちの頭越しに首相が勇ましい発言を繰り返してきた安倍政権期の風景は一変した。落ち着いた審査会の議論の環境を整える上で、プラスに働くのではないか。ひょっとすると、一見地味に見える「菅隠し」の変化球は、膠着状態を打破する「魔球」になるのかもしれない。

 ただ問題は、「行政府の長」である首相が不在のまま、中身のある憲法論議を進めることができるのかどうかだ。憲法改正は、大まかな方向性は政治家同士の話し合いで決められるだろう。しかし、条文の文言が意味する要件や効果、各種法律や政省令との関係などを詰めるには、実務的・専門的な知見が欠かせない。

 憲法の大改正を行ってきたドイツやフランスでは、国会議員だけでなく行政や憲法、法律の専門家も大いに関与している。例えばフランスの2008年の大改正は、サルコジ大統領の大統領選公約に基づき、エドゥアール・バラデュール元首相を委員長とする委員会が専門家なども交えて憲法改正案をまとめた。国会議員だけで憲法改正を論議している「日本方式」は、決して国際標準ではない。

いざとなれば「立民外し」も

 責任の所在も問題となる。安倍内閣までは、仮に憲法改正の国民投票が否決されたら、内閣総辞職は必至との見方が強かった。これに対し、衛藤氏は「責任は衆参の議長にある。首相には全くない」と言い切る。本来衆参の「行司役」でしかない議長が責めを負う一方で、改憲の発議に賛成した政党の総裁である菅氏が免責されるのは筋が通らない。行政府の長である「総理大臣」と、自民党「総裁」という二つの役職を使い分け、総理としては国会の憲法論議から完全に距離を取るという「総・総分離論」は、国民の理解を得られるだろうか。

 「菅隠し」で立民が論議に乗りやすい環境作りに腐心する一方で、立民が改憲の発議に反対し続けた場合には、押し切って議決してしまおうという強行策も準備しているふしがある。もちろん立民の説得は粘り強く続けることになろう。最後の最後の「奥の手」と言っていいかもしれない。

衆院憲法審査会で発言する国民民主党の山尾志桜里氏(2020年11月19日)
衆院憲法審査会で発言する国民民主党の山尾志桜里氏(2020年11月19日)

 現在の国会の勢力分布からすれば、与党の自民党・公明党と、日本維新の会、国民民主党など憲法改正に前向きな政党を中心に改憲原案を成立させ、国民投票に臨むことも不可能ではない。立民に所属していた国民の山尾志桜里氏は、19日の衆院憲法審査会で「憲法審査会は、国会議員相互の議論の場だ。内閣に問題が起きても基本的には立法府として粛々と議論を進めるべきだ」と発言した。

 立民は、憲法論議に終始抵抗してきた枝野幸男氏が代表を務める。その立民を外せば、審査会の議論自体は、格段にスピーディーに進む可能性があるといえよう。

 ただ、この場合も、課題は大きく二つある。まず、改正に前向きな各党の中でも、具体的な憲法改正項目はかなり異なっている。自民党は、自衛隊を憲法に位置付ける9条の加憲や緊急事態条項の創設を重視している。一方、維新は道州制や憲法裁判所などオリジナルな主張にこだわりを持つ。「同床異夢」の状況をすり合わせるには、それなりの時間が必要となる。参院では憲法改正に前向きな勢力が、2019年の参院選の結果3分の2を割っている。発議にこぎつけるには、参院の「護憲派」を切り崩さなければならない。

避けたい「失敗体験」の伝承

 もう一つは、野党第1党が反対する中で国民投票に踏み切ることに伴うリスクである。最大野党の立民が強硬な反対姿勢を貫けば、それに呼応した大規模デモ活動が国会前などで起きかねない。集団的自衛権の行使を限定容認する安全保障関連法を巡る2015年の騒動が思い出される。こうした「騒乱ムード」が広がる中、国民投票で過半数による承認を得られるだろうか。国民に憲法改正の意義を粘り強く説得することはもちろん、世論調査などで綿密に国民投票の帰趨(きすう)をウォッチしておくことが欠かせない。

 大日本帝国憲法も日本国憲法も、制定後に改正されたことはない。改正を目指すのなら入念な準備が必須となる。歴史的なイベントとなる国民投票が、子々孫々にわたって「失敗体験」として語り継がれる事態は避けたいものである。

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1652584 0 政治・選挙 2020/11/25 18:09:00 2020/11/25 18:09:00 2020/11/25 18:09:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/11/20201125-OYT8I50072-T.jpg?type=thumbnail

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