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環境ポピュリズムの足音が聞こえる<2>ちぐはぐな菅政権の電力政策

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POINT
■日本が温室効果ガスの排出量を「46%削減」する目標を達成するには、現在の主力電源である火力発電の比率を大幅に下げなければならない。しかし、今年は電力需要の増える夏と冬に、深刻な電力不足に陥ると見込まれている。

■政府は「古い石炭火力廃止」の方針を示す一方で、今年の電力不足を乗り切るため、発電効率が悪く、CO2を大量に排出する古い火力発電所の再稼働を要請している。菅政権の電力政策のちぐはぐさを象徴する動きである。

■2030年度まであと9年しかない。地球環境に優しい再生可能エネルギーを伸ばすには、コストや技術面の課題を考えると太陽光に頼らざるを得ない。天気が悪いと発電量が急低下する不安定な太陽光の「一本足」で、再生エネの比率を大幅に高めて大丈夫なのか。

■菅政権は、政治的にリスクの高い原子力を巡る議論から逃げているように見える。国民の耳に快い「再生エネ推進」ばかりを唱えていては、責任ある政治とは言えない。エネルギー政策は、安易な「環境ポピュリズム」に陥るかどうかの 分水嶺(ぶんすいれい) に立たされている。

 今年の夏と冬の電力需給の見通しは厳しい。二酸化炭素(CO2)を大量に排出する火力発電に頼るほかにない電力事情なのだ。一方で、菅政権は9年後には温室効果ガスの排出量を半減させる目標を掲げている。達成への具体的な方策を示さず、「バラ色の未来」を語るのは、ポピュリズム(大衆迎合主義)に他ならない。連載の2回目は、再生エネ拡大一辺倒で電力政策を進めた場合のリスクについて考える。

調査研究本部主任研究員 林田晃雄

今年の電力需給は綱渡り

 冷房などで需要の増える今夏の電力需給について経済産業省は、「ここ数年で最も厳しい」と見込んでいる。ピーク時の電力需要に対して供給の余力がどの程度あるかを示す「予備率」は、8%以上が望ましいとされる。3%を下回ると、電力不足が引き金となって電気の周波数が乱れ、突然の大規模停電につながる危険がある。7月は全国の10電力会社のうち東京、中部、関西など8電力管内で予備率が3.7%に、8月は7電力管内で3.8%になるという。安定供給の最低ラインである3%は何とかクリアしているものの、これは電力会社同士で電気を融通し合うことを前提とした予想値である。それぞれの管内単独での電力需給はさらに厳しいということだろう。万一、猛暑時に大規模停電が起きたらエアコンは止まり、熱中症の危険が高まることは避けられない。

今年の夏は電力不足による停電が心配だ。エアコンが止まると熱中症のリスクはきわめて高くなる(2020年8月、小型扇風機を手に炎天下を歩く女子高生たち)
今年の夏は電力不足による停電が心配だ。エアコンが止まると熱中症のリスクはきわめて高くなる(2020年8月、小型扇風機を手に炎天下を歩く女子高生たち)

 冬はさらに深刻だ。2月には、6電力の予備率が夏より下がって警戒水準の3%ちょうどになる。さらに東京電力はマイナス0.3%と、需要のピークに供給力が届かない危機的な状況が予想される。経産省は臨時的な供給確保策を講じれば、何とか予備率3%の最低ラインをクリアできるとしているが、電力需給が綱渡りであることに変わりはない。

 電力不足の主因は、老朽化した火力発電所の相次ぐ休止・廃止だ。経産省は、2021年は前年の夏に比べて火力発電の6%にあたる680万キロ・ワット分の供給力が減る見通しを示している。平均的な原子力発電所で6~7基分にあたる電力供給力が失われる一方、今年中に原発の再稼働が大きく進むメドは立っていない。そこで経産省は、供給力を高めるため老朽化などで止めている火力発電所を再稼働するよう電力各社に要請する考えを示した。

 菅政権は、温暖化対策の柱として「脱火力」の旗を高く掲げる一方で、電力の需給対策ではCO2排出量の多い老朽火力発電所の積極的な稼働を促している。長期的課題と当面の電力確保という違いはあるにせよ、エネルギー政策のちぐはぐ感は否めない。

 今年は危機的な電力不足が予想され、火力発電の追加的な稼働を迫られているのに、9年先なら火力から再生可能エネルギーへと大胆に移行しても電力安定供給に支障が出ないと見込める根拠はどこにあるのだろう。温室効果ガス「46%削減目標」を主導した菅首相は国民に対し、納得のいく説明をするべきだ。

太陽光発電の弱点が露呈した

 46%削減の目標年限まで9年しかない。コストや発電施設の建設期間、技術的な課題などを勘案すれば、供給力を大幅に拡充できる余地のある再生エネは太陽光しかない、という見方が大勢だ。政府が期待を寄せている洋上風力は現在、大半は実証実験を繰り返している段階で、営業運転にこぎつけたところはごくわずかである。

福島県沖での実証実験を終え、撤去された洋上風力発電の大型風車(2020年6月、えい航中の千葉県・銚子沖で)
福島県沖での実証実験を終え、撤去された洋上風力発電の大型風車(2020年6月、えい航中の千葉県・銚子沖で)

 大規模な洋上風力の発電所を多数整備するには、9年という残り時間はあまりに短すぎる。最大級の新型風車を導入しても、1基あたりの出力は最大1万キロ・ワットほどで、標準的な原発1基の100分の1にすぎない。多数の風車を設置できる海域の確保や漁業権を巡る交渉、航路の安全性の確認、海洋環境に及ぼす影響の調査、台風の強風や高波に対する耐久性の検証など、解決すべき問題は山積している。わずか9年では、原発1基分、つまり、最新の大型風車を100基建設するのも容易ではないだろう。

 大型の水力ダムは、既に開発の余地がない。地熱も温泉が枯渇することに不安を感じる地元の反対や、適地が国立公園内に多いといった様々な制約があり、導入は遅々として進まない。2030年度の目標達成で頼みの綱となるのは、やはり太陽光だろう。

 その太陽光の弱点が、20年末からの大寒波で顕在化したのはショッキングだった。

 12年に当時の民主党政権が導入した再生エネの固定価格買い取り制度(FIT)では、太陽光発電の買い取り価格が当初、他の再生エネより突出して高く設定された。高値買い取りで利益が出やすいことから、FITで新たに導入された再生エネ発電の9割以上が太陽光という偏った状況になった。全国の太陽光の電源比率は7%弱だが、九州電力の管内では、好天の日中なら最大で発電量の半分を賄うほど、存在感が大きくなっている。

 ところが、昨年末からの大寒波では、太陽光への依存度の高さが裏目に出た。寒波による降雪によって太陽光の発電量が急減し、九電管内では特に電力需給が 逼迫(ひっぱく) した。再生エネの比率が高いのは地球環境保護の観点では喜ばしいが、電力インフラの生命線である安定供給が揺らいでしまったのでは、元も子もない。

 再生エネで電力を安定的に供給するには、大容量・大出力で効率的な電力系統用蓄電池の開発・実用化や、電力会社間で電気を円滑に融通できる送電線の整備など、様々な対応が必要となる。とはいえ、大規模な電力網を支える性能を備えた蓄電池の実用化は容易ではない。送電網の整備には、巨額のコストと時間がかかる。どちらも、一朝一夕にいかないのは確かだ。

 9年後の「46%削減」達成に向けて、電力の多くを再生エネに、しかも供給力の不安定さを再認識させられた太陽光発電の「一本足」に頼って大丈夫なのか。電力の安定供給体制が揺らぎはしないか、不安は募るばかりである。

腰の定まらない政府の原発戦略

2020年6月の改訂で、政府の「グリーン成長戦略」から、原子力を「引き続き最大限活用していく」との文言が削除された
2020年6月の改訂で、政府の「グリーン成長戦略」から、原子力を「引き続き最大限活用していく」との文言が削除された

 原発をどう活用していくのかについても、政府の腰は定まらない。政府は2021年6月18日に改訂したグリーン成長戦略で、原子力について「可能な限り依存度を低減」する方針を維持する一方、20年12月の戦略に盛り込んでいた「引き続き最大限活用していく」との文言を削除した。原発は現時点で最も安定した脱炭素電源である。安定供給と温暖化対策の「 二兎(にと) を追う」必要のあるいま、なぜ原発活用の選択肢を狭める方向に修正したのか。疑問を禁じ得ない。

 今後、新しい原発を作らず、「稼働40年で廃炉」の原則を厳格に適用していけば、現在は建設中を含め36基ある原発が、温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にする予定の2050年には3基しか残らない。排出したCO2を回収・貯留する画期的な技術が開発されない限り、火力の大半も休廃止するしかない。水素エネルギーなどの飛躍的な普及も必要となる。こうした技術的な「ジャンプ」が実現せず、原発の新増設やリプレース(建て替え)も行わないとすれば、電力のほとんどを再生エネで賄うことになる。

 福島第一原発の事故を受け、政府は14年、国のエネルギー政策戦略を定めるエネルギー基本計画から、新増設やリプレースを計画的に進める方針を削除した。次の「第6次エネルギー基本計画」の策定に向けた議論が、経産省の有識者会議で進められている。事務局の経産省は、21年5月13日の有識者会議に「次期エネルギー基本計画の骨格(案)」を示した。6月中には結論が出ると見られていたが、大幅に遅れている。原発新増設の方針を復活するかどうかを巡り、政府・与党内の意見調整が難航しているためとされる。

 梶山経産相は7月2日の記者会見で原発の扱いに関する質問に対し、「現時点では、新増設、リプレースは想定していないというのが、政府の現状の立場だ」と述べるにとどめた。衆院議員の任期切れを10月に控え、解散・総選挙があってもおかしくない状況である。菅政権は、国民が依然として原発の安全性に不信の目を向けている中、原発に関する判断を示すのは得策ではないと考えているのだろうか。

 「実質ゼロ」は約30年も先のことだが、原発の建設用地を確保し、地元の了解を得て、建設、稼働にこぎつけるには、数十年単位の時間がかかる。新増設に関する政治判断をこれ以上、先送りする余裕はない。

 安全性を高めた最新の原発を建設して活用しつつ、並行して再生エネを着実に導入していく。これが、最も現実的な選択肢ではないか。蓄電技術の向上などで再生エネが基幹電源たり得るメドが立つのを見極めて、原発からフェードアウトしていけばいい。

電力供給は命にもかかわる問題だ

 急激な電力不足に陥ると電気の周波数が乱れて大規模停電を誘発することは、2018年9月の北海道地震の際に起きた日本初の広域的な「ブラックアウト」で実証された。最大震度7の激しい揺れで、大型の石炭火力「苫東厚真発電所」が緊急停止した。急激な供給力の低下に見舞われたことを引き金に、電気の周波数が大きく乱れ、地震では無傷だった他の発電所も設備の破損を回避するため、運転停止を余儀なくされた。離島を除く北海道全域で停電し、札幌市や旭川市の一部で給電が再開されたのは、地震発生から10時間以上後だった。

北海道地震で停止した「苫東厚真火力発電所」。北海道全域に及ぶ「ブラックアウト」の引き金となった(2018年9月7日、北海道厚真町で)
北海道地震で停止した「苫東厚真火力発電所」。北海道全域に及ぶ「ブラックアウト」の引き金となった(2018年9月7日、北海道厚真町で)

 これがあと数か月遅い極寒の季節だったら、エアコンやファンヒーターが止まり、寒さで命にかかわる事態を招いただろう。もちろん、地震が少し前の猛暑時に起きたら冷房が止まり、北海道といえども熱中症の危険にさらされた高齢者などが少なくなかったに違いない。冬も夏も、冷暖房のための電力消費が増え、電力不足による停電が起きやすい。だからこそ、万全の備えが欠かせない。

 たとえ気候のいい季節であっても、長期間の停電は携帯用の酸素吸入器など電気で動く医療機器を使う人にとっては命にかかわる。電力安定供給は、国民の健康と生命を支えているインフラの中のインフラであることを再認識しておきたい。

経済への影響は軽視できない

 経産省は2021年5月13日、50年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするため再生エネの比率を100%にした場合、発電コストが現在の4倍を超えるとの試算を示した。家庭の電気料金が上がるだけではない。あらゆるモノの生産コストが高くなる。社会の基盤を支える電力のコストが4倍に跳ね上がる「再生エネ100%」は、やはり現実的なシナリオとは言えないのではないか。

 再生エネ54%、CO2を回収・貯留する火力が23%、原発10%、残り13%を水素とアンモニアの発電で賄う想定でも、電力コストは2倍になる。これでも、多くの企業が生産拠点を海外に移して国内の産業空洞化が進む懸念は拭えない。大型コンピューターの稼働にも膨大な電力が要る。情報通信をはじめ、様々なサービス業の運営コストも上昇する。産業空洞化による国内工場の減少や企業の業績悪化で雇用情勢は厳しくなり、賃金も低下する。さらに電力コスト増による物価上昇が追い打ちをかける。家計のやりくりは極めて厳しくなろう。

 脱炭素への取り組みで新たな産業や投資が生まれ、雇用が創出される面も確かにあるはずだ。ただ、国民生活と経済活動に多大な負担がかかり、失われる雇用がある現実も直視しなければならない。政治が、その覚悟のないまま脱炭素の夢を吹聴するのは安易すぎる。

 実は現在も家計や企業は、再生エネ導入に伴うコストをかなり負担している。すでに説明したFITの影響だ。大規模な太陽光発電所の買い取り価格は、1キロ・ワット時あたり42円(当時の消費税5%込み)で、大型風力の2倍近い高値だった。しかも、一度認定されれば20年間、当初の高い価格で買い続けてもらえる仕組みだ。

2012年の再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)導入を受け、大規模太陽光発電所(メガソーラー)は建設ラッシュにわいた(2013年9月、福島県のゴルフ場跡地に完成したメガソーラー)
2012年の再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)導入を受け、大規模太陽光発電所(メガソーラー)は建設ラッシュにわいた(2013年9月、福島県のゴルフ場跡地に完成したメガソーラー)

 いまは新規認定時の買い取り価格は10円台前半まで下がっているが、今後10年ほどは当初の高値買い取りが続き、そのコストは家計や企業が払う電気料金に「賦課金」として上乗せされる。標準的な家庭の電気使用量を月300キロ・ワット時とすれば、FITが始まった12年度に年800円ほどだった賦課金が、21年度は1万2000円に上昇した。中小企業の年間負担額を、日本商工会議所の調査をもとに計算すると、1社平均で約770万円も増えている。

 賦課金をどれくらい払っているのかは、電力会社が毎月発行する明細書「電気ご使用量のお知らせ」に書かれている。「再エネ発電賦課金」の金額を確認してみてほしい。CO2実質ゼロへの中間目標である「46%削減」を推し進めた場合、今後数年のうちに、これまでよりはるかに大きな負担が家計や企業にのしかかるのは間違いない。

 前述の電力コスト試算だけでも、かなり負担が増えることは想像できるが、賦課金などで電気料金がどれほど上がるのか、生産コストの上昇に伴う物価高騰や産業空洞化をはじめとした日本経済への影響がどうなるのか、具体的な見通しまでは分からない。

 46%削減目標を達成するには、どれほどの負担に耐える必要があるのか。この肝心な点を率直に語らず、「やればできる」「がんばりましょう」と国民を鼓舞するのは、責任ある政治姿勢とは言えない。

政治的リスクから逃げるな

 大半の国民は、再生エネを伸ばす方向性に異論はないだろう。供給安定性やコスト面で短所はある反面、温室効果ガスを出さず、国内で自給できる優れた電源だからだろう。中東情勢や原油・液化天然ガス(LNG)価格の動向に一喜一憂してきた資源小国の日本が、自前の電力供給源を手に入れる意義は大きい。

 政府は、福島第一原発の事故が起きるまでは原発を「ゼロエミッション電源」の主力に位置づけ、「新増設の推進・設備利用率の向上などにより、原子力発電を積極的に推進する」(第3次エネルギー基本計画=2010年6月)との方針を掲げていた。

福島第一原発の事故について記者会見する菅直人首相(当時)。原発を「脱炭素電源」の主役に据えていた政府の方針は一変した(2011年3月15日、首相官邸で)
福島第一原発の事故について記者会見する菅直人首相(当時)。原発を「脱炭素電源」の主役に据えていた政府の方針は一変した(2011年3月15日、首相官邸で)

 しかし、福島第一原発の事故で様相は一変した。いまも原発の安全性に対する国民の不信感は拭えていない。原発活用を主張するのは政治的なリスクが大きい。「ならば再生エネで」と言いたくなる気持ちも、わからないではない。

 とはいえ、「やりたいこと」が「できること」とは限らない。現実主義に基づいて具体的な政策を立案しなければ、政治は本来の役割を果たせない。政治がシビアな電力政策の現実から目を背け、国民の耳に快く響く「再生エネ推進」ばかりを唱えるようになれば、「環境ポピュリズム」に陥ったと判断せざるを得まい。

 ポピュリズムに染まった国は、「人気取り」が目的化した衆愚政治に堕し、国策を誤ることは、幾多の歴史が証明している。エビデンス(根拠)を軽視した政治は情緒的な「精神論」に傾いて、やがて道を踏み外す。データを軽視し、根拠なき精神主義を掲げた旧日本軍の失敗を分析した「失敗の本質」(中公文庫)など、幾多の著作が指摘している通りである。

 菅政権は厳しい電力事情を踏まえ、原発を含めた最適な電源構成を目指す現実的な政策を推進するのか、それとも環境ポピュリズムに走って課題解決を先送りするのか。日本のエネルギー政策は、その分水嶺に立たされている。

(つづく)

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2187323 0 政治・選挙 2021/07/07 18:50:00 2021/08/05 13:01:16 2021/08/05 13:01:16 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210707-OYT8I50080-T.jpg?type=thumbnail

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