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POINT
■「今どきの若いモン」は今も昔も全体よりも投票率が低く、投票に来ないことで政党・候補者にとってもコストパフォーマンス(費用対効果)が悪いと思われている。

■若い有権者も非正規雇用、賃金が上がらないなどさまざまな課題を抱えているが、その解決の方法として政治にアピールする大きなうねりにはなっていない。

■政党・候補者もSNS戦略を強化しており、フィルターバブルの懸念はありながらも、SNSを通して若い有権者と政治が共鳴する可能性を期待したい。

当確のバラを付ける岸田首相(中央)
当確のバラを付ける岸田首相(中央)

 2021年10月31日に投開票が行われた第49回衆議院議員総選挙では、若い世代の投票率が低いという「いつもと変わらない光景」が繰り返された。その実態はどこに起因するのか、変化の芽はないのかを本稿では論じてみたい。

麗澤大学教授 川上和久  

いまだコスパが悪い「いまどきの若いモン」

 Cygamesが運営するウェブコミック配信サイト『サイコミ』で、2018年4月から連載され、人気を博しているのが吉谷光平氏の「今どきの若いモンは」だ。「今どきの若いモンは」が口グセの課長と若手社員のやりとりが若者の共感を呼び、Twitterでも第1話に数十万の「いいね」が集まった。

 1971年2月に「ジローズ」の歌唱でシングルレコードが発売され、30万枚以上を売り上げる大ヒットとなった「戦争を知らない子供たち」(北山修作詞)は、前の世代と若い世代が断絶した思いを「♪若すぎるからと許されないなら~(中略)~涙をこらえて歌うことだけさ」と歌った。

 いつの時代も、若い世代は前の世代との断絶を感じ、それを乗り越えられずに 呻吟(しんぎん) するものだ。しかし、若い世代が呻吟しても、政治権力を握る形で自分たちの思いを実現するまでのエネルギーは得られない。そんな断絶による呻吟をコミックで表現し、歌で表現するのは今も昔も変わらず、「今どきの若いモン」の定番なのだろうか。今回の衆院選でも20歳代の投票率の低迷が繰り返されたようだ。

若者に配る5枚<高齢者に配る2枚

 たしかに、若者は、一般的に政治からの疎外を感じやすい。政治学を講義していて、選挙で感じる「違和感」を課題提出させると、「駅でビラを配っている人たちも、自分が若いからということで、高齢者に対するよりそっけない扱いをしているような気がする」という感想が書かれたりする。しかし、候補者の立場からすると、それもむべなるかな、だ。

出典:公益財団法人明るい選挙推進協会ホームページ
出典:公益財団法人明るい選挙推進協会ホームページ

 若い世代の政治参加を論ずる際に、よく引用されるのが、公益財団法人「明るい選挙推進協会」による調査に基づいた年代別投票率だ。「戦争を知らない子供たち」が大ヒットした翌年の1972年に行われた第33回衆院選の20歳代の投票率は61.89%で、全体の投票率(71.76%)を10ポイント近く下回り、年代別で最低だった。投票率は60歳代(82.34%)と比べると、20ポイント以上も低い。

 「今どきの若いモンは」の連載が始まる前年、2017年に行われた第48回衆院選では20歳代の投票率は33.85%。全体の投票率(53.68%)を20ポイント近く下回り、60歳代の投票率(72.04%)より大幅に低かった。全体の投票率も下がっているが、20歳代の投票率はさらに低下している。

 投票率の低下に加えて、若い世代は少子化の影響で人口も減っている。2021年10月時点の総務省統計局の人口推計によると、最新の20歳代の人口は1262万人で、60歳代の人口1524万人を下回っている。若干タイムラグがあるのはご容赦いただきたいが、仮に第49回衆院選の年代別投票率が前回の第48回とさほど変わらなければ、20歳代の投票総数は約427万人、60歳代の投票総数は約1098万人となり、投票総数では60歳代が20歳代の2.5倍に達する。候補者は若者に5枚ビラを渡すより、高齢者に2枚ビラを渡したほうが効果的、つまりコスパ(コストパフォーマンス)がいいわけだ。しかも、事はビラのコスパだけにとどまらない。

若い世代が感じる政治の課題は政治家に届いているか

 コスパの良さは、政策にも反映せざるを得ない。ここでは、雇用政策に例をとってみてみよう。

 団塊の世代対策という側面があるにせよ、我が国の社会保障は、1960年代には失業対策や生活保護などが中心だった。しかし、高齢者人口が増えるにしたがって、医療保険や年金制度などの社会保険、高齢者福祉を中心とする社会福祉、介護などの予算が膨れ上がり、110兆円近い歳出総額のおよそ3分の1が社会保障費に用いられている。

 一方で、「もっと自分たちに目を向けてほしい」「ますます非正規雇用が増えたりして、安定した暮らしができなくなるのではないか」と考える若い世代が増えているのも事実だ。厚生労働省は「全世代型社会保障の実現」を掲げているが、安定した雇用と収入がないと、結婚して子供を産み、育てるインセンティブにはつながらないだろう。

 1990年に880万人だった非正規雇用者は、この30年の間に2100万人超に増えた。雇用者全体に占める割合も約20%から30%台後半へと高まっている。

出典:内閣府男女共同参画白書 令和3年版
出典:内閣府男女共同参画白書 令和3年版

国税庁民間給与実態統計調査結果をもとに作成*
国税庁民間給与実態統計調査結果をもとに作成*

 年代別では高齢者での非正規雇用者の比率が高いが、在学中を除く15~24歳の非正規雇用者の比率は男性で21.6%、女性で27.4%で、雇用者の約4分の1が非正規雇用になっている(図2)。全体の給与も伸びていないが、若い世代の給与も一向に増えない。図3に示すように、20歳代前半の給与は30年以上も低空飛行を続けている。

 こういった若者の非正規雇用、給与の伸び悩みの課題については、野党が選挙公約で言及している。立憲民主党は非正規雇用者の正規雇用への転換について、国家公務員や自治体職員の正規雇用化を公約に盛り込んだほか、日本共産党が派遣法改正、解雇・雇い止め規制などを公約した。だが、これらの公約が若者世代に届いたとは言い難い。雇用政策が企業の負担増になって企業の業績が悪化し、かえって景気浮揚の妨げになる懸念を若者世代も感じ取っていたのではなかろうか。

 賃上げについては、自民党が賃上げに積極的な企業への税制支援を打ち出した。維新を除く野党の多くは、共通して全国一律での最低賃金1500円を公約した。野党第1党の立憲民主党と、同党と選挙協力した共産党は、介護・保育労働者などのエッセンシャルワーカーの重点的支援を公約に盛り込んだ。

野党の政策を信用しない若者たち

 だが、今の若い世代に、非正規雇用や賃上げ対策で政治に対して声を上げ、政策転換を促す力があるだろうか。ともすれば見えにくくなっている自分の暮らしと政治を結び付け、政策を動かしていくことはできるだろうか。その展望は、残念ながらはっきりとは見えていない。

 第49回衆院選の全体の投票率は55.93%で、戦後3番目の低さとなった。日本経済新聞が投票日当日に行った出口調査結果(11月1日朝刊)によると、20歳代の比例代表の投票先は自民党が最多の36.7%だったのに対し、立憲民主党への投票は20%を下回っている。野党は選挙公約で非正規雇用や賃金の問題を取り上げたが、多くの若者は野党を信頼しなかったのだろう。コロナ禍で先が見通せない中、政治にその解決を求める道筋が見えず、とりあえず「政権政党にしっかりしてほしい、日本の経済成長で、少しでも自分たちの暮らしを安定させてほしい」と考えたのではないか。若者が抱いているだろう政府への 鬱屈(うっくつ) した感情を政治は見て取るべきだろう。

SNSが促す?若い世代の政治参加

 一方で、変化の兆しもみられる。その有力な手段として注目されているのがSNSだ。2013年に選挙におけるネット利用が解禁され、各政党、候補者は試行錯誤を繰り返しながら、SNSによる情報発信を充実させてきた。

 選挙ドットコムの調査結果によると、今回の衆院選でYou TubeとInstagramを利用した候補者は前回の国政選挙(2019年参院選)より大幅に増えた。コロナ禍で候補者もSNS戦略がカギになるとみて、8割以上の候補者がSNSを用いた情報発信をしている。

出典:明るい選挙推進協会 第25回参議院議員通常選挙全国意識調査
出典:明るい選挙推進協会 第25回参議院議員通常選挙全国意識調査

 政党や候補者による積極的な情報発信に対応する若い有権者のSNS利用も積極的だ。図5は公益財団法人「明るい選挙推進協会」による第25回参院選後の世論調査で、年代別の政治・選挙の情報入手元を尋ねた結果だが、18~20歳代ではインターネットが32.4%で、新聞はわずか4.9%だった。30~40歳代でもインターネット24.1%に対して新聞は8.1%だった。この傾向は、今後ますます強まっていくだろう。

 SNSが若い世代の劇的な投票率の向上に結びついていないのは、若い世代が求める「現状を打開したい」という思いと、その思いに対応する政党や候補者のSNSによる情報発信が、今のところ必ずしもマッチングしていないためだろう。だが、SNSは政党・候補者と若い有権者を結び付け、大きなうねりを起こす可能性を秘めている。

 ただし、これまでも指摘されているように、ネット空間はフィルターバブル(注)でもある。自分にとって都合のいい情報だけに接触して政党や候補者を決めてしまう危険がつきまとう。反対意見を聞かずに一方だけを支持することは「社会の分断」につながる。こうしたリスクに留意する必要があるのは言うまでもない。ネット時代の主権者教育のあり方も検討し、短絡的な判断でデマゴークに惑わされることなく、熟慮の民主主義を確立していくためには、不断の「社会的努力」が求められる。

 来年には参院選も行われる。SNSを用いた政党や候補者の情報発信戦略が若い世代に向けてどれだけ 精緻(せいち) に進められるか。若い世代がそれにこたえてどれだけ政治に参加し、政治を活性化させることができるか。これからも継続的に注目する必要がありそうだ。


(注)インターネットバブル ネットで得られる情報が、検索エンジンやSNSの利用履歴を用いたアルゴリズムによってふるいにかけられた結果、自分が見たいと判断されたものしか見れなくなる状況のこと。泡(バブル)の中に包まれたような状況に例えられる。

参考資料
公益財団法人明るい選挙推進協会 衆議院議員総選挙年代別投票率の推移 http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/071syugi/693/
内閣府男女共同参画白書 令和3年版 https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-07.html
国税庁 民間給与実態統計調査結果 https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm
日本経済新聞社2021年11月1日付朝刊3面「無党派層24%が立民 出口調査、比例の投票先」
「候補者の81%がTwitter・Facebookで発信。YouTubeとInstagramも利用増!-衆院選2021 候補者のネット選挙ツール利用状況動向」選挙ドットコム https://go2senkyo.com/articles/2021/10/22/63796.html
公益財団法人明るい選挙推進協会 第25回参議院議員通常選挙全国意識調査―調査結果の概要-2020年3月 http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2011/07/25san_rep.pdf

プロフィル
川上 和久氏( かわかみ かずひさ
 1957年東京都生まれ、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学後、東海大学助教授、明治学院大学教授、国際医療福祉大学教授等を経て現職。専門は政治心理学・戦略コミュニケーション論。著書に『情報操作のトリック』(講談社現代新書)、『メディアの進化と権力』(NTT出版)、『18歳選挙権ガイドブック』(講談社)など。

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2513085 0 政治・選挙 2021/11/11 15:35:00 2021/11/11 15:35:00 2021/11/11 15:35:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/11/20211110-OYT8I50038-T.jpg?type=thumbnail

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