迫る参院選 危機乗り越える政策を競え

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

POINT

■参院選が今夏行われる。収束の見えないコロナ禍と、ロシアのウクライナ侵攻による国際秩序の危機という、かつてない難題への対応が問われる。

■岸田首相は昨年の衆院選に続く勝利を目指す。コロナ後を見すえ、経済・社会を立て直す必要がある。「新しい資本主義」の具体化を急ぐべきだ。

■ロシアに対する厳しい経済制裁は資源価格の上昇ももたらす。影響を最小限に抑え、その必要性について国民の理解を得るよう努める必要がある。

■共産党を含む野党共闘は行き詰まりをみせている。たもとを分かつ動きもある。野党は国民の期待に応える現実的政策を示すことが求められる。

調査研究本部主任研究員 伊藤徹也 

 今年の夏は参院選が行われる。7月10日投開票の日程が有力視されている。岸田首相は2021年10月の衆院選に続いての勝利を目指す。与党で過半数を維持し、政権基盤を安定させられるかどうかが焦点だ。一方、衆院選での共闘に失敗した野党はどう対抗していくのか。それぞれ模索を続けており、共闘路線とは決別する動きもみられる。新型コロナウイルスの感染拡大で傷ついた社会と経済の立て直しを進めるなか、ロシアによるウクライナ侵攻が起きた。参院選では、コロナ後を見すえた経済対策とともに、国際秩序を守る日本の姿勢と覚悟が問われる。

最新号目次

踊り場に差しかかる岸田内閣

 岸田内閣は2021年10月の発足後、支持率をじわじわと上げてきたが、コロナ第6波の広がりで陰りもみえる。読売新聞の世論調査では、1月に66%あった内閣支持率は2月に58%まで下落。3月は57%、4月も59%と横ばいで、発足時の水準に戻った。

 今夏の参院選を乗り切れば、衆院を解散しない限り、25年まで国政選挙はない。岸田氏は「黄金の3年」とされる時間を手に入れることができ、長期政権の可能性も出てくる。菅前首相はコロナ対策が後手に回ったとの批判を受けて退陣した。その教訓から、感染収束に向けた取り組みが政権の命運を握るとみて、岸田氏は「先手、先手で対応する」と繰り返してきた。

 しかし、オミクロン株は感染拡大のスピードが速く、対応が追いつかない場面も目についた。3回目のワクチン接種を速やかに前倒しすることはできなかった。高齢者で感染が広がり、昨夏の第5波に比べて、入院する人や亡くなる人が急増した。一時36都道府県にまん延防止等重点措置を適用し、厳しい水際対策を実施したが、行動制限の有効性には疑問の声も聞かれた。感染拡大防止と社会・経済活動の両立は、引き続きの課題だ。変異株の特性と感染状況の見通しに応じた柔軟な対応が求められる。

当初予算の衆院通過後、あいさつのため国民民主党の玉木代表を訪れた岸田首相
当初予算の衆院通過後、あいさつのため国民民主党の玉木代表を訪れた岸田首相

 経済への目配りとしては、一般会計の総額が過去最大の107兆円余りとなる22年度予算を戦後4番目の早さで成立させた。コロナ後を見すえ、岸田氏の看板政策である「新しい資本主義」や「成長と分配の好循環」の具体化が急がれる。日本経済を成長させる道筋はまだ明らかではない。政権発足から半年を経た支持率の足踏みは、賃上げなど目にみえる成果を出せるのかどうか、懐疑的な見方も出ているからだろう。

 支持率は5割を超えるものの、参院選の直前まで岸田氏の力量が問われることになる。昨年の衆院選は就任直後の勢いがあったが、政権交代に直結しない参院選は、政権に厳しい評価が出やすい。岸田氏は、通常国会では野党と対立する法案の提出は避けるなど、参院選に向けて慎重な政権運営を続けている。世論を意識して方針転換もいとわない。安倍元首相が1回目の首相を務めた07年の参院選は、直前に年金記録問題の発覚などで支持率が急落し、敗北。衆参で多数派の異なる「ねじれ国会」を招き、2年後の政権交代につながった。

 ロシアのウクライナ侵攻を受けて、国際社会安定への日本の関与と責任もテーマになる。岸田氏はロシアの行動について「国際秩序の根幹を揺るがすもので、強く非難する」と明言した。日露の間には北方領土問題があり、平和条約は結ばれていない。14年にロシアがクリミアを併合した際は、北方領土問題を含む条約交渉への配慮から、日本は当初、経済制裁に慎重で、欧米と足並みがそろわなかった。

日本はウクライナに防弾チョッキなど自衛隊の装備品を提供した
日本はウクライナに防弾チョッキなど自衛隊の装備品を提供した

 力による一方的な現状変更は許されない。東アジアでは中国が覇権主義的な振る舞いを続けている。日本にとってウクライナ侵攻は人ごとではない。岸田氏が「ロシアとの関係をこれまで通りにしていくことはもはやできない」と表明し、欧米と協調して厳しい経済制裁を科しているのは妥当だ。ただ、その影響は科した側にも及ぶ。ロシアは原油や天然ガスなどの資源、小麦などの穀物を、日本を含む各国に輸出している。それらの供給が減ることになれば、エネルギーや原材料の更なる価格高騰もあり得る。政権への不満につながりかねないだけに、岸田氏は制裁の影響を最小限に抑えるよう努めつつ、国民に丁寧に説明していく必要がある。

 ロシアは平和条約交渉の中断を表明し、日本をけん制している。今回の軍事侵攻では、安全保障における同盟の役割と抑止力の重要性を改めて認識させられた。岸田氏は年末に向けて、国家安全保障戦略と防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の改定を進める考えだ。敵基地攻撃能力の検討をはじめ、日本の防衛力をどう強化していくのか。参院選で方向性を示しながら、理解を得なければならない。

 不安も残る。参院選での選挙協力を巡り、自民、公明の与党間の「すきま風」が指摘された。両党は16年、19年の参院選で、1人区では公明党が自民党候補を推薦し、五つの複数区では自民党が公明党候補を推薦する「相互推薦」を実施した。今回も最終的に同様の協力で合意したものの、調整は難航した。複数区では両党は議席を争うライバルにもなり、日本維新の会なども加わって厳しい戦いを強いられる。自民党の地方組織からは公明党候補の推薦に不満が出ており、昨年から両党の関係はぎくしゃくしてきた。20年を超える連立体制にも微妙な影を落としている。

参院選から始まった野党の迷走

 日本維新の会を除く野党は、昨年の衆院選で7割を超える小選挙区の候補者を一本化したが、与党の勝利を許した。政権選択がかかる選挙において、天皇制や自衛隊など基本政策の異なる共産党と共闘したことが裏目に出たと言えよう。共産党を含む野党共闘は2016年の参院選からスタートした。きっかけは安全保障政策を巡る対応だった。

 当時の安倍首相は15年9月、集団的自衛権を限定容認する安全保障法制を成立させた。反対の立場から国会対策で共産党と連携した当時の民主党、民主党の流れをくむ民進党は、翌年の参院選で選挙協力まで踏みこむ決断をする。

 参院選は32ある1人区が勝敗を左右する。野党間で候補者を1人に絞らなければ、与党を利することになる。衆院選の小選挙区と同じだ。それでも、日米安全保障条約の破棄など基本的な考え方の異なる、いわば蚊帳の外にいた共産党と組むことは野党としても大きな路線転換を意味した。「参院選は政権選択ではない」との建前だったが、その判断の甘さは現在まで尾を引いているようにみえる。野党の迷走はこの参院選から始まった。

 野党の役割は、政府の足らざるところを追及することだ。しかし、外交や安全保障など国の基本的な方向性について、あまりにも異なる主張をすることは国内外に不安をもたらし、政権運営能力に疑問符がつくことになる。今日の世界情勢をみれば、その危うさは明らかだ。民進党の内部でも中道寄りに戻すかどうかの対立があり、17年の衆院選をきっかけに分裂してしまう。野党第1党になった立憲民主党は左寄りに位置し、19年の参院選、21年の衆院選ともに共産党との共闘を維持した。

 野党間の協力には、<1>国会対策<2>選挙協力<3>政権構想―の3段階がある。共産党は他の野党より地方組織がしっかりしており、選挙協力はその票を当てこむものだ。その組織力を「リアルパワー」と評した立憲民主党の幹部もいた。しかし、参院選1人区で野党が勝ったのは16年が11選挙区、19年は10選挙区にとどまる。21年の衆院選は、立憲民主党が政権を獲得した場合に共産党から「限定的な閣外からの協力」を得ることまで踏みこんだが、惨敗した。なし崩しに進む共闘を国民は警戒したのだろう。

 立憲民主党は1月、共産党との共闘を惨敗の一因と分析する衆院選の総括をまとめた。しかし、参院選に向けた立て直し戦略ははっきりしない。2月の党大会では今夏の参院選も1人区で野党間の候補者調整を進める方針を決めたが、連携する政党名は示さなかった。泉代表は結局、3月に入り、1人区の候補者一本化に向けた協議を共産党に申し入れた。共闘の継続を求めていた共産党は受け入れたが、16年、19年の参院選に比べて、調整は2か月近く遅れて始まる。共産党とは距離を置きたいものの、多弱の野党を束ねないと自民党に対抗できないジレンマを抱える。

あいまいになる与野党の境界線

 立憲民主党の煮え切らない態度に対し、他の野党は冷ややかだ。泉氏が「兄弟政党」と呼んで連携を呼びかけてきた国民民主党は政府の2022年度予算に賛成し、立憲民主党との距離は広がっている。主な野党が当初予算に賛成するのは1994年度以来だ。国民民主党と与党は、ガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」についても政策協議をスタートさせた。国民民主党としては、物価高など足元の国民生活の課題について具体的な成果を上げて、参院選に向けて存在感を高める狙いがある。

 立憲民主、国民民主両党を支援してきた連合の芳野友子会長は、国民民主党の予算賛成に理解を示した。岸田氏は賃上げを掲げており、芳野氏は政府の「新しい資本主義実現会議」に参加している。芳野氏は、立憲民主党であっても共産党と連携する候補者は推薦しないとする立場を崩していない。

 こうした動きに呼応して、自民党は3月の党大会で、連合との関係強化を盛りこんだ2022年の運動方針を採択した。「政策懇談を積極的に進める」と明記し、「働く人々の共感を得られるよう、わが党の雇用労働政策をアピールする」とも書きこんだ。1990年代の政治改革以降、政権交代可能な2大政党制を目指して、非自民勢力はできるだけ大きくまとまろうとしてきた。連合もその流れを後押ししてきた。しかし、野党共闘の行き詰まりとともに、与党と野党の境界線はあいまいになりつつある。

 共闘と一線を画して、昨年の衆院選で議席を回復した日本維新の会は参院選の比例選で立憲民主党を上回ることを目指す。世論調査では立憲民主党を上回る政党支持率を得ることも多く、岸田氏についても「改革姿勢が足りない」と批判的だ。自民党も野党共闘も物足りないという有権者の受け皿になるべく独自色を強めている。

現実的で責任ある政策を示せ

 岸田氏は自民党の党大会で、今夏の参院選について「ウクライナ情勢やコロナなど、大きな歴史的な変化に立ち向かっていくための力を得る戦いだ。これだけの国家的な課題に直面する時、自民党、公明党の連立与党以外に、この国を任せることはできない」と訴えた。ロシアによるウクライナ侵攻は国際社会を揺さぶっている。コロナ収束の見通しはなかなか立たず、社会は疲弊している。経済はウクライナ情勢の緊迫が加わり、回復への動きに水を差している。岸田氏が指摘する通り、いずれもかつて経験したことのない難題ばかりだ。

 今回の参院選はこれからの日本について考え、判断する大切な機会になる。与野党は現実的で責任ある政策を示さなければならない。外交や安全保障など国の基本的な方向性については、多くの党が認識を共有しながら議論するべきだ。消費税や社会保障についても同様だ。選挙が近づけば、財政出動を訴える声が与野党を問わず大きくなる。岸田氏も追加の経済対策に前向きだが、あくまで賢い支出である必要があるだろう。各党の関係に変化が生まれる可能性もある。与野党は建設的な論戦を交わし、国民の期待に応えなければならない。

参考文献

山本健太郎(2021年)「政界再編」(中公新書)

※この論考は調査研究本部が発行する「読売クオータリー」掲載されたものです。読売クオータリーにはほかにも関連記事や注目の論考を多数収載しています。最新号の内容やこれまでに掲載された記事・論考の一覧は こちら にまとめています。
スクラップは会員限定です

使い方
「調査研究」の最新記事一覧
3006994 0 政治・選挙 2022/05/17 10:00:00 2022/05/17 16:19:24 2022/05/17 16:19:24 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/05/20220517-OYT8I50047-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)