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【講演要旨】南極から宇宙の謎に迫る 石原安野・千葉大学大学院教授

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まだ分かっていないことが多い宇宙

 本日の講演は、「ニュートリノ」「南極」「宇宙」をキーワードにして私の研究を話させていただきたいと考えています。

 この宇宙にはたくさんの星がありますが、よく分かっている星と、よく分かっていない星があります。すると、私たち物理学者は、どうしたらもっと分かるようになるのだろうか―と、好奇心がどんどん膨らんでいきます。

 皆さんも直感で分かると思いますが、私たちがいる近所の星や宇宙は比較的よく分かっていて、遠くに行けば行くほど分からなくなってきます。それはなぜでしょうか。第一に遠くの星からの光は弱いので、よく見ることができません。そこで私たちは、できるだけ大きいレンズの望遠鏡で光をたくさん集めるなどの工夫をして、少しでも遠くの宇宙のことを理解しようとしてきました。

「目に映らない宇宙」

 しかし、よく分かっていない理由がもう一つあります。それは、「目に映らない宇宙」というものがあるからです。

 目は非常に優れた光検出装置なのですが、映るのは可視光と呼ばれる光の領域(スペクトラム)に限られます。光の領域で言うと非常に小さい部分しか見ることができません。それ以外の光、例えば、ラジオ波や赤外線、紫外線、レントゲン検査で使われるエックス線、それより高エネルギーのガンマ線などは目に映らないので、これらの光の観測は難しいのです。ガンマ線を捉える望遠鏡もあるのですが、製造するのが大変です。現在、地球上で三つほどのガンマ線望遠鏡が稼働していますが、それらを使って宇宙の隅々まで観測するのは不可能です。

 高性能の望遠鏡をたくさん作ったとしても、簡単には観測できないという根源的な問題もあります。宇宙は透明に見えますが、実は目に見えない光が充満しています。遠い宇宙から高エネルギーの光が飛んできても、目に見えないが充満している光とぶつかって、私たちの地球に届かない。つまり、宇宙の中で見えない部分がどうしても残ってしまうことになります。

 その中にあって、遠い宇宙からでも届くのが「ニュートリノ」という素粒子です。

遠い宇宙から届く「ニュートリノ」

 ニュートリノとは、物質を究極までバラバラにすると現れる、これ以上小さくできない素粒子の一つです。光と同じように天体の中で作られていると考えられていますが、ニュートリノは光に比べて透過する力がずっと強くて、どんな物質であろうと通り抜けてしまいます。宇宙の遠方からも高エネルギーの力を持ったまま地球までやってくることができます。そこで、ニュートリノを捉える望遠鏡を作ろうということになりました。

 ニュートリノは、作られ方によっていろいろな種類に分かれます。例えば、(1)太陽の核融合から生まれる「太陽ニュートリノ」(2)宇宙線が地球の大気と相互作用を起こして生まれる「大気ニュートリノ」(3)遠い宇宙から地球に降り注ぐ「宇宙ニュートリノ」―です。この中で、宇宙ニュートリノが最もエネルギーが高いのですが、私たちは、その中でも、一番高いエネルギーの宇宙ニュートリノを捉え、どこから来たのか、その正体に迫りたいと考えました。宇宙ニュートリノの観測は、未知の部分が多い、遠い宇宙の解明につながるのです。

 私たちの近隣にはそのような高エネルギーの素粒子を作るような天体が今のところ見つかっていません。ただし、エックス線など高いエネルギーの光を放つ天体が、いくつか候補としてあります。

 例えば「ガンマ線爆発」です。遠方にある重たい星の一生の最後に起きる現象です。太陽は、百何十億年もかけてゆっくりガンマ線を放出しますが、ガンマ線爆発では、それと同じくらいのエネルギーを、たった10秒程度にバッと出してしまいます。宇宙の誕生の起源となった「ビッグバン」に次ぐ大爆発です。このような大爆発に伴って宇宙ニュートリノも作られるのではないかと考えられています。

 もう一つの候補が、「活動銀河核」です。中心部に超大質量の「ブラックホール」を抱えた、とても明るく活発な活動をする銀河のことです。

南極に巨大な「アイスキューブ」を建設

 では、どのようにしたらニュートリノを観測できるのでしょうか。

 ニュートリノは、遠い宇宙からやってきて、地球も通り過ぎて、はるかかなたの宇宙に飛んで行ってしまいます。でも、たまに地球を構成する物質の原子核とぶつかることがあります。すると、電荷を持った「子供粒子」ができ、物質の中をものすごいスピードで走り、「チェレンコフ光」と呼ばれる光が放射されます。

 その光を光検出器で測定することでニュートリノを捉えようというのが「ニュートリノ望遠鏡」です。巨大水槽を使ってニュートリノを捉える日本の「カミオカンデ」「スーパーカミオカンデ」は有名ですね。私たちが観測を目指している宇宙ニュートリノは、それより非常に高いエネルギーを持ち、とても数が少ないので観測するのが難しいです。宇宙ニュートリノによるチェレンコフ光を捉えるためには、スーパーカミオカンデの4万倍くらい大きい装置が必要となります。

アイスキューブによる観測イメージ
アイスキューブによる観測イメージ

 一体どうやったら、このような「巨大観測装置」を作ることができるのでしょうか。そこに登場するのが「南極」です。南極の巨大な氷河をそのまま使って、ニュートリノの光を捉える装置の構造を作り上げようという発想です。これがニュートリノ望遠鏡「アイスキューブ」です。

 氷河の地下1・5~2・5キロのところまで穴を86個掘って、そこに直径25センチの光検出器を5160個埋めました。光検出器で確認された閃光(せんこう)の情報は太いケーブルを介してコントロールセンターのコンピューターに送られ、データが解析されるという仕組みです。

 この装置の中で最も重要な部品は、「光電子増倍管」と呼ばれる光検出器と、コントロールセンターにあるコンピューターです。光電子増倍管が光を電気信号に変換するという意味では、「目」の仕組みと似ています。変換された電気信号は「脳」にあたるコンピューターに送られ、情報が解析されます。

高エネルギーニュートリノを初観測

 ただし、データの解析は容易ではありません。検出される信号は、ほとんどがニュートリノとは関係がない「ごみ信号」です。地球の中でできた粒子が出す光が紛れ込んでしまうのです。

 ニュートリノと関係がある信号は、この巨大なアイスキューブをもってしても10日にたった1個しか検出できない頻度なのです。山のようなごみ信号の中から、本当にまれなニュートリノ信号を探し出すわけです。アイスキューブは2004年に建設が開始されましたが、その建設開始から8年後の12年に高エネルギー宇宙ニュートリノを世界で初めて観測することができました。

 そもそも宇宙ニュートリノの探索は非常に困難です。1987年の超新星爆発から出たニュートリノ(超新星ニュートリノ)がカミオカンデで観測されました。それから25年間、宇宙ニュートリノは見つかっていませんでした。しかも、これだけ高エネルギーの宇宙ニュートリノの観測は初めてです。今回の宇宙ニュートリノのエネルギーは、超新星ニュートリノのエネルギーと比べると1億倍にもなります。

世界の天文台の協力を得て放出源も特定

 ところで、高エネルギーの宇宙ニュートリノは、どこから来たのか気になりますね。そこで私たちは、宇宙ニュートリノを観測すると同時に、全世界へ速報する体制を整えました。世界にある様々な天文台に、「私たちがニュートリノを観測した方向を望遠鏡で見てください」とお願いして、放出源を探るのです。

 ニュートリノは重要なメッセージを持っていますが、飛んでくる頻度が少なく、ほとんどが通り抜けてしまうので、それだけでは天体を調べることができません。可視光だけでなく、ガンマ線やエックス線など、様々な波長の光を捉える望遠鏡を駆使することにしました。

 17年9月、ニュートリノの検出を全世界に速報したところ、広島大学の「かなた望遠鏡」がニュートリノの飛来方向に、急に明るく光るようになった天体を発見しました。米航空宇宙局(NASA)が打ち上げた「フェルミ衛星」もガンマ線を放出する天体を見つけました。このように、世界中の研究者らの協力を得て、非常に高いエネルギーを持つ宇宙ニュートリノを放出している天体を初めて特定しました。

 宇宙ニュートリノの放出源は、地球から40億光年も離れた「活動銀河核」でした。巨大ブラックホールの周りに(ちり)やガスが渦を巻くように存在する天体です。ブラックホールは太陽の10億倍という大質量を持ち、強い重力のために物質だけでなく光さえ脱出することができないことから、その名前がついています。このような活動銀河核が高エネルギーのニュートリノを放出していることを突き止めたのです。

アイスキューブをより高性能に

 現在、1年間に40回ほどニュートリノを観測できるようになりました。ただし、ニュートリノを放出している天体が突き止められたのは、先ほど説明した1件のみです。このままですと、ニュートリノを放出する天体が数年に1度くらい見つかるというペースになります。そこで、アイスキューブの機能を向上させることになりました。まずは、測定精度を高めるため2022年、新たに7本の穴を掘り、約800個の光検出器を埋設します。千葉大学では、より高性能の光検出器を製作中です。

 アイスキューブ実験には、個性的で非常にユニークな発想を持つ世界の研究者ら約270人が参加しています。普段は電話会議で情報交換し、年に2回は顔を合わせてディスカッションしています。

 人間一人ひとり、異なる個性をもって生きています。そして我々が生きているこの宇宙も、高いエネルギーの天体あり、低いエネルギーの天体あり、と非常に多様性に富んでいます。日々の暮らしの中で時には、そんなカラフルな宇宙の様子を思い浮かべていただけたらうれしいです。

(読売テクノ・フォーラム「ゴールド・メダル賞」受賞記念講演会「科学の力で、世界を元気に」 2019年5月11日、東京都千代田区の日本プレスセンター大ホールで)

 プロフィル
石原 安野( いしはら・あや
 1974年生まれ。米テキサス大学オースティン校大学院博士課程修了。理学博士。2012年、世界で初めて高エネルギー宇宙ニュートリノの観測に成功した。17年、女性科学者を顕彰する猿橋賞を受賞。19年3月より現職。専門は実験物理学。

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1594761 0 科学・環境 2020/11/01 18:38:00 2020/11/25 19:22:36 2020/11/25 19:22:36 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201030-OYT8I50055-T.jpg?type=thumbnail

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