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【講演】世界で勝つための組織作り〈上〉エディー・ジョーンズ氏

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 ラグビー日本代表の前ヘッドコーチ(HC)、エディー・ジョーンズ氏は2016年9月5日、東京都千代田区の帝国ホテルで開かれた読売国際経済懇話会(YIES)で講演した。

エディー・ジョーンズ氏 (Eddie Jones)1960年オーストラリア生まれ。父はオーストラリア人で、母は日本人。現役時代はニューサウスウェールズ州代表として活躍した。96年に東海大学のラグビー部コーチに就任。2003年オーストラリア代表HCとして自国開催のW杯で準優勝し、07年南アフリカ代表テクニカルアドバイザーとしてW杯優勝に貢献した。09年、日本のサントリー・サンゴリアスのゼネラルマネジャーに就任し、12年日本代表HCに。15年W杯で、南ア、サモア、アメリカ戦に3勝した。日本にとってW杯の勝利は24年ぶりの快挙だった。同年11月ラグビーの母国・イングランド代表のHCに外国人として初めて就任し、9戦全勝と一気にチームを再生した。16年からは、ゴールドマン・サックス日本アドバイザリーボードも務めている。

 「読売クオータリー」に掲載された講演「世界で勝つための組織作り」の詳しい内容と質疑応答を上、下に分けて紹介する。

「勝つ」組織に必要な三つのポイント

 ラグビーコーチとしてのキャリアを日本でスタートさせてから、20年になる。これまでに学んできた教訓を踏まえながら、「勝つための組織作り」について話そう。勝つための組織作りには、三つの要素が必要だ。第一に、才能ある人材。第二に、その人材が一つにまとまり団結すること。第三は、運だ。勝つためには、幸運が必要だ。運を自分で左右することはできないが、しっかりとした組織と考え方があれば、運を捉え、運がもたらすチャンスを最大限活用できる。しかし、組織と心構えがしつかりしていなければ、せっかくの運を生かすことはできない。

 私は、本当に恵まれている。昨年のラグビーワールドカップ(W杯)でイングランドは予選で敗退し、W杯終了後にヘッドコーチ(HC)に就任したが、このチームは才能あふれる選手の宝庫だ。勝つ準備ができている。2019年W杯は必ず勝つ。11月2日、横浜・日産スタジアムでニュージーランドとイングランドの決勝戦が実現したら、イングランド中の人がチケットを欲しがるので、皆さんには早く買うことをお勧めしたい。

 日本の話に戻そう。日本はW杯で24年間、勝っていなかった。だからこそ、逆に大きなチャンスだと思った。私はコーチのキャリアを、日本の東海大学でスタートさせた。ラグビーがプロ化した1996年、母国オーストラリアではコーチの仕事につけなかったが、東海大学がチャンスを与えてくれたのだった。

 英語を教えても、ラグビーコーチをしてもいいと言われ、英語で授業もしたが、15分後には学生たちは寝ていたから、教師としては出来がよくなかったのだろう。ラグビー部にもあまり貢献できずに日本を離れることになったが、絶対日本はもっと強くなるはずであり、チャンスを与えてくれた日本に対して、何とか恩返ししたいと思っていた。

 そして(しはらくして)日本に戻ってきたが、日本のラグビーの環境は惨たんたるものだった。人々は負けに慣れていて、負けても当然だと思っていた。

 再来日して1か月後、U20(20歳以下の代表チーム)で、ウェールズに0-120で負けた。1分あたり1.5点を入れられ、出来るのはキックオフだけだった。

 これではまずいと思った。日本の選手は世界で一番、頑張っていた。高校ラグビーは365日、毎日4~5時間も練習する。本来、もっと強くなるはずだと思った。

「負け」への慣れを克服

 何かがおかしい。そこで、コーチを集めて「なぜ、日本ラグビーはこんなに負けてしまうのか?」と聞いた。

 三つの理由が上がった。まず、日本人は体格が小さい。次に、練習が足りない。加えて、農耕民族だからだ、と言われてしまった。

 1点目はそうかもしれない。確かに体格は大きくない。それならば、もっと賢く、もっと速くなればいい。技術的に改善すれば、サイズが小さいことを逆手にとって強みにする方法があるはずだと思った。体重120キロの外国人選手は90キロの日本人選手を圧倒するかもしれない。でも、その差を最小限に抑えればチャンスが生まれるはずで、体格の違いは解決できると思った。

 そこで、総合格闘家の高阪剛さんを(コーチに)招いた。彼は自分より体格が上回る選手を倒した経験がある人だ。ラグビーは体でぶつかる接触スポーツだが、あたり方さえうまくすれば(大きな相手にも)勝てると思った。さらに、スピードを改善する力量を持つコーチをオーストラリアから呼んだ。ボルトのように単に速く走るのではなく、ラグビーに合った走りを彼は教えてくれた。この2人のコーチのおかげで、体格面のデメリットを解消できた。動きを俊敏にすることで身長も体格も差がある相手に勝てるようになった。

 二つ目の練習時間については、量以前の問題だった。間違った練習をしていたのである。練習方法を変えるため、私は世界のサッカーコーチを訪ね、教えを請うた。いいサッカーチームは、すべての試合で本当に必死に走るのに、どうして毎年45試合もこなせるのか。いいサッカー選手は何かやっているに違いない。そう思って調べると、サッカーには、極めて戦術的な練習法があった。毎週テーマを決め、力、スピード、戦術を変える。それによって、あらゆる状況に対応できるようになり、選手のパフォーマンスが安定する。これを日本ラグビーの練習に導入した。

 ただ、体格差のため、練習時間が同じだと、結局は負けてしまう。そこで、朝5時に練習を始める「ヘッドスタート」を導入した。「ヘッドスタート」には、世界の誰もが寝ている時間に仕事に取り組み、前に進むという意味がある。もちろん、選手たちは不満だらけ。日本人選手たちは絶対に嫌だといい、外国人選手はさらに文句を言っていた。

 ただ、そう言いながらも、ちゃんとついてきて、ずっと続けてくれた。体力面以上に心理面の効果が大きかったと思う。世界一の練習量という自信につながったのだ。これで二つ目の問題も解決できたのだった。

 では、3点目の農耕民族だから、という理由はどうか。

 75年前、日本の人口の半分は稲作農家だったと聞いたことがある。稲作農家なら村に住んで、村長さんの話を聞いて指示に従う。それこそ、チームプレーではないか。どこが問題なのかと思った。ラグビーは最も複雑なスポーツだ。そうした(農耕民族の)メンタリティーが向いている。ただし、従うだけでは困る。全員が従属的だと誰も自分で考えることをしなくなるからだ。

 ラグビーの試合には、ストラクチャー(体系)のある局面とない局面がある。ストラクチャーがない局面では、自分で考えてプレーしなければならない。選手に対して、ヘッドコーチは試合中に指示できない。選手が自分たちで考えなければならないのだ。

自分で考え主張できるチームに変える

 チームは、本当に従順だった。だが、ただ従順なだけでは不十分だ。自主的に主張できるチームにするにはどうしたらいいか。W杯までに選手が自ら主体的に行動するように、様々な実験をしてみた。

目を合わせるジョーンズ氏(前列左)とリーチ・マイケル主将(同右)。後列中央が五郎丸選手(2015年10月13日)
目を合わせるジョーンズ氏(前列左)とリーチ・マイケル主将(同右)。後列中央が五郎丸選手(2015年10月13日)

 朝6時にジムで集まる。コーチは行かずにビデオカメラに収録するたけ。選手に練習を主導するチャンスを与えたのだ。そうした経験を踏まえながら、自分たちで判断し、決定できるようにしていった。コーチが枠組みを作り、選手はその中で試合をするが、その枠組みの中では、どんな変化を起こしてもいい、としたのだ。

 一番変わったのは、五郎丸(歩選手)だった。彼は当初、最も従順な選手だった。ミーティングをやると10分前に来て頭を下げ、誰にも話しかけずに座っている。ずっと頷【うなず】いて聞き、発言はしない。それが、W杯が終わる頃には、ミーティングの2、3分前に来て最前列に座って、チームにとって最も役立つ発言をし、アイデアを出した。(このチームの中で)私が見た一番大きな変化だったと思う。

 W杯で南アフリカ戦の最終盤、私はインカムに向かって叫んでいた。「(ショットで)3点だけとれ、3点とって引き分けにしろ」。しかし、リーチ(マイケル主将)が(5点獲得できる)トライすると決めた。これが最大の判断ポイントだった。その挑戦がうまくいった。そして、勝った。

ビジョン=目標を設定する

 もう一つ、日本での経験で、私は次のことを学んだ。それは、選手にとって特別な意義のあるビジョンを掲げれば、選手らはさらに努力を惜しまないということだ。私たちは目標を設定した。まず、トップ10に入るチームになろう。日本が初めて10位に入れぱ、日本のラグビー人気が高まるだろう。

 そして、ヒーローを作ろう。子どもたちがラグビーをやりたい、親も子どもにラグビーをやらせたいと思うようになれば、(日本のラグビーを取り巻く)環境が変わってくる。ラグビーが成長していくだろうと思った。そして、今、ヒーローがいる。

日本の選手たちは、この目標に心からはまっていった。集団として強い意志があれば、結束が強まる。それぞれ才能がある選手たちが、一丸となって目標を実現する意志を発揮したのが、W杯だった。

 適切な環境があり、適切な選手を集めて、問題が何かを理解し、改善する筋道を示せば、欠点も優位性に変えることができる。すると、夢だと思ったことが夢ではなくなる。

ただ、W杯においてのベストパフォーマンスは、(大番狂わせと言われた南ア戦ではなく、最後のアメリカ戦だった。アメリカはW杯で日本に勝つために、強い選手たちを温存していたのだった。

 でも、私たちは気持ちで勝っていた。ベスト8に進出できないことはすでに決まっていたから、(最終戦の)アメリカ戦で最善の努力をしようと心に決めていた。選手たちは実に素晴らしかった。試合中にもプレーが成熟していき、非常に難しい試合を制したのだった。

 日本チームに関わることが出来て本当に幸運だったと思う。信頼できる多くの人に出会えたし、リーダーシップについても多くを学んだ。チームの改良法を学び、その経験を持ってイングランドに行った。

日本での経験に感謝

ジョーンズ氏の講演に聞き入る聴講者
ジョーンズ氏の講演に聞き入る聴講者

 能力が高い選手が多いので、イングランドでのコーチの仕事は日本より楽だ。ただ、彼らを一致団結させる必要がある。イングランドの国民性は、伝統的に世界で最も保守的だ。対立を好まず、現状維持派が多い。しかも、イギリス人は丁寧で行儀がいい。ただ、私はオーストラリア人なので、そうではない。イングランドは、オーストラリアの母国にあたるので、国民性が近いと思うかもしれないが、実は全く違う。短期間に改善する点も多く、長期的に改善すべき課題もある。いずれにせよ、勝つチームを作るために、日本での経験がとても役立っている。

 日本のラグビーが今後とも成長を続けてくれるよう、これからも見守りたいと思う。ただ、称賛されるだけでは人は弱くなってしまう。称賛はもう過去のものとして、さらに努力し、2019年日本でのW杯でより成功を収めてほしい。

 W杯の出場メンバーは31人だ。前回W杯に出場した選手のうち10人程度しか次のW杯に参加できないのではないだろうか。新しい20人の選手を早く見つけてW杯のプレッシャーの中でプレーできるよう、早く育てなければならない。

 特に開催国の選手には、より強いプレッシャーがかかる。日本の1億2000万人が勝利を期待するだろう。できる限り早く環境を作って、適切な人材を集めて、耐えられる選手を育て、プレッシャーのもとでもプレーできるようにしなければならない。日本のラグビーの将来は明るい。ジェイミー・ジョセフ氏という新しいHCのもと、がんばってほしい。

 日本で素晴らしい経験ができたことに感謝している。ここでの経験を、私は生涯忘れることはないだろう。

世界で勝つための組織作り 〈下〉 に続く

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1666322 0 社会・防災 2020/10/06 01:05:00 2020/12/01 12:57:44 2020/12/01 12:57:44 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201201-OYT8I50041-T.jpg?type=thumbnail

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