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【講演】世界で勝つための組織作り〈下〉エディー・ジョーンズ氏

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 ラグビー日本代表の前ヘッドコーチ(HC)、エディー・ジョーンズ氏は2016年9月5日の読売国際経済懇話会(YIES)で講演し、会場からの質問に答えている。〈下〉では質疑応答を中心にジョーンズ氏の発言を紹介する。

現場の判断こそ尊重を

講演には大勢の聴講者が集まった
講演には大勢の聴講者が集まった

 ――南アフリカ戦の最後のショット」(3点)の判断について。マネジメントの立場では、確実に得点できるローリスクの選択は当然だ。一方、選手はハイリスクハイリターンのトライ(5点)に挑戦した。1年前の自分の判断と、それに従わなかった選手の判断について、今はどう思っているか。

 ジョーンズ氏 私がなぜ3点を目指したか。3点で引き分ければ十分に歴史的な結果になると思ったのだ。しかし、無線が壊れて指示を出せなかった。

実は試合の朝、リーチとコーヒーを飲みながら「きょうは失うものは何もない。だから何てもやってみなさい」と言った。リーチは何でもやっていい、といった私の言葉を忠実に実行してくれたのだった。主張しながらも実は従順だったということだ。

 最後の30秒は、彼が判断した。それは望ましいことだった。どんな状況であろうと、最も現場に近い人が判断すべきなのだ。マネジメントの立場の人間は、選手より全体的な戦略を思い描いているかもしれない。しかし、最後は最も現場に近い人に決断を委ね、信頼するべぎだ。

 米陸軍の人がイラク戦争について語った本だったと思うが、リーダーシップはトップダウンではなく、もっとフラット、水平なアプローチにして、現場で意思決定するように変わったそうだ。現場優先の方が迅速に決断でき、その決断を実行に移せる確率も高い。

日本チームもそうだった。現場の15人の選手はトライできると思った。そして実行した。あれはすごいことだったと思う。私は、完璧に間違っていた。

「変えられない」文化を見極める

 ――母国オーストラリア、南ア、日本、そして今、イングランドと、どこの代表チームでも短期間で成功を収めている。人も環境も文化も変わる中で、成功するために重視していることは何か。

 ジョーンズ氏 グローバル化が急速に進んでいる。そこから私が学んだのは、文化に対する眼力を持つということだ。文化によって、行動パターンが異なる。最も重要なことは、その文化において、最も交渉の余地がない、触ってはいけないことは何かを理解することだ。

 一方、変化が可能なのは何かを考えることが大切だ。自分が変えることができて、変えればより効果が大きくなる部分は何かを見分ける必要がある。

 例えば、日本に関しては、時間を厳守する、というのが最も重要な文化だと思う。

従って、例えば10時に始めるというと、10分前には全員が集まる。7時に夕食会を予定すれば、日本人は7時にちゃんと来る。オーストラリア人は7時といったら7時半くらいに現れて、それでも「早く来た」と思う。

 そのように文化は全然違う。日本人が25人前後、外国出身選手が7、8人いた。ほとんどの外国人はニュージーランド出身で、国民よりも羊の数の方が多い、のんびりとした国民性で、日本とは全く違う。

 外国人選手には「時間厳守はとても重要だ。もし、10分前に集まる選手が多くて、他の人が2、3分前にしか集まらないと、そこに溝ができてしまう。そのような溝はよくない」と言った。「文化が交わっているから、10時に会議をするなら少なくとも5分前には集まっておけ。それが時間厳守ということだ」と説明した。彼らは早く集まった。時間が、チームの問題にならないようにしておいた。

 例えば、イングランドの人たちは、皆丁寧で、行儀がいい。表立って、面と向かっての対立は避けたいと思っている。コーチには「選手を全員の前で怒るな。もし怒ることがあったら、1対1で陰でやれ」と言った。

 やりにくいと思うかもしれないが、それぞれの文化で守らなければならないものは重要だ。そこを把握して、文化が違っても全員が参加できるようにしておく。変えられるものは何かを理解して、そこは変えていく。

コーチも海外に挑戦を

 ――日本ラグビーについて二つ質問したい。まず、トップリーグの外国籍選手の出場枠は適正か。もう一点、近い将来、日本代表を率いる日本人HC(ヘッドコーチ)は現れるか。

 ジョーンズ氏 二つ目の質問から。日本人HCはもちろん可能だ。ただ、代表チームを率いるなら、勉強しなければならない。かつ、失敗する覚悟がなければならない。

なぜ日本人コーチは海外でコーチングをしないのか?代表チームのコーチになりたいのなら、英語を勉強すれば言葉の問題は解消できる。

 自信がないから、自分で乗り越えるしかない。居心地の悪い環境に身を置くしかない。私は36歳の時、校長で、給料も高く仕事も楽だった。でも、コーチとしてもっと成長したかった。そこで給料は半減したが、東海大学での仕事を選んだ。日本語も、まだまだ下手だが、外国の子どもたちに一人交ざって勉強した。非常に安定した生活から、厳しい生活に身を置いた。どうしても教えたかった。どうしてもコーチをしたかったからだ。

 日本のコーチは安定した生活だ。大学も、企業チームも、プレッシャーのない環境では成長しない。日本ラグビー協会は、まず3、4人の優秀なコーチを海外にアシスタントコーチとして派遣すべきだ。例えば、スーパーラグビーに2年ほど派遣して、戻ってきたらU20のコーチにする。U20で10位に入ることが、(日本代表)HCの資格とする。十分なハングリー精神があるかどうか、それが問題なのだ。

 最近の2人のオールブラックス(ニュージーランド代表)HCは、ウェールズ代表HCの経験者だ。(南半球最高峰の)スーパーラグビーで成功したコーチはほぼ全員が北半球のラグビーを勉強している。オールラウンダーが求められている。(海外チームでの)日本人HCの可能性は十分ある。しかし、プロセスを踏まなければならない。実行する果敢さが必要だ。サッカーでは岡田武史さんが中国でコーチした。彼に経験を聞くと、驚くような話をしてくれる。チャンスはある。ラグビー協会がプロジェクトを始めるか、個人で挑戦してほしい。

 外国人選手(が多いという点)については、日本人選手の育成の問題だと思う。日本人をもっと早くから強化すべきだ。22歳で大学を卒業した選手は、ラグビー成熟度で4年後れをとっている。大学のラグビーシーズンを変えてもいい。上位30人を選抜し、特別な育成プログラムで世界レベルに引き上げるべきだ。

 お金も時間もかかる。障害もあるだろう。でも、日本人選手には大きなチャンスがある。特別なトレーニング、特別なスキルプログラムが必要だ。若い選手に成功へのハングリー精神をもってほしい、勇気を持って海外に行ってほしい。日本人の育成が早まれば、外国人選手は不要になるだろう。

心安まらない状況を快適と受け止める

 ――すでに、明らかにイングランドを立て直した。何がパフォーマンスを改善したのか。

 ジョーンズ氏 最初、チームに言った。「世界一のチームを破らなければならない。それに加わるには、様々な犠牲を伴う。チャンスはある。でも、犠牲を払いたくないは部屋から出るように」と。部屋から出て行く人はいなかったから、全員がやりたいと思ったのだろう。

 しかし、トップクラスのチームになるために何が必要か、彼らはまだ理解していなかった。自由な時間に広告に出演していたら、負けてしまう。

 まず、「スポーツをするなら、uncomfortable(心安まらない)であることをcomfortable(快適)に思う」よう理解させようとした。スポーツをしていると常にプレッシャーがかかる。世界のトップになるためには、uncomfortableな状況を受け入れなければならない。トップになると、痛みを吸収できる力も必要だ。comfortableなことを犠牲にする必要もある。他の人たちがやりたくないこともやろう、と言った。

 例えば、食べるのが大好きでどんどん太ってしまうような選手が、今は食事について自制し、ラグビーをもっと楽しむようになってきている。シンプルなことだ。

コミュニケーションスキルは勉強して工夫

 ――人を動かす、選手のやる気スイッチを押すコミュニケーションのコツを教えてほしい。

 ジョーンズ氏 一つはメディアの存在だ。ビジネスも同じだろうが、メディアと話すとき、私は選手にも語っている。チームミーティングでいうことは、メディアでも同じメッセージを発している。メディアは非常に重要なツールだ。

 また、世界中の若い人々は、こうしろ、ああしろと言われたくない。昔は、山の上のリーダーが麓の人に大声で指示を叫んでいたが、そういう世界はもはや終わってしまった。今は、自分たちから発見できるようにしなければならない。チームミーティングの黄金律は、だれも聞き手ではなく、みんなが参加者、ということだ。

 コーチが単に、質問を投げかけて答えさせるようなミーティングでは困る。疑問があれば、まず語り合ってもらう。その後に一人一人の結論がある。そうすることで、みんなを意思決定に関与させた。自分たちが責任を持って作り上げたメッセージだからこそ、メッセージが根付く。

 後は、いろいろな媒体を活用する。チームミーティングではビジュアルプレゼンテーションも、口頭でのプレゼンテーションもやった。動画も使ったし、選手が動きながら書き留めたりもする。一人ひとり習得の仕方が違うから、あらゆる媒体、方法を駆使する。

 ラグビーの場合には、非常にシンプルだ。繰り返し同じことを言っている。例えばミートパイが重要だから、きょうはトマトソース、あしたはしょうゆで食べる。フレーバーがちょっと違うが、メッセージの内容は同じ。決して忘れてほしくないので、同じことを繰り返す。

 よきコミュニケーターとしてのスキルは勉強して取り組まないとダメ。戦略が必要だ。私が、世界の他競技のチームを訪問するのもそのためだ。知識の量が増えるわけではない。でも、違ったスキルを身につけられる。同じ内容を違う言葉で語ることを学ぶ。すると、選手の反応が違ったものになる。ヘッドコーチであろうと、マネージャー、リーダー、コーチであろうと、コミュニケーション方法は工夫、改善して、見いだしていくしかない。

2019年W杯のイングランド優勝を宣言

 ――2019年のW杯でイングランドはどこまで勝つか。日本はどこまで進出するか。

 ジョーンズ氏 イングランドは必ず勝つ。間違いなくイングランドにかける。それだけ優秀なチームで、才能あふれる人材がそろっている。団結できれば必ず勝つ。(2連覇中の)ニュージーランドは主力選手が数人抜けて、今、最も脆弱(ぜいじゃく)だとされている。勝つまたとないチャンスだ。

 日本は、どんなプールになるかにもよる。ジェイミー・ジョセフ新HCは大変だと思う。チームを立て直し、新しい選手を育て、国際的な経験も積まなければならない。開催国なので、プレッシャーもかかってくる。

 でも、セプンズ(リオ五輪の7人制ラグビー)でも勝った。セブンズの場合、才能あふれるすごく優秀なチームというわけではなかった。しかし、素晴らしい準備をして、いい成績を残した。2019年に向けての課題は、とにかく、いかにして最も準備をしたチームになるかということ。それができれば才能の差は必ず解消できる。

 昨年、南アに勝ったチームで、スーパーラグビーのレギュラー経験があったのはリーチたった一人だ。南アには15人のスーパーラグビーの経験者がいた。それでも準備をして、強みを最大限に発揮すれば勝てることは証明済みだ。

 ジョセフHCはニュージーランドの経験がある。ニュージーランドの選手はもっと体格がよくて、才能が集まっているから、彼は日本人の競争力をいかに高めるか、挑戦しなければならない。彼には十分その力があると思う。トップ4とトップ8の差の方が、トップ8とトップ12の差よりも大きい。準々決勝までいければすごい。

講演を聞いて 主任研究員 稲沢裕子

 ラグビーのチーム作りの中には、社会の様々な場面で参考に出来るビントが潜んでいるのではないだろうか。エディー・ジョーンズ氏を講師に招いたのは、2015年のワールドカップ(W杯)イングランド大会の南アフリカ戦をスタジアムで観戦して、そんな思いを抱いたのがきっかけだった。

 1チーム15人。球技の中で最も多い人数で戦うラグビーは、一方で体格がものをいうだけに番狂わせが少ない競技だとされている。どうひいき且に見ても体格面で見劣りし、ましてや、過去の実績が遠く及ばない日本代表が、このW杯で名だたる強豪の南アフリカを相手にロスタイムで「スポーツ史上最大の番狂わせ」を演じられたのはなぜなのか。「Japan Way」を掲げ、日本人の強みを引き出したジョーンズ氏に直接語ってもらうことができれば。懸命に頑張りながらも今ひとつ見通しがよくない日本の経済や社会の閉塞(へいそく)感を打ち破る、何らかのヒントが得られるのではないかと思ったのだ。

 日本代表ヘッドコーチに招かれたのが2012年春。以来、3年余りで、W杯で24年間も勝ちから見放されていたチームを、ジョーンズ氏は大きく変えた。

 体格差があるがゆえに練習時間が同じなら、結局は負けてしまう。そこて、早朝5時から練習をスタートする一方で、格闘家を招いて低く鋭いタックルの技を学んだ。世界の誰もが寝ている時間から始まる強度の高い練習は大きな自信につながり、より低く鋭くあたることで体格差を武器へと変えていった。

 サッカーや野球と異なり、ラグビーは試合が始まればヘッドコーチはスタンドから見守るしかない。無線でベンチのスタッフに指示を伝えることは可能だが、基本的に試合はキャプテンを中心としたフィールド上の選手の判断で進む。

 南アフリカ戦の終了間際、得点差わずか3点で、南アが反則を犯した。引き分けを狙ってのキックか、リスクは高いが勝利の可能性があるスクラムか――。

 ジョーンズ氏の判断は確実に得点できるキックだったが、リーチマイケル主将は、スクラムを選んだ。この勇気ある決断が、ロスタイムでの劇的な逆転につながる。この息詰まる瞬間を振り返ったジョーンズ氏の言葉が強く印象に残った。

 「実は試合の朝、リーチとコーヒーを飲み、『何でもやってみなさい』と言った。彼はこの言葉を実行したのだ。結局、無線が故障して(私は)指示を出せず、彼が判断したのだ」

稲沢裕子主任研究員
稲沢裕子主任研究員

 「私は完璧に間違っていた」と率直に認めたうえで、「最後は最も現場に近い人に決断を委ね、信頼するべきだ」。その指摘にはスポーツに限らずマネジメント全般につながる普遍性を感じた。

 当初、日本代表は、あまりに「従順」だったという。しかし、ラグビーには、選手たち自身が「自分で考えて主張する」ことが欠かせない。練習のあまりのきつさに、選手たちとの人間関係は一時、一触即発とも伝えられたが、その練習もきついだけではなく、あえてコーチが参加しないことなどを通じて、選手たちの自主性を育てる工夫がプログラムさ

れていたことが、講演では明らかにされた。

 読売国際経済懇話会(YIES)が1972年1月に発足して以来、365回を数える講演会で、スポーツ界から講師を招いたのは今回が初めてだった。従来通り、政治、経済、国際問題にしっかりと軸足を置きつつも、伝統あるこの催しに今後、さまざまな分野から登壇者を招くことで、また新しい角度から課題解決のヒントが得られるのではないかと感じている。

世界で勝つための組織作り〈上〉は こちら

※この論考は調査研究本部が発行する「読売クオータリー」掲載されたものです。読売クオータリーにはほかにも関連記事や注目の論考を多数収載しています。最新号の内容やこれまでに掲載された記事・論考の一覧は こちら にまとめています。
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1666304 0 社会・防災 2020/10/06 01:03:00 2021/02/02 17:48:27 2021/02/02 17:48:27 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201201-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

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