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特殊詐欺被害を救済しない税制の不可思議

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POINT
■災害で受けた損害については、確定申告をすると損害額の一部が所得から控除される「 雑損控除(ざつそんこうじょ) 」という救済制度がある。被災した方は確定申告を忘れないでほしい。

■この制度は地震や火災、風水害だけでなく、その他の災害や、盗難による被害も対象にする。ところが、近年社会問題となっている振り込め詐欺などの特殊詐欺による被害は救済制度の対象外だ。

■災害や犯罪被害に遭った人を救済するという制度の趣旨を踏まえれば、特殊詐欺も救済の対象とすべきだ。「多額の所得税を納めていない高齢者は、税制では救済できない」という声もあるが、控除の対象を親族にまで広げるなど、工夫の余地はあるのではないか。

調査研究本部総務 丸山淳一 

 今年も確定申告のシーズンとなった。地震や台風、風水害にあった方は、住宅や家財の損失や、ブルーシート購入費などの災害関連支出の一部が所得から差し引かれ(控除)、所得税が減免される「雑損控除」という税制上の救済措置がある。この措置は、確定申告をしないと適用されない。昨年、災害の被害に遭われた方は、今年は確定申告で雑損控除をすることをお勧めする。

 仕組みや申請の方法がよくわからない、という方のために、被災者に対する税の減免については、読売新聞社の新しいくらし×防災メディア「防災ニッポン」に記事をまとめたので、参考にしていただきたい。

被災したら確定申告!保存版「災害と税金」〈上〉は こちら

被災したら確定申告!保存版「災害と税金」〈下〉は こちら

災害だけではない雑損控除の対象

雑損控除が受けられるのは、台風や地震などの自然災害で被災した場合だけではない。いずれも確定申告が必要だが、以下の場合も関連費用も含め、雑損控除の対象になる。

▽火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
▽害虫などの生物による異常な災害(シロアリによる被害や、スズメバチの駆除費用など)
▽盗難による損失(空き巣、置き引き、ひったくりなど)
▽横領による損失

 被害額のどの程度が控除されるかについては、総所得や被害を受けたものによって異なる。30万円を超える書画・骨董品は対象としないこと、損害額が保険金などの補填(ほてん)額を差し引いた後も年間所得の1割を超えているかどうかが目安になること、などは、被災者に対する場合と同じだ。

 2016年4月の熊本地震の後には、家人が避難所に避難した家を狙った空き巣が横行した。この場合、地震による被害の有無にかかわらず、盗難による被害は雑損控除の対象になる。熊本地震の際には、町内会の役員を名乗る男が、被害が小さかった家などを訪れて「義援金を集める」などといって金をだまし取る事件もあった。だが、上で示した通り、詐欺による被害は雑損控除の対象にならない。被災地の混乱に乗じた卑劣な犯罪という点では盗難も詐欺も変わらないのに、被害者の救済になぜ差が出るのだろうか。

被害者の意思の有無で線引き

 両者の違いは、被害者の意思に基づいているか、いないかだ。刑法上の「盗難」(窃盗罪)は「財物の占有者の意に反して自己または第三者の占有に移すこと」で、「横領」(横領罪)は「他人の物の占有者が委託の任務に(そむ)いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできない処分をすること」だ。わかりやすく言えば、盗難や横領は、「被害者に無断で」「被害者の知らぬ間に」盗んだり、横取りしたりすることをいう。

 これに対して、詐欺や恐喝は、(だま)されたり、脅されたりした結果とはいえ、被害者は自分の意思に基づいて金品の占有を他人に移転している。わかりやすく言えば、被害者は自ら金品を渡して」いる。むろん、その意思の決定過程には瑕疵(かし)(欠陥、不正常)があったのだが、それでも「本人の意思にも原因がある、だから救済の対象にしない」という線引きになっているわけだ。あえて冷たい言い方をすれば、「自分の意思で金品を差し出したのだから自業自得、自己責任だ」ということだ。

 確かに、詐欺の被害者のなかには、そんなうまい話があるはずがない、というもうけ話に乗って大金をつぎ込んだ人もいる。多くの人が「おかしいと気付かない方も悪い」「欲に目がくらんだのだから仕方ない」と思うケースもあるだろう。しかし、振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺の被害者まで、すべてそう考えるのは疑問だ。災害や盗難被害を救済していることを考えると、税制の大原則である「公平性」の観点からも問題があるのではないか。

特殊詐欺被害に遭うのは自業自得か

 警察庁によると、2020年の特殊詐欺の認知件数(暫定値、以下同じ)は1万3526件で、被害総額は277億8000万円にのぼる。件数、被害額とも前年を下回ったのは、コロナ禍で高齢者が外出しなくなり、ATM(現金自動預け払い機)まで誘導しにくくなったためという見方がある。だが、それでも件数は、04年の統計開始以降で最少だった10年(6888件)の約2倍に高止まりしている。

 半数近くの6382件は親族や警察官、銀行協会職員などになりすます「オレオレ詐欺」だが、複数の立場の異なる人物が同一の電話番号に電話をかけて、さも実在するように装ったり、あからじめ「アポ電」を入れて家族構成や資産状況を聞き出してから犯行に及んだりするなど、手口は年々巧妙になっている。詐欺に遭ったお年寄りが自らを責めて自殺するなど、悲惨なケースも少なくない。老後の生活に必要な虎の子の貯金をだまし取られた高齢者を「だまされる方も悪い」と切り捨てるのは、あまりに冷たくないか。

 空き巣やひったくりの被害者もお気の毒ではあるが、盗難の場合は不注意などは問題にならず、雑損控除の対象になる。警察庁によると、空き巣(侵入盗)被害の半分近くは鍵をかけ忘れた家で発生している。財布の入ったかばんを自転車のかごに入れたまま、その場を離れてかばんを盗まれたり、荷物から長時間目を離して置き引きにあったりするケースも多い。これらの被害は雑損控除で救済されるのに、巧妙な特殊詐欺の被害にあった高齢者については「だまされた方が悪いから救済しない」というのは、やはり腑に落ちない。

キャッシュカード詐欺盗とスキミング、ハッキング

 最近は安易にキャッシュカードを他人に渡したり、暗証番号を教えてはいけないという呼びかけが浸透し、特殊詐欺の約2割(2833件)は「キャッシュカード詐欺盗」だという。〈1〉「口座が不正利用されている。口座の凍結手続きが必要だ」と銀行員を装って電話をかけ、家を訪れる、〈2〉持参した封筒にカードと暗証番号を書いたメモを入れさせる、〈3〉「封印のためにハンコがいる」と言って、家人がハンコを取りに席を外した間に偽のカードが入った別の封筒とすり替える、〈4〉「手続きが終わるまで封筒を開けるな」と言い残して立ち去る――というのがその典型的な手口だ。

 キャッシュカードと暗証番号は、本人の意思に基づかずに被害者から犯人に移動しているから窃盗のようにも見えるが、「一連の犯行の流れは詐欺で、雑損控除の対象にはならない」(税理士)という。窃盗による預貯金の被害については補償に応じる金融機関も、キャッシュカード詐欺盗は補償の対象外としている。

 その一方で、カード情報を盗み取られて現金を引き出される「スキミング」や、ネットバンキングのIDやパスワードを盗み、銀行口座から預金を引き出す「ハッキング」被害は盗難と同じとみなされ、原則として雑損控除の対象となる。だが、スキミング、ハッキングとキャッシュカード詐欺盗は、対面か非対面かという以外はよく似ている。合理的な線引きを説明するのは難しい。

70年前にできた制度

池田勇人蔵相と握手するシャウプ博士(左、1949年5月16日)
池田勇人蔵相と握手するシャウプ博士(左、1949年5月16日)

 雑損控除は医療費控除とともに、昭和25年(1950年)できた古い制度だ。当時は終戦直後の猛烈なインフレが続き、相対的に課税最低限が下がって担税力のない低所得者の税負担が増したため、アメリカの税制学者カール・シャウプ(1902~2000)率いる税制使節団の勧告(シャウプ勧告)で設けられた経緯がある。雑損控除の仕組みはその後、何度も見直されているが、盗難は対象、詐欺は対象外とする考え方は変わっていない。

 制度ができた当時は、詐欺の被害者になるのは一部の富豪くらい、ということだったのかも知れないが、多くの人が一度は特殊詐欺の電話を受けたことがある今の状況では、時代に合っていないのは明らかだ。

 雑損控除を定めた所得税法には、盗難や横領の明確な定義はない。法改正が難しいなら、被害の状況に応じて柔軟に雑損控除の対象にすればいいようにも思えるが、現状ではこれも難しい。国税不服審判所が2011年5月に出した裁決があり、柔軟な解釈の余地がないためだ。

 この審判では、振り込め詐欺の被害者が、「だまし取られた金額分の損失は、雑損控除制度の趣旨や目的に照らせば、所得税法が雑損控除の対象とする『災害』『盗難』『横領』のどれかにあてはまる」と主張して雑損控除の適用を求めたが、裁決は「振込送金は請求人(審判の原告)の意思に基づいてなされているから、損失の原因は『災害』でも『盗難』でも『横領』でもない」と明確に示している。ある税理士は「今のところ、特殊詐欺被害を対象にするには、法改正しか手はない」という。

「税制では救済できない」は本当か

 「盗難被害は雑損控除で救済するのに、特殊詐欺被害はなぜ救済しないのか」という指摘は、この裁決以降も続いている。にもかかわらず強い声にならない背景には、「特殊詐欺の被害者の中心である高齢者は、貯蓄はあっても毎年の所得税の納税額は少なく、雑損控除を認めて所得税を減免しても、さほど救済にならない」「雑損控除を受ける場合は、警察から発行される被害届出証明を申告書に添付しなくてはならず、高齢者にとっては手続きが面倒なだけ」(都内の会計事務所)といった事情もあるという。

 だが、雑損控除だけでは救済にならないなら、さらに工夫をすればよい。預貯金をだまし取られた高齢者が老後の暮らしについて親族の援助を受けるなら、親族の所得税を減免できるように控除の対象者となる親族の範囲を拡大してもいいのではないか。「振り込め詐欺救済法」に基づく口座凍結や返還手続きの迅速化や簡素化などもあわせて進めるべきことはいうまでもない。被害に遭わないようにという啓発はむろん重要だが、被害者救済についても、もっと考えるべきだ。

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1880621 0 社会・防災 2021/03/02 16:13:00 2021/03/02 16:58:18 2021/03/02 16:58:18 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210302-OYT8I50065-T.jpg?type=thumbnail

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