トカラ列島近海群発地震 海底で何が起きているのか 震源の海を知る海洋火山学者に聞く

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POINT
■鹿児島県トカラ列島の群発地震と12月9日のマグニチュード6.1の地震は、ともに海底の断層面で起きた。海溝型地震でも火山による地震でもない。

■断層の横ずれは、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下にもぐり込む際に、海底山脈がトカラ列島の側面に衝突し、生じさせたひずみが 伝播(でんぱ) して起きたとみられる。

■本州周辺のフィリピン海プレートと連動した動きはなく、南海トラフ地震の前兆ではない。ネットで話題の「トカラの法則」に根拠はない。

■今のところ周辺の火山が噴火する恐れは低いとみられるが、火山活動活発化の引き金になる恐れは完全には否定できない。海底地震計などを整備し、観測体制を強めるべきだ。

熊本大学大学院先端科学研究部准教授 横瀬久芳  
聞き手・構成 調査研究本部 丸山淳一 

フェリーで鹿児島市に自主避難する悪石島の島民(12月12日)=中司雅信撮影
フェリーで鹿児島市に自主避難する悪石島の島民(12月12日)=中司雅信撮影

 鹿児島県のトカラ列島悪石島、小宝島付近の海底で2021年12月9日、最大震度5強の地震が起きた。周辺では4日以降、260回を超える有感地震が起き、悪石島の住民の中には島外に一時避難する動きも出ている。現場の海を海洋調査し、海中の地形と地質を知り尽くす海洋学者、熊本大学准教授の海洋火山学者、横瀬久芳さんに地震のメカニズムや地震活動の今後の見通しなどを聞いた。

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地震を起こした海底の断層面

――トカラ列島近海で群発地震が続いている。12月9日にはマグニチュード6.1の地震があった。付近の海底では何が起きているのか。

 「今回の震源付近では今年4月にも群発地震が起きていて、トカラ列島小宝島の北にある西北西―東南東に走る断層面のうち、北側の断層面が震源と考えられる。この地域は横ずれ断層地域として有名なところで、海底には帯状の凹み(地溝)がある。9日の地震は地溝の北の端と南の端が横にずれた結果、中央部がずり落ち、北側の地下の岩盤が破壊されて起きたと考えられる。震源付近では昔から横ずれが起きて中央部が落ちることを繰り返してきたため、海底に地溝ができたのだろう」

 「トカラ列島は奄美大島、沖縄本島などとともに、南九州から台湾まで弧のように点在する「琉球弧」と呼ばれる島々の一部だ。琉球弧はフィリピン海プレートがユーラシアプレートとぶつかってユーラシアプレートの下にもぐり込む琉球海溝に沿って並んでいる。フィリピン海プレートのもぐり込みによってユーラシアプレート内の地殻に応力がかかり、ひずみがたまって岩盤が割れ、地震が起きたというのが基本的なメカニズムだと思う」

トカラ列島の火山(海底火山を含む)と2021年4月および12月の震央分布(注1) 
トカラ列島の火山(海底火山を含む)と2021年4月および12月の震央分布(注1) 

海底山脈がプレートごともぐり込み…

南西から望む小宝島(2007年11月撮影)
南西から望む小宝島(2007年11月撮影)
悪石島荷積岬から望む御岳円頂丘(2007年11月撮影)
悪石島荷積岬から望む御岳円頂丘(2007年11月撮影)

――周辺海域では4日から群発地震が続いていた。

 「長大な琉球弧のなかで小宝島、悪石島付近だけで群発地震が起きる理由について、多くの研究者は、もぐり込むフィリピン海プレート側の海底に海台(山)があることが関係している、と考えている。もぐり込むフィリピン海プレートの表面は平らではなく、海底には奄美海台、大東 海嶺(かいれい) 、沖大東海嶺が連なっている。これらの海底山脈はプレートに乗って琉球弧にぶつかり、もぐり込む際にユーラシアプレート側の地殻にひずみが生じる。実際に海底の地形には過去に海台がトカラ列島に衝突した証拠がたくさん残っている」

 「山の出っ張り(海台)があるため、フィリピン海プレートがもぐり込む際、ユーラシアプレート側の地殻は下に引きずり込まれる力だけでなく、山頂が引っかかって横に引っ張る力や、圧縮された海台が元に戻ろうとして押し上げる力を受ける。さまざまな方向の力によって複雑なひずみが生じ、そのひずみは玉突きのように別の場所に広がっていく。震源付近は海台がもぐり込む場所からは離れているが、ひずみが伝播して横ずれによる地震が起きやすい」

――群発地震によってひずみは解放されたはずなのに、なぜ大きな地震が起きたのか。

 「地殻は完全な固体ではなく伸び縮みするので、小さな地震ではひずみは完全には解消されず、一部は地殻に吸収されてたまっていく。そこに大きな横ずれが来ると、伸び縮みで何とか持ちこたえていた岩盤が耐えきれずに割れてしまう。それが9日の地震の発生メカニズムだった。将棋崩しというゲームがあるが、小さなずれが繰り返されるうちに、ある時点で耐えきれなくなって一気に崩れるという過程は、あのゲームと似ている。断定はできないが、私は現時点では4日からの群発地震は『前震』で、9日の地震が『本震』にあたる可能性が高いと考えている」

群発地震は火山の空白域で起きている

長崎丸による海洋調査(ドレッジ:海底から岩石をかきとる調査)
長崎丸による海洋調査(ドレッジ:海底から岩石をかきとる調査)
海底から採取した海底火山の溶岩片や軽石片
海底から採取した海底火山の溶岩片や軽石片

――横ずれが原因なら、一連の地震は火山噴火の前兆ではないのか。

 「私はトカラ列島海域の海底地形図を 編纂(へんさん) し、7年かけて海底から岩石を採取して成分を分析し、海底の地質を調べてきた。海底の地形と地質の特徴をすりあわせていくと、海底の全体像が見えてくる。群発地震が起きている付近の地溝は、海底火山列(アレー)が途切れる火山の空白域になっており、横ずれの向きも火山列の向きとは異なる。9日の地震は震源が火山の空白域のやや東にあたる琉球弧の火山前線に近いところで起きているのがやや気になるが、今のところ一連の群発地震は海底のマグマの動きで起きたものではないと考えるのが自然で、火山噴火の前兆ではないと思う」

「トカラの法則」に科学的根拠なし

――震源に近い諏訪之瀬島では 御岳(おんたけ) が9月に噴火するなど、周辺では火山活動も活発だが、マグマの動きで起きた地震でないなら、今後、小宝島や悪石島が噴火(注3)する恐れはないと考えていいのか。

 「地震の原因が火山活動ではないとしても、今後、噴火が起きないとは限らない。地震で地下の岩盤が割れた結果、マグマの通り道ができた可能性があるからだ。割れ目のそばにマグマだまりがあれば、マグマが割れ目を通って地上に上昇し、噴火につながる恐れも出てくる。1989年7月には静岡県の伊東冲で群発地震が起きた後、湾内の海底噴火によって手石海丘が誕生した例もある」

 「マグマだまりは通常、深さ5キロ~10キロ程度のところにある。気象庁は9日の地震の震源の深さを当初20キロと発表したが、その後14キロに訂正しており、マグマだまりの近くにマグマが上昇する通り道ができた可能性も完全には否定できない。ただ、その場合でもマグマが上がってくれば火山性の群発地震が発生したり、震源がごく浅い火山性微動が頻発したり、あるいは小宝島を含む周辺海域の噴気活動が活発(注3)になったりするはずで、注視していれば噴火の前兆はつかめるだろう」

――ネット上では、「トカラ列島近海で地震が頻発すると、国内で大地震が起きる」という「トカラの法則」が話題になっている。南海トラフ地震との関連性はあるのか。

 「トカラ近海の地震も南海トラフ地震も、フィリピン海プレートがもぐり込んで起きる点では同じだが、9日の地震は南海トラフ地震を起こすプレート活動とは違う場所で起きている。そもそも琉球弧のフィリピン海プレートは、本州のフィリピン海プレートよりずっと前に形成されたと考えられていて、プレートの性質も異なる。南海トラフ地震との関係はない」

震源の位置が精査されて要注意に

――政府の地震調査委員会の平田直委員長は、1か月程度は大きな地震に備えるよう呼びかけている。

 「地殻の岩盤は浅いと割れやすく、震源が浅い地震は地表の揺れ(震度)は大きくなる一方で、地震の規模(マグニチュード)は大きくなりにくい。地殻内の15キロくらいの深さにある岩盤は頑丈で割れにくいが、その反面、割れると大規模な地震になる。しかし、地殻のさらに深い所では、地温が上昇し岩盤は柔らかくなり、変形が可能になるため地殻が割れにくくなり地震が起きにくくなる。マグニチュードが最も大きくなるのは震源の深さが15キロ前後の地震だ。9日の地震は大きい地震が起きる深さで起きており、さらに同じ深さで地震が続くようなら、さらに規模が大きくなる恐れもある。気象庁は精査の結果、震源の深さとともに、震源の位置を発生直後の発表より東側の琉球弧の火山列近くと推定している。マグマだまりも深いものは深さ10キロにあり、地震が火山活動の起点になる可能性も捨てきれない。しばらくは要注意だ」

 「今のところ津波は起きていないが、横ずれ(正断層型)の地震でも、大規模に海底が動けば津波は起きる。一連の地震は限定的な海域で起きており、今のところ大きな津波が起きる可能性は小さいと思われるが、自然現象に関しては「バタフライ効果(注4)」も考慮する必要がある。短期的な海面下のひずみが小さくても、時間の経過とともに蓄積され、思わぬ結果になることはよくある」

 「9日以降は地震の回数は減っているが、マグニチュードが減衰する方向にあるのか、震源が深くなる方向なのか浅くなる方向なのか、まだ見極めはつけにくい。この地域の陸上の観測点は宝島、小宝島、悪石島にしか設けることができず、観測の精度はどうしても低くなってしまう。火山性微動(地震)をとらえることができる海底地震計を周辺海域に敷設し、しばらくは監視を強めるべきだろう」

※撮影者の記載がない図、写真は横瀬さん提供

(注1)気象庁地震情報マップデータ(https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#11/29.719/129.407/&elem=int&contents=earthquake_map)
(注2)横瀬 他(2010)トカラ列島における中期更新世の酸性海底火山活動(https://doi.org/10.5026/jgeography.119.46)
(注3)海底火山研究の新展開:トカラ列島周辺の浅海域で、大規模なガスプルームを伴う海底火山活動を洋上から音響測深・海洋化学観測によって確認(https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/topics/2014/20141001.html)
(注4)バタフライ効果 わずかな自然の変化が、非常に大きな変化を引き起こすこと。アメリカの気象学者、エドワード・ローレンツ(1917~2008)が「ブラジルの1羽のチョウの羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすか」という題目で講演し、長期予報の問題点を指摘したのにちなむ。

プロフィル
横瀬 久芳氏( よこせ・ひさよし
 1960年新潟県生まれ。熊本大学大学院先端科学研究部准教授。専攻は海洋火山学。著書に『ジパングの海』(講談社+α新書)、『はじめて学ぶ海洋学』(朝倉書店)、『面積あたりGDP世界1位のニッポン』(講談社+α新書)。「平成28年熊本地震DVD」(RKK)監修。




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2595955 0 社会・防災 2021/12/14 14:38:00 2021/12/16 12:32:46 2021/12/16 12:32:46 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/12/20211214-OYT8I50025-T.jpg?type=thumbnail

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