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北朝鮮のミサイル発射が示すもの 笹川平和財団・小原凡司さんに聞く

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POINT
■北朝鮮が9月15日に発射した弾道ミサイルは、ロシア製の「イスカンデル」を改良した「KN―23」の改良型とみられる。軌道が変化し捕捉しにくい上に、鉄道を使った発射は発射地点もつかみにくい。

■北朝鮮は11、12日にも長距離巡航ミサイルの発射に成功したと発表している。こちらも低い高度で自立航行し、迎撃が難しい。

■いずれのミサイルも北朝鮮がミサイル開発をやめていないことを示し、韓国や日本、米国をけん制する狙いがある。

■従来のミサイル防衛システムでの迎撃は極めて難しい。日本は「敵基地攻撃能力」の保持を含め、新たな防衛のあり方についての議論を急ぐべきだ。

 北朝鮮が9月15日午後、日本海に向けて弾道ミサイル2発を発射した。13日には、新開発の長距離巡航ミサイルの発射実験に成功したと発表したばかりだ。発射の狙いは何か、今後、ミサイル発射は続くのか。笹川平和財団上席研究員の小原凡司さんに聞いた。

聞き手 調査研究本部 丸山淳一 

弾道ミサイルは「イスカンデル」改良型

――15日に発射され、日本のEEZ(排他的経済水域)内に落ちたのはどんなミサイルと推定されるか。

9月17日朝刊から
9月17日朝刊から

 今年3月25日に日本海に向けて発射されたのと同じ、ロシア製の「イスカンデル」ミサイルをもとにした「KN―23」の改良型だろう。3月のミサイルは450キロ~600キロ、今回は800キロ飛んだとみられるが、北朝鮮もこのミサイルを「戦術誘導弾」と呼んでおり、射程1000キロ未満の短距離弾道ミサイルであることは間違いない。このミサイルは低い高度を飛び、飛翔経路が複雑で探知しにくいのが特徴だ。固体燃料で運搬しやすい移動式ミサイルなので、発射地点もつかみにくい。

 15日のミサイル2発は内陸部の陽徳から発射され、3月より長い距離を飛んではいるが、飛翔距離は発射時の角度で変わるため、この半年間で性能が上がったとは言い切れない。800キロの飛翔距離があれば、北朝鮮最南部、38度線近くの海寄りの地点からから発射すれば日本本土の日本海側の都市に到達するが、38度線近くは米国や韓国の警戒網が敷かれており、ここまでミサイルを運搬して発射するとは考えにくい。KN―23の標的は日本ではなく、韓国だろう。

鉄道から発射された意味

――すると、発射の狙いは韓国に対するけん制ということか。

 最大の狙いは、韓国が9月15日に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験に成功したことへの対抗だろう。北朝鮮もSLBMが発射できる潜水艦を建造中だが、まだ完成していない。SLBMでは対抗できないので、潜水艦のように発射地点を動かすことができる鉄道を使ってミサイルを発射したのだろう。

北朝鮮の鉄道機動ミサイル連隊が行った発射訓練。朝鮮通信が配信した写真(ロイター)
北朝鮮の鉄道機動ミサイル連隊が行った発射訓練。朝鮮通信が配信した写真(ロイター)

 今年3月のKN-23は車両(TEL=Transporter Erector Launcher、トラックなど可動式の発射台)に搭載されたミサイルランチャーから発射されているが、今回のミサイルは鉄道車両から発射されている。これは、米国や韓国に捕捉されずにミサイルを発射できるということを示す狙いがあった。

 移動式ミサイルといっても、発射地点はある程度絞られる。全長が8メートル、重量が2.5トンと言われるKN-23を格納したキャニスター(収容容器)を搭載した車両が展開できる場所は限定される。たとえ北朝鮮のTELが不整地を走行する能力を有しているとしても、非常に重い車両が走行するためには、相当程度の強度を持って舗装された道路か、それに匹敵する地面が必要である。さらに、米国の情報部門で衛星画像解析を担当していた退役陸軍軍人は、「ミサイルキャニスターを搭載した車両の全長は長くなり、道幅とカーブから計算すればTELが展開可能な範囲を特定できる」と話していた。米情報当局は軍事衛星を用いて、各種TELが展開可能な範囲を特定し、ミサイルを発射可能なエリアを監視しているということだ。

 だが、北朝鮮の鉄道網は、特に山間部において、TELが展開できる範囲の外に広がっているだろう。北朝鮮が今回公開した映像では、発射台に改造された貨物車両がトンネルを背景にミサイルを発射している。貨物車両を発射台に改造し、上空から見ても発射台とわからないようにしてミサイルを運搬し、トンネルなどに隠しておいて発射すれば、これまで米国の監視が行き届いていない山間地など内陸部からもミサイルが発射できる。今回の発射には、米、韓両国にそれを誇示する狙いがある。

ミサイル防衛システムで撃ち落とすのは困難

――発射の感知が遅れたことが、落下地点の確定の遅れにつながったのか。

 ミサイルは発射地点を捕捉し、発射角や加速度から落下地点を予測する。発射時のデータがないと航跡の予想は難しい。高度が低く、落下時に複雑に軌道を変えるKN―23の航跡予想はもともと難しいのに、発射時のデータがないのだから、落下地点の特定は困難だ。今回のミサイルを日本で最初に感知したのは海上保安庁のようだが、自衛隊の監視が緩んでいたわけではない。

 航跡が予想できなければ、迎撃ミサイルで撃ち落とすのは不可能に近い。現在のミサイル防衛システムは、いったん大気圏外に出て自然落下してくるミサイルの軌跡を割り出して到達前に撃ち落とすものだ。今のシステムでは迎撃できないという意味で、KN-23は新たな脅威といえる。

長距離巡航ミサイルは日本全土を射程に?

――北朝鮮は9月11、12日に新たに開発した長距離巡航ミサイルの発射実験を行い、成功したと発表している。

朝鮮通信が配信した11日と12日に北朝鮮の国防科学院が行った長距離巡航ミサイルの発射実験の画像
朝鮮通信が配信した11日と12日に北朝鮮の国防科学院が行った長距離巡航ミサイルの発射実験の画像

 こちらはKN―23とは違い、高度やルートを割り出して自力で航行するミサイルで、形状は米軍の巡航ミサイル「トマホーク」に近い。13日の北朝鮮の発表によると、ミサイルは「亜音速」で約1500キロ飛んだというが、確認されてはいない。ただ、事実なら東京をはじめ、日本のほぼ全土が射程圏内に入る。北朝鮮の核弾頭は重すぎて、まだこのミサイルには搭載できないとみられるが、TELから連続発射ができる。

 中国のYJ-62/C-602巡航ミサイルは3連装だが、北朝鮮が公表した写真を見ると、北朝鮮のTELは5本の巡航ミサイルキャニスターを搭載している。トマホークもYJ-62もミサイル重量が1トンを超える。中国のTELが搭載する巡航ミサイルを3本としているのは重量にも関係していると考えられる。北朝鮮の巡航ミサイルがトマホークやYJ-62と同等のサイズであれば、北朝鮮のTELの機動性には疑問も残る。

 北朝鮮のミサイルシステム開発には中国やロシアの技術が用いられていると考えられ、こちらのミサイルも完成していれば、今のミサイル防衛システムで迎撃するのは極めて難しい。

中国は北朝鮮に自制を求めるか

――長距離巡航ミサイルの発射は日本をけん制する狙いがあったのか。

 日本にある在日米軍基地をいつでも攻撃できるということを示し、日本と米国をけん制する狙いはあるのだろう。朝鮮半島有事の際は、爆撃機などの出撃を阻むため、在日米軍基地が標的となる。七つの在日米軍基地は国連軍も使うことになっており、北朝鮮を敵視する国際社会に警告を発したともいえる。

 北朝鮮は建国記念日にあたる9日未明、 (キム)正恩(ジョンウン) 総書記が出席して平壌の金日成広場で軍事パレードを行ったが、ミサイルなど大型の兵器は登場しなかった。金総書記は以前と比べると痩せたように見え、「痩せた総書記の姿に心が痛む」という人民の声も紹介されたが、これは北朝鮮がミサイル開発をやめたわけでも、民主的になったわけでもない。大型の兵器が登場しなかったのは、朝鮮労働党の偉大さを示す党の記念日のパレードとは異なり、建国記念日には北朝鮮という国をどのように守り、豊かにしていくかというイメージを示したかったからだとも考えられる。金総書記がスーツ姿で現れたのも同じ理由かもしれない。

――北朝鮮がKN―23を発射したのは、中国の (ワン)(イー) 外相が韓国を訪問し、 (ムン)在寅(ジェイン) 大統領や (チョン)義溶(ウィヨン) 外相と会談している最中だった。

 韓国は今、急ピッチで軍備を拡張しており、防衛費の対GDP(国内総生産)比率は日本を大きく上回る2.5%に達している。ミサイル発射に中韓外相会談をけん制する意図があったとしても、けん制する相手は中国ではなく、韓国だと思う。中国は北朝鮮のミサイル実験を好ましくは思わないだろうが、今は北朝鮮を手元に置いておきたいはずだ。台湾などをめぐって米国と緊張を高めつつある中国は、有事の際には北朝鮮に陽動作戦をとらせることを考えているからだ。

有事に備えた議論を急げ

――今後、再び北朝鮮の挑発は増えるのか。また、日本はどう対応すべきだろうか。

9月18日朝刊から
9月18日朝刊から

 それは今後の情勢次第だが、北朝鮮はミサイル開発を続けており、現在の防衛システムでは対応できない複数のミサイルを持ったことは間違いない。今回発射されたKN-23は日本を射程にしていないが、ノドンやスカッドなど、日本を射程圏内に収め、核弾頭を搭載できるミサイルの改良も進めるだろう。

 日本は、従来のミサイル防衛システムで撃ち落とすことが難しいならどうするか。一つには、米海軍のNIFC-CA(Naval Integrated Fire Control-Counter Air:海軍統合火器管制―対空)に参加するか、類似のシステムを構築する必要がある。広範囲に展開した異なるビークル等のセンサーをネットワークで結び、低高度で飛行経路を変える対空脅威にも対処できるようにするものだ。

 もう一つ、発射前にミサイル発射システムや関連装備を攻撃して無力化する「敵基地攻撃能力」を持つかどうかについても、真剣な議論を始めるべきだ。北朝鮮が、現段階では発射地点を予測するのが難しい移動式ミサイルを持った以上、発射を防ぐのは難しいという見方もあるだろう。しかし、ミサイル防衛の作戦として攻撃できる対象は限定されるため、日本は、これまで以上に情報収集能力を向上させる必要がある。米国は、対立・紛争時における敵のミサイル・システムに対する攻撃はミサイル防衛の 範疇(はんちゅう) と考えており、有事の際は、発射前に敵ミサイル・システムを攻撃し、在日米軍基地を守ろうとするだろう。

 台湾有事についても、米国が日本の領土を含む第1列島線*にミサイルを配備したいと強く要望してくることは十分に考えられる。「もし日本が断るなら、日本防衛の責任は持てない」と言われたら、どうするか。日本社会はこうした議論を避けてきたが、いつまでも先送りはできない。17日告示された自民党総裁選では、安全保障関連の論戦を期待したい。

 *第1列島線 台湾有事などで米国の軍事介入に対抗することを狙って、中国が構想する軍事戦略上の防衛ライン。日本列島の九州南方の東シナ海から台湾周辺海域までの制海権の確保を第1目標としている。さらに、その外側の小笠原諸島、サイパン、グアム島にかけてを「第2列島線」としている。









プロフィル
小原 凡司氏( おはら・ぼんじ
 1985年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院(地域研究修士)修了(修士)。85年海上自衛隊入隊後、回転翼操縦士として勤務。2003年駐中国防衛駐在官。防衛省海上幕僚監部情報班長、第21航空隊司令などを経て、13年に東京財団、17年6月から現職。

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2384477 0 国際・安全保障 2021/09/21 17:54:00 2021/09/21 18:13:54 2021/09/21 18:13:54 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/09/20210921-OYT8I50070-T.jpg?type=thumbnail

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