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エジプトの秘宝を後世に…大エジプト博物館を支える <2>世界有数の保存修復センターを目指す人々

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POINT
■開館に向けて大詰めを迎える「大エジプト博物館」には、古代エジプト文明の至宝を保存修復する保存修復センター(GEM―CC)が隣接している。

■「大エジプト博物館保存修復センター」は、遺物の調査・分析から保存修復まで、すべての工程に対応できる世界の著名な博物館と同等の機能を兼ね備えている。

■GEM-CCは世界有数の文化財保存修復の研究・実践機関を目指し、日本をはじめ、海外の機関から専門家を受け入れ、多くの専門家が互いに技術を学び合いながら成長を続けている。

国際協力機構(JICA)専門家  
大エジプト博物館合同保存修復プロジェクト広報担当 清水舞子  

 エジプト・カイロ近郊にある大エジプト博物館(GEM)は、来たるグランド・オープンに向けて大詰めを迎えている。GEMには、隣接する大エジプト博物館保存修復センター(GEM―CC)にて数年かけて保存修復されてきたものを含め、膨大な数の遺物が展示される予定だ。GEMは単一文明を扱う博物館としては世界最大級の規模となり、世界中の考古学ファンが開館を待ち望んでいる。同館を支えるGEM-CCは、世界有数の文化財保存修復の研究・実践機関を目指し、日本をはじめ、海外の専門家や機関を受け入れ、互いに学び・教え合いながら日々、成長を続けている。

“施設完結型”の保存修復センター

大エジプト博物館に隣接する保存修復センターの外観
大エジプト博物館に隣接する保存修復センターの外観

 GEMの建設は2003年、当時の小泉首相とムバラク大統領の首脳会談がきっかけとなり、エジプトの国家プロジェクトとして開始された。その7年後、現在の場所で最初に産声を上げたのがGEM―CCだ。エジプト学や考古学、保存修復の国際的な教育研修・研究の機関として設立された。

 敷地面積は英国ロンドンのウェストミンスター宮殿(3万2000平方メートル)に匹敵する。世界に点在する文化財の保存修復施設と比べても広大な施設の中に、石材、木材、染織品などのオーガニック(有機物)、そしてミイラなど19の専門ラボ(研究室)があり、約6万点の国宝級の遺物を取り扱っている。

 大エジプト博物館保存修復センター長のフセイン・カマル博士によると、遺物の調査・分析から保存修復までの全工程をこの施設のみで対応できるという。世界的に有名な美術館・博物館では、保存修復や調査研究など一つの分野に目的を絞った施設が多い傾向にあるが、GEM-CCではエジプトの専門家たちが遺物の分析・調査から、保存修復、GEMの展示ギャラリーでの展示方法やデザイン、照明に至るまで幅広い仕事を行っている。多様な分野を網羅して行える施設は、世界で有名な博物館に匹敵する機能を有していることになり、ここでは120人もの専門家たちが働いている。ツタンカーメン王の遺物など、世界が注目する至宝を数多く扱う施設で働く専門家たちは、どんな思いでこの仕事に携わっているのだろうか。

GEMに隣接するGEM-CC(赤い丸)
GEMに隣接するGEM-CC(赤い丸)

自国の宝に携われる誇り

展示物の台座となるマウントづくりに精を出すユスリーさん
展示物の台座となるマウントづくりに精を出すユスリーさん

 現在はオーガニックラボに所属するムハンマド・ユスリーさんは、2014年からGEM―CCで働いている。子供の頃から壊れたおもちゃを自分で直すのが好きで、電化製品を分解しては直したりしているうちに、何かを作ったり組み立てたりすることに () かれていったそうだ。大学進学後、文化財を保存修復する専門の技法があることを知り、「歴史を形成している遺物に直接携わる、とても大切な仕事だ」と考えて、この道に進むことを決めたという。

 JICAの技術協力事業「大エジプト博物館合同保存修復プロジェクト」(GEM-JCプロジェクト)では、日本の専門家と一緒にツタンカーメン王の装飾品57点の保存修復や展示物を置く台座作りに携ったほか、GEM-JCプロジェクト以外にツタンカーメン王のサンダルの保存修復も行った。

 これらの遺物はどれもGEM-CCに移送されてきた時は、とてもそのまま展示できる状態ではなかった。だが、ユスリーさんらが地道に保存修復作業を進めた結果、視察に訪れた海外の博物館の館長が目を見張るまでの展示物に修復された。ユスリーさんは、「この仕事にやりがいを感じた瞬間だった」と笑顔で語ってくれた。

眠っていた壁画の展示に挑む

石材の表面の汚れを慎重に洗浄するエジプトの専門家
石材の表面の汚れを慎重に洗浄するエジプトの専門家

 2020年春から世界中に広まった新型コロナウイルスの影響はGEM―CCにも及んだが、エジプトの専門家たちは世界中が待ち望むGEM開館に向けて手綱を緩めることなく、コロナと闘いながら作業を進めてきた。ムスタファ・シャハータさんが率いる石材ラボでは、出勤する人の数を交代制にして制限するなど感染対策を徹底し、作業を着実に継続してきた。ムスタファさんは保存修復という仕事に誇りを持ちつつ、「取り扱っている遺物は国の宝であり、この世に一つしかない。一つのミスで遺物に影響が及んでしまうので、日々神経をとがらせて作業を行っている」と語る。

 石材ラボではGEM―JCプロジェクトの一環として、ダハシュール遺跡のマスタバ墓(長方形の大墓)で発掘された「イニ・スネフェル・イシュテフの壁画」13点などを含む計18点の遺物を取り扱っている。スネフェルの壁画は、1894~95年にフランス人の地質学者で考古学者のド・モルガン(Jean-Jacques de Morgan)(1857~1924)によって発掘された古王国時代の壁画で、マスタバ墓を装飾していたものだ。

 長い間カイロのエジプト考古学博物館で保管され、来館者の目が届かない片隅に置かれたままになっていたが、GEM―JCプロジェクトで保存修復をすることになり、ようやくこの壁画が多くの人の目に触れる機会がやってきた。ムスタファさんは「GEMが開館したら、壁画の一枚一枚に長い時間をかけた処置が施され、展示するまでに多くの人の手が関わってきたことを知ってほしい」と熱い思いを語ってくれた。

遺物すべての情報を知る

繊細な木製品の遺物を保存修復するジラーンさん
繊細な木製品の遺物を保存修復するジラーンさん

 木材ラボでは19人のスタッフが働いている。うち12人が女性で、GEM―CCのなかでも女性の研究者が数多く活躍している。このラボを取りまとめるのが、リーダーのジラーン・ソルターンさんだ。ジラーンさんはこれまで、多くの日本の専門家と一緒に保存修復作業を進めてきた。国の垣根を越え、互いに知恵を出し合って 脆弱(ぜいじゃく) な遺物をどう扱うべきか、何度も話し合いを重ねてきた。日本の専門家と一緒に働くなかで、「遺物のすべての情報を知ることの大切さ」を学んだと語る。

 GEMの開館が目前に迫り、ラボには新しい遺物が次々と運び込まれている。これまでの出会いで培ってきた知識や経験を生かし、日々の仕事に励んでいる。

日本の技術をエジプトで生かす

次世代への教育の重要性を語ってくれたアブドラボさん
次世代への教育の重要性を語ってくれたアブドラボさん

 同じく木材ラボで共に働くアハマド・アブドラボさんも、GEM―JCプロジェクトをはじめとする合同プロジェクトで海外の専門家と一緒に働き、成長を続ける専門家の一人だ。エジプトと日本で実施された20ものコースを受講し、遺物の写真撮影の技法や保存修復の事例を学び、知識を深めてきた。

 GEM―JCプロジェクトでは、ツタンカーメン王の二輪馬車(チャリオット)やベッドをはじめ、壁画、染織品といったさまざまな遺物の記録・分析を担当している。遺物は保存修復後すぐに展示されるわけではなく、最終工程として状態を細部まで撮影・記録する「ドキュメンテーション」が実施される。最初はこの作業のため、日本の専門家がエジプトに飛び、記録作業で必要な技術を伝授したが、その後はエジプトの専門家だけで残りの遺物のドキュメンテーションを行っている。

 アブドラボさんは日本の専門家と協力しながら、可搬型の蛍光エックス線分析(XRF)装置を使って、壁画の表面に付着した成分元素を同定する診断分析なども実施してきた。現在ではマルチスペクトル画像(注)分析の責任者となり、診断分析で活躍している。今後の夢を聞くと「GEM-CCを国際的な機関にすること」、そして「自分たちが培ってきたスキルや経験、そしてこの国の宝である遺物を若い世代に伝えていくこと」と力説した。

 日本とエジプトの専門家によって撮影された遺物の写真は今後、エジプト考古学における貴重な記録として保管されるだけでなく、研究資料として活用され、長年にわたってその役割を果たしていくだろう。

(注)マルチスペクトル画像 複数の波長帯の電磁波を記録した画像。人の目で見える可視光線の波長帯の電磁波だけでなく、紫外線や赤外線、遠赤外線など、人の目で見えない不可視光線の波長帯の電磁波も可視化して記録でき、分析を通じて目に見えない物質の生成や状態を明らかにできる。

プロフィル
清水 舞子氏( しみず・まいこ
 1984年福岡県生まれ。2019年英ブラッドフォード大学大学院(平和学)修了。西日本新聞社勤務後、20年からJICA専門家として大エジプト博物館合同保存修復プロジェクトの広報を担当。一般財団法人日本国際協力センター研修事業部管理・プロジェクト課所属。

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2559710 0 読売国際協力賞 2021/11/30 15:30:00 2021/12/27 12:32:25 2021/12/27 12:32:25 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/11/20211130-OYT8I50034-T.jpg?type=thumbnail

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