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エジプトの秘宝を後世に…大エジプト博物館を支える <3>GEM-CC 世界有数の保存修復センターを目指して

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POINT
■大エジプト博物館保存修復センター(GEM-CC)が順調に発展してきた背景には、日本をはじめとする世界の機関や研究者を積極的に受け入れてきたことがある。

■エジプトの専門家たちはJICA技術協力事業「大エジプト博物館合同保存修復プロジェクト」(GEM-JCプロジェクト)で学んだノウハウを応用し、独自の技術を開発し、取り入れてきた。

■2013年のエジプト政変や20年春からの新型コロナウイルス感染拡大などの予期せぬ事態もあったが、エジプトの保存修復家たちは大エジプト博物館(GEM)開館に向けて手綱を緩めることなく活動を続けてきた。

国際協力機構(JICA)専門家 
大エジプト博物館合同保存修復プロジェクト広報担当 清水舞子 

GEM-CCを統括するフセイン・カマルセンター長
GEM-CCを統括するフセイン・カマルセンター長

 大エジプト博物館(GEM)を支える大エジプト博物館保存修復センター(GEM-CC)は、この10年で大きく発展した。専門家たちの人材育成だけではなく、日本をはじめとする世界の機関や専門家を積極的に受け入れてきたことが要因にあげられる。

 国際協力機構(JICA)技術協力事業「大エジプト博物館合同保存修復プロジェクト」(GEM-JCプロジェクト)では、エジプトの貴重な文化遺産を日本とエジプトの専門家が共同で保存修復するという世界が驚くような戦略を打ち出し、あのツタンカーメン王の遺物を日本の専門家にも触らせたのだ。

 エジプトの専門家たちは、日本の専門家たちと一緒に働くなかで腕を磨き、自国に合う最適な方法に改良して取り入れてきた。何を経験し、実践してきたのかを紹介したい。

日本のノウハウを応用

 GEM-JCプロジェクトの保存修復作業では、日本の「和紙」が活躍した。日本では文化財などの保存修復でおなじみの素材だが、エジプトの専門家の中には、今回初めて多種多様な和紙を見たという人たちもいたようだ。プロジェクトでは当初、和紙は遺物と展示するための台座との間にはさむ緩衝材として使われていた。

 だが、エジプトの専門家たちは、自分たちで和紙の新たな使い道を見つけ出した。「オーガニックラボ」で主に染織品の保存修復に従事するムハンマド・ユスリーさんは、和紙を使っているうちに、「この強度を生かした使い道があるのではないか」と考えるようになったという。和紙を遺物の表面に貼り付ければ、強度を高めることができる。和紙に接着剤を浸透させて透明にしてから貼り付ければ、展示を邪魔することなく、遺物も安全に保存でき、まさに一石二鳥――。あの手この手を使って、すでに多くの遺物が保護されている。

和紙は移送のための応急処置でも使われた
和紙は移送のための応急処置でも使われた

 「 燻蒸(くんじょう) ラボ」は、GEM-CCに運ばれてくるすべての遺物を最初に受け入れる。虫の有無を慎重に調査し、必要であればガスを注入して殺虫処理を行う。ラボ長のマンナール・エルカイヤールさんは「生きている虫がラボを通過すれば、GEM-CC内で繁殖してしまう恐れもある。そこで重要になってくるのが、私たちが常日頃から開発を続けている『検知』という作業です」と話す。

 殺虫方法は虫の種類や遺物の形状によって異なるが、遺物を透明なビニールテントの中に入れて密封し、窒素などのガスを注入する「燻蒸処理」が一般的。マンナールさんによると、燻蒸処理はテント内に入れる酸素の量がわずかに増えるだけでも成功しないため、とても神経を使う仕事だそうだ。

 マンナールさんは2011年度にGEM-CCプロジェクト(GEM-JCプロジェクトの前身のプロジェクト)の一環で日本での研修に参加し、そこで初めて二酸化炭素を使った殺虫処理を学んだ。その時の基礎知識をもとに、エジプトの遺物の燻蒸処理にどのように応用するか考えた結果、エジプトで初めて、二酸化炭素の代わりに特注の殺虫袋を使って窒素を挿入する殺虫方法を導入した。

 マンナールさんは今も、日々GEM-CCに運ばれてくる遺物の殺虫作業を担当している。「保存修復作業で使う機材や材料は日本で使われているものも活用していますが、現地で手に入る道具や材料を使うことで、今後も活動を継続しやすくなります。それに気づかせてくれた意味でも、日本の専門家の方々と一緒に働けたことはとても光栄でした」と笑顔で話してくれた。

細心の注意を払い、殺虫処理を行う燻蒸ラボチーム
細心の注意を払い、殺虫処理を行う燻蒸ラボチーム

 エジプト考古学博物館からGEM-CCに遺物を移送する作業は、日本とエジプトの専門家たちが 梱包(こんぽう) 移送チームを結成して進めていく。世界が注目するツタンカーメン王の二輪馬車(チャリオット)やベッドをはじめ、1体400キロを超える壁画など、移送する遺物は多岐にわたり、 脆弱(ぜいじゃく) な遺物もある。通訳を介して日本語とアラビア語で意思疎通を図り、時には英語も交えてお互いが作業の流れを理解し、一致団結することが重要になる。

日本の専門家と活動した思い出を語るアイーサGEM修復・移送担当ディレクター
日本の専門家と活動した思い出を語るアイーサGEM修復・移送担当ディレクター

 移送のエキスパート「日本通運」の技術指導者たちがエジプトに赴き、GEM修復・移送担当ディレクターのアイーサ・ジダン博士やエジプトの専門家たちと遺物への影響が極力少ない移送経路について協議を重ねて、詳細な梱包・移送計画がつくられた。エジプトと日本は言葉だけではなく、文化や生活スタイルも大きく異なるが、アイーサ博士は一緒に仕事をする上で「まったく難しいことはなかった」という。

2021年8月、「第一の太陽の船」のGEMへの移送には専用道路が使われた。
2021年8月、「第一の太陽の船」のGEMへの移送には専用道路が使われた。

 プロジェクトで培ったスキルは、21年8月にクフ王の「第一の太陽の船」をGEMに移送する際にも生かされた。アイーサ博士は「まずは太陽の船の移送を発案したアーテフ少将に感謝申し上げたい」と語った上で、GEM-JCプロジェクトについて「これまで関わってくれた、たくさんの日本人たちに感謝している」と話してくれた。

 実はアイーサ博士は、GEM-JCプロジェクトが始まる前から数多くの日本の専門家と働いてきた。その中には、日本のエジプト考古学の第一人者である吉村作治さんもいた。「日本人と働いて、時間を無駄にしないように、物事を始める前に綿密な計画スケジュールを立て、計画実施を徹底する姿勢を学んだ。特に、様々なことを教えてくれた吉村先生に敬意を表したい」と話した。

激動を乗り越え世界有数の保存修復センターに

 GEM-CCは、これまでも様々な困難を乗り越えてきた。2013年7月3日に起きたエジプトでの政変ではエジプト国内の治安が悪化し、プロジェクトに携わる日本の専門家たちは一時退去せざるを得なくなった。「これからこのプロジェクトはどうなってしまうのか」という不安な空気が漂うなか、現地のスタッフはGEM-CCに足を運び、自分たちの作業を続けてきた。

 20年春から世界に広がった新型コロナウイルスもプロジェクトの大きな障害となった。しかし、感染拡大が心配されるなかでも、エジプトの専門家たちは細心の注意と徹底した感染対策を講じ、政府の規制にも従いながら遺物を守り続けた。日本の専門家たちもビデオ通話などオンラインを駆使して保存修復の技術を伝授するなど、国際協力も絶やさなかった。

 GEM-JCプロジェクト総括補佐の西坂朗子さんは「コロナ禍で日本人がエジプトからの退避を余儀なくされていた間も、プロジェクトは止まらなかった」と話し、こうつけ加える。

 「これまでエジプトで続けてきた専門家育成と、平常時の信頼関係があったからこそ、活動を継続できた。困難な中でも業務を続けた彼らに敬意を表したい」

プロフィル
清水 舞子氏( しみず・まいこ
 1984年福岡県生まれ。2019年英ブラッドフォード大学大学院(平和学)修了。西日本新聞社勤務後、20年からJICA専門家として大エジプト博物館合同保存修復プロジェクトの広報を担当。一般財団法人日本国際協力センター研修事業部管理・プロジェクト課所属。

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使い方
2578024 0 読売国際協力賞 2021/12/07 16:03:00 2021/12/27 12:42:35 2021/12/27 12:42:35 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/12/20211206-OYT8I50052-T.jpg?type=thumbnail

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