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2020年度(第21回)小峰隆夫氏『平成の経済』(日本経済新聞出版社)

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経済的難局 平成と昭和の明暗

未知の「内生型」問題 政策決定プロセス課題

 今回、読売・吉野作造賞を受けた『平成の経済』(日本経済新聞出版社)は、平成時代30年間の日本経済の歩みを辿ったものだ。

 言うまでもなく、年号が変わったからといって経済の枠組みが変わるわけではない。しかし、平成の時代は、経済的な観点からもそれを区切って考えるだけの意味を持っていたように思われる。平成の経済を昭和の経済(戦後から1980年代後半)と比べてみるとそれがよく分かる。

 第2次世界大戦後の昭和の時代も平成の時代も、日本経済にとっては苦難の連続だった。しかし、その帰結は大きく異なる。すなわち、戦後の昭和の時代は、多くの困難に直面しながらも、総じてこれらの諸問題を驚くほどうまく切り抜け、経済発展を遂げてきた。戦後の荒廃の中から立ち上がった高度成長の実現はその白眉だ。その後も、ニクソン・ショックと変動相場制への移行、2次にわたる石油危機、プラザ合意後の急激な円高といった急激な国際環境の変化に見舞われたが、結局は比較的円滑にこれらの難問を乗り切ってきた。

 平成の経済においても、バブルの崩壊と不良債権問題、アジア通貨危機と日本の金融危機、デフレの進行、人口減少社会への突入などの難しい課題が次々に現われた。しかし我々は、これらの課題をうまく処理できず、デフレも人口問題も、財政・社会保障問題も令和時代にほぼそのまま引き継がれている。

 昭和時代が「予想を超えてうまく適応してきた時代」だったとすれば、平成時代は「予想外に厳しかった時代」だったと総括できそうだ。ではなぜ昭和と平成でこのような差が生まれたのだろうか。その理由としては次のようなことが考えられる。

 一つは、昭和時代は目指すべき方向が明確だったことだ。高度成長は、国民生活も産業構造も技術も欧米諸国へのキャッチアップによってもたらされたものだ。石油危機で省エネルギー型の経済が実現したのも、円高に対応してスリムな高付加価値の産業構造に向かったのも、経済が長期的に目指すべき方向に合致していた。これに対して、平成時代の諸課題は、未知の課題ばかりであり、お手本がない中で試行錯誤を迫られることになったのである。

 もう一つは、昭和時代の課題は「外生型」だったのに対して、平成時代の課題は「内生型」だったことだ。すなわち昭和時代の課題をもたらしたものは、敗戦、円レートの切り上げ、石油価格の上昇など、日本の外からやってきた外生的なショックだった。一方、平成時代の課題の多くは、不良債権、デフレ、人口減少などいずれもが我々自身が生み出した内生的な問題であった。

 このことは、危機に対する我々の特徴を示しているのかもしれない。すなわち、国民全体が等しく厳しい対応を迫られる外生型の危機に対しては、横並びで、火事場の馬鹿力とも言うべき対応力を発揮してうまく対応できる。一方で自らが引き起こした課題に対しては、責任とコストを分担し合いながら処理していくのが苦手だということだ。

 その苦手な課題は全て令和時代に引き継がれている。ここで示した考えが正しいとすると、これら諸課題を処理し、国民福祉を高めていくためには、政策決定プロセスを見直す必要がありそうだ。そのためにはまずは、もっと最新の経済学的知見とエビデンス(証拠)に基づいた政策を目指してはどうだろうか。これが平成時代30年の日本経済を辿ってきた私の提案である。

(2020年7月6日朝刊) 


中央公論(2020年7月号)の「受賞のことば」

小峰隆夫(こみね・たかお)氏 1947年生まれ。埼玉県出身。東京大学経済学部卒。経済企画庁物価局長、同調査局長、法政大教授などを経て、大正大学地域構想研究所教授。専門は日本経済論。著書に『日本経済の構造変動』『人口負荷社会』『日本経済に明日はあるのか』など。


 約50年にわたり、経済企画庁のエコノミストなどとして、日本経済を観測し続けてきた。特に平成期は、大事な局面をすべて見てきたという自負がある。受賞作「平成の経済」は「エコノミスト人生の集大成」との思いで執筆した。 バブル崩壊、デフレ、リーマン・ショック……。異例続きだった日本経済の動向を、データや論理を重視しつつ、率直な思いを交えてつづった。課題も痛感し、「政治は世間の評価に左右されすぎず、専門家の正統的な知見を生かす必要がある」などの提言も記した。例えば、銀行の不良債権処理には公的資金の早期投入が必要だったのに、国民の賛同が得られず、結果的に傷口が広がった。

 公務員を志したのは、「自らの力を社会全体のために役立てたかった」から。面接の場で内定を出してくれた経企庁は肌が合い、今も日本経済の観察は「趣味に近い」。新説が次々に生まれてくる経済学に魅せられ続けている。 新型コロナウイルスを巡る経済政策が、目下最大の関心事だ。「財政赤字やデフレなど、平成期の課題の多くは未解決のまま。収束後に再び向き合わなければならないのは相当大変だが、注意深く見守っていきたい」(文化部 小林佑基)

(2020年6月10日朝刊) 

「日本経済観察していきたい」

第21回「読売・吉野作造賞」の贈賞式が東京・丸の内の東京会館で行われ、受賞作「平成の経済」(日本経済新聞出版社)を著した小峰隆夫・大正大教授(73)に、正賞の文箱と副賞300万円が贈られた。

 関係者約40人が出席した式典では、老川祥一・読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆代理、東京本社取締役論説委員長が「今後の日本経済の行方を考える上でも、歴史をしっかり学ぶことが大事だ。その意味で本書は、前途を指し示す明かりになる」とあいさつした。選考委員会座長の猪木武徳・大阪大名誉教授は、「日本の経済政策立案の過程に問題があると指摘するなど、非常に率直でフェアな本だ」とたたえた。

 小峰氏は、「受賞で急に分析力が上がったわけではない。また明日から、市井の一エコノミストとして、日本経済を観察していきたい」と語った。

 新型コロナウイルス感染防止のため、祝賀パーティーは開かれなかった。

(2020年7月14日朝刊) 

選評:日本の経済政策 明快に評価

 本書は平成30年間の日本経済の動向と諸政策の評価を、マクロ経済学の視点から明快かつ率直に論じた上質の日本経済論だ。国民経済全体の変動を語るとき、平板さや無味乾燥さを避けることは難しい。価値判断に関わる根拠もていねいに書き込まれており、類書にない面白さがある。

 景気対策の多くは、経済を短期的に「刺激」することはあっても、長期的には経済を「まひ」させる。本書は消費税率引き上げの際の景気後退防止策や、異次元の金融緩和など、短期決戦型の政策を長く続けることの危うさを指摘する。経済政策の立案において、日本の民主政治では責任の所在が不確かではないか、国民への人気取りに終始してはいないかと本書は厳しく問うている。将来を見据えた重要な警告だ。

 平成の日本経済は内外から多くの危機に見舞われた。そのためもあって国家介入の度合いが高まったことは事実だ。本書から、巨大な国民経済を制御することの難しさを学び取ることができる。平成を振り返りながらも、著者の目はこれからの日本経済の行く末にある。この前向きの姿勢も選考委員の共感を呼んだ大きな理由であった。(選考委員 猪木武徳)

(2020年6月10日朝刊) 

■選考委員 (敬称略)
猪木武徳(大阪大学名誉教授)=座長
山内昌之(武蔵野大学特任教授)
北岡伸一(国際協力機構理事長)
白石 隆(熊本県立大学理事長)
吉川 洋(立正大学学長)
老川祥一(読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆代理、東京本社取締役論説委員長)
松田陽三(中央公論新社代表取締役社長)


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1590052 0 読売・吉野作造賞 2020/10/30 12:28:00 2021/02/12 13:32:55 2021/02/12 13:32:55 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201029-OYT8I50114-T.jpg?type=thumbnail

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