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2008年度(第9回)飯尾潤氏『日本の統治構造』(中公新書)

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ねじれ国会、政策革新に活用

「総選挙で決着」慣行に

 「ねじれ国会」を前に日本政治の将来を悲観する人が多い。このたび読売・吉野作造賞を授与されることになった拙著『日本の統治構造』(中公新書)では、議院内閣制確立のための障害として二院制の問題を指摘しつつ、制度を合理的に解釈すべきだと主張した。

 そうした立場からすれば、この問題の解決策は絞られている。一つの選択肢は、選挙結果にかかわらず、政権の安定を可能にする方策を模索することである。他の選択肢は、政権の基盤が衆議院にあることを軸に政治を行いつつ、行政監視や、党派を超えて幅広く合意を形成すべき立法に関する参議院の独自の役割を尊重して、共存を図ることである。

 前者の具体策としては政界再編などがあるが、選挙結果次第でさらなる再編が必要となることもあり、安定的な解決策ではない。しかも状況次第では総与党化状況に行き着くことになる。しかし、現代世界では権力をつくるのは民主的基盤である。そこを見誤ると、うまくやったつもりでも、一般の有権者が後からついてこないということになりかねない。

新しい政治ルール

 そこで後者の考え方をとり、「衆議院総選挙における決着」を軸に、たとえば総選挙における政権公約(マニフェスト)に盛り込まれた立法について参議院は反対しないという慣行など、新しい政治ルールを構想すべきだ。自民党や公明党は、次の総選挙で勝って安定政権をつくるためには、この原則に賛成するしかない。民主党も政権交代を訴える立場であれば、解散総選挙で決着を付けるしかないから、これに正面からは反対しにくい。そのうえ、次の総選挙で勝って政権を獲得しても、単独で参議院の過半数を確保できるわけではないし、さらに次の参議院選挙で勝つ保証はないから、政権交代が現実化すれば、いずれ、この原則に賛成するしかないはずである。

 そんなことを言っても、民主党は「首相問責決議案」の可決など党利党略で動くから、理屈通りには運ばないと反論されるかも知れない。しかし「党利党略」に有権者が否定的であれば、そうした政党が選挙で勝利することはできないことを忘れてはいけない。

 現在の政治の混迷は、政権交代可能な民主政が根付く通過点に過ぎない。政権をめぐる政党の攻防が、政策の大きな選択肢を示すなかで、諸問題を解決してゆく可能性に目を向けたい。現在の日本は、アジア各国に先駆けて、少子高齢化、一極集中、教育の機能不全、環境問題といった難問に直面している。これは日本が先進国であることを意味している。先進国の将来像に既成のモデルはない。試行錯誤を許容しつつ、果敢に問題解決に取り組めば、政策を通じてアジア諸国の模範となる道すら開けている。その点で国政における政権交代可能な民主政と、政策実験の機会を増やす地方分権は車の両輪である。

 いまの日本に不足しているのは、問題に直面したとき、どうすれば打破できるのかという方向で物事を考える「政策型思考」と、一般有権者を巻き込んだ広汎(こうはん)な「政策論争」である。目前の難題をめぐって論争することなくして、政策革新はない。そこで「ねじれ国会」を活用し、国会論戦の活性化を通じて真剣な政党間競争を根付かせることを目指すべきであろう。そのうえで、合意に達しない問題は、政権公約を掲げ総選挙で決着を付ける慣行を根付かせれば、「ねじれ国会」は怖くないのである。

(2008年6月17日朝刊)

飯尾 潤氏 (いいお・じゅん) 1962年、神戸市生まれ。政策研究大学院大学教授。86年東京大学法学部卒業。92年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。埼玉大学大学院政策科学研究科助教授などを経て2000年から現職。専攻は政治学、現代日本政治論。著書に『民営化の政治過程』(東京大学出版会)、『政局から政策へ』(NTT出版)など。

 政治学者には南原繁型と吉野作造型があるという。学究タイプと、現実政治にかかわるタイプと。「自分は吉野型だと思っていただけに、その名を冠した賞を頂けるのは名誉」と喜ぶ。

 受賞作「日本の統治構造」(中公新書)では、戦後日本の議院内閣制は各省庁が直接社会のニーズを吸い上げ、その代表が内閣を動かす「官僚内閣制」だったと説明。また、自民党が内閣とは別に政策形成し、「政府・与党二元体制」という構図ができたと指摘した。「概念をしっかり与え、日本政治全体の見取り図を示せたと思います」

 執筆に12年近くかかっている。この間、所属する政策研究大学院大学の設立に尽力するなど「吉野型」ならではの体験を重ねた。「現実とかかわったからこそ政治構造が見えた」と言う。

 神戸市の開業医の家で育った。患者を通して社会の複雑さに触れ、政治に興味を抱くように。そのためか、「絶対善の追求より、状況の中でよりよい結果を出す『可能性の技芸』としての政治に関心がある」。政界が動くとされる秋には、日本政治の今後の可能性を描く次作を著す。(文化部 植田滋)

(2008年6月10日朝刊)

 第9回「読売・吉野作造賞」の贈賞式が東京・丸の内のパレスホテルで行われ、受賞作『日本の統治構造』(中公新書)を著した飯尾潤・政策研究大学院大学教授(46)に正賞の文箱と副賞300万円が贈られた。

 式には言論界などから約350人が出席、渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長・主筆が「政治学者が政治記者の領域に肉薄した」と称賛。選考委員会座長の宮崎勇氏は「日本の統治構造を国際的、歴史的に克明に解明した」と祝辞を述べた。飯尾氏は「これからも学者として前に出て、時代が何を求めているのかに従って、評論活動を積極的にしていきたい」と喜びを語った。

(2008年7月16日朝刊)

選評:「官僚内閣」の転換 強調

 読売・吉野作造賞は、過去1年間で政治・経済・社会・歴史など、広い分野の最も優れた論作に与えられる。選考に際して成文化された基準はないが、私は読売新聞の信条(責任ある自由、人間主義、国際主義)と吉野博士の理念(民本主義、新自由主義、善隣友好)を体した政策提言的なものと考えている。

 今年度の受賞が決まった飯尾潤氏の『日本の統治構造』は、「国会は国権の最高機関」であり「国会議員は国民の負託によって国政を代行する国民の代表者である」とする憲法に照らして、日本の統治機構を歴史的国際的に分析した力作である。

 とり上げられた問題は内閣、与党、政権交代など広範に及んでいるが、その核心は、日本の統治機構の実体は憲法の意に反して、政党政治家を内閣の主体と考えず「省庁の代表者」が集まった「官僚内閣制」が継がれてきた。これを普遍的な「議院内閣制」に転換すべきだと強調した点にある。時宜を得た力作で、受賞作として推薦するとともに、国民に広く読まれることを期待したい。(選考委員会座長 宮崎勇)

(2008年6月10日朝刊)

■選考委員 (敬称略)
宮崎勇(経済評論家)=座長
三浦朱門(作家)
山崎正和(劇作家)
猪木武徳(国際日本文化研究センター所長)
山内昌之(東京大学教授)
北岡伸一(東京大学教授)
老川祥一(読売新聞東京本社社長・編集主幹)

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1949400 0 読売・吉野作造賞 2020/10/16 12:00:00 2021/03/31 12:52:08 2021/03/31 12:52:08 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210330-OYT8I50082-T.jpg?type=thumbnail

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