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【動画あり】2020年10月秋季フォーラム 米大統領選と日本の経済・安保戦略

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日米豪印連携 対中の要

 読売新聞と読売国際経済懇話会(YIES)は10月16日、読売国際会議2020年秋季フォーラム「米大統領選と日本の経済・安保戦略」をオンラインで配信した。年間テーマ「世界秩序の再生とイノベーション」を踏まえ、林芳正参院議員(元防衛相)ら有識者3人が11月3日に迫った米大統領選の見通しや激化する米中覇権争いの日本への余波などについて討論した。(コーディネーター=大内佐紀・調査研究本部主任研究員)  

当日の動画

日本語版こちら

同時通訳による英語版(Yomiuri International Forum, Trump, Biden and Japan’s Security Strategy)はこちら

冒頭発言

「再選期待」 中国本音か…参院議員 林芳正氏 

 米国の共和党は自由貿易でビジネス寄り、民主党は保護貿易で労働組合寄りとされてきたが、今回の大統領選の構図は必ずしもそうではない。

 トランプ大統領は白人労働者を主な支持基盤とし、彼らにどういうメッセージが浸透するかを重視する。民主党候補のジョー・バイデン前副大統領は、労組はもちろん、中道の無党派層やハイテク系ビジネス、従来の民主党の特徴である多様性の重視が際立つ。

 争点の中では、トランプ氏は化石エネルギーを推進し、バイデン氏は再生可能エネルギーを掲げる点が大きな差となっている。

 トランプ氏の1期目を見ると、「何が自分の再選に有利に働くか」という視点だけで動いていた。仮に再選された後、どういう軸で政策を占えばよいのかが必ずしも判然としない。

 バイデン氏は36年間、上院議員を務め、外交委員長の経験もある。外交防衛についてはオーソドックスな政策が軸になるだろう。バイデン氏が当選した場合、トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)に復帰するかどうかも注目点だ。

 中国から見て、トランプ氏とバイデン氏のどちらが望ましいのか。トランプ氏の方が与し易い(くみやす)と思っているのではないかとよく言われる。

 トランプ氏は安全保障と経済の分野を同じまな板の上でディール(取引)する。一方、バイデン氏は、人権などの価値観について原理原則を貫くのではないか。議員外交にも長く携わっており、中国と表で握手しながら、裏で嫌がることをやるノウハウもあるという指摘がある。

 トランプ氏が中国とケンカしているのに対し、バイデン氏はより親中派的かもしれないという一面的な見方では、米中関係を切り取ることはできない。

自由貿易へ「西側」団結…同志社大特別客員教授 兼原信克氏 

 最近の一大地政学的変化は中国の台頭だ。

 18世紀末には英国での産業革命でオスマン帝国など当時の大国が一気に凋落(ちょうらく)、世界地図が塗り変わった。その波に取り残された中国が今、著しい国力伸長を見せている。10年前には日本と同等の経済規模だったのが、工業化が進んで今や3倍となり、米国の7割に近づく勢いだ。

 その中国にどう向き合うのか。中国に1対1で対抗できる国は米国しかない。

 中国は気難しくなっている。2008年のリーマン・ショック後、世界経済は中国に牽引(けんいん)された。そして、主要20か国・地域(G20)ができた。ところが、中国の本音は、西側クラブに入りたいのではなく、入って強くなったから、これからは自分の世界を作るというものだ。

 日本が重視する自由主義的世界秩序ができたのは比較的、最近だ。共産圏も開発独裁も滅び、民主主義がアジアに広がった。日本が望んでいた世界だ。

 ところが、中国は自分が中心にある、別の世界を作りたい。我々は「それは違う」と声を上げなければならない。

 日本は安倍政権下、自由貿易圏を築いた。縦横にインフラがつながり、ヒト、モノ、情報が自由に流れ、地域経済が活性化した。しかし、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」はあくまで自国が中心にあって星形にルートを広げる。自由貿易主義とは相いれない。

 ただ、中国と安定した関係を築き、利益を調整することは可能だ。中国は地域大国にはなれるが、地球的規模の覇権国にはなれない。その前に力のピークが来るだろう。

 カギは西側の団結だ。だからこそ、米国の指導者には西側をまとめられる人になってほしい。日本の意見も聞いてほしい。11月の米大統領選はとても重要だ。

荒れた選挙後 混乱続く…笹川平和財団上席研究員 渡部恒雄氏 

 今回ほど世界の関心を集める大統領選はない。米国内で起きている二極化が、国としての求心力低下につながる可能性があるからだ。トランプ氏に国内をまとめる気はない。バイデン氏はまとめたがっているが、できるかどうか分からない。

 現時点の世論調査ではバイデン氏が優位だが、圧倒的なものではない。大統領選は州ごとの選挙人数を競う仕組みで行われ、そのため接戦州が注目される。

 ペンシルベニア州や中西部諸州は民主党が伝統的に強いが、保守派もいる地域だ。世論調査で両氏に大きな差はなく、直前までどう転ぶか分からない状況が続くだろう。

 今年はさらに接戦州が増えている。テキサス州やノースカロライナ州など共和党が強いとされてきた地域が、接戦州になっている。

 両氏の人気の問題ではなく、構造的に民主党が有利になりつつある。周辺地域から民主党支持者が流入したり、メキシコ国境近くではヒスパニック系が増えたりしている。4年前よりトランプ氏がやや不利ではないか。

 今回の選挙を一言で表現するなら、「コロナ選挙」だ。新型コロナウイルスの影響でトランプ氏のシナリオが狂った。米経済は圧倒的に好調だったが、コロナで悪化した。過去の選挙でも、経済が悪いと現職が負ける。

 コロナの影響で、民主党支持者に多いと言われる郵送による投票が増えるとみられている。結果が確定する前に、トランプ氏が勝利宣言をして、2000年の大統領選のような法廷闘争になるかもしれない。

 こういう荒れた選挙の後は、どちらの候補が勝っても、国の分裂は続く。同盟国の日本としては、選挙後の米国が早くまとまって、力を取り戻すことが望ましい。

 

パネル討論

外交認識 欧州と共有…林氏

経済安保戦略 深化を…兼原氏

サイバー防衛で協力…渡部氏

■菅政権の役割

オンラインでライブ中継された読売国際会議(左から兼原信克氏、林芳正氏、渡部恒雄氏)=10月16日午後、東京・大手町で、田中秀敏撮影
オンラインでライブ中継された読売国際会議(左から兼原信克氏、林芳正氏、渡部恒雄氏)=10月16日午後、東京・大手町で、田中秀敏撮影

 ――新しい国際秩序の構築に向け、菅政権は外交にどう臨むべきか。

 林氏 日々の外交(ディプロマシー)と大きな外交の方向性(フォーリン・ポリシー)のうち、後者は菅首相が打ち出してほしい。西側諸国は、どうしても地理的な距離が心理的な距離につながる。欧州にとってロシアは安全保障上の脅威であり、我々が中国に抱く感情と似る。だが欧州にとって地理的に遠い中国は「大きな市場」というイメージになりがちだ。日欧での認識共有が大事だ。

 兼原氏 東南アジア諸国連合(ASEAN)の先には、豪州と、今後「スーパー・パワー」になり得るインドがある。「日米とインド、豪州の4か国で枠組みを作ろう」と第1次安倍政権が言った際、豪印両国は「日米から声がかかるのは良いが、なぜ4か国なのか」という反応だった。だが最近は中国の力が大きくなりすぎたため、4か国で集まる雰囲気が出ている。

 ロシアとの間には領土問題があるが、対露関係が良ければ中国とも安定した関係が築け、安定すれば信頼が生まれ、信頼があれば利益調整も可能になる。

 渡部氏 菅政権が長期政権となることを望む。かつて続いた短期政権で良いことは一つもない。自由経済と民主主義を信じ共有している地域という意味では、西側には「自由で開かれたインド太平洋(FOIP◎)」の諸国のほか欧州、カナダ、韓国も入る。日本が日米同盟を基軸にまとめていくことを期待する。

■切り離し

 ――米中関係が悪化する中で、経済安全保障の観点が重要になっている。

 兼原氏 日本は経済と安全保障を分けて考えがちだが、世界では一緒に考えるのが普通だ。経済の「デカップリング」(切り離し)で、米中がかつての米ソのようになると考えるのは過剰反応だ。機微な分野は、安全保障と関係のあるところだけで、プラットフォーム、ネットワーク、半導体の三つ。これらすべてをきれいにしなければならないと米国は言い始めており、どこまで付き合うかが問題になっている。

 林氏 米国では、オバマ前政権の頃までは「中国が豊かになり、1人当たりの国内総生産(GDP)が近づいてくれば我々のようになるだろう」という人が多かったが、トランプ政権になって変わった。一方、中国でも、「習近平(シージンピン)国家主席は、仕掛けが少し早すぎたのではないか」という考えが一部に出ている。もう少し「韜光養晦(とうこうようかい)」を続けていれば、米中は逆転間近だったのではないかとの見方だ。「習氏一強」に疑問を差し挟む人も出ている状況だ。

 トランプ政権が続けば、米中交渉で部分的な落とし所を様々に探ることになるかと思う。だが、バイデン氏が当選すれば、習政権が嫌がることを外交チームが考え、米国はリングに上がらず、習氏と、習氏の国内の政敵がリングに上がるような形を模索するかもしれない。

 渡部氏 興味深い話だ。米国留学で学んだことの一つは、人の言うことを聞くだけでなく、最初に自分が質問するのが重要ということだ。米中関係も、最初に日本から米国と話すのがいい。米中貿易摩擦とデカップリングが整理されていないが、米国は中国経済を全部切ろうとしているのではない。中国はかつてのソ連と違う。経済活動を続けることが、日本の生き残りに不可欠だという意識を持たねばならない。

■FOIP構想 

 ――中国公船が最近も沖縄県・尖閣諸島周辺に侵入した。「FOIP」構想反対の意思表示との見方もある。

 兼原氏 中国の海洋拡張政策は間違っている。日本だけではなく、アジア各地で問題が起きている。南シナ海では、スプラトリー(南沙)諸島の人工島に戦闘機が使用できる3000メートル級の滑走路を作った。同海南西端のインドネシア沖まで中国漁船が来たり、ベトナム南東沖にも石油目当ての中国船が来たりするようになった。

 アジア太平洋の安全保障体制は、北大西洋条約機構(NATO)と比べると極端に弱い。NATO加盟国は陸上の国境で接しているため、大小の国がラグビーのスクラムのような体制を組める。しかし、アジアは島が多く、細い線でつながるしかない。日米同盟という1本の針金では無理で、そうなると力があるのはインドと豪州だ。軍事同盟という話ではなく連携だ。

 林氏 かつて北京で、台湾の選挙中に中国船が「演習」と称して近づいてくれば、かえってナショナリズムが高まって中国に批判的な民進党が有利になることがわからないのかと、議論したことがある。今思い返してみると、実はわかっているが、そうした行動を中国の国内向けに取ったのかもしれない。

 日中関係で言えば、本音で話せる関係をつないでおくことが大事だ。菅政権もそれを維持するだろう。

 渡部氏 FOIPはもともと日本発の構想で米国もきちんと共有している。アイデアの基本的な部分は日米以外も賛同できることが多い。豪印や東南アジアだけでなく、最終的には中国も乗れるものがある。

 ■政権交代なら 

 ――仮に「バイデン政権」が誕生した場合、日米同盟はどう変わるか。

 林氏 同盟軽視と言われるトランプ氏に対し、バイデン氏は同盟重視を打ち出した。オバマ前政権の副大統領を務め、長年外交にも携わってきただけに、内部で練って十分に事前調整するスタイルになるのではないか。その方が米国の国益にもかなう。

 環太平洋経済連携協定(TPP)については、一つの対中ツールだと理詰めで判断し、復帰が望ましいとバイデン政権が考えてもおかしくない。ただ、民主党内には労働組合の支持を受けている人もいる。私は農相時代に交渉に関わったが、当時のオバマ大統領は通商一括交渉権(TPA)を取得するだけでも大変苦労していた。

 渡部氏 在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)に関して言えば、大統領選の結果がどちらになっても日本に圧力が来る。日本は「お金がない」というばかりではなく、負担をどう担うか、工夫して考えるべきだ。例えば、サイバーセキュリティーはどうか。日本の予算は、ほかの先進国に比べても弱い。しかもデジタル庁が菅政権の目玉だ。「デジタル分野のセキュリティーが甘いままでいいのか」という議論が起きた時、その方策としても使える。

 兼原氏 対中姿勢はどちらも根本的に変わらない。ただ、米国は新型コロナウイルスですでに約20万人が亡くなっている。これが自身の失敗ということになれば選挙に負けるので、トランプ氏は「全部中国のせいだ」と反中のトーンをあげている。

 一方のバイデン氏は、トランプ氏の失敗にできるのだから、中国のせいにする必要はない。だが、それで対中姿勢が軟化するかと言えばそうではない。地政学的な意味からも対中関係にはしっかり取り組まなければならない。親中派、反中派、いずれも「バイデン政権」に参画するだろう。手堅い布陣になるのではないか。

 ◎FOIP=Free and Open Indo‐Pacific

 韜光養晦 「才能を隠して外に現さない」という意味。経済発展に集中して外国との摩擦を避ける中国の外交戦略を指す。改革・開放政策を主導したかつての最高実力者・トウ小平氏が提唱し、歴代政権が踏襲してきた。ただ、習近平政権は、軍拡を進めるとともに、海洋進出を積極化させており、こうした戦略を事実上、修正したとの指摘も出る。

 在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算) 日米の特別協定に基づく土地代や施設経費、人件費などの日本側負担。2016年度からの5年間で総額9465億円を負担することになっており、来年3月で期限が切れる。それ以降の負担を巡る日米オンライン協議が10月15日に始まった。

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1568502 0 読売国際経済懇話会(YIES) 2020/10/22 14:58:00 2021/02/10 18:52:29 2021/02/10 18:52:29 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201022-OYT8I50050-T.jpg?type=thumbnail

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