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読売国際会議 英離脱の行方 難題山積 混迷する英国EU離脱と世界

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 読売新聞と読売国際経済懇話会(YIES)は20日、読売国際会議2019年第2回フォーラム「混迷する英国EU離脱と世界」を、東京大学本郷キャンパスで開催した。年間テーマ「緊迫する世界と日本の役割」を踏まえ、日英の有識者3氏が、12月12日に行われる英総選挙の行方や、英国の欧州連合(EU)離脱を巡る今後のシナリオ、日英両国の課題について討論し、約240人が耳を傾けた。

(コーディネーター=舟槻格致・読売新聞調査研究本部主任研究員) 

冒頭発言

交渉の「第2章」も複雑…元英外務次官 サイモン・フレーザー氏

 英国という安定した政治システムを持つ国としては異例の、5年で3度目の総選挙に突入した。

 英国の選挙は通常、保守党と労働党の2大政党で争われるが、今回は、多くの政党が関わっている。EUからの離脱を与党・保守党が支持するのに対し、自由民主党や地域政党スコットランド民族党はEU残留を支持する。労働党内は分裂している。世論調査では保守党がリードしており、最大の議席を獲得するのは確実とみられるが、小選挙区での選挙協力などにも左右されるため、最終的な結果の予測は容易でない。

 考えられる三つの現実的なシナリオは、〈1〉保守党が、過半数を制する〈2〉保守党が過半数は割るが、連立を組んで政権を維持する〈3〉労働党が、少数与党を形成して他党と協力する――だ。

 今のところ〈1〉の可能性が最も高いと考える。この場合、ジョンソン首相はEUと合意した離脱協定案を議会で通し、英国は、来年1月31日にEUから離脱する。〈2〉では、ジョンソン氏は協定案を押し通そうとするが、うまくいかなければもう一度選挙をするかもしれない。〈3〉では、労働党政権は離脱協定案の再交渉を進め、いずれは再び国民投票を実施するだろう。

 仮に英国が来年1月にEUから離脱しても、交渉は「第2章」に入るにすぎない。ジョンソン氏は自由貿易協定(FTA)を基にした関係をEUと築くことを目指している。その交渉は防衛面での協力やデータの保護などを含めて非常に幅広い。国益が異なるEU加盟国の間で、意見が割れる展開もありえる。

 第2章は非常に複雑だ。手続きは来年末までに終えなければならず、ジョンソン氏は交渉の延長はないと言い切っているが、非現実的だ。やはり延長が必要になるだろう。

対中、日英協力が重要に…元駐英大使 野上 義二氏

 英国は百数十年かけ、議会を通じた間接民主制を完成させたはずだった。間接民主主義は、18世紀の英思想家エドマンド・バークが主張したものだ。ところが英国は、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)という極めて複雑な問題を、直接民主主義、しかも二者択一に委ねてしまった。それが今の混乱の、そもそもの原因だ。

 総選挙では、今は保守党が優勢だが、メイ政権下で行われた2017年の前回総選挙では当初、保守党が過半数を80議席ほど上回るとみられていたのに、過半数を割った。今回も、北部スコットランドや西部ウェールズでは苦戦を強いられよう。大都市部での票の行方によっても、結果は大きく変わる。

 16年6月の離脱を巡る国民投票では移民問題が重要な争点だったが、今回は選挙民の関心事項の大体6番目ぐらいにまで下がったことにも注意が必要だ。

 保守党が過半数を取れば来年1月末に離脱するだろうが、まずEUとのFTAはとても20年末までにはできない。「グローバル・ブリテン」(世界に開かれた英国)を目指すと言っているが、中国や米国とのFTA締結が簡単にできるわけがない。「世界貿易機関(WTO)のルールでやっていく」という人もいるものの、WTOの承認が必要な英国の関税率表すら決まっておらず、今後交渉が必要だ。これも容易でない。

 保守党が過半数を取れなければ、非常な混乱が生じる。「合意なき離脱」に至る可能性も残っている。

 ただ、EUの中でグローバルな視点を持ち、かつ推進する力を持つ国は、英国とフランスぐらいで、両国海軍は南シナ海で海上自衛隊と共同訓練も実施している。中国などと向き合う際に日英協力の重要性は増すだろう。

EUとのFTA協議長期化…ニッセイ基礎研究所研究理事 伊藤さゆり氏

 英国のEU離脱、つまりブレグジットが「合意なき離脱」になったとしても、世界の金融システムに混乱を引き起こし、世界経済の基調を変えてしまうことはないと考える。離脱を巡る2016年の国民投票の後、ブレグジットが現実のものとして意識され、対応が進んできたからだ。

 3回にわたり離脱期限が延期され、英政府は合意なき離脱もあり得るとの前提の下、特別予算を組んで準備を進めてきた。ビジネスに支障が生じることのないよう、現状維持を認める経過措置も設けた。3度の延期は、企業がいわば離脱の「予行演習」を行う機会となった。

 このところ目立つ欧州経済の弱さが、ブレグジットを巡る不確実性の高まりによって増幅されるリスクもあるが、それが金融システムを通じて世界に広がることはないと考えていい。日本の金融機関は、離脱に備え、英国からEU圏内に拠点を分散させてきた。

 短期の衝撃は抑えられた。だが、むしろ中長期の影響に留意する必要が出てきている。1月末に離脱しても、EUとのFTA交渉は、かなり時間がかかるからだ。

 企業は研究開発や投資の負担が増えている。自動車メーカーは、自動運転など次世代技術や環境規制の厳格化など、100年に1度の変革期にある。英国やEUで不透明な状況が続けば、ビジネスを進める上で厳しい判断を下さざるを得ない。既に英国からの生産撤退を決めた日本メーカーもある。

 日本企業は英国を(欧州の)ゲートウェー(入り口)として活用してきた。英国とEUには交渉を速やかにまとめるよう求めていくのが当然だが、理想通りにはいかないのが現実だ。ブレグジットは、日本政府や企業が戦略を練り直すきっかけになるのではないか。

パネル討論

総選挙「良い」シナリオない…フレーザー氏

「一流国」に変わりはなし…伊藤氏

2大政党制は揺るがない…野上氏

 ――英総選挙の結果は見通しにくいが、最善、最悪のシナリオをどうみるか。

 フレーザー氏 英国にとって「良い」と言えるシナリオはなく、最も悪くない道を考えるしかない。ジョンソン首相が勝利し、正式にEUを離脱して交渉を進めれば、経済や政治、社会への影響は最小限に抑えられる。EU残留派にとっては、保守党が過半数を大きく割り込み、改めて国民投票が行われるシナリオが最善だろうが、不透明な状況が長引くだけだ。

 野上氏 政権の課題はブレグジットだけではない。医療制度や欧州の集団安全保障体制など幅広い。労働党のコービン党首が北大西洋条約機構(NATO)に批判的であることは、EU残留派にとって悩ましい。複合的に考えると、どちらの側にも問題がある。(英国民は)判断しかねているのではないか。

 伊藤氏 経済合理性の観点からは「離脱撤回」が最善だが、3年半にわたって離脱を待ち望んできた有権者への重大な裏切り行為になる。現状では、ジョンソン氏の下で離脱を実現し、秩序立った形で進めていくのが消去法で最良のシナリオだと思う。

 ――ポピュリズム(大衆迎合主義)や反グローバリズムの広がりが、離脱の背景にあるのか。

 野上氏 言われているほど反グローバリズムの問題は大きくない。前回の国民投票でも、移民が少ない英南西部コーンウォールなどで離脱の意向が強い一方、外国人が多い都市部で残留支持となった。特定の要因を求めるのは難しい。そこが直接民主主義の怖さだ。衆愚と紙一重のところがある。

 フレーザー氏 グローバル化の反動があるのは確かだ。貿易自由化の利益を享受できず、不利な立場に置かれた人々の不満が社会に広まっていた。国民はEUの意味合いを理解していなかったが、現状への不満が、離脱という一点に単純化され、集約されてしまった。

 ――トゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)が「離脱後、英国は二流の国になる」と指摘した。英国は一流国にとどまれるか。

 伊藤氏 一流国であることに変わりはない。文化的な強みや開放的なビジネス環境などの基本は変わらない。EU離脱は必ずしも反グローバル化ではなく、むしろ欧州を越えてグローバルに開かれた英国を目指すものだと理解している。英国は、その方向で成果を上げるべく行動するだろう。ただ、一国でどれだけ力を発揮できるかというと、厳しいチャレンジになる。

 野上氏 二流国になるというのは信じがたい。英国は、欧州ではフランスと共に経済、政治の分野を問わずグローバルな視野を持つ数少ない国の一つだ。ドイツは政治、安全保障分野でそうした視点を欠く。米国も最近は一流国らしからぬ振る舞いが目立つ。相対的に、政治経済全般を通じて英国の地位は簡単には揺るがない。問題は、マクロン仏大統領らを中心に大陸欧州諸国による安全保障・政治協調体制が構築されていった時、英国がどう組み込まれるかだ。この点は未知数だ。

 フレーザー氏 英国は、離脱後も世界経済で重要な国であり続ける。文化、芸術、スポーツなどの力は続く。軍事能力も高い。外交力も持ち続ける。それでも、EUを離れれば構造的には弱くなる。米国と中国が強大な力を持つ二極化した世界に、どう対処していくか。英国は日本や独仏加豪などと協力し、建設的関係を保つことが重要だ。

 ――今後、スコットランド、英領北アイルランドの分裂の動きは加速するのか。

 フレーザー氏 スコットランドの独立問題が浮上するのは不可避だ。スコットランド人は英国人ではないという自意識があり、EUが英国との間のクッションになっていた。北アイルランドがEUにとどまり、アイルランドとより緊密な関係になるのか、という問題も浮上する。複雑な歴史と政治問題があり、注意深く対処せねばならない。

 野上氏 (独立を目指す)スコットランド民族党は議席を増やすだろうし、独立を問う住民投票実施までいくかもしれない。ただ、実際にはスコットランド人はもっと現実的に考えるだろう。英政府から多額の財政支援を受けているし、独立してEUに入るには加盟交渉が必要になる。英領北アイルランドとアイルランドとの今後の関係は、きわめて複雑だ。

英総選挙の情勢と、EU離脱を巡る国際社会の将来について討議するパネリストたち
英総選挙の情勢と、EU離脱を巡る国際社会の将来について討議するパネリストたち

 ――英国の2大政党制が揺らいでいるように見える。今後どうなっていくか。

 野上氏 今回の選挙には多数の政党が出ているが、やはり保守党と労働党の2党のレースだ。自由民主党やスコットランドとウェールズの地域政党はそれなりの議席を得るだろうが、全体的な2大政党制を揺るがすとは思えない。

 フレーザー氏 政権を担えるのは主要2党だけだが、それ以外の政党も様々な影響を与え得ると思う。主要2党はともに分極化している。保守党ではよりナショナリストで離脱派に近い人々が増え、労働党はより左寄りになっている。今後、何らかの中道寄りの政党ができる方向に動くかもしれない。単純小選挙区制では難しいが、注目したい。

 ――EUでは域内の経済格差などの問題が顕在化している。イギリス抜きの将来はどうなるか。

 伊藤氏 EUは域内の市民に利益を享受してもらうことで正当化される存在だ。経済格差が現状への強い不満をもたらし、EUへの反発という形でポピュリスト政党を勢いづかせている。しかし、ブレグジットは現状を変えてほしい人たちの問題をさらに悪化させる。格差問題を正しく解決できるか。それによってEUの正当性が試される。

 フレーザー氏 忘れられがちだが、EUはすばらしい概念で、大きな成功を収めている。経済、政治、安全保障の国際協力も進んだ。EUは今も非常に魅力的な地域だ。低成長や若者の失業などの問題はあるが、英国の離脱は双方にとってマイナスだ。互いに協力して建設的な関係を作るとともに、内向きにならず、日本や他のパートナー国にも手を伸ばしてほしい。

 ――欧州中央銀行(ECB)が新体制になった。金融政策の課題は何か。

 野上氏 国際金融危機を乗り切る上で、異次元緩和に踏み切ったドラギ前総裁の功績は大きい。ただ、金融政策だけで今の欧州の経済低迷を脱するのは無理がきている。今後重要なのは、財政の問題、特にドイツが財政支出をどう考えるかという点だ。ドイツは憲法で原則黒字財政が規定されている。そこを説得して財政政策を見直してもらうことが、ラガルド新総裁の一番大きな役割だ。

 伊藤氏 大規模な緩和を8年にわたり続けた結果、ECBの政策理事会では不協和音がかつてないほど高まっている。総裁交代の節目に、これまでの政策の検証が必要だ。また、各国が財政政策をそれなりに協調してやっていく形に持っていけるかどうかが、新体制の課題となる。

 ――米国は、報復関税合戦を仕掛けたり、シリアから撤退したりと、国際協調を取りにくくなっている。どう向き合っていくか。

 フレーザー氏 米国にとっての国際的な優先順位が変わってきた。これはトランプ大統領に限らず、米国内の構造的な変化だと認識する必要がある。それでも、米国は基本的に我々のパートナーであり、世界を率いる民主主義国家だ。共通の価値観を持つコミュニティーの一員として協力し続けることが重要だ。

 野上氏 シリアなど中東に対して米国は一歩引きつつあるが、アジアではそうならない。中国が存在するからだ。中国は米国を中心とする西側社会に対し、異なる価値観に基づく社会をリードしたいという願望を持っている。米国はこれを認めない。従って、アジア太平洋地域でのプレゼンス(存在感)を高め、日豪印などの協力国との関係を強化するだろう。そうした中で、日本の立ち位置を考える必要がある。

 ――中国とはどう向き合うべきか。

 フレーザー氏 我々は、西側諸国が作ったシステムの中で中国が責任ある立場をとると期待したが、中国は全く違う方向に向かっている。米中の対決が大国間の紛争に至らぬようにするのが、我々の取るべき政策だ。中国の利害も考えた新たなシステムを作らざるを得ない。ブレグジット以上の難題になるだろう。

(2019年11月27日朝刊) 

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1632431 0 読売国際経済懇話会(YIES) 2020/10/19 15:00:00 2020/10/19 15:00:00 2020/10/19 15:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/11/20201117-OYT8I50029-T.jpg?type=thumbnail

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