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2014年10月フォーラム 激動の世界と安倍外交

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日本の役割 より重く

 読売国際会議2014「浮上せよ! 日本」の10月フォーラム「激動の世界と安倍外交」(読売国際経済懇話会=YIES=、読売新聞社共催)が10月31日、東京都千代田区のホテルニューオータニで開かれた。勢力を伸長する過激派組織「イスラム国」や、感染が広がるエボラ出血熱など、国際社会が直面するグローバルな問題への対処をはじめ、米国、ロシア、中国、アジアの地域情勢について、本紙1面コラム「地球を読む」を執筆する日米の専門家と前防衛相による議論で探り、日本が取るべき針路を展望した。

(コーディネーター 渡辺覚・調査研究本部主任研究員) 

冒頭発言

危機対処 米主導今後も…米外交問題評議会会長 リチャード・ハース氏

 世界には無視できない構造的な流れがある。一つは力の拡散だ。経済、軍事、政治、文化的なパワーが、以前にも増して世界中に分散している。二つ目は米国や日本、中国といった国家のほかに、企業や様々な団体、さらには「イスラム国」や「アル・カーイダ」などの組織が力を持ち始めたことだ。冷戦終結から25年。世界は以前よりも混沌(こんとん)としてきた。それが顕著なのが中東だ。

 欧州では17世紀前半に30年戦争と呼ばれる政治的、宗教的な闘争が起き、その後の和平協定で「国家」や「主権」の原則が誕生した。現代につながる近代史の始まりである。しかし、中東で今起きているのは、これとは反対の「主権の破壊」や「国家の崩壊」だ。

 シリア、イラク、リビアに加え、イスラエルとパレスチナの紛争、それにイランの核問題もある。中東からテロが流出する懸念もあり、国際社会は大きな危機に直面している。欧州でもウクライナを巡って、国際秩序の根幹である領土の主権が脅かされた。冷戦後、欧州でこうした危機が起こるとは誰も予想していなかった。

 約25年前、イラクのクウェート侵攻で国際社会が湾岸戦争に踏み切ったのは、侵略を一度許せば、さらなる侵略を招くと懸念したからだ。そして今、我々は同様の試練に直面している。

 米国は、これからも国際社会で主導的な役割を果たさなければならない。代役は他にいない。アフガニスタンやイラク戦争で大きな犠牲を払ったが、米国は世界に関与をし続けるべきだ。さもなければ、各地で紛争が増え、繁栄や自由は縮小する。

 欧州では北大西洋条約機構(NATO)の能力を高め、ウクライナの危機を「例外」にする必要がある。中東の問題を「解決」するとは到底言えない。だが米国には、イスラム国をたたいて守勢に追い込む具体的な手立てがある。アジアではまた、米海軍のプレゼンス(存在感)を強化することが重要だ。それには、日本のような伝統的な同盟国や米国に協調してくれるパートナーの存在が欠かせない。

中国の影響 陸でも拡大…政策研究大学院大学学長 白石隆氏

 世界の趨勢(すうせい)としてグローバル化は重要で、今後ますます重みを増すのは間違いない。アジアも含めて、世界を変えている。

 最近約15年間の変化を一言で表すと、「G7(先進7か国)の時代は完全に終わった」ということだ。G7合計の経済規模は、20世紀最後の10年ないし15年間、世界経済の約3分の2を占めていた。それが2010年頃に50%へ落ち、国際通貨基金(IMF)の予想では、20年代前半には40%を下回る。一方で、インド、ブラジル、トルコなど新興国が台頭している。

 グローバル化の進展で、先進国だけでは世界的な問題に対応できなくなっている。このため、G20(主要20か国・地域)の枠組みができた。ただ新興国は、経済規模で先進国に並んでも、1人当たり国民所得は3分の1から4分の1で、なかなか先進国と同じ行動を取ろうとはしない。その結果、世界的な課題に対して国際社会が協調して対応することが難しくなっている。

 アジアで何が起こっているのかを考える時、「力による政治」が重要な視点になる。中国が自己主張を強めるに従って、中国に対する警戒心が日本を含めて高まっている。特に南シナ海では、中国がかなり露骨に力で現状変更をしようとしている。

 ただ、大陸部ではもう一つの動きがある。高速道路や高速鉄道など、東南アジアへの広域なインフラ整備とともに、中国の影響が拡大している。少し大胆にまとめると、中国は非常に静かに、自分の国の周辺に勢力圏を作ろうとしている。あまり抵抗のないところで力による変更を試みている。

 こうしたことが、今後どれぐらい続くのだろうか。2020年頃まで中国は、「取れるものは取ってしまおう」と、かなり強硬にやってくるだろう。

 20年代の前半に、中国と米国の経済規模は、ほとんど同じ水準になる。その時になっても、なお中国が世界システムに「ただ乗り」を続けられるかどうかは、相当難しい問題だ。中国は、非常に重要な戦略決定を今後約10年で行わなければならないと予想する。

同盟強める政策 着実に…前防衛相、衆院議員 小野寺五典氏

 防衛の責任者を務めた1年8か月間に心がけたのは、日本の抑止力をしっかりとしたものにすることだ。

 5月にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、中国の代表は「南シナ海は2000年前、中国のものだった」と発言した。2000年前の大国が力を取り戻し、元の大きな中国になろうとしている。そう見れば、中国が今、東シナ海や南シナ海で行おうとしていることのイメージがつかめるだろう。

 北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射は、米韓の合同軍事演習などに呼応している。金正恩第1書記から見れば、一番安くて手っ取り早い抑止力が核とミサイルだ。だから、いくら圧力をかけても開発をやめない。

 こうした状況で、日本をいかに守るか? 防衛予算を増やすだけでは足りない。同盟国との関係が強くなければ、抑止力にならない。

 自衛隊と米軍の役割分担を定めた日米防衛協力の指針(ガイドライン)を今の安全保障環境に合わせて新しくしようと米国に持ちかけたが、当初の米国の反応は、「その前に日本にはやることがある」だった。これに私たちは、一つ一つ応えた。

 昨年末、沖縄県の仲井真弘多知事の英断で、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に向けた沿岸部埋め立ての許可が下りた。また先日、米国から要請されていた米軍早期警戒レーダー(Xバンドレーダー)基地が京都府京丹後市に完成した。そして、集団的自衛権の行使を限定容認する閣議決定だ。しっかり政策を前に進められる政権があって初めて、米国も日本の話を聞く態勢になった。

 厳しい財政の中、米国は太平洋地域を重視するリバランス(再均衡)を打ち出し、今後、日本に新たに2隻のイージス艦を配備する。この地域でプレゼンス(存在感)を示している。

 ただ、また違う動きが起きつつある。小笠原諸島周辺に中国漁船が多数出ている。漁船の次はコーストガード(海警局)、軍艦というのが今までの動きだ。今後は小笠原周辺も、しっかり見なければいけない。

パネル討論

米中関係 摩擦も協力も…ハース氏

歴史認識 欧米に配慮を…白石氏

対露制裁 苦渋の選択…小野寺氏

パネル討論に臨む(左から)ハース氏、白石氏、小野寺氏
パネル討論に臨む(左から)ハース氏、白石氏、小野寺氏

■「イスラム国」

――「イスラム国」の脅威にどう対抗すべきか。

 ハース氏 オバマ米大統領はイスラム国を「粉砕する」と演説したが、現実的でない。当面の目標である弱体化には、空爆強化のほか、特殊部隊や陸軍の支援が重要だ。レバノンやヨルダン、サウジアラビアへの影響拡大に備え、資金協力も止める必要がある。中東の現状は、「文明内の衝突」だ。米国は影響力を示せてもコントロールはできない。中東の将来は、域内の各政府・勢力が、自分たちの目の前にある脅威に対して責任ある行動を取り、共闘できるか否かにかかっている。

 白石氏 東南アジアにも「ジェマア・イスラミア」などの武装組織がある。その勢力拡大は、アフガニスタンで軍事訓練を受けた元義勇兵がもたらした。現在もジャカルタ周辺のモスク(礼拝所)では、イスラム国志願兵の徴募が行われているという。現地へ渡った若者がアジアへ帰還すれば、かなりの脅威になる。

 小野寺氏 イスラム国は、閉塞感と不満を抱く若者の受け皿になっている。日本も無縁ではない。日本赤軍という前例もある。2020年東京五輪に向けて治安を万全にする上で、国内でもしっかり把握すべきだ。

――米国内で地上軍派遣の支持は得られるか。

 ハース氏 過去10年間のイラクやアフガニスタンでの関与と異なり、米国が今やろうとしていることは、小規模で伝統的な軍事作戦だ。米国民は、イスラム国が米本土のテロにつながりうると認識している。介入のコストを限定し、前進が見て取れれば、大統領は支持を得られるだろう。

 文明内の衝突 サミュエル・ハンチントン米ハーバード大教授(2008年死去)が1993年に発表した論文「文明の衝突」になぞらえ、中東の現状を説く表現。米政治学者の間でしばしば用いられる。ハンチントン論文は、冷戦後の世界に宗教や文化の違う文明間で紛争が起こると予測。一方、イスラム教という価値観を共有しながら、宗派対立と内戦が繰り返される現実の構図が、「文明内の衝突」と称される。

■エボラ出血熱

―――エボラ出血熱の感染がアジアに広がる懸念は。

 白石氏 アフリカとの人の移動で、アジア最大のハブ(拠点)となっているのが中国の広州。上海、北京、インドのムンバイも、重要なハブだ。そこから東京や大阪にウイルスが入る可能性は十分ある。ただ、中国は新型肺炎(SARS)の経験を踏まえて関連施設を拡充し、患者が出ても封じ込める能力はある。日本もパニックに陥ることはない。

 小野寺氏 もし日本でエボラ出血熱の患者が発生した場合、経済的に大きなダメージを受けると思う。未然の防止が必要だ。国内では患者を隔離する病院がいくつか準備されているが、ウイルスを分析・実験する施設が不足している。万が一のために、今から環境を整えておく必要がある。

 ハース氏 米国では西アフリカから帰国して来た人の扱いが問題になっている。ウイルスの潜伏期間は21日。現地で患者と接触し、帰国時に症状が出ていない人に対し、どんなルールで行動を規制するのか。隔離するのか、自宅待機をさせるのか。政治的に大きな議論になっている。

■米国

――国際社会における米国の役割をどう考えるか。

 白石氏 米国がリーダーシップを発揮しないと世界の安定がないのはその通り。だが、例えば中国が主導する「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)創設に対し、米国は反対しているが、中国はいずれ創るだろう。その時にどう対応するのか。東南アジアの政治家や研究者の中には、米国がどこまで戦略的に考えているのか懸念を持っている人がいる。南シナ海の問題についても不安を持っている。そうした意味で米国には、もっと強いリーダーシップが期待される。

 小野寺氏 オバマ大統領の支持率は歴代大統領の中で決して高くない部類に入る。米議会との関係も難しい。「大丈夫かな」と思う相手ではある。しかし、尖閣諸島を巡る問題で、歴代の米大統領の中で一番はっきり言ってくれたのがオバマ大統領だ。当初は腰が定まっていない印象があったが、今春、(対日防衛義務を定めた)日米安全保障条約5条の適用対象になると明言した。日本政府としてはオバマ大統領を頼りにしたい。「しっかりしてくれよ」という感覚だと思う。

 アジアインフラ投資銀行 アジアのインフラ整備促進を目的に、中国の習近平国家主席が設立を提唱する国際金融機関。インドや東南アジア9か国など計21か国が10月24日、設立覚書に署名した。2015年発足を目指すが、〈1〉不明確な融資基準〈2〉不透明な審査体制〈3〉中国の過度な影響力――などが不安視され、日本、韓国、オーストラリアは参加を見送った。

■ウクライナ・露

――2014年、世界はウクライナ問題に揺れた。

 白石氏 欧米と日本、ロシアの双方が受け入れ可能な形で問題が処理できるとは思わない。永久ではないにしても、今のような状態が当分続くだろう。

 ハース氏 現在の対露制裁はこのまま続くだろう。より大きな追加制裁が行われたとしても、プーチン露大統領が根本的に政策を変更することはないと思う。プーチン氏が何をしてくるのか、予測するのは難しい。

 小野寺氏 日本にとって悩ましいのは、「ウクライナ問題のために、北方領土で前進しようとしている日露関係をおかしくしていいのか?」と考える人もいると思われることだ。だが、力による現状変更があってはならない。苦渋の選択だ。日本政府は、ウクライナ問題で、血を流しながら米欧と統一歩調を取っている。

■中国

――米中関係の将来は。

 ハース氏 「既存の大国」と「台頭する大国」との関係は、良くないと言われることがある。だが、それは単純過ぎる見方だ。米国と中国は、一面的な関係にはない。両者は、敵対国にも友好国にもならないかもしれないが、競争や摩擦、協力の要素がある。極めて複雑な関係だ。米国にとって外交上の課題は、協力の分野を拡大することにある。地域やグローバルな問題について話し合い、中国の考え方や中国の行動に影響を及ぼす必要がある。

同時通訳を介して、多くの外国人も聴講した(フォーラム会場で)
同時通訳を介して、多くの外国人も聴講した(フォーラム会場で)

 白石氏 私の印象では、中国の習近平国家主席は、権力基盤を十分に固めていない。経済の成長率も次第に下がって行く可能性がある。となれば、「富国強軍」「海洋大国」といった基本的な戦略を変えることはできないだろう。米国に直接挑戦することはないが、歴史認識問題で韓国に接近し、日本を孤立化させ、東南アジアや南シナ海で静かに勢力を拡大させている。アジア太平洋経済協力会議(APEC)での日中首脳会談の実現には、大きな期待は持っていない。不測の事態を回避するための「海上連絡メカニズム」(防衛当局間のホットライン)で合意ができたら、とりあえずは満足すべきだろう。

 小野寺氏 日本は11月、東南アジア諸国連合(ASEAN)と初めての防衛相会合を開き、地域の平和と安定について議論する。7月には、日本と米国、インド3か国の海軍による合同演習を行った。1国だけでなく、多国間で中国と向き合うことが大事だ。私たちの目標は中国の敵視ではなく、国際ルールを学んでもらうことだ。

■安倍外交

――安倍政権の外交、安保政策をどう評価するか。

 ハース氏 日米同盟がなぜ緊密であるかと言えば、両者に民主主義や法の支配といった価値観だけではなく、互いに世界観を共有し、そこにコミット(関与)しようという気持ちがあるからだ。コミットは、言葉だけではいけない。(集団的自衛権行使の限定容認などで)より大きな役割を地域や世界で果たそうとしている安倍首相を、私は称賛したい。高い能力を持った米国のパートナーとして、地域と世界の双方で日本が活躍することを期待している。

 白石氏 活発に首脳外交を展開し、国家安全保障会議(NSC)や防衛装備移転3原則を作り、集団的自衛権で踏み込んだ。非常に高く評価している。ただ、歴史認識問題では、欧米からリビジョニスト(修正主義者)と見られないことが非常に重要だ。

 小野寺氏 歴史認識の問題を含めて、国際社会のスタンダード(標準)の中で対応することが大切だ。個人的には、靖国神社の問題は重要で、過去に私も一議員として行ったが、防衛相になった後は行かなかった。どうしたらこの国にとってプラスになるかを考えながら対応することが重要だ。

(2014年11月8日朝刊)

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1666688 0 読売国際経済懇話会(YIES) 2020/10/04 12:00:00 2021/02/10 18:20:11 2021/02/10 18:20:11 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201201-OYT8I50051-T.jpg?type=thumbnail

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