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2015年10月フォーラム 次の成長への課題

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人材結集 攻めの経営

 読売国際会議2015「戦後70年 日本の活路」の10月フォーラム「次の成長への課題」(読売国際経済懇話会=YIES=、読売新聞社共催)が10月19日、東京都千代田区のパレスホテル東京で開かれた。安倍首相が日本経済再生を目指して掲げたアベノミクスの「新3本の矢」の評価のほか、企業統治や人材育成など成長に向けた具体策について、企業経営者2人と学識経験者で討議した。

(コーディネーター 佐々木達也・調査研究本部主任研究員)

冒頭発言

政財官でリーダー養成…日立製作所相談役 川村 隆氏

 われわれ産業界は、東日本大震災の頃に6重苦に悩んでいた。行き過ぎた円高、世界中の競争相手と比べて高い法人税、韓国に遅れた自由貿易協定、ドイツよりきつい労働力規制、厳しい環境規制、高い電力価格などのエネルギー問題――が大きな悩みだった。

 安倍首相や政府が働いてくれた今、円高が是正され、法人税も方向性が見えてきた。自由貿易協定は、大筋合意されたTPPで大きな一歩を踏み出した。そこで、3点申し上げたい。

 1点目として、政府にはさらに岩盤規制にドリルを入れてほしい。労働規制はまだ残っている。成熟産業から成長産業に人が移れることが国の成長の大きな力になる。エネルギーでは、原子力発電所の再稼働はしたが電力価格がまだ高い。

 デフレを脱却しつつあることは非常に大きい。われわれはデフレの20年間で、精神状態が後ろ向きになった。全体がじりじりと下がっていったが、今、政府が脱却の見えそうなポイントまで持ってきてくれた。

 そこで2点目。今度は実業界がバトンを受け取って頑張るべきだ。ここ20年とは違う経営者が重要で、勇敢にリスクを取って成長する大切なときがきている。企業は稼ぐ力が大事で、稼いで付加価値を社会に返すのが任務だ。極論を言えば、稼げない企業は存在価値がない。赤字で税金を払えない企業が日本には約7割ある。企業は稼いで給料を払い、納入業者に払い、設備、研究開発、人材投資をして、お金を社会に還元するのが基本だ。日本企業は、稼いでいない。営業利益率は米国企業の約半分だ。

 3点目は人材育成だ。日本は、外国と比べて教育制度が整い、中堅層の教育はできている。だが、トップリーダー教育は足りない。政界、官界、大学、企業でも、トップエリートの教育は大事だ。私が付き合う海外の企業トップは、だいたい博士号を持ち、化学が専門で哲学の博士号を持っていたりする。広い視野で、多様な意思決定ができる経営者がいる。日本の中長期的な成長は、人材育成にかかっている。

ダイバーシティーが鍵…イー・ウーマン社長 佐々木かをり氏

 成長のキーワードはダイバーシティーだ。この言葉を聞いて、「女性の活躍のことだ」と思う人が多いだろう。確かに、女性が活躍する社会は大切なキーワードだ。日本では、女性の就業率が結婚や出産時に落ち込む「M字カーブ」が問題になってきた。しかも、世界経済フォーラムの男女格差指数「ジェンダーギャップ」によると、日本は世界142か国中104位という。これは日本経済の大いなる損失だ。

 8月に女性活躍推進法が成立した。来年4月の施行後は、女性登用の数値目標や行動計画など、企業に女性の活躍状況を把握することが義務づけられる。

 ダイバーシティーは女性の活躍を目指すだけの考え方ではない。年齢、国籍、障害の有無などの違いを尊重し、「いろいろな人がいる」事実を認識することだ。

 今、マスマーケット(均一な大衆市場)はなくなりつつある。年齢、性別、年収などを基にした考え方より、価値観やライフスタイルなどを重視する考え方が重要になってくる。

 経済産業省は、さまざまな人が能力を発揮する「ダイバーシティー経営」を提唱、四つの効果をあげる。〈1〉プロダクトイノベーション(製品・サービスの開発・改良)〈2〉プロセスイノベーション(製造・販売手段の開発・改良)〈3〉顧客満足度や社会的認知度の向上〈4〉社員の意欲向上や職場環境の改善――だ。イー・ウーマンもフルタイムで働く女性の声を生かした商品開発に参画し、サラダ用ドレッシングで大ヒット商品を生んだ経験がある。違う視点で考える重要性の例示だ。

 ガバナンス(企業統治)の点でも、ダイバーシティーは意味を持つ。企業は、さまざまな利害関係者に対して、誰が見ても分かりやすく、間違いなく伝える技術が求められる。社外取締役や社外監査役の役割も重要だ。違う経験をし、違う目を持つ人たちが経営に入ることでリスクを減らし、攻めの経営ができるようになる。政策にも、多様性を受け入れ、多様な働く人の声を反映することが求められる。

人口減 企業革新で克服…信州大学教授 真壁昭夫氏

 日本経済の一つの大きな問題は人口減少だ。少子高齢化で生産年齢人口が減り、成長しにくい経済になっている。では日本に何が必要なのか。それは様々な改革、つまりイノベーションだ。

 人口が減少しても経済成長した国は、世界に例がある。いろいろな工夫で新しい顧客を開拓したり、新しい原材料を発見したりして、革新的な製造方法をあみ出すなどしている。

 かつてソニーはウォークマンを作った。最近は米アップルのiPhoneなどが世界を席巻している。こうした製品を最初に生み出す企業の市場浸透力は高く、ブランド力も強まる。

 日本は多くの問題を抱えており、それらを短時間で解決するのは難しい。だから日本経済は成長しないとか、先細るということではない。これまでできなかったことを今日からできるようにすればよいのだ。十分に可能である。

 今年、日本人のノーベル賞受賞が2日連続で決まった。日本の基礎研究の水準が高いことを示した。しかし、日本は実はそうした技術を思うように使えていなかった。マーケティング(市場調査)とうまく合致しなかったからだ。アップルや韓国のサムスン電子などに後れを取り、市場占有率も高くない。

 その一方で、日本企業は非常に優秀な部品を作る。アップル製品の部品の多くは日本製だ。優れた部品がないと製品は完成しない。こうした状況をうまく活用できれば、日本経済は成長を続けることができると確信する。

 問題はそれを可能にする環境づくりだ。アベノミクスの「3本の矢」がかなりの成果をもたらしたのは確かだ。急激な円高を止めて円安に誘導し、経済を活性化した。

 ただ、成長戦略になかなか具体策が出てこない。安倍首相は今回、「新3本の矢」を発表し、その中で強い経済を目標に掲げている。

 TPPの交渉が大筋合意に達したことは、日本にとって大きなきっかけになるだろう。海外との自由な貿易に弾みがつくことは、使い方によって大きなプラスになると考えている。 

パネル討論

討論する(右から)真壁氏、佐々木氏、川村氏
討論する(右から)真壁氏、佐々木氏、川村氏

GDP600兆円 到達可能…川村氏

情報開示促す社風に…佐々木氏

農業生き残りへ競争力…真壁氏

■イノベーション

――製造業は今後もイノベーション(技術革新)で日本を引っ張れるか。

 川村氏 イノベーションの源はやはり製造業が中心だと思うが、日本の会社は年をとってきた。企業は創業時期が終わると老化が始まる。古くなって世界を相手に戦えない事業をたたみ、成長事業へ人、モノ、お金、情報という経営資源を移していかなくてはいけない。新しいものを生むイノベーションと古い事業の取捨選択の両方をイノベーションととらえることが、何十年と続く会社には必須だ。

 佐々木氏 ダイバーシティー(多様性)こそがイノベーションの源泉になる。多様な角度から意見が言える人が入って初めて、論議が活発になる。もう一つ重要なのは「伝える力」だ。日本は技術があるのに、モノにして売る力がないと言われる。日本の新幹線には最高の技術があるが、海外では必ずしも買ってもらえない。「伝える力」が弱いのではないか。科学者や技術者に話を聞くと、多くは何に使われるか考えず、研究のための研究をしている。もったいないと思う。

 真壁氏 6次産業という言葉がある。1次、2次、3次の各産業が一体化すると言うことだと思う。(モノをインターネットでつなげる)「IoT」やドイツが取り組む「インダストリー4・0」などは、コミュニケーション技術とモノづくり、サービスを結びつけようという試みだ。日本は縦型社会なので、分野を横断して発想する企業文化を作っていく必要がある。

■新3本の矢

――アベノミクスの「新3本の矢」の評価は。

 川村氏 国内総生産(GDP)を600兆円にするというのは、いい目標だ。そのためには、まず労働人口を確保すること。女性や高齢者を活用し、従来は必要な教育を受けにくかった人を教育していくほか、やはり外国人労働者の受け入れも検討テーマだと思う。どんな国も、人口が飽和した後は必ずやっている。さらに、事業の取捨選択で企業の生産性を上げていけば、600兆円は到達可能だ。大事なのは国民の意志。日本人の気持ちがしっかりしていれば達成できる。

 佐々木氏 女性と経済を合わせた「ウーマノミクス」という言葉がある。女性が経済活動に参加することによる効果について、いろいろなデータがあり、GDPを10%前後押し上げるという。出生率も、働く女性が多い都市、多い国の方が高い。女の人が働くから子供が少なくなるというのは大間違い。女性が働きやすい環境が必要だ。

 もう一つは長時間労働をやめること。長く働くには子供そっちのけで会社にいなければならない。女性の経済参画の障害になるし、企業もムダな給与を払って生産性が上がらない。

 真壁氏 600兆円は、絶対無理だという数字ではない。出生率の目標1.8は、本当にできるのかというのが実感だ。赤ん坊を連れた女性が電車に乗ってくれば席を譲ろう、というようなキャンペーンは今すぐできる。社会全体で、子供は国の宝だという文化を作っていくことが大切だ。

■TPP

――環太平洋経済連携協定(TPP)の効果は。

 川村氏 日本は貿易しないと生きられない。食料品とエネルギーは輸入しないとやっていけない。これからは制限が少なくなる。われわれ産業界が成果を上げるべきだ。TPPには、社会主義国で国営企業が多いベトナムも入っている。今後、中国が入ってきたときに影響を及ぼすだろう。

 日本の農業は大変革の時期にあるが、地方では先駆者的な集団が出てきている。隠岐の島(島根県)の海士(あま)町は、地元のモノをブランド化して、若い人を呼び込み、何十世帯も移住してくる。従来のように国から補助金をもらってやるのとは違う。新しい意欲ある人たちがスタートする動きが広まるといい。

 佐々木氏 日本は変化を好まない国と言われるが、新しい条件が決まれば知恵を出し、対応する能力がある。自分たちの作るモノをどう売るかに知恵を使うべきだ。発想転換できれば、今まで培ったものがグローバルな商品になっていく。

 真壁氏 構造改革は待ったなしだ。コメも農産品も関税が低くなるので、競争力を磨かないと生き残れない。対策を打つと思うが、今までのような価格維持政策だけではだめだ。

■企業統治

――企業統治の重要性をどうみているか。

 真壁氏 政府は、外部の人を入れて、経営を活性化することを求めている。バブル期を経験した多くの企業は守りに入り、お金があっても投資を活発化していない。給料を上げ、積極的に投資し、新しいモノを作るよう促す狙いだ。

 佐々木氏 日本では戦後70年間、「あうんの呼吸」で仕事をし、経済成長した。同じ大学、家庭環境で育ったような人たちが政界、経済界、マスコミにいた。だが、グローバル社会になって消費者、株主、従業員にいろんな価値観を持つ人が出てきて、あうんの呼吸で説明できなくなった。米国のデータでは、社外役員に女性が3人以上いる企業の自己資本利益率(ROE)は、他より高い。女性がいると良い効果がある。

 企業統治は全社を挙げて理解することが重要だ。東芝の不適切会計も、横浜市のマンションの問題も、社内でデータの改ざんがあれば、社外取締役が活発に議論してもだめだ。社内全体でけん制し合い良い方向に行く仕組み、情報が開示される社風が必要だ。

 川村氏 企業統治は、「攻め」が大事だ。日立製作所は日本では珍しく取締役12人のうち8人が社外取締役で、うち4人は外国人だ。社長の任免、罷免などが社内論理で通らないようにしてある。外国人は「なぜこんなに利益率が低いのか」などと率直に意見を言う。取締役会を通れば、一応グローバルに通用する案になったとの安心感がある。攻めの企業統治は、会社を成長させる。ただ、取締役会が管理監督しても、意思決定をする経営者が一番重要だ。取締役会は経営者を選ぶときと、辞めさせるときに一番注意すべきだ。

■人材育成

大勢の聴衆を前に活発な討論が続いた
大勢の聴衆を前に活発な討論が続いた

――経済成長に必要な人材育成について。

 川村氏 いろいろ会社が育成方法を変えてきている。40歳代の初め頃に、米国の孫会社くらいの会社のトップを3年ほどやらせるのが一つの例だ。助手席や後ろの座席から見ていても、運転手にしか分からないことがある。大会社の本体組織で育ってきた人は相当な専門家だが、最後の意思決定をする「ザ・ラストマン」は社長だ。小さい会社でも良いから、現金が足りなくなってボーナスが払えないという目に遭わせると、色々なことを覚える。

 社長でなくても、ある分野のトップになることにも意味がある。プロフェッショナルとして生きていく意識が会社の中で強くなると、個人の力が増してくる。それが本当の人材育成だ。「何年たったからこの講習」というのではだめだろう。

 佐々木氏 日本の学校教育も、学習指導要領を変えたり、英語を導入したりしているが、このスピードでは遅いと感じている。私の息子は中学3年で日本の中学を辞め、もっと厳しいところに行きたいとスイスの中学に留学した。「日本の学校と違うか」と聞くと、「日本ではプリントが配られてカッコに穴埋めしていれば良かったけど、こちらは自分で全て考えて分析して、説明したり書いたりしなければならないから全然違う」と言っていた。

 真壁氏 入試問題を作る時に教科書を読んで感じたことだが、高校までの教育は、理解度をある一定まで同じにしたいという考え方がはっきりしていると思う。義務教育の先は、自分でものを考えるくせをつけないといけない。私は経済学や金融を教えているが、教科書は使わないで新聞を持っていく。すると今日、起きていることに興味を持ってくれる。学生に興味を持たせることが一番重要で、私自身にも反省点はある。日本の教育はそこから変えていかないといけない。

コーディネーター総括 『意志』こそ原動力…佐々木達也・調査研究本部主任研究員

 日本経済が再び成長軌道に戻れるのかどうか、成長戦略こそがカギだと言われて久しいが、成果はまだ十分ではない。難題をテーマにした討議で、印象に残ったのは、GDP600兆円の達成について、川村氏が「一番大事なのは国民の意志だ」と説いたことだ。

 確かに、出生率1.8も介護離職ゼロも含めて「できないだろう」と分析しているだけでは始まらない。ダイバーシティー(多様性)経営の強化も、技術革新の活性化も人材育成も同じだ。

 経済界のリーダーを中心に、多くの人が「経済成長を実現する」という強い気持ちを持つことが、本物の成長戦略を生み出すと期待したい。 

(2015年10月28日朝刊)

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1748190 0 読売国際経済懇話会(YIES) 2020/10/05 19:00:00 2021/02/10 17:00:51 2021/02/10 17:00:51 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210105-OYT8I50027-T.jpg?type=thumbnail

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