読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

2012年11月秋季フォーラム 新体制の世界

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

国家・民族 対立回避を

 読売国際会議2012「ポピュリズムがもたらす危機」の秋季フォーラム「新体制の世界」(読売国際経済懇話会=YIES=、読売新聞社共催)が11月19日、東京・飯田橋のホテルグランドパレスで開かれた。12月16日に衆院選の投開票が行われる日本をはじめ、中国、米国、フランス、ロシアなどで〈選挙の年・指導者交代の年〉となった2012年。日米欧の専門家3氏による講演と討論で、国際社会の現状を分析し、今後の世界を展望した。

(コーディネーター 渡辺覚・調査研究本部主任研究員)

冒頭発言

米、アジアで存在感を…元米大統領補佐官 スティーブン・ハドリー氏

 2012年の世界は、ロシア、フランス、米国がすでに選挙を終え、中国では指導部が交代した。世界は政治的、経済的な混乱期にあり、多くの課題を抱え、どれも解決は簡単ではない。

 米国の大統領選では、累積債務や財政赤字、経済成長の欠落といった問題に優先的に取り組む合意が生まれた。これは国家安全保障上の課題でもある。強い経済と健全な財政は、米国の力と権勢の源であるからだ。

 オバマ政権の外交上の優先課題は、アジア・中国の台頭と中東問題の二つだ。

 中東問題では、〈1〉アラブの春〈2〉シリア情勢〈3〉イランの挑戦〈4〉イスラエル・パレスチナ紛争――が重要だ。民主化運動「アラブの春」は、中東の人々に自らの将来を作り出すための制度を創設する機会を与えた。この挑戦に失敗すると、イラン革命の二の舞いになる。

 シリアでは、アサド大統領がいつ退陣するかが重要な点だ。武力衝突が長引けば犠牲者が増え、国際テロ組織アル・カーイダなどが勢力を増大させてしまう。

 核開発を続けるイランに対しては、武力制裁をする必要性が現実味を帯びてきた。選択の余地がなくなる前に、どうイランに対応すればよいのかを討議したい。

 イスラエルとパレスチナ問題のジレンマは、米政府もイスラエル政府も、2国家共存を許すことに関して、何ら具体策を見いだしていない点にある。

 アジア・中国の台頭に関して米国は、軍事、経済、安全保障、政治のすべての次元で同盟国と密接に協力し、貿易・経済でも重要な役割を果たす必要がある。それは中国を封じ込め、抑制・孤立させるための方策ではない。世界には、中国に経済成長を続けてもらう必要があるからだ。

 米国はアジアで存在感を示し、アジア発の経済成長に参画する必要がある。中国は、国際システムを受け入れるべきであり、近隣諸国に自らの意志を強制することがあってはならない。この点で、私たちは一切譲歩してはならない。だが、挑発してもいけない。日中両国は、ナショナリズムをあおるべきではなく、柔軟な対応を行うべきだ。

 2国家共存

 中東和平を実現するため、イスラエルとパレスチナの双方を国家として認め、平和共存体制を築く方策。2003年に米、露、欧州連合(EU)、国連の4者協議が打ち出した中東和平の行程表「ロードマップ」の核心を成す。

西欧の優位性 終幕へ…仏国際関係研究所特別顧問 ドミニク・モイジ氏

 先の米大統領選で、欧州は、討論の話題にほとんどのぼらなかった。ただ一度、最終討論会で共和党のロムニー候補が言及したのを私は覚えている。彼は全米の有権者に向かって言った。「米国をギリシャにしていいのか?」と。それだけだ。欧州はこうした現状の受忍を強いられている。

 確かに欧州は、今も深刻な危機のただ中にある。現状は経済危機というより、「政治の危機」「倫理の危機」と呼ぶ方が正しい。危機脱出のために正しい施策が講じられはしたが、あまりにも遅すぎたからだ。

 欧州の視点からアジア情勢について言えば、現代の中国と19世紀末に台頭したドイツとを比較する議論が有効だ。かつてのドイツを戦争にあおり立てた行為が極めて危険であったように、21世紀の今、中国を挑発する行為も危険極まりない。現在の状況下に、日本などの国々が過激なナショナリズムを展開していけば、無責任で危険な結果を招きかねない。目を覚ましつつある象を、おもちゃにするのは避けるべきなのだ。

 国際社会のバランスは、アジアへ重心を大きく移している。西欧が圧倒的な立場を占めていた歴史の章は終わりつつある。我々は、米国や欧州がモデルを独占していた体制が失われたことを認識する必要がある。

 今や世界は、米国だけでは何もできない。ただ同時に、「米国なしには何もできない」状況にもあるのだ。一方で中国などの新興勢力は、特に近隣諸国に対して、「やりすぎる」傾向がある。しかし彼らは、世界で果たすべき責任については、「やらなすぎる」ように見える。明らかに中国は、自らの責任を拒んでいる状態にある。

 世界がより複雑化する中で、しかるべき「審判」がいないということは、極めて危険である。特に中東では、裁き手の不在を突いて、全く新しい状況の下、全く同じ問題が再び噴き出している。イスラエルとパレスチナの対立など、問題の構造は変わっていない。新しいのは、「アラブの春」という民主革命を背景に、あらゆる問題が再燃している点だ。対立は何倍にも増幅され、深刻さを増すばかりである。

日中韓の枠組み必要…国際協力機構(JICA)理事長 田中明彦氏

 日本はここ何年間か、国内問題に精力を集中してきた。内向きになってばかりでは、日本の将来はない。世界にとって何が大事か、大きく分けて4点ある。

 喫緊の課題は、日本周辺の東アジアをできる限り安定したものにし、繁栄の地域にしていくことだ。最も大きな問題は、中国である。中国の経済成長がかつての勢いで進むとは言えないが、巨大な経済規模を持った国であり続けるのは間違いない。

 ただ、ある国の経済規模が急速に拡大すると、国内外で大きな摩擦が生じる傾向がある。中国のナショナリズムは今や、国際社会にとっても共通の関心事になりつつある。

 現在は、日中韓という東アジアに決定的な役割を果たす国で、新しい体制が発足する時期である。だからこそ、3か国が長期の安定を目指す仕組みを作らなければならない。ここで非常に重要なことは、東アジアの安定に、米国の役割が決定的に大きいということだ。

 二番目は欧州の情勢だ。長期的に見て、未来への挑戦としての欧州統合は、今後も継続していくと思う。今回の危機は過去最大のものだが、欧州自身の努力で大きな破綻は防いできた。今後も賢明な判断を期待したい。とは言え、経済危機は突然手に負えなくなることがある。それを食い止められるのは、経済大国の米国、中国、日本だ。3か国の責任は極めて大きい。

 三番目は、世界の不安定な地域の安定化だ。中東では、シリアの問題、イスラエルとパレスチナの問題、イランの問題がある。懸念すべきは、一つだけでも難しい問題が連動して動きかねないことだ。日本の新しい政権が直ちに何かをなし得るかと言えば、大変難しい。米国の十分な関与なしに効果のある措置は難しいが、米国だけでできることではない。多国間協調の枠組みで、米国が指導力を発揮することが必要だ。

 四番目に、世界全体を見渡すと、アジアの途上国やサハラ砂漠以南のアフリカ諸国など、経済発展という面で新たな可能性が出てきた地域はかなりある。日本が世界3位の経済大国として果たすべき役割は大きい。

パネル討論

不透明な中国指導部…ハドリー氏

改革先延ばし無理…モイジ氏

取り組み 日中共同で…田中氏

討論する(右奥から)田中氏、モイジ氏、ハドリー氏
討論する(右奥から)田中氏、モイジ氏、ハドリー氏

■欧米

――大接戦となった米大統領選の総括を。

 ハドリー氏 強く感じたのは、米国の有権者が非常に多様化したということだ。一部の有権者に支持を得ても、選挙には勝てないことが、教訓として浸透した。ブッシュ前大統領は2004年、ヒスパニック系住民の40%超の支持を得たが、今回のロムニー候補は23%以下だったという。「彼らにも手をさしのべる必要がある」と共和党が理解したのは評価できる。

 財政赤字を解決しなければならないという認識も共有された。政治が、こうした問題を解決できるというメッセージを発信し、経済成長へ再び転じようという機運が米国内に広がった。

 モイジ氏 民主主義の原理原則が勝利したと受け止めている。米大統領選と中国共産党大会は、実に対照的だった。国民の夢を実現する「アメリカン・ドリーム」に参画したいと思う人は世界に何百万人といるが、「中国の夢」を追求する人がいるだろうか? 日本人は、自国の政治を否定的に見ているかもしれないが、機能不全に陥っている民主主義を改革する方が、中国の国家体制に比べれば、はるかに容易だ。

 田中氏 失業率が辛うじて8%を割ったという厳しい状況では、再選は難しいと見られていた。その中で新しい連帯が生まれ、黒人、ヒスパニック、若い女性などが結束し、重要な州で勝利したことが、再選につながった。選挙戦の担い手に多くの女性や少数派がいる多様性が、米国のソフトパワーを支えている。多様性に富む国だからこそ、多様な世界で最もうまく適応する可能性を持っている。

――欧州情勢に対する評価と見通しは。

 田中氏 昨年の今ごろと比べると落ち着いてきた。大変な緊縮政策で当事者の苦難は続くが、世界恐慌の可能性すらあった状況から、「欧州の人々が何とかするだろう」と言えるまでになった。とはいえ、リスクはある。中国、日本、米国の意思疎通が重要だ。

■中国

――中国の新指導部をどう評価するか。

 ハドリー氏 選出は極めて不透明で、新指導部の方針は分かりにくい。だが、スタイルが変わることは間違いない。中国が成長を維持するには、経済改革を行い、国有企業の影響力を低減し、消費主導型の経済にしなければならない。中国人も、透明性が高く、説明責任を果たす政府を求めている。5億人がインターネットを使う中国では、ネット社会は大きな存在だ。新政府も、ネット上の声に耳を傾けざるを得ないだろう。

 モイジ氏 中国は、「政治改革を先延ばしするわけにはいかない」という現実に直面している。私が指導する中国人学生は、民主主義や法の支配を実現せずに中国が存在し続けることは不可能だと言っている。権力を合意で決める制度の中では、敵を作らない人が、トップに上り詰める。習近平(シージンピン)氏は、改革実行のために、敵を作る勇気があるかどうかが試されている。

 田中氏 中国の指導体制を分析するのは難しい。だが中国人は、政治改革や民主化を望むようになっている。胡錦濤(フージンタオ)氏の政治報告でも、政治改革の必要性や腐敗の問題への言及があり、放置はできないという認識が広がっている。

――中国とどう向き合うべきか。

 田中氏 日本には、1972年の国交正常化以来の蓄積がある。ただ、中国の政策決定は仕組みが分かりにくい。日本のメッセージが、最高指導部へ伝わっているか確信が持てない場合がある。今後は、これまでのパイプがしっかり機能するかどうかが問題になる。

 ハドリー氏 オバマ政権は、これまでの対中政策を継続するだろう。あらゆるレベルで中国に積極的な関与をし、彼らが世界で建設的な役割を果たすよう求めることだ。同時に、軍事、経済、貿易の取り組みも強化し、アジアで米国の存在感を高める。中国のナショナリズムを刺激しないようにする必要があるが、一方で中国が国際社会の規則に従うよう断固たる態度で促さねばならない。

 日本が果たすべき役割も大きい。日中関係を強化し、エネルギーや環境分野での協力を模索するなど、肯定的なメッセージを発信していくことが求められる。

 田中氏 日中間に色々な問題があるのは事実だが、世界第2、3位の経済大国として、世界のために一緒に行動するのが望ましい。日本と中国は似通っており、高齢化など共通の課題にも直面している。今後、両国で新体制が始動し、冷静な話し合いができるようになれば、その時は、「一緒に何ができるか?」を考えることが重要になる。

――中国のナショナリズム復興をどう見る。

 田中氏 ナショナリズムという概念を全面的に否定するのは間違いだが、国際法に背くような方向にずれるのは望ましくない。日本人は、明治以降の歴史でこのことをよく知っている。社会の大幅な変革期にある中国でも、ナショナリズムで国内の緊張を糊塗(こと)する誘因が出てくるかもしれない。開かれた国際社会の中で、負の側面が出ないような交流を進める必要がある。

討論に聞き入る聴講者たち(東京・飯田橋のホテルグランドパレスで)
討論に聞き入る聴講者たち(東京・飯田橋のホテルグランドパレスで)

――尖閣諸島をめぐる問題への影響は。

 ハドリー氏 米国は尖閣問題の調停者ではない。米政府は、「尖閣諸島には日本の施政権が及んでいるから、日米安保条約も及ぶ」としている。だが、安保条約の意義を探るところまで事が進めば、誰の利益にもならない。尖閣問題を対立の争点にせず、将来的に解決すべきものとして、今は棚上げすべきだ。さもないとナショナリズムが巻き起こり、アジア全体の貿易投資を損なう。短期間には、恒久的な解決策は望めない。

 世界の指導者がなすべきは、ナショナリズムを国民の生活状況を良くするため、プラス方向へ向かわせることだ。アジアは、相互に密接に絡み合う。生活の向上なくして、福祉の向上はありえない。ナショナリズムを分断の手立てにしてはいけない。

政治報告 5年に1度、党の最高指導機関として開催される中国共産党大会で、今後5年間の活動方針となる重要文書・演説のこと。党中央委員会報告。8日に行われた報告は、政治改革や腐敗問題以外に、〈1〉海洋資源の開発能力向上と権益守護・海洋強国の建設〈2〉海洋・宇宙・サイバー空間の安全重視〈3〉2020年に国内総生産(GDP)と1人当たり国民所得を2倍にする――などが言及された。

■中東・ロシア

――中東をめぐる数々の問題はどうなるか。

 田中氏 シリアは国連の調停に先が見えない。粘り強い調停の試みとともに米国の努力が必要だ。国際社会も、紛争拡大を阻止する関与が必要だ。中東問題は、全てが全てに関係している。イランの核開発問題にしても、イスラエルとの関係など、解くべき方程式が何本もある。

 ハドリー氏 シリアは、アサド政権が退陣しないままだと、状況は悪化し、過激派が力を増す。米国が政権打倒で役割を十分に果たしていないという意見はある。一方、「シリア国民連合」という、シリアの反体制派も含めた幅広い民族を網羅する組織が生まれたことは評価できる。彼らへの支持を高めなければならない。無差別に民間人を殺害するアサド政権の爆撃に対抗するため、武器の提供も必要だ。

 モイジ氏 同感だ。オランド仏大統領が国民連合を唯一正統な代表と認めたのは喜ばしいが、対策が遅きに失することがないよう望む。シリアは中東の火薬庫であり、非常に複雑で多くの内部分断を抱えている。

 田中氏 シリア情勢の悪化は、イランやイスラエル、イラクの問題にも波及するため、関心を持たねばならない。日本にも貢献しうる余地がかなりある。

――ロシアの今後をどう見るべきか。

 モイジ氏 ロシアは長い間、誤った方向に向かってきた。彼らは富を生産しておらず、富を利用しているだけだ。米国がシェールオイルで世界一の産油国になるなどして、エネルギー価格が暴落した時、プーチン政権は持たないだろう。ロシアは今、シリア問題などで「迷惑を作り出す国」になっている。ロシアの改革を楽観視していない。

(2012年11月27日朝刊)

無断転載・複製を禁じます
1749393 0 読売国際経済懇話会(YIES) 2020/10/02 20:00:00 2021/02/10 16:36:04 2021/02/10 16:36:04 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210105-OYT8I50122-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)