動き始めた「9条改正論議」…「指一本触れず」から抜け出た?
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衆院憲法審査会などを舞台に、9条改正論議が活発化し始めた。ロシアのウクライナ侵攻と中国の軍事的圧力に対する危機感が背景にあるが、それだけではない。自民党が2018年に改憲条文案をまとめて以降、少しずつだが議論が進み、もはやタブーではなくなったためだとも言えそうだ。
「の2」を追加するという手法

毎週木曜日が定例日の衆院憲法審で5月12日、自民党が、自衛隊の根拠規定を明記する憲法改正の議論を深めることを各党に提案した。立憲民主党や共産党は反発したものの、この日も結果的に9条改正の必要性について議論が交わされることとなった。9条を巡る本格的な議論は、今国会初のことだった。日本維新の会は18日、自衛隊を明記する改憲の「条文イメージ」を発表した。
やや技術的な話になるが、自民党は18年の改憲条文案で、厳密には「9条改正」を掲げてはいない。1項と2項から成る現行の9条は維持し、新たに「9条の2」という別の条項を新設して「自衛隊」の保持を明記するというものだ。作成当時の議論を振り返ると、9条改正に慎重な公明党や世論への配慮から、「9条には指一本触れていない」(自民党幹部)と強調する意味があった。ただ、「の2」を付けて別の条文を作るという手法は、奇策でも何でもない。維新が18日に発表した案も、「9条の2」を追加するものだ。立憲民主党の枝野幸男・前代表が2013年に文芸春秋10月号で発表した改憲試案も、「9条の2」と「9条の3」を追加するものだった。「の2」の追加は、法律の改正でも多用される一般的な手法だ。

「順にずらす」事態を防ぐため
例えば、新型コロナウイルス対応でよく登場する新型インフルエンザ対策特別措置法もそうだ。昨年2月の同法改正で追加された「まん延防止等重点措置」の根拠規定は、主に「31条の4」から「31条の6」までの三つの条文がある。31条は、「重点措置」とは直接の関係がない。32条以降の「第4章」が緊急事態宣言の規定のため、緊急事態に準じた「重点措置」は32条の前に置くことになったのだろう。ただ、仮に、重点措置に関する三つの条文を「32条」から「34条」という形で新設すると、「緊急事態」に関する元々の「32条」を「新35条」に、「33条」は「新36条」にと順にずらさなければならない。これでは混乱するので、31条と32条の間に条文を加えるために「31条の2」、「31条の3」……と番号を付けるというわけだ。31条の「2」と「3」も法改正で追加された別の条文のため、「重点措置」関連は「4」以降となっている。

憲法の話に戻ると、「9条の2」とは、自衛隊に関する規定である以上は9条と関連するとはいえ、9条に付属する条項ではない。9条と10条の間に挿入した新しい独立した条項だ。文章を書くことをなりわいとする記者としては、より正確な言葉遣いをしたいという習性がある。一方で、「9条改正」という言葉は、単に9条という条項を改正することを指すというより、武力行使や自衛隊に関する憲法改正を表す言葉として人口に
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